作品タイトル不明
第百四十七話 北天
「――咲き誇れ……『ブロッサムブレード』!」
◆現在の状況◆
・『エリーティア』が『ブロッサムブレード』を発動 →『?意志を持つ車輪』に十二段命中 連携技二段目
・『エリーティア』の追加攻撃が発動 →『?意志を持つ車輪』に六段命中
「次は私ですよっ……ええーいっ!」
「っ……!」
◆現在の状況◆
・『ミサキ』が『ブラストカード』を発動 →『?意志を持つ車輪』に命中 連携技三段目
・『テレジア』が『アズールスラッシュ』を発動 →『?意志を持つ車輪』に命中 ノックバック小 魔力燃焼 連携技四段目
『……運命の……車輪を、止める……その力……』
「私も……っ!」
テレジアの攻撃で風圧が発生し、敵が押される――その先には、待ち構えていたメリッサが、巨大な解体包丁を構えていた。
◆現在の状況◆
・『メリッサ』が『切り落とし』を発動 →『待ち伏せ』の効果が発動 『?意志を持つ車輪』に命中 クリティカル 連携技五段目
「っ……!」
金属の車輪を斬ることはできず、ガギン、と包丁の刃が弾き返される――だが、メリッサのいる位置は未だに『敵の死角』だ。そしてそれは、ムラクモにとっての必殺の間合いでもある。
『――我が秘神が、契約者を守護する能力と同じように。私もまた、マスターたちとともに成長していく。斬れぬものは、やがてなくなる』
ムラクモの形状が変化する――俺の魔力だけではない、アリアドネの力が、ムラクモの力を解き放つために流れ込んでいる。
『契約者の身体を通して、私と星機剣は接続されている。私と契約者の同期に準じて、第二段階を解放する――』
◆現在の状況◆
・『アリヒト』が『バックスタンド』を発動 →対象:『メリッサ』
・『ムラクモ』が『北天六星衝』を発動 →『?意志を持つ車輪』に六段命中 連携技六段目
・『支援攻撃2』の限界突破 『天地刃』が28回発生
『バックスタンド』を発動してメリッサの後ろに回る。次の瞬間、俺が握っていたムラクモを、実体化した彼女が受け取り――そして、初めて見る技を繰り出した。
「――マスターの力でこそできること。私の技を、私自身の『天地刃』が加速させる」
◆現在の状況◆
・『北天六星衝』と『天地刃』六段が共鳴
・連携技『風花蒼烈斬・六星天地』 →『?意志持つ車輪』の速度低下累積 ノックバック小 魔力燃焼
『北天の……冠……忘れられし、秘神……』
この連撃を受けてもなお、車輪は動いた――止まるわけにはいかないと、そう言うかのように。
「……終わりにする。止めてみせる……っ!」
◆現在の状況◆
・『セラフィナ』が『プロヴォーク』を発動
・『アリヒト』が『支援防御1』を発動 →対象:『セラフィナ』
・『セラフィナ』が『仁王立ち』を発動 →『セラフィナ』に対するノックバックが無効化
・『セラフィナ』が『防御態勢』を発動
・『セラフィナ』が『オーラシールド』を発動
・『鏡甲の大盾』の特殊効果が発動 →『セラフィナ』の魔法防御力が大きく上昇
・『?意志持つ車輪』の攻撃 →『セラフィナ』に命中
「くぅっ……う……うぁっ……!!」
車輪の突撃を、セラフィナさんは盾で受け止める――後ろに下がらない技能を使っても、それでも押されてしまいそうなほどの衝撃。
それを彼女は受け切る――『車輪を止める』ことこそが、勝利の証明であるかのように。
「セラフィナさんっ……!」
「……あぁぁぁぁぁっ!」
◆現在の状況◆
・『アリヒト』が『支援攻撃1』を発動
・『セラフィナ』が『ファナティック』を発動 →ステータス上昇
・『セラフィナ』が『シールドパリィ』を発動 →『?意志を持つ車輪』が一時行動停止
・『セラフィナ』が『シールドスラム』を発動 →『?意志を持つ車輪』に命中 支援ダメージ14
・『?意志を持つ車輪』を1体討伐
無限の魔力をもって回り続けた、止まるはずの無かった車輪が――止まる。
「はぁっ、はぁっ……」
セラフィナさんは肩で息をつく――全員が死力を尽くし、すぐに言葉が出てこない。
車輪を覆っていた、スパイクのような形状の光は消えている。近づいてみても、動き出す気配はない。
◆?意志を持つ車輪◆
・『自己防衛機構』が休眠している。
車輪を駆っていた霊体は消えているが、この車輪自体に宿っているのだろう。改めて見ると、車輪としてはかなり大きい――直径が俺の身長と同じくらいはある。
実体化したムラクモは、携えた刀を俺に差し出す――そして俺の方に歩いてきて、触れそうになったところで姿を消した。
『……少し眠る。マスター、ここは秘神……アリアドネのいる場所へと通じている』
「ここが……ムラクモ、それはどういう……」
俺の質問に答える前に、ムラクモもまた眠ってしまったようだ――新しく繰り出した技は、彼女自身も消耗するものだったのだろう。
『秘神の加護を受けた者は、秘神のパーツが眠る場所に誘われる。私は信仰者を得たことがなく、そのようなことが起こることを予測できていなかった』
ムラクモと入れ替わるようにして、アリアドネが語りかけてくる。淡々とした口調ではあるが、その声には力がないように聞こえる――彼女は、詫びてくれているのだろう。
それなら俺は、その必要はないと言う他はない。俺たちはアリアドネと契約することを選び、彼女に助けられながら今に至っているのだから。
『その近くに 神器(アーマメント) 操晶(コントローラー) の反応がある。それを発見したら、車輪に干渉して茨で封印されていた通路を解放することができる。破壊することもできるが、車輪を放置するよりは管理下に置くことを推奨する』
「分かった、探してみる。みんな、少しここで休んでてくれるか」
「ええ……アリヒト、どこに行くの?」
「ムラクモを仲間にするときに使った『破軍晶』みたいなものが、この辺りにあるみたいなんだ。それを使えば、道を塞いでる茨を取り除ける」
「それなら、みんなで手分けして探してみましょう。あっ……」
こちらに歩いてきた五十嵐さんが不意にバランスを崩す――あれだけ魔力を酷使して、意識が少し朦朧としてしまってるようだ。
「五十嵐さんは休んでいてください、敵を引きつけるために頑張ってくれましたから」
「……魔力が急に減ると、意識が急に途絶えたりするのね……でも、良かった。何とか役目を果たせたから」
「少し無理しすぎよ……確実に回避できる技能じゃないんだから。当たりを引けたし、キョウカは元から運動神経がいいみたいだからかわしきれていたけど」
五十嵐さんは俺に捕まって身体を支えると、自分一人で辛うじて立つ。俺は彼女の後ろに回って、もう一度『アシストチャージ』を発動した――俺自身の魔力も危ないので、マナポーションを一口飲んだ後に。
「っ……あ、ありがとう。もう魔力が危ないかなって思ったときに、ちょうど回復してくれて……それで、安心して戦えてる」
「これも俺の役目なので、気にしないでください。敵の攻撃を引き付ける役目も、今後またお願いするかもしれません……可能なら、もう少し安全なやり方も模索したいですが」
「ありがとう。危ないのはみんなも一緒だから、あまり気にしないでいいのよ」
「お兄ちゃんが気がつくと後ろにいてくれてたので、何とか無事ですみましたけど……」
「アリヒトさんがいなかったら、瓦礫に挟まれてしまっていたと思います」
位置取り次第で『後ろ』とされる位置にはいられるので、隊列が乱されても支援技能が無力化するわけではない。しかし、今回のように上方向に敵が移動してくる場合というのは良い経験になった――立体的に状況を把握することが必要になる。
「五十嵐さんと、消耗してるメンバーは休んでいてくれ。テレジアは大丈夫か?」
「…………」
「ん……マナポーションでいいっていうことか? 分かった」
俺の持っているポーションを見ているので、テレジアに渡す。『アシストチャージ』を使うと俺の魔力も回復するのだが、今はそこまで考慮する必要はない。
「……んっ……」
テレジアが一口ポーションを飲む。不味いというのは顔に出さない――そう思ったのだが、彼女は一瞬だけ小さく舌を出した。
「……苦いか?」
「……っ」
テレジアは首を振る。味を否定することは、彼女にとってしてはいけないことだと思ったのか――それとも、亜人は皆がそうなのか。贔屓目かもしれないが、前者ではないかと思う。
「はー、お兄ちゃんってほんとに……私だったら結構思い切らないとできないですよ?」
「……テレジアさんは、そういうつもりじゃないと思う……ううん、す、少しはそうなのかな……?」
「魔力の消耗はありますが、皆さんほとんど体力が減っていないというのが、アトベ殿のパーティの特異性を示していますね……勿論、素晴らしいことです」
「……セラフィナの体力が一番減ってる。はい」
「ありがとう、しかし私もポーションは持っているので問題はありません。戦闘中に飲む余裕がほとんどないのが、こういった飲み薬の難点ではありますね」
セラフィナさんは言葉通りに自分で携行していたポーションを取り出す――しかし戦闘の衝撃で瓶が割れてしまっている。
「……どうぞ」
「……では、お言葉に甘えて」
少し顔を赤らめつつも、セラフィナさんはメリッサから改めてポーションを受け取って飲んだ――確かにこれで全員がほぼ無傷な状態というのは、予測していなかった強敵との戦いを終えた後としては、望外の結果だろう。
◆◇◆
一度は通り過ぎた、探索者の風化した骸――その中に、俺は埋もれている石を見つけた。
◆廉貞晶◆
・用途など全ての詳細が不明
・鑑定無効
同じ『破軍晶』という名前ではない――しかし見ただけで同質のものだと分かる。形状自体は類似していて、違いは僅かに色が異なるくらいだ。
全てはまだ推測でしかないが、俺たちの前にここにやってきたパーティの中に、『神器操晶』を持っていた人たちがいた。そして『車輪』は彼らに試練を与え――彼らは、命を落としてしまった。
秘神を作ったもの、そして『パーツ』――それらを巡る思惑は、時に探索者を翻弄し、命を奪ってしまう。あるいは試練と代償に、大きな力を与えることもある。
いずれにせよ、生き残っているからこそ、俺たちは秘神を――アリアドネに関わる秘密に、少しずつ近づくことができている。いずれ何らかの真実に行き当たるまでは、何としても生き残らなければならない。
鑑定を受け付けず、ライセンスに詳細が表示されない、ギルドですら把握しきれていない『神器操晶』。俺たちはすでに、通常の探索者とは埒外にいる。そのことをいたずらに広めず、慎重に立ち回るべきだろう。
車輪のある部屋に戻り、俺は皆に『廉貞晶』を見つけたことを伝えたあと、車輪の表面にある窪みにはめ込んだ――すると。
◆現在の状況◆
・『?意志を持つ車輪』の所有者を『アリヒト』に変更
・『?意志を持つ車輪』の第一銘が『アルフェッカ』と判明
「アルフェッカ……それが、この車輪の名前なのか」
「お姫様か、女王様みたいに見えたけど……ムラクモさんみたいに、実体化するともう一度出てくるのかしら」
「アトベ殿、茨が動いています……この先に進めるようですね」
「お兄ちゃん、この部屋を探してたら、瓦礫の中にですね……」
「『黒い箱』が落ちていました。これは、どういうことなんでしょうか……?」
『黒い箱』の罠を解除して『トラップキューブ』を取り外した――そして転移した先でまた『黒い箱』が手に入るというのは、確かに引っかかるところだ。
ここで『車輪』に敗れた人たちの落としたものがほとんど残されていないことからして、それらがこの『黒い箱』に入っていると考えられる。
『廉貞晶』が『黒い箱』に入らなかったのはなぜか――『車輪』がいる場所と同じ階層では、神器操晶が箱に入ることはないということだろうか。
「『アーマメント』は、秘神と契約した者の手で見つけられることを望んでる……それで試練を与えるっていうのは、矛盾してはいるが。おそらくそういうことなんだろう」
「私が欲しいなら私を倒すがいい、みたいな感じでしたよねー。強い人じゃないと認めちゃだめっていう決まりなんでしょうか?」
「そうね……それくらいの力を持っていると思う。『ムラクモ』がなければ、私たちも勝つことは難しかったと思うわ」
『アーマメント』を手に入れるために、他の『アーマメント』が必要になる。集めれば集めるほど、新たな『アーマメント』を手に入れることが楽になるというわけでもない。楽な道は選ばせてくれない、と改めて思う。
「とりあえず、ここから外に出ないとな……みんな、行こうか」
俺たちは茨の封鎖が解かれた通路に向かう。俺を所有者と認めた車輪は、どうやって運ぶかを考える間もなく、姿が少しずつ薄れて、やがて消えてしまった。
『アーマメントは、我が元に呼び寄せることができる。エーテル化して霊体として随伴することもできる……ムラクモも。一度、我が元に来てもらいたい。その空間からは、我が元に転移先を繋げることができる』
アリアドネの元に転移できる――久しぶりに、その姿を見られる。スズナの『霊媒』を使って話すことはできていたが、八番区まで足を運ぶのはかなり先になると思っていたので、転移できるというのはとても助かる。
俺はアリアドネが呼んでいる旨をみんなに伝える。彼女にまだ会っていないメンバーも引き合わせたい――いつも力を貸してくれている、俺たちの守り神に。