軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百三十四話 旅団の先行/湖畔の戦闘

◆◇◆

アリヒトたちと遭遇したあと、アニエスたち六人は『夕闇歩きの湖畔』二層を足早に抜けて、三層に入っていた。

「『崇拝者』が出た時に、偶然『銀の車輪』が居合わせただけなんでしょ?」

「『猿侯』を倒した時点で、偶然だからどうとかはねえよ。あいつらは俺達と競えるってことだ」

「ええ、そうね。私たちも炎天の紅楼を巡回したとき、あの砦を遠目に見るだけだった」

「……アニエスさん、ルウリィって人が……その、救助されたっていう話ですけど。まだ、詳しく事情を聞けてないっていうか……」

ずっと会話に入るタイミングを見計らっていた少女が、恐る恐るという様子で話し始める。それを見たソウガは牙のような八重歯を見せて苦笑した。

「おめーはまだオドオドしてんのかよ……歌ってるときとなんでそんなに違うんだ」

「その落差がいいんじゃないか。普段は控えめで、出る時は思い切り前に出る。あたしはいいと思うよ、そういう子はね」

「まるで孫娘に対する扱いですねえ……カトリーヌさん、そうなると私は息子ですか」

「息子があんたみたいにチョビヒゲを生やしてたら、あたしゃその場で剃れって言うね」

大人しく控えめな態度の少女の名はルチアという。髭を蓄えつつも、瀟洒な空気を持つ男性がノイマン。そして彼らを窘めている女性がカトリーヌ――現在五番区で現役の中でも、最高齢の探索者である。

しかしカトリーヌはその年齢に関わらず健脚であり、容姿も壮年の頃と変わりがない。それは彼女がなんらかの方法で加齢を遅らせていることを示していた。

「それにしても……あの子はギリギリまで諦めてないんだね」

「団長は『神戦』までに見つけておきたかったようですが……『かの者』が姿を見せる兆候が、今になって判明するとは。タイミングはギリギリでしたね」

ヨハンのことを『あの子』と呼べるのは、白夜旅団の中でもカトリーヌのみである。そのたびにルチアとノイマンのような旅団に入って日が浅い者たちは、恐縮するような反応を見せていた。

「ずっと占ってはいたが、やっとまともな結果が得られた。『あれ』が出てくるのは名前つきを倒した後……強者の気配を感じて出てくるってことさ」

「『銀の車輪』はその条件を意識せずに満たしてたってこと? ていうか、『あれ』と戦っていいとこまで行ってなんで取り逃がしてんの?」

「彼らはスタンピードの防衛に参加して『デスストーカー』の名前つきを倒している。それも呼び水になったってことでしょうね……逃がしたというのは目撃者の目から見ての話だから、何か事情があるのかもしれないわ」

「ギルドの連中、飛び級してきた奴らの手なんて借りやがって……プライドはあんのか、プライドは」

ぼやくソウガの背中をリンファが叩く。言っていることの正しさは度外視している――そう分かっているからこそ、リンファは考えを言葉にはしなかった。

「あたしらは迷宮の中だったから文句は言えないよ。『ザ・カラミティ』と戦って無事で済んだかは分からないしね」

「私たちは待機組でしたがね。あの怪物に残ったメンバーで挑めと言われたら、そうしましたが」

「ノイマンさんは近くに出た魔物に対応していて、私もそうでした。名前つきに会えるかどうかは運だと思います」

「おー、ちゃんと意見言えるじゃねえか。あいつらに運が巡ってるのと同じように、俺らにも回ってくる。そういうもんだと思いてえが……俺たちの秘神は、そっちの方面の加護は期待できるのかね」

「……秘神が求めるものを供出できれば、『神戦』……そして、今後の旅団にとっての利益になる。それが団長の言葉です」

「秘神の眷属……そんなものがいて、なぜ主から離れてるのかね」

アニエスは何も言わず、カトリーヌを見やる。疑問を持ってはいけないと制するように。

「しかしあいつら、俺たちに探りでも入れに来たのかね」

「……ちょっと待って、あの人たち、こっちの秘神のこと、何か知ってるんじゃ……!」

「それは……無いとは言えませんが。あの『スケアクロウ』を彼らは知っていたので、その関係でここに来たのではないですか?」

「前に来た迷宮にもう一度潜ることなんて珍しくもない。それに後から来たところで、軽く挨拶でもするだけさね」

「喧嘩をしてる場合では……や、メインイベントの前に戦力を削るのもありやなしやですね」

「私はどちらかというと……そういうやり方は、好きじゃないです」

「あいつらの出方次第ってのも性には合わねえわな。アニエスさん、場合によっちゃ、俺ぁしばらく豚箱に入れられてくっからよ」

「釈放の手続きに時間がかかるので、カルマを上げるのは控えてください」

ソウガの発言をこともなげに遮ると、アニエスはカトリーヌを見やる。するとカトリーヌは懐に手を入れ、カードの束を取り出した。

◆現在の状況◆

・『カトリーヌ』が『オラクルカード』を発動

カードによって神託を得る技能――カトリーヌは『占い師』であり、パーティの指針を決めることに貢献していた。

「進むべき方向はあっちだね」

「そのカードを使うときだけ、神の存在を感じられる……でしたか。私達も拝謁の機会はあるんでしょうかね」

「そいつは団長次第だな」

「ほんと、リーダーの考えてることって謎だよね。最近はずっと組んでもないし」

「彼には彼の考えがあるのだから、私たちはできることをしましょう」

「はいはーい。『できること』はしちゃってるけどね、もう」

リンファの言葉にアニエスが目を瞠る――しかしリンファは手をひらひらと振って誤魔化し、逃げるように歩いていってしまう。

『落葉の浜辺』を思わせる二層から一変し、三層はまばらに樹木のある原野だった。見晴らしは悪く、ところどころに霧が立ち込め、視界を遮っている。

その霧の向こうから光を届けるものは太陽ではない。ここは迷宮の中であり、あるとしてもそれは偽の太陽であるはずだった。

「夕闇というか、こいつは黄昏時だな……さて、何が出て来やがる」

ソウガは不敵な笑みを浮かべ、背負った斧に手をかけながらパーティの先頭を歩いていった。

◆◇◆

リーネさんに挨拶をして出てくる――すると。

キン、と金属が弾ける澄んだ音が聞こえて――すぐ前方に、一本の剣が突き立った。

エリーティアは剣をシュバルツに向けていた――だが、彼女は剣を納め、シュバルツもまた剣を引く。地面に突き立ったその剣は、弾き飛ばされた双剣の片割れだった。

「手合わせをしてくれてありがとう。あなたから一本取ることは、私にとって大事なことだった」

シュバルツは片手を上げ、手を離れた剣に向ける――すると剣が浮き上がり、シュバルツの手に戻った。彼は双剣を納め、ただ立っている――そのはずが。

ググ、とシュバルツが頭を下げる。エリーティアは驚きつつもそれに応じる――すると、シュバルツは右手を差し出す。

エリーティアが手を出すと、シュバルツはその掌の上に何かを落とす。

「これは……私に?」

シュバルツは背を向け、そこが定位置だというようにリーネさんの庵がある林の前に立つ。彼が見せた行動は、この姿になっても心というべきものがあるのだと感じさせた。

「……エリーティア、良かったな」

「ええ……シュバルツに技を防がれてから、彼に勝たないといけないと思っていたから。でも、これ……勝手に貰ってもいけないし、リーネに言わないと」

「今持っている巻物では鑑定できぬが、これはルーンじゃな……驚いた」

エリーティアの言う通り、後でリーネさんの了承を得てから受け取るか決めるべきだろう。シュバルツの意志で渡してくれたという気持ちは嬉しいが、そこは筋を通しておきたい。

「……などと言っているうちに、出てきたようじゃな……っ!」

◆遭遇した魔物◆

アイスレムナント:レベル10 警戒 物理無効 弱点不明 ドロップ:氷結のエーテル

バインドファズ:レベル10 警戒 物理無効 弱点不明 ドロップ:???

フォッグビースト:レベル10 警戒 物理無効 弱点不明 ドロップ:???

今まで出てきたことのない魔物が二種いるが、アイスレムナントと同じく実体がない――アルターガストがいないのはいいが、新しい魔物も油断はできない。

「どうやら出番のようじゃの……っ、我が炎で燃えつきよっ!」

◆現在の状況◆

・『セレス』が『ファイアテキスト』を発動 →『アイスレムナント』に命中 燃焼無効

セレスさんの魔法によって、文字の形をした炎が放たれる――アイスレムナントに命中し、ダメージは与えられているようだが、有効打とまではいかない。

◆現在の状況◆

・『バインドファズ』が『金縛りガス』を発動

・『シオン』が『バックステップ』を発動 →『金縛りガス』を回避

・『アリヒト』が『支援攻撃1』を発動

・『フォッグビースト』が『霧中の一撃』を発動 →『セラフィナ』が割り込み

・『セラフィナ』が『オーラシールド』『シールドスラム』を発動 →『フォッグビースト』に命中 行動がキャンセル 支援ダメージ13

「させないっ……!」

『フォッグビースト』が一瞬だけ実体化して繰り出した爪による攻撃を、セラフィナさんが盾で受けながら突き飛ばす。

◆現在の状況◆

・『フォッグビースト』が『霧体再生』を発動 →『フォッグビースト』の体力が回復

「再生能力があるのか……スズナ、俺とエリーティアに『言霊』を!」

「はいっ……!」

『言霊』で俺とエリーティアの武器に神聖属性を付与する――だがその間に、姿を消した敵の気配が一瞬途切れる。

「――ミサキッ!」

◆現在の状況◆

・『アイスレムナント』が『ボディスワップ』を発動

アイスレムナントの気配が再び現れたとき、俺は咄嗟に声を上げた。しかしミサキには回避の手段がなく、割り込みを入れる隙もない。

――そのはずが。

◆現在の状況◆

・『ミサキ』が『ハットシャッフル』を発動 →『ミサキ』に『四択』付与

・『アイスレムナント』が『ミサキA』を標的に指定 →『ミサキ』が回避

「イッツ・ショータイム……なーんてっ……!」

ミサキの身体が一瞬、4つに分かれたように見えた――アイスレムナントの技が分裂したミサキのうち一人に命中すると、その姿はかき消える。

「ミサキちゃん、凄いっ……!」

「やるわね、ミサキ……!」

「えへへ、新装備の固有技ってやつでーす!」

一式装備を身に着けると新しい技も増えるとは――ミサキがそれに気づいて咄嗟に使ったのは良い機転だった。

◆現在の状況◆

・『アイスレムナント』が『コールドハンド』を発動

・『アリヒト』が『支援攻撃1』を発動

・『テレジア』が『アズールスラッシュ』を発動 →『アイスレムナント』に命中 行動がキャンセル 燃焼無効 支援ダメージ13

「ひぇぇっ……あ、ありがとうございますテレジアさんっ……!」

『アイスレムナント』がすかさず追撃を仕掛けてきたところで、テレジアが牽制の一撃を入れてくれる。彼女は敵の挙動をよく見ている――見えにくい相手でも気配を察知できている。

◆現在の状況◆

・『バインドファズ』『フォッグビースト』の同時攻撃

だが技を繰り出した直後のテレジアの隙を敵が突こうとする――射撃で援護するか、別の方法を選択するか。その判断までの刹那に理解する。

テレジアはあえて敵の標的になろうとしている。それは、自分の新しい技を試すための行動だった。

「テレジア、『支援』するっ!」

「……っ!!」

◆現在の状況◆

・『バインドファズ』が『バインドクロー』を発動

・『フォッグビースト』が『霧中の一撃』を発動

・『アリヒト』が『支援攻撃2』を発動 →支援内容:『フォースシュート・フリーズ』

・『テレジア』が『アクセルゴースト』を発動 →攻撃を2回無効化 分身反撃

・『バインドファズ』『フォッグビースト』が凍結

テレジアが敵の攻撃を回避した直後、その場に残った残像が反撃を繰り出す――まるで忍者か何かのような動きにこちらも幻惑されそうだが、新しい技の有用性はこれ以上なく理解できた。

実体のない魔物たちだが、攻撃する瞬間だけ実体化する――そうして繰り出してくるのが物理技というのは、テレジアの技を使う条件を満たしている。当の彼女は上手く行って安心しているようにも見えるが。

今回の戦闘においては、なるべくセレスさんに貢献してもらう必要がある。エリーティアもそれを理解していて、切り込まずに戦況を見ていた。

(凍結した魔物に魔法を撃ち込む……いや、それだけではおそらく倒しきれない。できるだけダメージを稼ぐには、これしか……!)

◆現在の状況◆

・『アリヒト』が『支援魔法1』の技能を取得

・『アリヒト』が『支援攻撃2』を発動 →支援内容:『フォースシュート・スタン』『会心石』の効果が発動

・『アリヒト』が『支援連携1』を発動

セレスさんの魔法を強化する――そして連携を発動し、ダメージを可能な限り引き上げる。

「――セレスさん、『支援』します! 今使える最も強い魔法を撃ってください! 五十嵐さんも頼みますっ!」

「っ……混沌の海より誘われし力よ、明滅し、胎動し、連結せよ……!」

「一番強いって、これしか……っ、ええいっ、『サンダーボルト』!」

◆現在の状況◆

・『セレス』が『カオティックワード』を発動×2 → 敵全体に命中 クリティカル 弱点攻撃 スタン 焦燥付与 連携技一段目

・『キョウカ』が『サンダーボルト』を発動×2 → 『バインドファズ』『フォッグビースト』に命中 クリティカル 弱点攻撃 スタン 感電付与 連携技二段目

・連携技『双魔混沌・雷波動』 →クリティカル 感電継続 焦燥状態が恐慌に変化

・『バインドファズ』『フォッグビースト』を討伐

(それぞれ2倍の魔法攻撃の掛け合わせ……俺の攻撃を乗せた分だけクリティカルなのか、それとも彼女たちの魔法も込みなのか。どちらにせよ、この威力は……!)

「これで終わりっ……テレジア!」

「っ……!」

◆現在の状況◆

・『アリヒト』が『支援攻撃1』を発動

・『エリーティア』が『コメットレイド』を発動

・『テレジア』が『アクセルダッシュ』を発動

・『エリーティア』が『スラッシュリッパー』を発動 →『アイスレムナント』に3回命中 支援ダメージ39

・『テレジア』が『アズールスラッシュ』『リバースグリップ』を発動 →『アイスレムナント』に2回命中 魔力燃焼 支援ダメージ26

・『アイスレムナント』を1体討伐

エリーティアの攻撃回数が『早業のガントレット』によって増え、一瞬で三回斬ったように見える――そして畳み掛けるように繰り出したテレジアの技を受けて、亡霊のような魔物はひとたまりもなく掻き消えた。

「な、なんじゃ……今のは……わしの魔法が、二つに増えたような……」

「俺の技で、一度魔法を使うと2回かかるようにしました。といっても、二回目は半分の威力なんですが……」

「後部くんの『会心石』のおかげで、体感では二倍の威力が出てるように見えたわ。その技はどんな魔法に対しても使えるの?」

「ひとまず攻撃魔法には適用されたので、他の魔法でも試してみたいですが……魔法系の技自体が貴重ですからね」

話しながら『支援回復2』と『タクティカルリロード』を使い、全員の魔力を回復する――といっても、フォースシュートで消費する魔力量で全回復とはいかないが。

「んっ……い、今のは? アリヒトがスリングを構えたら、魔力が回復したのじゃが」

「次弾を装填すると、前回の技で使用した魔力が回復する技なんです。それを、みんなに共有するってことができるので」

「……なんと……さらりと言ったが、凄まじいとしか言いようがないぞ、そのような技能は。前にも見たオールラウンドじゃったか、あれもとんでもない技じゃったのに」

「お兄ちゃんってやっぱり凄いんですね……セレスさんがこんなに驚くなんて」

「…………」

テレジアが俺の横にやってくる――何を言わんとしてくれているかが、なんとなく俺にも皆にも伝わっていた。