軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百七十話 メダリオン

一通り料理が出てきたあと、最後は食後のデザートを残すのみとなった。三つのデザートの中から選ぶのだが、そのメニューの中にある『堅牢の白桃ミルフィーユ』というものが目に留まる。

「マリアさん、これは能力値が上がる果実を使ってるんですか?」

「はい、今回は特別なお客様にお出しするメニューですので」

「そういうことなら、ミルフィーユ一択じゃないですか? 他のデザートは『安眠』とか、えっと……『熱情』? って書いてますし」

「ね、熱情はちょっと……元気は出そうだけど、夜はただでさえ目が冴えちゃうのに……」

「っ……キョウカさん、それは駄目です、アリヒトさんの前では……」

「五十嵐さん、よく寝られてないんですか? それならこの『安眠のミルクババロア』がいいかもしれませんよ」

「い、いいのよ、ここは少しでも強くなれるようにした方が……後部くん、余計な気は回さなくていいの」

なぜか怒られてしまった――まあ、確かにデザートは女性にとって大切なものなので、俺が勝手に決めてしまってはいけない。

「ルイーザさんも防御力を上げた方がいいですよね、男性の目が気になると思うので」

「なっ……ミ、ミサキ。そういうことを言うのはあまり感心しないというかだな……」

「い、いえ……もう慣れていますから。あまり気にしすぎても逆に良くないですから、着たい服を着るようにしているんです」

「……私の鎧も、防御力と比例した見た目になればいいんだけど」

五十嵐さんとルイーザさんは同時にため息をつく。そんな二人を見て、くすっと笑う人がいる――意外なことに、料理人のマリアさんだった。

「お二方には『熱情のシュトゥルーデル』をお勧めいたします。お酒を使っているデザートですので」

「そ、そうなのね……それならぐっすり寝られるのかしら……」

「そうですね、ではそちらでお願いできますか」

酒を使っているというのはルイーザさん好みだったようで、即決で決める――五十嵐さんもそうしたいようだったが、ルイーザさんとシェアするという話になり、『堅牢の白桃ミルフィーユ』を頼むことになった。

俺も酒は嫌いではないのだが、食前酒以上に嗜もうとは思わない。『シュトゥルーデル』というお菓子がどういうものか知らないが、そんなに酒をふんだんに使っていたりはしないだろうから、心配はないだろう。

「マドカちゃん、私たちと一緒に大人の階段上っちゃいます?」

「あっ……い、いえっ、まだお酒の入ったデザートは早いので、ミルフィーユにします」

「……『熱情』が何か気になるけど、私もミルフィーユにする。防御を堅くしたいから」

「バウッ」

戦闘に参加するメンバーは基本的に『堅牢の白桃ミルフィーユ』を頼むようだ――原理は不思議だが、食べるだけで多少なりと強くなれるというのは有効だ。

「シオンは虫歯にならないように、歯磨きをしてやらないとな」

「護衛犬用の『マスティックの枝』というものがございます。こちらをガムのように噛んでいただければ」

本当に気遣いが行き届いている――マリアさんはデザートのオーダーを確認したあと、一度部屋を辞する。

セレスさんとシュタイナーさんも食事の席に加わっているのだが、職人だからと遠慮していて言葉少なだった――だが、彼女たちも食前酒でほろ酔いになり、気分が良くなったようだ。

「アリヒト、果実をあの娘に料理してもらえば良いのではないか? 調薬師を探すより早く果実の効果を高められるかもしれぬぞ」

「お願いできるかどうか、後で聞いてみようと思います。実際に頼むのは、また日を改めてになると思いますが」

『我輩は防御力をこれ以上高めてどうするんだろうという気がするから、たまには冒険してみようかな』

「酒はあまり得意ではないのじゃがな、こういった場では背伸びをしたがる。不肖の弟子じゃな」

『ご主人様も強くはないっていうか、飲んで大丈夫なの? って思うけどね』

「ぐっ……お、お主。アリヒトに要らぬことを言っておらぬじゃろうな……」

こういったやりとりも仲の良さの表れだと思うことにする。しかし『要らぬこと』とは一体なんだろう――前に風呂場で、湯煙の向こうのセレスさんが大きく見えたが、そのことと関係あるのだろうか。

「アリヒト、女の年齢と素性は深く詮索すべきではないぞ。分かったかや?」

「は、はい……」

そう釘を刺されてしまうと、深く追及もできない。五十嵐さんとルイーザさんからも圧力を感じるので、ここは大人しくしておく。といっても五十嵐さんは年下だし、いかにも淑女といった容姿のルイーザさんもそうだろうとは思うのだが。

◆◇◆

アデリーヌさんは部隊の仲間と食事をしていたので、ギルドから出るところで合流し、宿舎まで案内してもらった。その途中で、スタンピード鎮圧後にギルドセイバー部隊から得た情報を教えてもらう。

「あの『名前つき』は、同族の魂を捧げられて強化される、女王のような存在でした。もし、より多くの魂を吸収していたら、手がつけられなくなっていたかもしれません。その点では早期から五番区の広域に戦線が展開されたこと、『ザ・カラミティ』の討伐までに『デスストーカー』が倒された数が多くなかったことが功を奏したと言えます。って、分析班の方が言っていました」

「なるほど……あの魔物の性質上、前回もスタンピードが起きてると思うんですが。その時はどんな戦いになったんでしょうか?」

それを聞かれると思っていたのか、アデリーヌさんは革張りのノートのようなものを取り出す。五番区ギルドセイバーの記録を借りてきたらしい。

「ええとですね……前回のスタンピードは一年前に発生してますが、当時の五番区指揮官は『ザ・カラミティ』との戦闘で負傷して、上位の区から救援が来るまで三日の間鎮圧できませんでした。そのときに、五番区指揮官は交代になっていますから……今回一日で鎮圧できても、自分たちの部隊が主導できなかったことで、責任を感じていらっしゃるのではないかと」

「三日間も……『名前つき』を罠にかけずに倒そうとすると、他のサソリみたいに逃げられちゃうってことかしら」

「そんな魔物を、この区に来て数時間で倒しちゃうなんて……それはびっくりしますよね、五番区のギルドセイバーの人たちも」

話を聞くほど、それが必要なことだったとはいえ、周囲に大きな影響を与えたということを実感する。

五番区のギルドセイバー部隊が俺たちのことをどう考えているか。それ次第では、『炎天の紅楼』の探索許可が降りるかどうかに関わってくる――ならば。

今のうちに挨拶に行っておくべきだ。そう考えたとき、夕闇に染まった通りの向こうから、二人のギルドセイバーが歩いてくる。ナユタさんと、少し陰があるように見える男性だ。

「っ……ディラン三等竜佐殿……なぜ、こちらに……?」

「こ、これはちょっと予想外っていうか……何かの通達でしょうか……?」

アデリーヌさんとセラフィナさんが背筋を正す。ディランという軍服の男性は俺の前までやってくる――背格好は俺とそう変わらず、年齢も同じくらいだろうか。

「そうか……君がアトベか。話には聞いていたけど、数十年に一度のルーキーというのは、本気も本気だったっていうことだね。いやあ、驚いた」

「は、初めまして……俺たちのことを知っていらっしゃるんですか?」

「そんなにかしこまることはないよ、俺も肩書きはギルドセイバーだけど元は探索者だからね。いや、本当に面目なかった。クーゼルカとジョシュさんが来たって時点で、何かやってくれそうな予感はしていたんだけどさ」

フランクというか、軍人らしさをあまり感じない――というと失礼にあたるだろうか。なんというか、良くも悪くも肩の力が抜けた人物だ。

「その、ジョシュさんというのは……」

「ああ、ホスロウ竜曹と言えば伝わるかな。彼は家名をライセンスの登録名にしているからね」

このディランという人は、クーゼルカさんとホスロウさんとは旧知の仲ということだろうか。そして、二人の実力についても知っている――上官だから部下について把握しているというより、一緒に戦ったことがあるかのようだ。

「ディラン司令官、彼らが『ザ・カラミティ』を回廊に誘導し、討伐において大きな貢献をしたところを、私も見ていました……いえ。彼らが主導で討伐したと見るべきです」

ナユタさんが進言すると、ディランさん――ディラン司令官は頷きを返す。そして、懐に入れていた何かを取り出し、俺に差し出してきた。

「一つ、君たちに謝りたいことがある……君たちが大きく功績を上げたことについて、独断専行だったと主張する者がいてね。『名前つき』を討伐することが肝要なのだから、経緯がどうであれ、まず賛辞を送り、戦った君たちを労うべきなのに……本当に、すまなかった」

「い、いえ。俺たちは、そういう話を直接されたわけではないですから」

「それはそうだ、そんなことを言う輩には反省を促さなくてはいけない。君たちは『ザ・カラミティ』の討伐者として、最功労賞を受けた……そして、『奨励探索者』の上の称号である『特別選抜探索者』に認定することに決まった。受け取ってもらえるかな」

◆マギスタイトのメダリオン◆

・ギルドの認定する『特別選抜探索者』の称号を証明する。

・魔力上限値が上昇する。

・秘められた力がある。

「これは……」

「称号メダルというものだよ。持っているだけで装備品としても効果がある。お守りのようなものだと思って、持っていてくれるかな」

今まで見たことのない金属で作られた、ギルドセイバーの紋章が彫られたメダル。持ち歩くには支障がない大きさなので、スーツの内ポケットに入れておくことにする。