軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ツィルド伯爵の喫茶店へ

休日――ツィルド伯爵が経営する喫茶店に向かう。

ご友人、知人などをお誘い合わせの上、とあったのでアリーセとノアに同行してもらった。

お店の前には黒服のドアボーイがいて、恭しい様子で扉を開いてくれた。

入るとそこには煌々と輝く豪華なシャンデリアがぶら下がっていた。床にはふかふかの絨毯が敷かれていて、高級ホテルみたいないい匂いも漂っている。

「いらっしゃいませ、ようこそおいでくださいました」

お店の支配人を名乗る男性が出迎えてくれた。

ツィルド伯爵夫人からの招待だというと、笑みを深めて案内してくれる。

ダンスパーティーが開けそうなくらいの広いフロアには、やや多めの席数が用意されていた。

円卓で周囲の視線を遮る衝立があるものの、少しだけ閉塞感があるように思える。

店内の席はほぼ埋まっているようだった。

メニューはお任せのみで、注文せずともお茶やお菓子がどんどん運ばれてくる。

ノアは紅茶を一口飲んで、眉間に深い皺を刻んでいた。アリーセも少しだけ眉がぴくりと動く。

「ふたりとも、どうかしたの?」

「いや、このお茶、一流のものではないと思って」

「今年摘んだ茶葉ではないことは明らかですわ」

私も飲んでみたが、味の違いなどわからない。毎日一級品に触れているふたりだからこそわかるのだろう。

続いて運ばれてきたのはお菓子の盛り合わせ。

サブレにベリーパイ、チョコレートブラウニーにチーズケーキなどなど。

ベリーパイをいただいたのだが、生地はサクサクしていてバターの風味が豊かに香る。ベリーも甘酸っぱくておいしかった。

けれどもふたりの表情は冴えない。

「え、これもだめ?」

「いや、おいしいけれど」

「こちらのベリーパイ、あまり大きな声では言えないのですが」

ぐっと接近し、アリーセが低い声で囁くように言った。

「おそらくですが、このベリーパイ、王都で人気の菓子店が販売しているものですわ」

ノアもこくこくと頷いている。

利き酒ならぬ、利き菓子という荒技をアリーセとノアはできるようだ。

続けてノアはサブレを頬張る。

「これは貴族街三番地にある人気店、〝ドロワー〟の看板商品」

「こちらのブラウニーは王室御用達店〝エンバーム〟の品ですわね」

最後に食べたチーズケーキだけはここで作ったものだろう、とノアやアリーセは断言する。残念ながら、味はそこそこだったようだが。

それにしてもわからない。どうしてこのお店がここまで人気なのかと。

喫茶店のエントランスの雰囲気はよかったものの、肝心のメインフロアの構造やメニューはいささか残念である。

さらに周囲のお客さんは会話が盛り上がっていて、ゆっくり過ごせるような静かな空間ではない。

店内で過ごせば過ごすほど、繁盛している理由が謎過ぎる。

「えっ、なんでこの喫茶店、人気なの?」

「会員制という、選ばれた人間しか入店できない特別感があるから?」

「もしくは別の理由があるとか?」

エントランスだけ洗練されているように見えるのは、知らずに入店した貴族がよさげなお店だ、と噂が出回るのを期待しているのだろう、とアリーセは言う。

そういう戦略か、と驚いてしまった。

ふいにノアが唇に手を当てて、静かにするようにという仕草を取る。

何か重要な会話が聞こえているのかと思いきや、そうではなかった。

周囲から聞こえる会話に違和感を覚える。会話のアクセントが国内の貴族とわずかに異なるのだ。

「この発音は――?」

「おそらくルームーンの方々でしょう」

隣国ルームーンとうちの国の言語は共通であるが、方言みたいなものと言えばいいのか。

上流階級の人達が使う言葉でさえ、少し違いがある。そのため話を聞いているとわかってしまうのだ。

「どうしてルームーン貴族の方々がここに?」

再度、会話に耳を傾けてみると、彼女達が外交官の夫と共に国を渡ってきた妻達であることがわかった。

「そういえばこのお菓子も、ルームーンで人気があるって聞いた覚えがあるものばかりだ」

「でしたらこのお店の客層は、ルームーンの方々が中心なのかもしれないですわね」

国内貴族が入店できないわけである。

「ルームーンの外交長官と付き合いがあったツィルド伯爵は、外交官の妻達がゆっくりできるようなお店を作って商売できるかも、と気付いたってことね」

「おそらく」

「本来であれば国家間の情報を独り占めし、商売をするなんて礼儀に欠ける行為ですが」

「うーーーん」

これがツィルド伯爵の〝弱み〟なんだろうけれど、摘発できるほどのものではない。

証拠なんてどこにもないので、知らないとしらばっくれられたらそれで終了である。

どうしたものか……と思っていたら、ツィルド伯爵夫人がフロアに登場した。