軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百九十四話 家族

『水蛇の崇拝者』をそのまま運ぶことはできないので、メリッサに借りてきた貯蔵庫の鍵を使って転送した。『ディープラミアー』については『蔓草弾』を使って拘束した時点で、体力が減っているからなのか『服従』状態になった。

「…………」

「…………」

目を覚ましたディープラミアーが、テレジアと目を合わせる。意志の疎通をしているようにも見えるが、しばらくするとラミアーは目を閉じる。

「もう抵抗がないということであれば……シオン殿、乗せられますか?」

「バウッ」

シオンはディープラミアーを難なく背負ってしまう。このまま移動しても大丈夫そうだ。

「マドカ、五番区でも『運び屋』を頼むことはできるのかな」

「はい、五番区でも商人ギルドと提携して活動しています。迷宮の危険度が上がっていますので、お支払いの金額は七番区より高くなります」

「なるほど……ありがとう。迷宮の奥で巨大な魔物を倒したとき、収穫が得られないっていうのも困るからな」

「倒したあとなら、素材として貯蔵庫に送れるんじゃないかしら」

「そうですね。貯蔵庫を借りられる数を増やせるなら、予算と相談で増やしておいた方がいいかもしれません」

マドカと五十嵐さんと相談しているうちに、スズナとエリーティア、ミサキが何か思い当たったことがあるようで、こちらにやってきた。

「アリヒトお兄ちゃん……あっ……」

「え?」

「あっ……い、いえ、すみません、ミサキちゃんがいつもそう言うので、つい間違えてしまって……っ」

「はー、びっくりした。スズちゃんもお兄ちゃんって呼ぶことにしたのかなって。私としては全然有りよりのありですけど」

「も、もう……ミサキちゃん、今はそういう話じゃなくて……」

「あ、ああ、どうした? 何か相談事みたいだけど」

エリーティアがライセンスを見せてくる――そこには、『赤い箱』がドロップした旨が表示されている。しかし、俺たちは見つけていない。

「激しい戦いだったから、箱が埋まってしまったんだと思うの。私だけ距離が近かったから、ドロップした表示が出ているみたい」

「そういうことか……ひとまず、今日は他のことで使うこともないと思うし、『フォーチュンロール』と『月読』を使って探してみるか」

「はい、私もそうしたいと思っていて……アリヒトさん、声かけをお願いできますか?」

「お願いしまーす」

声かけというのは『支援高揚』のことだろう。スズナとミサキに背中を向けてもらって、手をかざしつつ技能を発動した。

◆現在の状況◆

・『アリヒト』が『支援高揚1』を発動 → パーティの士気が13上昇

「っ……あ、ありがとうございます……」

「士気がいっぱいになると、もう何でもこいって感じになるんですよねー」

「……ア、アリヒト。毎回私たち全員に技能をかけて、消耗したりはしないの?」

位置取りとして皆が前に来るように意識するのは、もはや職業病のようになりつつある。自分の魔力をライセンスで確認してみるが、『支援高揚』で減った分は微々たるものだ。

「魔力の消耗はほとんどない。士気を最大にするまで使っても大丈夫だ。連続では使えないから、最大までは急いでも40分近くかかるんだけどな」

「そ、そう……それは参考になるけど、そういうことが聞きたいんじゃないんだけど……」

「よ、良いではないですか、アリヒト殿の消耗が少ないのは良いことです。私達のパーティの要なのですから」

珍しくセラフィナさんも何か慌てているように見える――どういうことかと五十嵐さんとマドカを見るが、五十嵐さんはなぜか目を逸らし、マドカは不思議そうな顔をしている。

「お兄ちゃん、何か新しいテクニックを身につけました? いつも励ましてくれたりするときと違う感じがしたんですけど……魔力が回復してましたし」

「『タクティカルリロード』って技能を取ったんだ。 再装填(リロード) ……射撃をするときに、俺が使った分の魔力が全員回復するようになった」

「あ……やっぱりそういうやつです? 力が湧いてくるっていうか、もらってる感じがしたんですよね」

「そのような技能があるのですね……アリヒト殿が使用した魔力よりも、全員が回復する量を合わせた方が非常に大きい。私たちは、アリヒト殿の魔力を装填してもらっていたのですね」

「本当に、どんな人生を送ったらそんな技能が使える職業になれるのかしら……そ、それと。できれば技能のことは私たちにも教えておいてね、心構えが必要だから」

「は、はい。皆に影響を与える技能については、事前に話しておきます。驚かせてすみませんでした」

「驚いたっていうか……や、やっぱり気にしないで、後部くんのやり方で問題はないから。私たちはそれに合わせていくわね」

会社にいた頃のことをふと思い出す――五十嵐さんの課す仕事は激務じゃないかとか、よくついていけるなと同僚に言われたことがある。

俺は五十嵐さんのやり方が多少強引と感じても、いい結果を生むだろうと予感がしたから「上司に合わせるのは部下の仕事だ」と言った。それで時々「社畜の鑑」と呼ばれるようになったのは、良かったのか悪かったのかだ。

「……そ、そういえば、さっきミサキが俺のことを課長と言ってましたが。俺にとっての課長は、いつまでも五十嵐さんですから」

「そんなこと……気にしなくていいのよ、もう。今はあなたが管理職でしょ?」

「い、いや、そんなことは……」

「お兄ちゃんに私も管理されてますし、自信持っていいですよ。ねー、スズちゃん」

「その言い方はアリヒトさんに失礼なような……アリヒトさんはいつも私にとって、頼れるリーダーですから」

『タクティカルリロード』について説明したら、何か尊敬の目で見られてしまった――この空気は落ち着かないので、俺は控えめに咳払いをする。

「コホン……ミサキ、スズナ、そろそろやってみようか」

「はーい。士気解放、『フォーチュンロール』!」

「士気解放、『月読』!」

◆現在の状況◆

・ミサキが『フォーチュンロール』を発動 →次の行動が確実に成功

・スズナが『月読』を発動 → 成功

スズナの瞳の色が変わり、ある方向を指差す――すると、砂浜の一部に青い光が立ち上った。

シオンが歩いていき、前足で砂を掘る。すると、いくらか掘ったところで赤い箱が出てきた。

「ワンッ」

「ありがとう、シオン。さて……三階層は様子見だけにしておこうと思うんだが、どうする?」

「それなら私が行ってきましょうか。移動するだけなら、パーティで一番速いと思うし」

「…………」

「テレジアも一緒に来てくれるの? 分かったわ、魔物に見つからないように気をつけましょう」

スズナの『神託』で三階層の入り口がある方向の見当を付けると、二人が連れ立って走っていき、途中で技能を発動して加速する。

「エリーティア殿が、先ほど二本の剣を使っているように見えたのですが。あれは彼女自身の技能によるものですか?」

「はい、二刀流自体は彼女の技能『ダブルウェポン』によるものだと思います。左手に出現した剣は、俺の技能で一時的に出したものです」

「そのようなことまで……そういった援護は、他のメンバーにも可能なのですか?」

「おそらく可能ですが、手を空けておく必要はあると思います。俺の技能は距離に関係なく、俺が装備しているもので追撃するような技能なので、さっきのような使い方が有効な場合は限られてくると思います」

「なるほど。打撃が通じない際に私も刀が使えればと思いましたが、今まで通りの形で援護をお願いするのが良いようですね」

「後部くんが持っている武器で援護してもらえているから、自分以外の属性で相手の弱点を突けるときがあったのね」

「『猿侯』の弱点は凍結属性と分かっているので、有効に援護できればと思います」

今のパーティで最大の打撃を出す方法については、常に模索しておきたい。

――そう考えて、何か思いつきかけたところで。ライセンスに表示されたエリーティアとテレジアの位置が、三階層に切り替わった。少し時間を置いて、また二階層に切り替わる。

「二人がそろそろ戻ってきます。貢献度は十分だと思うので、一度外に出ましょう」

「了解しました」

「でも一階層って、また幽霊の魔物が出るところなのよね……できるだけ避けて行きましょう」

◆◇◆

エリーティアたちと合流したあと、一階層では『スケアクロウ』のシュバルツが待っていて、安全な経路を案内してくれた。

「見送りまでしてくれるなんて、リーネさんは随分好意的なのね」

「『アルターガスト』を封印したことが、彼女にはとても重要なことだったのでしょう」

まだリーネさんについては、分からないことも多くある。しかし、彼女の協力を取り付けられたことは大きな収穫だった。

「はー、迷宮から出た時ってお腹空きますよね……っていうか、薄暗っ! 夕闇の迷宮にいたから気づきませんでしたけど、かなり時間経ってません?」

「もう夕食時だな。『ディープラミアー』を魔物牧場に預けたら、フォレストダイナーに行こう」

行き先が決まり、皆が歩き始めたところで、テレジアがしばらくして足を止める。

「……テレジア?」

後ろから声をかけると、テレジアはこちらを振り返る――しかし。

いつも、彼女が言葉を発することができなくても、その姿を見ると安心を覚えた。

だが、俺は今、思ってはならないことを思ってしまった。

――薄暗くなり、街灯を背にしたテレジアの姿が、俺の知らない誰かに見える。

「テレジアさん、何食べます―? あ、お兄ちゃんと相談中?」

「っ……」

ミサキの声で、テレジアがハッとしたように息を飲む。そして、俺に背を向けて走っていく。

今俺が見たものが示すことは一つ。呪詛の侵蝕が、進んでしまっているということ。

期限いっぱいで準備を整えるなどとは、もう言っていられない。少しでも早く『呪詛喰らい』を完成させて『猿侯』を倒さなくてはならない。

テレジアの異変については、皆にも伝えておかなくてはならない。もし彼女が、迷宮の中で自分の意思に反する行動をしてしまったら――。

今は、テレジアには街で待っていてもらうべきかもしれない。しかし彼女をパーティから外したくない、そんな相反した考えが巡る。

(まだ、テレジアは大丈夫だ。問題は起きてない……だが……)

「……アリヒト様、いかがなさいましたか?」

「あ……イ、イヴリルさん。すみません、少し考え事を……仲間を待たせてしまうので、急ぎます」

つばの広い帽子を被った、令嬢然とした女性。彼女はこの時間では傘を開かずに手に持っていた。後ろにはヴァイオラが控えている。

「私たちも、いつでも実戦に出られるように準備をしています。『炎天の紅楼』の攻略を果たすことができたら、よろしければお食事をご一緒いたしましょう」

「はい。俺たちがここに滞在できる期限は、今日を含めて六日です。ですが、それより早く招集をかけることになると思います」

「承知しました。事前に知らせておきますが、私たちのレベルは12になります。アリヒト様の作戦についてご意見をさせていただくかもしれませんが、難しい役割を与えていただいても必ずこなしてみせますわ」

「ありがとうございます。俺たちのパーティは平均のレベルは低いですが、何とか協力して役割をこなすつもりです」

イヴリルは先を行くエリーティアを見やる。仲間と話しながら歩いている彼女の表情は、前にイヴリルたちと会ったときとは違って見えるだろう。

「彼女の表情にあった迷いが消えています……彼女は強くなる資格を十分に持っていて、後はきっかけが必要だったということですわね」

「俺もそう思います。確実に前に進んでいるという手応えはあります」

「……目覚ましい成長で……喜ばしい限り……です」

ヴァイオラの話し方は 訥々(とつとつ) としていて、ゆっくりとしている。彼女が話し始めると、時間の流れが遅くなったのかと錯覚してしまうほどだ。

「申し訳ありません、彼女は口数が少ないもので……私も久しぶりです、ヴァイオラの声を聞いたのは」

「……無礼……どうか、ご容赦を……」

「いえ、ありがとうございます。俺たちが成長できているとひと目見て分かるのなら、それは嬉しいことですから」

「……一緒に戦わせて……いただくのが……」

「私も彼女と同じ気持ちですわ。それではアリヒト様、ごきげんよう」

ヴァイオラが最後まで言うまで待ちきれず、イヴリルは彼女を連れて立ち去る。歩いていく方向には食事ができる場所があるようなので、どこかで夕食を摂るのだろう。

◆◇◆

魔物牧場に顔を出してラミアーを預け、『召喚石のペンダント』で呼び出せるようにしてもらった。

セレスさんたちのところに顔を出すと、ファルマさんが丁度到着したところだった。彼女たちも一緒に『フォレストダイナー』に向かう。

その途中、向こうから歩いてくる三人連れの姿に気がついた。

「……後部くん、あれって……」

「猫の獣人さん……あの人が、メリッサさんのお母さん……?」

ミサキが言うとおりに、メリッサが少し恥ずかしそうにしながら、彼女より少し背の高い女性と一緒に歩いてくる。

身体が白い毛皮で覆われていて、その上から革の防具を身に着けている。頭には亜人であることを示すように、猫顔のマスクを被っている。

「ライカートンさん、メリッサ……お母さんに会えたんだな」

「……うん」

やはり亜人であるメリッサの母親は、言葉を発することはない――しかし、俺たちがメリッサの仲間であると知ると、少しだけ頷くような姿を見せた。

「アリヒトさんも人が悪い……妻がこの区にいることを、ご存知だったんですね」

ライカートンさんは俺に歩み寄ると、少し気恥ずかしそうに言う。その様子を見ると、会えるかどうか分からないというくらいの気持ちでこの五番区に来てくれたのだろうか。

「せっかくの機会ですから、家族三人が揃うことができたらと思ったんです」

「……ありがとうございます。メリッサは、アリヒトさんたちに出会ってから明るくなりましたが……妻のフェリシアに会って、本当に嬉しかったようで」

「お父さん、アリヒトに余計なことは言わなくていい」

「おっと、怒られてしまった……アリヒトさん、フェリスのパーティのリーダーは私が昔お世話になった人でしてね。今日一日は、家族で過ごすと良いと言ってもらえました」

「本当ですか? それは良かった」

ライカートンさんは笑顔で頷く。スズナはメリッサ親子の姿を見て目元を抑え、マドカはターバンを下げて顔を隠していた――どうやらもらい泣きをしているらしい。

「ライカートンさん、おめでとうございます、三人で会えて」

「フェリス、わしらもアリヒトたちの専属として活動しておる。お主が戻ってくるときを楽しみにしておるぞ」

ファルマさんとセレスさんもそれぞれフェリスさんに挨拶をする。フェリスさんは返事をしないが、メリッサの肩に優しく手を置いた。テレジアと同じように口元しか見えないが、その表情は穏やかに見える。

ライカートンさんたちも夕食はまだということで、さらに大所帯で『フォレストダイナー』に向かう。

「…………」

メリッサたちを見ていたテレジアは歩き出そうとしなかったが、俺が横に並ぶとそろそろとついてくる。

「ん……どうした?」

テレジアが袖をつまんでいる。いつものように、控えめに。彼女は何も変わっていない――決して、変えさせたりはしない。

◆テレジアの状態◆

▼イビルドミネイト 進行度:18