軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八十一話 背反なるもの

『グランドモール』二体を倒したあと、ボコボコに地面が盛り上がった平原を、俺たちは慎重に進んでいく。

右前方の丘の上に、グランドモールが一体いる。正面の上空に、一体の魔物が飛んでいる――『鷹の眼』の効果で距離感は正確に掴めているのだが、明らかに俺の知っている『 甲虫(ビートル) 』の大きさではない。

「ヘラクレスオオカブトって、何センチくらいあるんだったか……」

「え、えっと……15センチくらいだったでしょうか……?」

思わずぼやいてしまったが、スズナは律儀に答える。ミサキとエリーティアにも聞こえていて、はるか空中を飛ぶ魔物を見ながらそれぞれに言う。

「ヘラクレスっていうくらいだから、30センチくらいじゃなかったですか?」

「……確か、最大で20センチ近かったと思うけど。あの魔物は、今は豆粒みたいな大きさに見えるけど、近くまで来たら……私達よりかなり大きいかも……」

今までも自分たち以上の巨大な魔物と戦ってきたわけだが、『フェイクビートル』は俺の知っているカブトムシと色こそ異なるが、全体的な形はよく似ている。気になるのは、後ろ側にも角のようなものが生えていることだ。

(…… 偽物(フェイク) ってことか? カブトムシのようで、カブトムシでない。観察してるだけじゃ何も始まらないか)

「…………」

テレジアが、右から回り込んでグランドモールに接近しているフォーシーズンズと五十嵐さん、シオンを見やる。五十嵐さんは前衛のカエデ、イブキと相談したのか、今は中衛の位置にいた。そして何をするかと思うと、『囮人形』を生成し、『デコイ』でグランドモールの注意を引きつけ、総攻撃するという作戦に出た。

「――ガォォォォッ!!」

「――かかった! 今がチャンスよ!」

「いくで、イブキッ……やぁぁぁぁぁーーーーっ!」

「はぁぁぁぁっ!」

「みんな、俺からも『支援する』!」

別働隊のパーティ全員に対して『支援攻撃2』を発動し、有効だと分かっている『混乱』の状態異常を付加する。

◆現在の状況◆

・『キョウカ』が『囮人形』を発動

・『キョウカ』が『デコイ』を発動 → 『囮人形』の敵対値が上昇

・『グランドモール』が『囮人形』に攻撃

・『カエデ』が『すり足』を発動

・『アリヒト』が『支援攻撃2』を発動 → 支援内容:『ヒュプノスシュート』

・『カエデ』が『燕飛』を発動 → 『グランドモール』に命中

・『イブキ』が『三日月蹴り』を発動 → 『グランドモール』に命中

・『支援攻撃2』が2回発生 → 『グランドモール』が混乱

状態異常さえ入れてしまえば、戦局は有利に運ぶ。混乱したまま『地団駄』を発動されることを見越して、アンナとリョーコさんの二人が遠距離攻撃でダメージを稼ぎ、混乱したモグラの反撃を避けて、シオンが『テールカウンター』を叩き込む――これなら、危なげなく勝つことができそうだ。

「スズナ、こちらも仕掛けるぞ。この距離でもいけそうか?」

「やってみます。八百万の神よ、我が矢を日輪の光とともに導きたまえ……」

普通に矢を放っても届きそうにないほどの高度と距離。しかし『皆中』という技能の説明通りなら、距離に関係なく『必ず二本まで』命中させられる。

そしてせっかくの初撃を無駄にしないよう、『支援攻撃2』を乗せる。『天地刃』が使えればあっさり勝負を決められるのではと思ったが、『 星機剣(ムラクモ) 』は連続使用できないようで、アリアドネの声が警告してくる。

――星機剣を人間が振るう場合、熟練度が低いと再使用まで時間がかかる。『ガードアーム』に関しては使用回数に制限はないが、発動のたびに魔力を消費する。また、パーティの合計レベルが20に達しているので『ガードヴァリアント』という上位技能を使用することもできる。これに関しては、『盾』のパーツとその装備者がパーティにいなければ、真価を発揮することはできない。

(『ガードヴァリアント』か。それは覚えておかないとな……今は『ガードアーム』と『ガードブレード』だけで、十分すぎるくらいだ)

時間さえあれば、星機剣での攻撃に関しても訓練したいところだ。普段は魔力なしでも攻撃できるスリングを使い、ここぞという時のために剣の腕を磨く――『後衛』がその技能の性質ゆえに、近距離遠距離を問わず武器を装備できるというのが、非常に便利だということに気付かされた。

今はまず、目の前の魔物に対処することだ――フォーシーズンズもモグラを倒せば合流してくれるだろうが、その前に倒せれば言うことはない。

スズナが深く息を吸って止め、矢を番える。弦がきりりと音を立てて、張りつめた空気の中、彼女が矢を放つ瞬間に目を見開いた。

「――『当たって』!」

「『支援する』!」

スズナの『皆中』を使えば、2本連続で必中となる。つまり、スズナが矢を放つたびに『支援攻撃2』を発動させれば、二種の状態異常を付加できる可能性があるということだ。

(消耗は大きいが……初対面の敵には、打てる手を尽くさないとな……!)

◆現在の状況◆

・『スズナ』が『皆中』を発動 → 2本連続で必中

・『アリヒト』が『支援攻撃2』を発動 → 支援内容:ヒュプノスシュート

・『スズナ』が『?範囲外の魔物』を攻撃 → 命中 ノーダメージ

・『アリヒト』が『支援攻撃2』を発動 → 支援内容:ポイズンシュート

・『スズナ』が『?範囲外の魔物』を攻撃 → 命中

・『支援攻撃2』が発生 → 『?範囲外の魔物』が毒化

『鷹の眼』でなければ何が起きたかもわからない距離で、スズナの矢が正確に『フェイクビートル』に命中する。

(『混乱』はどうやら外したか……だが、二段目の『毒』は入った……!)

どれくらい体力を削れるものなのか分からないが、少しでも足しになればと期待する。もしくは、これだけ距離があるのなら、弱るまで遠くで待つということも――

「――来るっ……!」

「……!」

何かが、違う。

それが何かも分からないが、俺は――『鷹の眼』で見た敵の大きさと姿を、カエデたちに確認しておくべきだったと、全身を走る悪寒と共に後悔する。

◆遭遇した魔物◆

★背反の甲蟲 レベル6 ドロップ:???

遠距離から攻撃を命中させられた、そのアドバンテージを感じる間もなく、俺達はまるで彗星のようなスピードで突撃してくる巨大な甲虫に面食らう。

◆現在の状況◆

・『☆背反の甲蟲』が『スクリューダイブ』を発動 → 対象:テレジア

ドクン、と心臓が脈打つ。

本能が訴えかける、判断を間違えれば死ぬという警告。目の前が赤くなるような感覚と共に、俺は息をする間もなく、脳の回路が焼き千切れそうな速度で呼びかける。

(――アリアドネ!)

◆現在の状況◆

・アリヒトが『機神アリアドネ』に一時支援要請 →対象:テレジア

・『機神アリアドネ』が『ガードアーム』を発動

瞬きの間に迫り来るその巨体は、まさに重爆撃機のようだった。テレジアに向けて高高度から落下しようとした『それ』は、軌道をわずかに逸らされ、平原に衝突する――そして。

「くっ……!」

地面にクレーターができるほどの衝撃。俺は爆風を『支援防御』で防ぐが、自分の身を守ることができない――しかし。

「……っ」

俺の前に立ってバックラーを構え、テレジアが庇ってくれている。敵の狙いがそれたとき、テレジアは何よりも、俺を守ることを優先してくれた。

◆現在の状況◆

・『スクリューダイブ』により『突風』が発生

・『アリヒト』が『支援防御1』を発動

・『エリーティア』『テレジア』『スズナ』『ミサキ』『メリッサ』はノーダメージ

土と石を巻き込んで叩きつけられる風を、『支援防御』によって発生した見えない壁が阻む。そして風が止んだとき、俺たちは敵の姿を改めて見た。

巨大な角で地面に突き立っている――その足まで鈍く輝く甲殻に覆われ、鋭い鉤爪がついている。重武装の 兜虫(カブトムシ) は、腕の可動範囲をギリギリまで使って地面に爪を突き立て、自らの身体を引き抜いた。

兜虫は勢い良く回転し、体勢を立て直す。猛々しい角を生やした、銀色の甲虫――その甲羅は、金属質の輝きを放っている。

「あ、あんなに大きな穴が……ひぇぇ……っ」

「こんなに強力な魔物と、通常時に遭遇するとは思えない……もしそんなことがあったら、きっと犠牲者が出ていたわ」

驚くミサキの横で、後退したエリーティアが言う。その横顔からは血の気が引いていたが、すぐに彼女は気を持ち直し、『緋の帝剣』を抜き放つ。

おそらくこの魔物は『フェイクビートル』の『名前つき』だ。ライセンスで確認しても、想定していたものとは違う名前が表示されている。『範囲外の魔物』と出ている時点で、もっと警戒を強めるべきだった。

「…………」

「……テレジア」

俺の考えていることを見ただけで察したのか、テレジアが小さく首を振る。そして彼女は胸に手を当てる――俺の指示に従うと、そういうことだ。

「庇ってくれてありがとう、テレジア。本当に助かった……しかしこんな怪物と、いきなり二戦目で出くわすとはな」

「アリヒトに支援してもらってダメージを与えられるかどうか試してみるか、本来の目的の相手ではないから回避するか……」

「このまま放置すると、後から迷宮に来た連中が戦うことになる。敵を戦闘態勢にしておいて逃げるっていうのは、ちょっと寝覚めが良くないな」

「……マドカは隠れて。私も、足手まといかもしれないけど、昆虫系の敵には『部位破壊』が役に立つことがある。何とか、狙っていきたい」

グランドモールの体力を向こうのパーティが削りきるまで、先程からライセンスで確認していたが、あと数十秒といったところだ。

(敵が向こうに関心を向けないよう、持たせる――そして、挟撃する。それでやってみるか……)

「あ、あの。アリヒトさん、何か、魔物の様子が……」

「ん……?」

スズナに言われて見てみると、魔物の表皮の全体が紫色がかっていて、角の根本にある眼も紫色になっている。

◆現在の状況◆

・『★背反の甲蟲』に毒ダメージが発生

・『★背反の甲蟲』に対して毒属性特攻 → 最大体力の1割ダメージ

角と比べて発達していない顎から、鳴き声のような弱々しい音が聞こえる――俺はその姿を見て、ひとつの推論を立てる。

「……重装甲だが、その代わりに体力の上限が低いのか?」

「あ……」

「エリーさん、何か心当たりが?」

「……今まで、敵を毒で倒す場面がなかったけど。防御がとても硬い魔物は、実は毒が弱点ということがあって、一度毒を当てたら時間を稼げば倒せることがあるらしいわ。そういう理由で、長時間継続する毒薬は、ルーンより高値で取引されることもあるのよ」

毒でじわじわと体力を削る――俺も敢えて取ろうとは思わない作戦だが、これほどの巨体と重装甲の甲虫を相手に、確かにまともにぶつかる必要はないのかもしれない。

「そうと決まれば……みんな、 殿(しんがり) は俺に任せてくれ」

「毒で削りきれるのなら、そうするべきでしょうね。私が『ソニックレイド』をかけて挑発するから、みんなは先に逃げて」

「え、えっと……お兄ちゃんの前にいればいいんですよね?」

「そうだ。もし狙われたときは、さっきみたいにアリアドネの力を借りて防御する……ここからは根気の勝負だ。みんな、行くぞ!」

「「「はいっ!」」」

意志が統一されると同時に、エリーティアだけが敵に向かって残像を残すほどの速さで駆けていく。

「――切り裂く……!」

◆現在の状況◆

・『アリヒト』が『支援攻撃1』を発動

・『エリーティア』が『スラッシュリッパー』を発動

・『★背反の甲蟲』が『プロテクトシェル』を発動

・『★背反の甲蟲』が攻撃を無効化

――いつかは、そんな敵も現れると思っていた。見た目通りの装甲でエリーティアの剣を防ぎ、特殊技能で固定ダメージすら防いでしまう。

「っ……また、物理が効かないなんて……っ!」

「大丈夫だ、毒で削ればいい! 引け、エリーティア!」

「了解……っ」

「――キシャァァァァァ!」

エリーティアは攻撃をかわして飛び退り、技能で加速して俺の横に並び、目配せをするとさらに先へ行く。

ゆうに三メートルを超える甲虫が、低空飛行で追いかけてくる――だが、ここで俺の武器と技能が役に立つ。

「止まってもらうぞ……!」

◆現在の状況◆

・『アリヒト』が『殿軍の将』を発動 →パーティの人数分ステータスが上昇

・『アリヒト』が『フォースシュート・スタン』を発動 → 『★背反の甲蟲』に命中

・『★背反の甲虫』がスタン

まるで弾丸を発射するような音と共に、黒いスリングから放たれた魔力弾が甲蟲の顔面に着弾する。

『殿軍の将』で強化された魔力弾は、それでも甲蟲の装甲に当たっただけで弾かれたように見えたが、『眼力石』によって付加されたスタン効果は、わずかでもダメージが通れば発動するようだった――甲蟲の 翅(はね) の動きが止まり、その場に落下して平原の土を削りながら止まる。

(これを繰り返す……いや、そう甘くはないか……!)

◆現在の状況◆

・『★背反の甲蟲』の反撃行動 → 『アンチマジックシェル』を発動

・『★背反の甲蟲』の装甲に『魔力反射』属性付加

・『★背反の甲蟲』に毒ダメージが発生

「えっ、えっ……お兄ちゃん、一体何がっ……」

「――今の奴には魔法が効かなくなった! とにかく逃げて毒で削るぞ!」

「はい、アリヒトさんっ……!」

「っ……!」

隠れているマドカに標的が向くことがないのは幸いだった――そして、他のパーティがこの迷宮に潜ってこないことも。もし居合わせて標的がそれたらと思うとぞっとしない。

――そして俺は、逃げながら振り返り、遠くなった丘の上で、槍を振りかざす五十嵐さんと、合わせて仕掛けるシオンの姿を目にする。

(――『支援する』!)

「行くわよ、シオンちゃん!」

「ワォォンッ!」

「――リョーコさん!」

「ええ……っ!」

◆現在の状況◆

・『アリヒト』が『支援攻撃1』『アザーアシスト』を発動

・『キョウカ』が『ダブルアタック』を発動

・『シオン』が『ウルフズラッシュ』を発動

・『グランドモール』に合計6段命中 支援ダメージ66

・『リョーコ』が『アクアボール』を生成

・『アンナ』が『アクア・スカッドサーブ』を発動 → 『グランドモール』に命中 死角攻撃 支援ダメージ11

・『グランドモール』を1体討伐

五十嵐さんとシオンの協力攻撃を全段受け、さらに裏に回っていたアンナとリョーコさんが連携して水のボールを放つ――前とは違う、直線軌道の強烈な打球を後頭部に受けたモグラは、そのまま前のめりに倒れこんだ。

別行動のパーティを要所で支援するという試みは、一定の成果を出すことができた――後は、俺たちが役割を果たすだけだ。

『背反の甲蟲』に付加した毒は、十秒で最大体力の一割ずつを削る。一分四十秒弱逃げ切れば倒せる計算だが、あと一息というところで、甲蟲の動きに異変が生じる。

◆現在の状況◆

・『★背反の甲蟲』が『高速代謝』を発動

・『★背反の甲蟲』の状態異常が解除

・『★背反の甲蟲』の形態変化

「毒が、消された……!」

「――キシャァァァァァッ!!」

甲蟲の全身が燃えるように赤くなり、装甲のあちこちが砕ける――いや、速度を極限まで高めるために、自らの意志で無駄を削ぎ落としたのだ。

◆現在の状況◆

・『★背反の甲蟲』の攻撃力と敏捷性が上昇 防御力が低下 絶命まで100秒

(おそらく、あと二十秒で倒せるところだった……それが、一気に五倍……!)

俺たちを道連れにするという執念――変化した甲蟲の姿に、俺は少なからず戦慄を覚える。迷宮国の魔物は、やはり全く楽をさせてくれない。

「――アリヒトさんっ!」

「くっ……!」

◆現在の状況◆

・『★背反の甲蟲』が『ブラストホーン』を発動

・『アリヒト』が回避 衝撃による追加ダメージ

『殿軍の将』で能力が向上していなければ、直撃していた――スズナの警告と共に瞬時に反応するが、スーツの腕の部分が裂け、痛みが走る。

角を振動させて発生した音を、攻撃に使ったのか。俺の前を誰も逃げていなかったのは幸いだった――草原が、視認することのできない衝撃で一直線に薙ぎ払われている。

(次もかわせるかは分からない……仲間が勘で警告してくれるにも限界がある。どうする……どんな手が……!)

「……っ!」

「――テレジア!」

テレジアが投擲用の 短刀(ダーク) を放つ――ダブルスロー。俺は反射的に支援を試みて、『支援攻撃1』を選択する。

◆現在の状況◆

・『テレジア』が『ダブルスロー』を発動

・『★背反の甲蟲』が『角払い』を発動 → 投擲攻撃を一回無効化

・『★背反の甲蟲』に1段命中 ノーダメージ 支援ダメージ11

「――ギッ……!」

敵はなぜか腕を使わず、角だけを振るって、テレジアの短刀を弾き返す。そしてタイミングをずらして飛来した二本目を受け、固定ダメージを受けてわずかにひるんだ。

(なんだ……この違和感は。腕の装甲は残っている、なのに奴は、角で防いだ。あの角の硬度が高いからか……いや……何かある。必ず、何かが……)

――その時俺は、この戦いの始まりを思い返していた。

スズナに対し、『支援攻撃2』を発動して初撃を入れたときに何が起きていたか。

二回目に放った矢が命中し、毒が付加された。だが――攻撃が入ったというのに、刺さったはずの『矢』、それが抜けたとしても『矢傷』が見当たらない。

『背反の甲蟲』という名前。発達していながら、防御に使われることのない腕。

それが、『瞬時に反応することができない』からだとしたら。それはなぜか――。

(スズナの矢が命中した位置が、奴の正面――俺達がずっと、『奴の後ろ側』だと思っていた部分こそが、正面なんだ……!)

スズナの矢が命中し、俺の『支援攻撃2』が入った部分は、こちらから見えない奴の背後にある。

そこに攻撃を浴びせることができれば、奴は沈む――今の奴の動きがどれほど速いかは分からないが、弱点が分かったのならば、狙う価値はある。

「エリーティア、スズナの矢が当たった場所は奴の後ろにあるはずだ」

狙えるか――そう言う前に、エリーティアの目に宿る輝きが増した。

「……誰かに引きつけてもらわなければならない。そんなリスクは負わせられないわ」

「そうだな……だから俺も、エリーティアの判断に任せる。このまま、俺の技能でダメージを入れていくこともできるからな。奴の角は、二段目以降の攻撃を受けられない」

「それもいい考えね。けれど、追い詰められたあいつは何をするか分からない。少しでも早く倒さないと……そうね」

エリーティアは微笑む。悲壮でも、絶望したわけでもない――しなやかで力強く、見ているこちらが勇気づけられるような、そんな表情だった。

「私が奴を引きつける。アリヒト……大変だろうけど、最後まで倒れないでね」

「ああ。この戦いが終わったら、一旦引き上げることにはなるかもしれないが……初の共闘を、勝って終わらせないとな」

七番区において規格外と言えるレベル9の剣士は、レベル6の『名前つき』が解放した全力を凌駕できるのか。

俺は最後の詰めを誤らないよう、深く息を吸い込む。テレジアが、スズナが、そして逃げるだけでやっとだったミサキも、震える手でダイスを握る。

もう一方のパーティが、こちらへと駆けてくる――『背反の甲蟲』の後ろから。残された時間を惜しむように動き出した奴の前へと、エリーティアは緋色の剣を携え、金色の髪を翻して駆けていった。