軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十六話 新しい陣形

探索の準備を整え、広場で思い思いの携帯食料を買ったあとは、いよいよ第二回探索だ。

「おう、さっきから見えてたが、準備も色々大変だな。 姐(あね) さんも 肚(はら) ぁ括って、アリヒトと組む気になって良かったぜ」

「あ、 姐(あね) さんっていう言い方はやめてください……私、後部くんよりは年下ですから」

「ははは、すまんすまん。今のは言葉のアヤってやつだな」

年下の課長という響きに昔はコンプレックスを覚えたが、今はまた違う。四歳年下の五十嵐さんに対して、年長であり、リーダーである俺は、それなりの甲斐性を発揮しなくては。そんなことを言ったら殴られはしないが、怒られそうだが。

「気をつけてな。おまえなら、『曙の野原』の深層まで今日中にたどり着いちまうかもな。といっても三層しかねえんだがよ、だだっ広いから戻りのことは常に考えた方がいいぜ」

リヴァルさんに見送られ、俺たちは迷宮に入っていく。広がるのは、昨日と同じ明るさの平原――迷宮の中では時刻の変動がないのだろうか。『曙の野原』だけに、常に曙の時間帯のままなのかもしれない。

◆現在のパーティ◆

1:アリヒト ※◆$□ レベル2

2:キョウカ ヴァルキリー レベル1

3:テレジア ローグ レベル3 傭兵

「今日は五十嵐さんとテレジアに、二人で前衛をしてもらいます」

「ええ、分かったわ。新しい武器を早く試してみたいわね」

「…………」

まず隊列設定をし直しておく。テレジアが傭兵のうちは、毎回設定しておかないといけない。声をかけるだけで、ライセンスの表示も連動して変更された。

◆戦闘時の隊列◆

1:アリヒト 後衛

2:キョウカ 前衛

3:テレジア 前衛

現状、前衛を五十嵐さんだけに任せることはせず、二人で標的を分散してもらう。両者ともに近接武器なので、その方が連携もしやすいだろう。一人が攻撃を受け止め、もうひとりが攻撃するということも容易だ。

盾装備に特化した、重装鎧兵みたいな職があれば、その人に壁役をお願いするのだが。レベルに応じて身体能力も成長し、装備重量が増えるようなので、八番区では重装備ができる人を今のところ見ていない。販売もしていないし、作れるとしても大量の鉱石が必要だろう。

「少し歩いて、ワタダマを相手に新しい陣形のテストをしてみましょう」

「分かったわ。仲間がいるとすごく安心するわね……」

しみじみと言う彼女。昨日はおっかなびっくりで歩いていたのだろうか。俺もテレジアがいなければそうだったろう。

そして三分も歩かないうちに、テレジアが装備を構える。ローグは技能の関係か、索敵範囲が広いようで、俺と五十嵐さんより気づくのが早かった。

◆遭遇した魔物◆

ワタダマ:レベル1 警戒 ドロップ:???

(ん……あれ? ワタダマ自体は、ドロップ物に入らないのか。何か、別枠で持ってることがあるのか……?)

「――来るわよっ!」

こうしてみて気づいたが、前衛には俺の射線を空けてもらうように位置取りをしてもらわないと、スリングが撃てない。本来なら牽制射撃というか、先制攻撃で仕留めてしまうくらいが一番楽だろう。

しかし試しておかなければならないことがある。まずひとつ目――俺の技能は、指定した相手に対してのみ発動するのか、それとも俺より前にいる仲間全員なのか。

「五十嵐さん、『支援』します!」

「っ……!」

ワタダマが五十嵐さんに飛びかかった瞬間、俺は叫んだ。まず、五十嵐さんを指定して『支援防御』を発動させる。

◆現在の状況◆

・アリヒトの『支援防御1』が発動 →対象:キョウカ

ワタダマの猛烈な体当たりが、五十嵐さんを覆うバリアにあっさり阻まれる。盾を構えていた五十嵐さんだが、敵が吹き飛んだところを見て好機と判断し、槍を構えて突き進んだ。

「――せやぁっ!」

◆現在の状況◆

・キョウカの攻撃が『ワタダマ』に命中 支援ダメージ10

・『ワタダマ』を一体討伐

(その都度声を発さなくても、支援は通る。なるほど、後ろにいるだけでも大丈夫だな)

ランスの攻撃も通ったようだが、支援ダメージが乗って、ワタダマは不可視の力に殴られて吹っ飛ぶ。いつ見ても奇妙な光景だが、五十嵐さんの手応えはどうだろうか。

「五十嵐さん、すごい突きでしたね。さすが元薙刀部……えっ、ど、どうしました?」

ゆっくり振り返った五十嵐さんは、何かすごく嬉しそうな――言うなれば恍惚とした顔をしていた。

「……今の、後部くんが支援っていうのをしてくれたから、敵の攻撃を跳ね返して、私の攻撃を助けてくれたのよね?」

「は、はい。俺の職は、前衛の支援ができるんです。魔法使いとか僧侶とも違うんですが」

五十嵐さんは槍を地面に刺し、盾を抱えると、空いている手を頬に当ててふぅ、と息をついた。

「……もしかして、気持ちよかったですか?」

「うん……すっごく良かった……」

(物凄く誤解を招く言い方だが……もしかして支援されると、気持ちいいんだろうか。いや、無敵モード的な爽快感とかそういう意味で)

戦乙女(ヴァルキリー) を恍惚とさせる俺の支援系技能。それはテレジアも、俺のことを良い人かもと思ってしまうわけだろう。

「だって昨日戦ったときは、全力で五回攻撃して、やっと倒れてくれたのよ。それが、今回はザシュ! ってしたあとにスパーン! って。物凄くすっきりしたわ」

「五十嵐さん、バッティングセンターとか、打ちっぱなしでストレス解消してるって言ってましたもんね」

「もう、そんなレベルじゃないわ。今の私なら、日曜の朝に放送してる番組とかに出演できそうよ」

こんなにはしゃいでいる姿を初めて見るし、俺の技能でここまで喜んでもらえるとは思ってなかったので、正直言ってうれしい。日曜朝の番組って変身アニメか戦隊ものか、それとも改造人間系だろうか。

「ねえ後部くん、もう一回やりましょうよ。ワタダマも、銅貨五枚にはなるし」

「はい、俺もそのつもりです。じゃあ次の敵を探しますか。テレジアの索敵範囲が広いので、五十嵐さんはちょっと下がってください。それと、俺も援護射撃をするので、次の時は最初だけでいいので、俺が撃つためのスペースを空けてもらっていいですか」

「ええ、分かったわ。背中に当たったら痛いどころじゃ済まなさそうだしね」

俺も誤射は絶対に避けたい。『後衛』として、後方からの攻撃を仲間に当てない技能などが取得できないだろうか――早く3レベルに上げてみたい。

そういえばまだスキルポイントが余ってるし、レベル2で取れる技能を確認した方がいいか。必要な技能だけ取って、ポイントを残しておきたいので、今のところ3つの支援技能で十分ではあるが。

考えつつ、ワタダマをナップザックに入れようと拾い上げようとして気がついた。頭に石のようなものがくっついている。

「これが、ドロップ品ってやつみたいですね」

「宝物を持ってたの? キラキラ光ってて、綺麗な石ね」

これが鉱石ということでいいんだろうか。緑色の丸い石で、金属質にも見える。

個体によっては、頭に鉱石が生成される――ということは、骨の一部とか、ワタダマの分泌物的なものなのだろうか。魔物の神秘を見た気分だ。

◆◇◆

その後もう一度ワタダマと遭遇し、ドロップの欄を見て、緑色の石が何かわかった。

『 風瑪瑙(かぜめのう) 』というらしい。ワタダマは疾風のごとく動くので、風属性の魔物ということなのだろうか。

鉱石を掘らなくても一部は手に入る。この平原でどんなふうに鉱石が取れるのか想像もしてなかったが、ワタダマを倒し続ければまとまった量の鉱石が採れそうだ。弱い魔物なので、風瑪瑙でできる武具にはそれほど価値はないかもしれないが。

「……ん?」

次に出てきたのは、ワタダマと、空中に浮かぶこぶし大の何かだった。

「あ、後部くんっ……あ、あれって、大きいハチなんじゃ……きゃぁぁっ!」

「――五十嵐さん、『支援』します! 防御したあと、横に避けてください!」

空に浮かぶ魔物が五十嵐さんに、ワタダマがテレジアに襲いかかる。俺は成功するようにと祈りつつ、動向を見守った。

◆現在の状況◆

・アリヒトの『支援防御1』が発動 →対象:キョウカ、テレジア

(よし……前衛の全員に支援がかかる!)

バシン、とハチらしきものとワタダマの体当たりが『支援防御』に弾かれる。五十嵐さんは指示通りに盾を構えたまま横に飛び退き、俺はその瞬間に『ブレイズショット』を放った。

(当たれっ……!)

◆現在の状況◆

・アリヒトの『ブレイズショット』が発動 →『ドクヤリバチ』に命中

・『ドクヤリバチ』が燃焼

「――ジィィッ!」

打撃がどれくらい入ったのか分からないが、『支援防御』で弾かれたあとのハチは動きが鈍くなり、俺の狙いでも当てることができた。

「やぁぁっ……!」

「――ッ!」

燃えているハチに向けて、五十嵐さんが槍を突き出す。ワタダマにはテレジアが無言で肉薄し、ショートソードを閃かせた。

◆現在の状況◆

・キョウカの攻撃が『ドクヤリバチ』に命中 支援ダメージ10

・テレジアの攻撃が『ワタダマ』に命中 支援ダメージ10

・『ワタダマ』『ドクヤリバチ』を一体討伐

「はぁ……びっくりした。ハチって、刺されるとアナフィラキシーで死んじゃうことがあるっていうし……」

同じ種類のハチに二度刺されると危ないんだったか。しかし毒なんて、一度でも侵されていいものではない。昨日ルイーザさんが毒になってないか心配してくれたのは、この魔物がいるからだったのだろう。

「後部くんのパチンコが当たったから、羽が溶けてる。これで動きが遅くなったから、私の槍が当たったのね。後部くん、計算してやったの?」

「いえ、そうだったらカッコイイですが、普通に偶然です」

「あ、そうなんだ。でもやっぱり、『ブレイズ』ができる武器を作って良かったわね」

確かに素早いハチの機動性を殺せず、攻撃を当てられないまま毒を貰ってしまったらと思うと目も当てられない。

この平原で出現するレッドフェイスから作った武器だから、この辺りで有用ということなのだろうか。何にせよ、今のところ探索の滑り出しは順調だ。

「そろそろ、二階層に行ってみますか。道中の魔物に気をつけつつ」

「ええ、まだ全然疲れてないし、レベルを上げたいからどんどん来てもらわなきゃ。ハチだけは気をつけないとね」

それから二階層の入り口近くに到着するまでに、俺達はこの迷宮の一階層の広さを実感し、ワタダマを十五体、ドクヤリバチを六体倒した。

全員の鞄を最大限に使っても、ワタダマが全部入りきらなかった。ワタダマは軽いが容積は大きい――なるべく運びやすく、換金効率のいい魔物だけを持ち帰るようにすべきだろう。もしくは、素材剥ぎ取りの技能を持つ仲間を加えたいところだ。