軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ツィルド伯爵夫人

年頃は三十前後、といったところか。キラキラと輝く宝石の粒が縫い込まれた派手なドレスに身を包み、手には極彩色の鳥の羽根で作った扇を持っている。

紫色のアイシャドウに、頬紅は紅潮しているかのようにしっかり入っていて、口紅は熟したベリーみたいに真っ赤だった。

華やかで目立つ美人だが、あまり国内のご婦人方の中では見かけないような装いである。

「みなさーーん、ようこそいらっしゃいませ」

壁や床などから声が響いてきたのでギョッとする。

フロアのどこかに拡声器のような魔法が仕込まれているのか、ツィルド伯爵夫人のよく通る声が会場内に響き渡る。

「お楽しみいただいているでしょうか?」

喋りのアクセントを聞いてピンときた。ツィルド伯爵夫人はきっとルームーン出身者なのだ、と。

これまでツィルド伯爵と外交大臣がなぜ繋がっているのか謎でしかなかった。きっとツィルド伯爵夫人が繋いだ関係だったのだろう。

ツィルド伯爵夫人はその後もつらつらと喋り続ける。その流れで、彼女がルームーンを懐かしむようなことを話していた。ツィルド伯爵夫人がルームーン出身者であることは確実だった。

こんなにもたくさんルームーン出身のご夫人方を集めることができたのは、同郷のツィルド伯爵夫人がいたから、というのもあるのだろう。

話が一段落すると、ツィルド伯爵夫人はテーブルを回って挨拶してくれるようだ。

私は最後だろう、なんて思っていたのに、ツィルド伯爵夫人はずんずんと大股でこちらへと歩いてくる。

「今一瞬、ツィルド伯爵夫人と目が合ったような……?」

「ミシャさん、たぶん気のせいじゃない」

「こちらにいらしていますわ」

重たそうなドレスを着ているのに、ツィルド伯爵夫人はあっという間に私達のテーブルにやってきて、にっこりと微笑みかけてくる。

「ミシャ様、本日はようこそおいでくださいました。こうしてお目にかかれて、とても幸せです」

「わ、私も」

なんというかツィルド伯爵夫人を近くで見ると圧が強い。遠くで見ていてもたしかな存在感があったのだが、至近距離だとさらにパワーアップしている。

「未来のリンデンブルク大公夫人とお近づきになれて、とても光栄です」

「は、はあ」

ツィルド伯爵夫人は私個人と仲よくなりたいというより、リンデンブルク大公夫人になる予定の私と懇意になりたいのだろう。この辺はわかっていたが、いざ直接言われてしまうと、なんとも言えない気持ちになる。

こういった女性貴族の集まりでは、ドレスや髪型などを褒めるのがマナーとされていた。ツィルド伯爵夫人をどう褒めようか、なんて考えていたら、標的は私からノアに変わっていく。

「まあ! そちらにいらっしゃるのは未来の王妃、ノア様ではありませんか!?」

明らかにノアを相手にしたほうがテンションが上がっている。

未来の王妃のほうが繋がりたい気持ちが強くなるのはわかるが……。

「そのドレスは人気工房で作られた――ああ、やっぱり! その髪型も素敵」

ツィルド伯爵夫人は張り切ってノアを褒めちぎっている。相手をしないといけないノアの顔は若干虚ろだった。

私の倍以上は会話に時間をかけ、その後の付き合いも約束しようとしていた。

ノアはツィルド伯爵夫人と関係を深めたくないのか、曖昧な言葉ばかり返していた。

もちろん、アリーセにも気付いて挨拶をする。

「ああ、気付くのが遅れました。あなたは公爵令嬢アリーセ様ですよね?」

アリーセを相手にするさいも、私よりも丁重な態度で接していた。アリーセは淡く笑みを浮かべていたものの、ツィルド伯爵夫人の態度にうんざりしているのが伝わってくる。

ツィルド伯爵夫人は二十分近く挨拶に時間をかけてから、次のテーブルに移ったようだった。

姿が見えなくなると、ノアが盛大なため息を吐く。

「は~~~~~~~~!!!!」

なんとも豪快なため息だった。ツィルド伯爵夫人が遠くの席にいることを確認してから感想を口にする。

「なんか、元気を吸い取ってしまいそうなお方ね」

「本当に!」

「しかし、同じテーブルで、人によって違う態度で接するのを見るのは、あまり気持ちがいいものではありませんでしたわ」

それはたしかに……。

家柄の格で言えば大公家出身であるノアが序列一位、アリーセが二位である。

私は未来の大公夫人といえども実家は子爵家。相乗効果で地位が高くなるわけではないのだろう。

「ミシャさんを軽んじるような態度は許さないんだから」

「そのとおりですわ!」

今すぐにでも退店したい気持ちだったものの、まだ何か情報収集ができるかもしれない。

「ふたりとも、付き合ってもらって悪いわね」

「こうなったら、徹底的に調べてやる」

「尻尾を掴みましょう」

あれだけ人によってコロコロ態度を変えているのだ。きっとツィルド伯爵夫人は人脈から何か得ているに違いない。

そう確信している私達は、しばし粘ることにした。