軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百九十三話 雨上がりの虹

エリーティアは今までとは、明らかに変化している。それを察したのは俺たちだけではなく、対峙する『水蛇の崇拝者』も同じだった。

「――シュォォッ……!!」

◆現在の状況◆

・『★水蛇の崇拝者』が『クラウドバースト』を発動 →地形効果が『重雨』に変化 『水属性追撃』付与

空気を吐き出すような音と共に、水色の鱗を持つ蜥蜴は剣を振りかざした状態で止める――すると、上空に瞬く間に雲が生まれ、一帯に強い雨が降り注ぐ。

「くっ……ぅ……な、なんだ、この雨は……!」

重い――打ち付ける雨が粘つくように感じ、動きが阻害される。

「グルル……ッ、ゥゥ……」

「お、お兄。ちゃん……この雨、やばっ……重いんですけどっ……」

◆現在の状況◆

・『★水蛇の崇拝者』の全能力が上昇 『泡の防壁』付与

地形を変化させることによる能力強化。そして五十嵐さんの攻撃で解除された『バブルスキン』の効果が再度付与される。

雨を浴びた『水蛇の崇拝者』は、明らかに能力が上昇している。しかし援護しようにも、重圧を感じるほどに打ち付ける豪雨の中では射撃の狙いがつけられない。

(バックスタンドで奴の裏に回る……この地形効果を解除しないと……!)

『――マスター、焦る必要はない』

ムラクモの声が聞こえる。諌めるような声に、俺は技能の発動を思いとどまる。

『雨とは花を祝うものだ。見届けよう、あの娘を……力添えをするのは、最後でいい』

「――はぁぁぁぁぁっ!」

◆現在の状況◆

・『エリーティア』が『コメットレイド』を習得

・『エリーティア』が『アルティメイタム』を発動 → 『エリーティア』の攻撃力、速度が上昇 『残紅』付与

(『ベルセルク』とは違う……エリーティアは剣に振り回されていない。制御できてるんだ……!)

エリーティアが剣を構える。そして腰を落とした次の瞬間、彼女に向かって『水蛇の崇拝者』の剣が振り下ろされる。

「ジュォォォォッ!!」

◆現在の状況◆

・『★水蛇の崇拝者』が『ストライクフォール』を発動

・『エリーティア』が『コメットレイド』を発動 『ソードバリア』付与

雨に打たれた砂地を爆砕する巨大な剣――しかしそこにエリーティアの姿はない。

「――ジュラララァッ!!」

◆現在の状況◆

・『★水蛇の崇拝者』が『返し刀』を発動 → 即座に剣技能発動可能

・『★水蛇の崇拝者』が『横一文字』を発動

打ち付ける雨をものともせずに飛んだエリーティアに、『水蛇の崇拝者』はその巨体から想像もできないような切り返しを放つ。雨を切り裂く横薙ぎ――しかし。

「っ……!」

その一撃は、エリーティアには届かない。

◆現在の状況◆

・『アリヒト』が『支援防御1』を発動 →対象:『エリーティア』

・『エリーティア』が回避

・『★水蛇の崇拝者』の水属性追加攻撃 →『ソードバリア』『支援防御1』により無効

・『ソードバリア』の反射 →『★水蛇の崇拝者』に命中 『残紅』を1回付与

足場がないはずの場所で、エリーティアが加速する。その身体にまとった赤い光が、彼女を守るバリアに変化している――空中に残った赤い光の帯は、彗星のようだった。

それはただの光ではない。『水蛇の崇拝者』の攻撃の後に発生した水の刃が触れると、逆に『水蛇の崇拝者』の腕に赤い光の筋が走った。

「――ガァァァァッ――!!」

◆現在の状況◆

・『★水蛇の崇拝者』が『怒涛の激流』を発動 →『エリーティア』が回避

間髪を入れない連続攻撃を、エリーティアは空中で方向転換するたびに加速しながら回避する――彼女は仲間に流れ弾が当たらないように立ち回ることさえできている。

そしてエリーティアは、ついに『水蛇の崇拝者』の死角に回る――頭上だ。

激流を口から吐き出しきったあと、必ず生まれる隙。エリーティアはそれを決して逃しはしなかった。

「アリヒト、お願いっ……!」

エリーティアの求めている支援は何か。『支援攻撃1』ではない――そう、今こそ。

「エリーティア……『支援する』!」

◆現在の状況◆

・『エリーティア』が『ダブルウェポン』を取得

・『アリヒト』が『支援攻撃2』を発動 → 支援内容:『天地刃』

俺がムラクモを抜き放った、その瞬間――エリーティアはそれを分かっていたかのように、『緋の帝剣』を持っていない左手を開き、そして握った。

『これこそが、『後衛』による剣士支援の真髄。私の力を使え、エリーティア……!』

ムラクモがエリーティアの名を呼んだ瞬間、エリーティアの左手に、もうひとつのムラクモが現れる。

「アリヒトさん……っ!」

「……っ!」

俺はここにいて、エリーティアのすぐ傍にもいる。理解を超えたその感覚が、今は心地良いとすら感じる。

「――我が剣舞とともに、輝きを散らせ、刃の花よ!」

◆現在の状況◆

・『エリーティア』が『スカーレットダンス』を発動 →職業変化により技能進化 『スターパレード』

・『エリーティア』が『ブロッサムブレード』を発動 →条件到達により技能進化 『ルミナスフラウ』

何もかもが、進化していく。

『 呪いの剣(カースブレード) 』はただ、使用者にリスクを課し、力の代わりに苦悩を与えるものというわけではなかった。

葛藤と向き合った時間が長いほどに、得られるものは大きくなる。

鮮やかな紅は、エリーティアを包む輝きに変化する――まるで、瞬く星のように。

「――グオオォォォッ!!」

『水蛇の崇拝者』は咆哮する。今までは威嚇のために、しかし今は、目の前の存在が脅威であると認めたかのように。

「――はぁぁぁぁぁっ!!」

◆現在の状況◆

・『スターパレード』の効果により『エリーティア』の攻撃回数が上昇

・『ムラクモ』の特殊効果により『★水蛇の崇拝者』の『泡の防壁』が解除

・『ルミナスフラウ』が『★水蛇の崇拝者』に42段命中 『残紅』を40回付与

・『エリーティア』の追加攻撃が発動 28段命中

・『★水蛇の崇拝者』が『流血の狂乱』を発動 攻撃力が大幅に上昇 『狂戦士』状態に変化

瞬きのうちに繰り出された斬撃は『水蛇の崇拝者』にたたらを踏ませる――切りつけた軌跡の全てが赤く刻まれている。左手のムラクモを最初の起点としたことで、『泡の防壁』で刃が受け流されることも防いでいた。

「――ガァァァァッ……!!」

追い込まれた魔物はいつも、戦況を覆すための技能を発動させる――しかし。

「――アリヒト、『最初の支援』をお願いっ!」

「――ああ!」

一も二もなくエリーティアの要請に応じる――これが求められている答えだと確信できる。

「エリーティア、『支援する』!」

俺が支援を発動させたその瞬間、エリーティアは――敵の眼前で、剣を鞘に収めた。

◆現在の状況◆

・『アリヒト』が『支援攻撃1』を発動

・『エリーティア』が蓄積した『残紅』を解放 71段斬撃発生 支援ダメージ923

・『★水蛇の崇拝者』を1体討伐

・地形効果:『重雨』が解除

「ジュァァァァッ……ァ……」

『水蛇の崇拝者』の身体に刻まれていた赤い軌跡の一つ一つが、新たな斬撃を生じさせる。

エリーティアの凄まじいまでの攻撃回数で、防御を無視した打撃が相手を襲う――『ルミナスフラウ』を受けても立っていた相手は、今度こそその身体から青い血しぶきを上げ、その場に倒れ込んだ。

「ふぇっ……な、なんですか、今の……エリーさんが『チンッ』て剣を納めたら、ズバババッってなりましたよ……?」

ミサキの擬音に思わず緊張が緩むが、俺にもまさにそのように見えた――と、まだ敵は一体残っている。

「…………」

「っ……テレジア、やったか!?」

無理はしなくていいとテレジアに言ったが、『水蛇の崇拝者』との戦闘に参加することはできなくても、彼女は自分で考えて動いていた。

遠くのマングローブの陰から、テレジアが『ディープラミアー』を引っ張ってきて、砂浜に寝かせる。ライセンスを見ると、テレジアの『アサルトヒット』を受けて昏倒している状態だった。

「か、髪が蛇みたいになってるわね……メデューサとか、そういう系統の魔物なのかしら」

「『水蛇怪の髪』という素材になるみたいですが……ア、アリヒトさん、どうしましょうかっ……」

「『シャタードアイ』という技能で遠距離攻撃を防いだりしていましたし、有用な技能を持っているようです。今までの方針ですと、人間に近い姿の魔物は 調教(テイム) するのが無難ではないかと」

「そうですね。捕獲して魔物牧場に送っておきましょう」

落ちていた弓と矢を拾ってくるが、魔物の膂力があってこそ引けるくらいの強弓なのでスズナが使うとしても改造する必要がありそうだ。ディープラミアー自身に装備させて戦闘に参加させるということも考えられる。

「テレジア、よくやってくれた。みんなも……びしょ濡れですから、今日はもう退いた方が良さそうですね」

「バウッ」

シオンは身体を振って水を飛ばす――その姿を見て、みんなが笑う。

この戦いの立役者であるエリーティアも、こちらに戻ってくる。少し気恥ずかしそうに、けれど明るい表情で。

「エリーさんっ……!」

スズナが駆け出し、エリーティアに抱きつく。それを見て他のメンバーたちも、二人を囲むように輪を作る。

「ごめんなさい、今まで怖い思いをさせて……」

「使えるようになったんですね……いえ、本当の力が出せるようになったんでしょうか」

「二つともだと思うわ。私はこの剣にずっと振り回されていたけど、一方ではこの力に惹きつけられて、魅入られていた気がする。今は、この剣を信頼できるというか……剣を剣として使えているという気持ちなの。こんな感覚は、すごく久しぶり」

「そういえば……今さら聞くのもなんだけど、エリーさんはどうして『剣士』を選んだの?」

五十嵐さんが質問すると、スズナが少し離れて目元を抑える。エリーティアはそんなスズナを気遣いながら、『緋の帝剣』の柄に触れた。

「私は転生する前、フェンシングをしてたの。その経験が迷宮国でも生きるかもしれないって……力もないし、パーティの役にはあまり立てなかったけれどね。素早さが生きる職業だったから、相手の攻撃を引きつけたりする役目を任せられてた」

「フェンシング……そういうことだったのか」

「あの、全身タイツでやるやつですね……あれをエリーティアさんが……」

「正式なユニフォームなんだから茶化さないの」

「いいのよ、昔のことだから。でも、あのマスクとユニフォームが懐かしくなることもあるわね。フェンシングらしい技能はあまり無いから、今の私は言葉通りの『剣士』だけど」

エリーティアの話を聞いているうちに、ふと思い出す。戦闘中は流し見ることしかできないライセンスの情報だが、その中に一行気になる表示があった。

「エリーティア、さっきの戦闘中に、職業が変化したって出ていたみたいだが……」

「『剣士』に戻ったということでないならば……エリーティア殿、確認してみていただけますか?」

セラフィナさんに言われて、エリーティアがライセンスを操作する。その目が小さく見開き、彼女ははにかみながら、ライセンスの表示を見せてくれた。

◆探索者の情報◆

名前:エリーティア・セントレイル

職業:フローレスナイト レベル11

探索者序列

346位:5番区暫定ランキング

5601位:総合ランキング

「な、ナイトさんになっちゃってますけど……フローレスってなんでしたっけ?」

「確か宝石関係の用語じゃなかったかしら……後部くん、わかる?」

「傷一つないとか、そういう意味だった気がします」

「『カースブレード』から変化した職業……この武器を使いこなしたことによる、特殊な上位職ということでしょうか。あの瞬間的な攻撃力は、このレベルから想定できるより規格外に大きいかと思います」

『猿侯』との戦いを前にして、この戦力の強化は心強いことこの上ない。そしてまだ使っていないエリーティアの技能が残っているのだから、必ず打開の糸口が見つけ出せるはずだ。

「エリーさんが5601位ということは、これ以上の区が四つあるのに、一つの区あたりにいる人たちは少ないんですね」

それはみんながライセンスを見たときに思っていたことだろう。これまでの区にいたときは総合ランキングが数万単位の順位だったが、暫定で五番区に来てからは、総合順位が一気に上がっているのだ。

「そうなります。もちろん一人一人が強者ですが、引退しても町の防衛をするために上位の区に住んでいるという方もいらっしゃいます。強力な魔物はスタンピードを起こす頻度が少ないと言われていますが……一度起こしてしまえば、『 大災禍(カタストロフィー) 』と言われる事態になることもありますので」

「ひえっ……で、でもそれはそうですよね、五番区のスタンピードでも町中が戦争みたいな状態ですからね……」

上位の区で生き残っているというだけで、どれだけ凄いことか――俺たちも気を引き締めて、確実に強くならなければいけない。先に進むというのはそういうことだ。

「…………」

テレジアに袖を引かれて気づく。話しているうちに、先に戦闘中だった二人の探索者がこちらにやってきていた。足技で戦っていた少年と、ライフルのような銃を持っている女性の二人だ。

(少年……か? 名前からすると男性みたいだが……)

レナードと呼ばれていた人は、近くで改めて見ると中性的――というより男装をした少女に見える。しかし今は気にしすぎることでもないと頭を切り替えた。

「助けていただいてありがとうございます。僕はレナードと言います」

「あたしはナターリャ、危ないところに来てくれて助かったよ。『水蛇』の本体を探してたのに、あの名前つきに引っかかっちまってね……水中から奇襲を受けて、他のメンバーは離脱したけど、あたしたちは巻物の範囲に入れなくてね」

「そうだったんですか……二人とも、無事で良かった」

「ポーションがありますが、お使いになりますか?」

「いえ、少し傷は負いましたがこれくらいなら……できれば帰還の巻物を買わせてもらえればありがたいです」

俺はマドカに頼んで、帰還の巻物の在庫を出してもらう。巻物が市場に出回る数にも限りがあるので、多くのパーティがストック分まで保有すると、足りなくなることもあるとのことだった。

「ありがとうございます、本当に助かりました。僕たちのパーティは『アイゼンリート』と言います。町でお会いしたら、また改めてお礼を……」

「困った時はお互い様ですから。二人とも、またどこかで会えた時には、少し探索の状況でも聞かせてください」

レナード君とナターリャさんは顔を見合わせ、俺を見やると――そういうことはしなさそうに見えたナターリャさんが、こともあろうにウィンクをしてきた。

「な、な、なっ……」

「坊やみたいな男に会うと、迷宮国も捨てたもんじゃないって思うよ。お嬢ちゃんたちもありがとう、助かったわ。また会いましょう」

ナターリャさんは逃げるように転移していく――もちろん、レナード君も一緒に。

「……あ、あれは何だったのかしら? 後部くん、説明してくれる?」

「え、ええと……無事に危機を切り抜けたことで、気分が高揚してたとか、そういうことじゃないかと……」

「彼女が装備していた武器……銃器は迷宮国では貴重なものですし、なかなかの手練れでしょう。その彼女にすぐ認められるとは、やはりアリヒト殿のリーダーシップは目を瞠るものがあります。部下として誇らしく思います」

「い、いえ……部下ではなくて、パーティメンバーはみんな対等と考えているので」

「後部課長、任務達成っぽいであります! あとは次の階層の様子をちょっと見て帰るであります」

「ミ、ミサキちゃん。そういうときは課長さんでいいの?」

「ワンッ」

シオンは俺たちのやりとりの意味を分かっているのかどうなのか、タイミング良く元気に吠える。

雨が上がり、虹が見えている。つかの間の休息を彩る晴れやかな景色だ。

俺たちは笑い合いながら、無事に戦いを終えたことを労いあった。