軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百四十八話 カエデの視点/誘惑

『原色の台地』――七番区の迷宮の中では、うちら四人でも攻略できそうって、ギルドの人に紹介してもらった場所。

どんな場所なのか、名前だけじゃ想像できへんかったけど、転生する前に見た風景の中では、オーストラリアの赤茶色の荒野とか、アンデスの高地みたいな雰囲気で、この場合の『原色』っていうのは自然の色ってことを意味してるんやと思った。

「――アンナちゃん、行くわよっ!」

「はいっ……!」

◆現在の状況◆

・『リョーコ』が『バブルスプレッド』を発動 →『マッドクロウラー』に三段命中 弱点攻撃 『泥の鎧』解除 雷耐性低下

・『アンナ』が『サンダーショット』を発動 →『マッドクロウラー』に命中 感電

リョーコ姉が水たまりの水を利用して、大きな水の珠を何個も作り出して、泥で身体を覆った芋虫にぶつける。この芋虫が可愛らしい見た目のわりには、泥で身体を覆ってしまうと攻撃が効かへんから、水の攻撃ができへんパーティは苦手にしてるって聞いた。

水をかけたあとは電気が通りやすくなって、芋虫が一瞬中の骨みたいなのが透けて見えるくらいに感電する。普通の芋虫は骨なんてあらへんと思うけど、頭の骨がすごくしっかりしてて、尻尾の毒針にも骨が通ってるのが見えた。

「――ピギィィィッ!」

「やぁぁぁっ!!」

◆現在の状況◆

・『カエデ』が『掛け声』を発動 →『マッドクロウラー』を威圧 行動をキャンセル

・『カエデ』が『気剣体』を発動

・『カエデ』が『燕飛』を発動 →『マッドクロウラー』に命中 クリティカル

・『イブキ』が『三日月蹴り』を発動 →『マッドクロウラー』に命中

・『マッドクロウラー』を1体討伐

うちが打ち込んで駆け抜けていったあと、残心の間にイブキが最後の一撃を繰り出す。

「ピギィィッ……」

相手に反撃させずに倒すのが基本やって、うちがまだ迷宮国に来たばかりのとき、パーティに入れてくれた人が言ってた。

今、その人たちは八番区で立ち止まってしまってる。一度魔物に負けて逃げてしまうと、心が折れてしまう人もおるのは珍しくないって言われて、パーティの解散をうちも受け入れるしかなかった。

まだ諦めたくなかったうちは、一人でワタダマと戦って、仲間が見つかるのを待ってた。

それで出会えたのがイブキで――あまり間を置かずに、リョーコ姉とアンナにも会えた。

「ふぅ……一体倒すだけなら大丈夫だけど、この芋虫さんは、そんなに貢献度が多くないのよね」

「素材も安価に出回っていますし、やはり効率の良い魔物は優先的に狩られてしまっていますね」

「まあ、地道にやっていくしかないよ。『名前つき』は、先生たちと一緒にいたから、二体も討伐できたことになってるし……あと一体倒せたら、そっちの条件は揃うんだから」

アリヒト兄さんたちと会ってから、うちらの状況はすごく大きく変わった。

七番区に来てから『名前つき』が全然見つからへんかったし、効率がいいっていう『落陽の浜辺』も独占されてて、他にもいっぱい競争相手がいて、目の前で魔物を横取りされることもあったりした。

七番区から上に上がれるとしたら一年後かもしれへんとか、そんなことを話してたこともあった。何より大事なのは、生き残ることなんやってうちも思ってた――危ない『名前つき』を見つけたら、ちょっとでもあかんと思ったら逃げればええって、それをうちらの方針にしてた。

「……カエデ?」

「カエデちゃん、今日はちょっと上の空だけど……探索はこれくらいにして、街に戻る?」

「あ、ちゃ、ちゃうねん……ごめん、ちょっと考え事してただけや。戦いになったら、気は抜かへんから」

「……アリヒトたちのことを考えていたのですか?」

アンナはこういうとき、遠慮せずに言ってくれる。うちも言ってもらえた方が楽になれるけど、アンナに頼ってばかりも良くないと思う。この子は大人びてるけど、うちらの中で一番年下なんやから。

「……うちら、兄さんたちと会うまでみたいにやってて、追いつけるんかなって。みんな自分なりに頑張って、上の区に行く人はおるけど……」

「それは……仕方ないよ。先生たちに、あたしたちにペースを合わせてもらうなんてできないし……あたしたちなりに頑張って、追いつけばいいよ」

「……『名前つき』に会えるかは、運次第になる。条件が見つかっている『名前つき』は、探索者みんなの狩りの対象になっているもの」

うちらに順番が回ってくるかは、分からない。『名前つき』は一度倒されても、またもう一度出てくる。その間隔は一週間のこともあるし、一ヶ月のこともある。

運が悪かったら、うちらはずっと三体目の『名前つき』を狩れないままで、死ぬ気でやらんかったら一ヶ月に貢献度二万なんて、とてもやないけど届かへん。

貢献度二万の方は、頑張るしかない。こうやって魔物を狩れてるんなら、一日に700の貢献度を稼げたらええんやから。

本当はそれだって、飽きるくらい魔物を倒さないかんって分かってる。それくらい強くならないと、六番区に上がる資格はあらへん。

ギルドはみんなを六番区に上げたくないと思ってるんやって、どうしても考えてしまう。向き合ったら、目眩がしてしまいそうやった。

でも、そんなこと兄さんと一緒におるうちは、全然考えへんかった。

いつもワクワクしてて、兄さんたちと一緒なら、化け物みたいな魔物と戦ってても頑張れた。

「ねえ……何か、行き詰まってるの?」

「っ……あ、こ、こんにちは……いえ、さっきまでここで魔物と戦ってたんです」

普段街でもあまり見ることのないサングラス。それに白いマントを羽織った綺麗な女の子が、いつの間にかうちらのことを見てた。

(この人……前に、アリヒト兄さんが気をつけろって言ってた……)

銀色よりも白い髪をしてて、持ってる武器から防具まで白いものが多くて、白い色にこだわりがあるんかなと思った。見るからに、七番区では手に入らへんような凄い装備――そんな人が、こんなところに一人で何してるんやろうって、不思議な感じやった。

「ちょうど止めを刺すところを見てたけど、水と雷で攻めて、残りの二人がアタッカー役できっちり詰めてたね。それなら、もう六番区に上がっても通用するんじゃない?」

――信じられへんくらい簡単に、当たり前のことみたいに、その人は言った。

うちは全然駄目で、もっともっと頑張らなあかんって思ってたのに。

でも――本当は、思ってた。

兄さんがいてくれたら、うちらはちゃんと貢献できてた。うちらにも、兄さんたちと一緒に、六番区に上がる資格があるんやないかって。

あの子らに嫉妬してるわけやない。ただ、上の区でもう一度会おうって約束しても、その約束を守れへんかもしれへんって、不安になってた。

「六番区に上がるのは、条件が難しいですし……私たちは、まだ……」

「『名前つき』さえ狩れれば、条件は満たしやすくなるよね。レベル5の『マッドクロウラー』を普通に倒せるなら、貢献度条件は頑張れば満たせる。人気がない魔物は貢献度の調整がかかってなくて、一体につき、どれだけ狩っても貢献度は50だから」

一週間先でも、一ヶ月先でも――もっと先になってしまっても。

兄さんたちに追いつくのが遅れてしまうほど、うちらの存在は過去になっていく。

兄さんたちは他のパーティとも仲良くなれて、どんどん大きくなっていって、うちらは昔一緒に戦ったことがあるパーティっていうだけになって――。

忘れられるなんてこと、絶対ないって分かってる。だけど、追いつけへんかったら、忘れられてるのと変わらへん。

「……あ、あの。名前つきが出る条件とか、そういうこと……ご存知だったりは……」

「イブキ、駄目です、そんなことを聞くのは……大事な情報ですから、失礼にあたります」

イブキがうちの思ってたようなことを、白い女の人に聞く。アンナはそれを駄目やって言う――うちには両方の気持ちがわかる。

兄さんが気をつけろって言ったのに、みんなこの人に期待してしまってる。うちらの力になってくれるんやないかって。

リョーコ姉が入ってくれてから、いつもリョーコ姉がうちらの方針を決めてくれた。

そのリョーコ姉が、何も言えずにいる。すがるような目で、白い女の人を見てる。

今だけは、うちは、リョーコ姉の代わりに言うべきやと思った。大人だから言えへんことだって、あると思ったから。

「……もし、うちらに資格があると思ってくれてはるんやったら……どうしたら『名前つき』に会えるか知ってたら、お願いします。教えてもらえませんか」

「……カエデちゃん」

リョーコ姉の声には、咎めるような力は感じへんかった。

白い女の人は、その言葉を待ってたっていうみたいに、すごく無邪気な顔で笑った。

「もう一度言うけど、私はみんなが六番区に行く資格があると思う。だから、アドバイスをしてあげる」