軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十七話 曙の野原 第二層

一階層でワタダマを狩っているパーティから情報を得て、二階層への入り口は特に階段などがあるわけではなく、平原を進んでいくと二本の大樹が生えており、その間をくぐれば二階層なのだと教えられた。

迷宮といえば階段を降りたり上がったりで階層が変化するものだと思うが、この『曙の野原』にその常識は適用されないようだ。

俺達は目的の大樹を見つけた。大樹の間の空気が何かもやもやしているように見える――次の階層に転移するゲートみたいなもののようだ。

「二階層に行く前に、食事を摂っておかない? しっかり時間を摂って食べるより、合間合間で間食するくらいの方が良いと思うんだけど」

「そうですね。じゃあ、少し食べてから行きましょう」

食料屋では日持ちが良くなるように干した食材が一通り売っていた。店員が探索者がまず買うと言って勧めてくれたものは、一つでまとめて栄養が補えるようにということか、木の実や乾燥した果実を混ぜて、小麦か何かの粉で固めて焼いたもの――クラッカー、あるいはビスケットみたいなものだった。

かなり硬いので水筒にスープを入れて、浸して柔らかくして食べるなど、色々と食べ方はあるらしいが、包装の紙を剥がしてとりあえずかじってみた。ガチガチに硬いわけでもなく、中が少ししっとりしているので、噛み千切ることは難しくない。

「……うわ、すっげえ喉が渇く。迷宮内では食料より、水の残量に気をつけた方が良さそうですね」

「湧き水をそのまま飲むわけにもいかないし、長い迷宮では苦労しそうね。魔法があるんだから、ある程度進んだら途中から戻ってこられるとか、好きなところで脱出して同じところに戻ってこれるとか、そんなこともできそうだけど」

「そういう技能を持ってる人は相当人気があるだろうから、スカウトも難しいでしょうね」

テレジアも食欲はあり、食料屋で好きなものを選んでもらったら、ジャーキーを選んでいた。それだけでは栄養失調になるというので、ドライフルーツ的なものと木の実の詰め合わせも摂らせるようにと指示された。

「……んっ……」

(まったく声を発しないのに、食べる時だけ微妙に……いや、飲み込んでるだけなんだけど)

「……テレジアさんが傭兵をしているのって、何か事情があるんでしょう。一言も話さないけど、それは……」

「亜人は言葉では意志の疎通ができないんです。でも、ずっとこのままってわけでもない。何とか、蜥蜴の装備が外せればと思うんですが……」

「そのためにも、テレジアさんを正式な仲間にしたいっていうことだったのね」

「それもあります。昨日一緒に探索してみて、すごく頼りになったっていうのが一番ですが」

レッドフェイスに出会ったとき、テレジアがいなければ俺たちは全滅していただろう。

『後衛』は『前衛』がいなければ成り立たない。支援系技能を使わないと『後衛』の強みは全く出てこないので、仲間との関係は常に良好に保たなくては。

「五十嵐さん、一時間くらい狩りをしましたけど疲れてませんか?」

「ううん、全然。後部くんが後ろにいると、たまに身体がじわって温かくなって、それで疲れが消えちゃうの。それも後部くんの技能のおかげ?」

「え、ええまあ。疲れが取れるだけで、他に変な感じはしませんよね?」

流れで気になっていたことを聞いてみる。『支援攻撃』『支援防御』が気分を良くするというのはわかったが、支援系技能によって信頼度が上がるというのはどんな感覚なのだろう。

携帯食料のバーを一口食べた五十嵐さんは、すぐ返事をすることができず、顔を赤らめて咀嚼に集中する。

「んっ……ご、ごめんなさい、今ちょうど口に入れたところだったから」

「は、はい。すみません、こっちこそ邪魔しちゃって。ゆっくり食べてください」

「変な感じっていうか……なんていうか、『守られてる』って感じというか……」

「な、なるほど……そんな感じですか。それなら良かったです」

実際後ろから守ってはいるので、その感覚で間違いでもないし、どんどん俺への好感が増してしまっているということでも――なくは、ないようだ。

「……携帯食料ばかりも味気ないし、そのうち私がお弁当でも作りましょうか。宿舎の台所は使っていいって言われたから、それなりのものは作れるわよ」

「ああ、それはいいですね。あれ、五十嵐さんって料理できましたっけ」

「うちの課の女子は半分くらいお弁当だから。みんなで食べようと思うと、買いに行く時間はないし、社員食堂は量が多すぎるし、必然的にお弁当になるのよ」

確かに手作り弁当を持って、ミーティングスペースで女性社員が昼食を摂っているところは何度も見た。

「……ま、まあ、お母さんが作ってくれることも多かったけどね」

「いいお母さんですね。じゃあ五十嵐さんの作るお弁当は、お母さんの味ってわけですか」

「うーん、材料が揃えばね。今日は探索が終わったら、市場に寄ってくれない? そこまで行けば色々あるみたいだから」

「いいですよ。じゃあ、探索後の予定はそういうことで……テレジア、もう満足か?」

テレジアがこくん、と喉を鳴らす。ちょうど干し肉を食べ終わったようだ。

彼女はじっと俺を見ている。満足なら頷くはずなので、つまりまだお腹がすいているらしい。

「干し肉と、五十嵐さんの食べてるやつがあるけど、どっちにする?」

「…………」

テレジアは肉を指差しかけて、固形食料のバーに指を動かす。その動きに感情が出ているように思って、俺は思わず嬉しくなる。

「肉の方が好きなんじゃないか?」

聞いてみると、彼女はこくりと頷いた。なぜ遠慮したのか――俺が携帯食料のバーをかじっていたから、最後の干し肉を自分が食べることを気にしたのだろう。

干し肉を受け取ると、テレジアは小さな口で噛みちぎる。そしてもくもくと咀嚼する――なぜか俺を見つめながら。

「テレジアさん、嬉しそう……?」

「…………」

「……ま、まあ、干し肉は好きみたいですね」

硬くて口の中でモゴモゴとしてしまうのが、携帯食料の全体的な難点だ。その分腹にはたまるし、必要な栄養は摂れるので問題はないが――たまには五十嵐さんが言ってくれた通り、弁当というのもいいだろう。

◆◇◆

二階層に入ると、目に映る木の数が増えた。平原からサバンナに進化したくらいの違い――いや、サバンナの定義には詳しくないが。

「これって、どっちに行けばいいのかしら。三階層まで行くとゴールっていう話だったけど」

「北東の方角にずっと進むと、また今みたいなゲート的なものがあるらしいです」

リヴァルさんから情報を得ていなければ、運が悪ければあさっての方向に進み続けて疲労しきっていたことだろう。

(そして俺は自分で疲労を消す手段がないが、前の二人は常に全快という……まあ、疲労で体力が減ることもないみたいだが)

「あ、そうだ。後部くん、私はまだレベル1だけど、技能を二つ取ってるの。どうやって使っていくか、アドバイスしてもらっていい?」

「はい、昨日見せて貰いましたが、『ブリンクステップ』と『サンダーボルト』ですね」

「えっ……それって、後部くんにも使ったかどうか分かるの?」

「ライセンスに『現在の状況』ってページがあるので、そこに表示されます」

俺はライセンスのページをめくる。指を何度かスライドさせると、目的の画面が出た。

◆現在の状況◆

・アリヒトとキョウカが会話

・テレジアが『索敵拡張1』を発動中

(何気ない行動でも表示されてはいるのか。テレジアの技能は、魔力を使わずに常時発動ってことでいいのかな)

「そうだったんだ。あ……後部くんの『支援回復1』が発動したって出てる。これのおかげで、身体がポカポカするわけね」

「す、すみません。常に発動する技能みたいで……落ち着かないかもしれないので、発動しないようにできないか、やり方を探しておきます」

「……あっ。昨日、赤いやつにぶつかられてすごく痛かったのに、楽になったのって……」

「は、はい……この技能を使いました。これが、俺達の体力と魔力なんですが、俺の技能はこの体力を回復させられるんです」

後ろから抱きしめるような体勢で技能を使ったことを思い出す。とにかく位置取りとして、後ろに回らないといけないので仕方なかったのだが。

支援回復は今のところ、5メートルくらい離れても常に働いている。限界距離があるとしたらどれくらいか、それも安全な敵を相手に測ってみる必要はある。

――そのとき、少し距離を置いたところで、他のパーティが交戦している声が聞こえてきた。

テレジアの索敵範囲にぎりぎりかすっていて、彼女が反応している。遠目にもわかる――エリーティアとスズナだ。

(ミサキが一緒にいない……いや、それより戦ってる相手は……なんだあの、人型の……豚か、イノシシか……?)

「ブルォォォォォ!!」

「きゃぁっ……」

「スズナ、下がっていて! そこから動いてはだめ!」

◆遭遇した魔物◆

ファングオーク:レベル2 戦闘中 ドロップ:???

ドクヤリバチ:レベル1 警戒 ドロップ:???

ドクヤリバチ:レベル1 警戒 ドロップ:???

(オークか……レベル2の魔物。エリーティアの噂を聞く限りじゃ、彼女の相手にはならなさそうだが……)

金色の髪が風に流れる。銀色の鎧を身に着けた少女剣士は、自分より一回り以上大きく、唸り声を上げながら殴りかかってくるオークに、全く臆することなく立ち向かった。

「――散れっ!」

普段の彼女からすると過激にも聞こえる言葉。しかしそれが、歴戦を潜り抜けてきただろう彼女でも、この戦いに油断していないという現れでもあった。

◆現在の状況◆

・エリーティアの『スラッシュリッパー』が発動 →『ファングオーク』に命中

・『ファングオーク』を一体討伐

悲鳴を上げる時間すら、オークには与えられなかった。接触する瞬間、エリーティアが剣に手をかけたところだけが見え、一瞬後にはオークは血しぶきを上げて地面に伏していた。

(一番の強敵は倒した――だが、まだ……!)

「五十嵐さん、テレジア! こっちにハチの注意を引きつけるぞ!」

「っ……了解っ!」

「……ッ!」

◆現在の状況◆

・テレジアが『アクセルダッシュ』を発動

テレジアが技能を使って加速する――一匹のドクヤリバチの索敵範囲に入り、標的を引きつける。しかし、もう一匹の位置がまずい。

いくら優秀な剣士であっても、ランダムに位置取りをするハチが急に敵対してきたら――後衛にいるスズナを狙われても、即座に対応することができない。

「――アリヒトさんっ……!」

身を低くして動かずにいたスズナが、俺たちの姿に気づいて声を上げる。空中を旋回していたハチが彼女に狙いをつける前に、俺は炎を纏ったスリングの弾を放った。