作品タイトル不明
第百十三話 装備新調/落陽の浜辺 一階層
貸し工房に入り、皆が着替えのために女性用試着室に入っていく。男女混成パーティのために、予めそういった配慮がされているのはありがたい。
和気あいあいとした女性陣の話し声が試着室から聞こえてくる中、素材で強化された『ハードオックスメイル』と『エルミネイト・マウント・ブーツ』を身につける。『闇耐性』『暗闇耐性1』がついたが、役に立つかは戦う相手次第だ。
『どうですか、アトベ様。装備の仕上がりは』
「はい、凄く良いと思います。今までよりしっくりくるというか……本当に、一晩で仕上げてくれてありがとうございます。シュタイナーさんも今日はゆっくり休んでください」
『私は見ての通り無骨な鎧なので、一晩寝ないくらいなら大丈夫だよ』
「何を言っておる、さっきまで仮眠しておったくせに、一人だけ起き出すとは。まったく、油断ならぬ助手じゃな」
寝袋を使って寝ていたセレスさんが、口を尖らせつつ起きてくる。そしてちょうどメリッサが工房にやってきた。深夜まで解体にかかりきりだったはずだが、疲れは感じさせない。
「……おはよう。父さんと食事をしてきて、ギルドの転移扉まで送ってきた。アリヒト、私の装備もできてる?」
「ああ、みんな着替えてるから行ってくるといい」
そう行って送り出したところで、一番先に着替え終わったテレジアが出てきた。装備の見た目はそう変わっていないのだが、このスーツは今までとは一味違うはずだ。
◆★ハイドアンドシーク+2◆
・『★空から来る死』の素材を使用したレザースーツ。
・『ライトシェード・スキニースーツ+2』を素材として強化されている。
・『迷彩石』が装着されている。
・敵の標的から外れたとき、戦闘中でも一定時間で再度未発見状態になる。
・行動に伴って発生する音が低減される。
・『運動能力』が向上する。
・『光属性耐性1』が身につく。
・『防御力低下耐性1』が身につく。
今までのレザースーツとは比べものにならない性能――そして、素材から作ったものなのに『★』がついている。『牧羊神の角笛』もそうだったが、『名前つき』の素材から作られた装備には、星がつくことがあるようだ。
つまり迷宮で手に入る星つきの装備は、過去に誰かが『名前つき』の素材で作ったものという可能性がある。
『これはメリッサさん、ライカートンさんと協力して作ったんだよ。装備品同士を組み合わせる技能は、私しか持ってないからね。ご主人様と一緒に裏地をちくちく縫ったんだよ』
「その作業も含めて一晩で……申し分のない仕事をしていただいて、重ねてありがとうございます」
改めて頭を下げると、シュタイナーさんは甲冑の頭に手を当てて照れ、セレスさんは寝間着姿でえっへんと胸を反らす。
「言った期限は必ず守る、それが職人というものよ」
『ご主人様は魔力をかなり消耗してるから、まだゆっくり休まないとだめですよ』
「お主こそ、そろそろ鎧を動かすのもやっとであろう」
「二人とも、お疲れのところを申し訳ありませんが、一点だけ……専属契約の件ですが、改めてお願いしてもいいでしょうか」
セレスさんとシュタイナーさんは顔を見合わせる。そして同時に俺の方を向き、頷く――ぴったりと息が合っていて思わず笑ってしまった。
「セレス・ミストラル、ならびに助手、キアラ・シュタインベック。本日をもって、お主らの専属工房として……」
『……えっ、えっ? あ、あの、ご主人さま?』
「キアラ……それが、シュタイナーさんの本名ですか?」
「契約するというのに、いつまでも正確な名前を名乗らぬのもな。キアラはわしとはまた違う種族じゃが、『こちら側』の民じゃ」
シュタイナーさんは本名を明かされたのがショックなようで、大きな鎧姿なのに震えているように見える。
『うぅ……あっ、違うんだよ、アトベ様に名前を絶対知られたくないとかそういうことじゃないよ。ただ、その……』
「契約する上で誠意として名を明かしたが、今後もシュタイナーと呼んでやってくれぬか。教えておいてすまぬな」
「自分がいいと思う呼び方じゃないと落ち着きませんよね。これからもよろしくお願いします、シュタイナーさん」
『う、うん……ありがとう、アトベ様』
無骨な甲冑姿のシュタイナーさんと握手をする。続けて、セレスさんとも握手をした――契約は口頭でも両者の意思確認が取れれば成立し、ライセンスに記録される。
「うむ、良い仕事をした。余は満足じゃ……ふぁぁ。安心したらまた眠くなってきたのう」
『満足しすぎて王様みたいになっちゃってますよ……ああ、まだ心臓が飛び出そう。それじゃアトベ様、私たちはもう一度休んできます。八番区に戻るまで、マドカさんたちとご一緒させてもらうね』
「はい、マドカとメリッサのことを頼みます」
セレスさんたちは貸し工房の仮眠スペースに入っていく。メリッサが来たからか、女性陣の着替えはもう少しかかりそうだ。
「…………」
「新しい装備でも、テレジアならしっかり使いこなせそうだな」
信頼を込めて言うが、テレジアはわずかに首を傾げる。
それが何を意味するのだろうと考えた一瞬の間に――テレジアの身体が、突然空気に『溶ける』ように見えた。
「っ……テ、テレジア、何を……うわっ!」
それはまばたきをすれば見逃すほどの短い間のことだが――テレジアの着ているスーツが、文字通り『透けた』。
一瞬で不透明度がゼロになるようなイメージ。全身にぴったりと張り付くような『ライトシェード・スキニー・スーツ』のシルエットが見えたあと、一秒もかけずに完全に透明になる。
「上手くいった……んだよな、これは。しかし……」
敵の目を眩ませる『陽炎石』とは違い、風景と同化していてどこにいるのか目を凝らしてもまったくわからない。これが『迷彩石』の能力――隠密行動を強みとする『ローグ』のポテンシャルを、さらに引き出してくれそうだ。
「…………」
「ん……テレジア? どこに……」
目の前の気配がなんとなく移動したような気がして呼びかける。しかし、どこにいるのかまったくわからない。
このまま戻らなかったりしたらと怖くなるほどの、完全な透明化。光学迷彩にはロマンがあるが、こうして見ると恐ろしくもある――と思ったところで。
ちょこん、とスーツの右肘部分をつままれる。振り返ると、そこでテレジアは透明化を解除した――魔力の消耗があるようなので、自分で判断したのだろう。
「いや、驚いた……『カメレオンのブーツ』とそのスーツがあれば、完全に見えなくなるんだな。使ったままで遠くに行ったら、なかなか見つけられなさそうだ」
「…………」
テレジアは首を振る。そして、俺のスーツの袖を両手できゅっと掴んできた。
「そうか……また心配性だったな。俺の悪い癖みたいだ」
「…………」
今度は頷きも、首を振ったりもしない。心配性は否めない、という彼女の意思表示に思えて、思わず笑ってしまう。
「お兄ちゃん、お待たせしましたー! 新しい装備、とってもいい感じですよー!」
テンションの上がったミサキが足取りを弾ませてやってくる――皆も試着室から次々と出てくる。サイズなどに問題はまったくなく、みんな少し照れながらも、新しい装備を着けたところを見せてくれた。
◆◇◆
『落陽の浜辺』――七番区の北西端に位置する迷宮。その迷宮前広場に差し掛かったところで、俺達は『同盟』らしき大人数の探索者たちが、先に潜入するところを見かけた。
他には人の姿は少なく、やはり『同盟』の手前、他の探索者は遠慮しているか様子を見ているのだろうか。そう考えたところで、セラフィナさんともう一人の女性がいることに気づいた。雰囲気を見た限りでは、セラフィナさんと同じギルドセイバーのようだ。
「セラフィナさん、おはようございます」
「おはようございます、アトベ殿」
「あ、この方……以前にもセラフィナ先輩と話してましたよね。初めまして、私はセラフィナ先輩の部隊の隊員で、アデリーヌと言います」
「こちらこそ初めまして、アリヒト=アトベです。よろしくお願いします」
アデリーヌさんは挨拶をすると右手を差し出してきたので、握手を交わす。セラフィナさんを先輩と呼ぶだけあって、彼女より少し小柄で、年下に見える――褐色の肌をしているが、迷宮国では様々な国から来た人がいるので、それ自体は目立つわけではない。
赤っぽいブラウンの髪を肩のあたりまで伸ばし、髪を一部だけ細い三つ編みにしている。転生者だとしたら元は射撃系のスポーツでもやっていたのか、大きなボウガンを背中に担いでいた。
「アトベ殿、これからこの迷宮に入られるのですか?」
「はい、そのつもりですが」
「そう……ですか。いえ、貴方がたの行動に干渉をするつもりはありません。私たちも任務で、この迷宮の状況を確認するために来たのです」
「先輩、皆さんにも協力をお願いしませんか? 『自由を目指す同盟』のような規模の大きい集団だと、私たちだけじゃ調査するにも限界がありますし」
アデリーヌさんの提案にセラフィナさんは思案する様子を見せる。彼女たちが何をするのかは分からないが、『同盟』の行動が問題になっているのだろうか。
「現時点でアトベ殿たちの力に頼るのは、怠慢というものだ。原則として、我々だけで任務を遂行しなくてはならん」
「俺たちが近くにいるときに何か協力できることがあれば、遠慮なく言ってください。セラフィナさんには何度も助けてもらってますから」
「そうです、持ちつ持たれつです。先輩ったらいつもお硬いんですから」
「……まったく、アトベ殿が味方をしてくれたからといって調子に乗るな」
セラフィナさんに釘を刺されて、アデリーヌさんは恐々として背筋を正す。しかし、俺の提案は聞いてもらえたようだ。
「では……極力お邪魔はしないよう努めますので。どうしても必要になった際は、アトベ殿たちにご協力をお願いしても良いでしょうか」
「勿論です。じゃあ、俺達はお先に潜らせてもらいます……お二人も気をつけて」
「久しぶりのバディでの迷宮内任務ですから緊張してます。セラフィナ先輩が前衛にいてくれたら、私はだいたい無傷なんですけど」
他の隊員が不在で、たった二人で迷宮に潜れる――やはりセラフィナさんもアデリーヌさんも、七番区の探索者たちとは一線を画す力を持っている。
二人は後から迷宮に入るとのことで、俺たち七人が先に、岩窟のような入り口を通り、長い下り坂を降りていく――途中で転移する感覚があり、周囲の空気が一変した。
紛れもない、潮の香りがする。迷宮の中に、海がある――だが、迷宮に入ってすぐに海が見えるというわけではなかった。
俺たちがいるのは、短い草の生えた平原だ。通ってきた洞窟の岩屋がその真っ只中にあり、少し進んだ先には、垂直に近くそびえ立つ 岩壁(がんぺき) がある。鍾乳石が天地逆に生えているような、不思議な形状の巨大な岩が立ち並んで、天然の障害となっているようだ。
「海の匂いがするのに、海が見えないわね……あの岩壁の向こうが海なのかしら」
「バウッ」
「シオンちゃんも向こうだって言ってるみたい。後部くん、どうする? 通れそうな場所があるから、向こう側に行くことはできそうだけど……あっ……」
俺も五十嵐さんとほぼ同時に気がつく。抜けられそうな岩の隙間ができている場所があるのだが、その近くに、探索者の姿が見える。さっき見た『同盟』らしき探索者たちの一部だ。
「こうして見ると結構露骨だな……絶対に通れないわけじゃないんだろうが」
「魔物が出るところを見張ってるだけじゃないんですねー、通行料を出せ! とか言われちゃいそうですよ」
「それはカルマが上がるからできないでしょうけど、無理に通ろうとして手を出したら、こちらのカルマが上がってしまう可能性があるわ」
「『同盟』の人たちにも事情はあると思いますが……どうしても通してくれないとしたら、今は衝突を避けるべきなんでしょうか」
スズナの言うように岩壁の向こうに行くことを諦め、草原側を探索した場合、同盟が俺たちが戦うところを遠目に見ることになるかもしれない。
グレイが『トリケラトプス』に俺たちを偵察させていたことを考えると、向こうがこちらをマークしている可能性は高い――グレイが全員に根回ししている場合ならばだが。
「俺たちの手のうちを見せるってことは、進んですべきじゃないが。草原には起伏があるし、多少樹木もあるから、向こうから見えないところで戦闘になる可能性はある。そのときは、これまで通り慎重に、堅実に戦っていこう」
「そして時には大胆に、ですよね。私の爆裂カードが火を吹きますよー!」
「『爆裂石』の力を使うのは、ここぞという時にするべきだと思うわ。魔力切れにだけは気をつけてね」
「はーい、気をつけまーす」
ミサキはやはり新しい装備を手に入れて浮かれているようで、本当に大丈夫だろうかと多少心配になるが、あまり勢いを削ぐことを言ってもいけない。
後から潜入してきたセラフィナさんたちは、岩壁の通り道近くにいる同盟のメンバーを見やると、ふう、と息をついた。
「アトベ殿、彼らに道を阻まれて移動することができないということなら、私達が交渉を……」
「うーん、あの感じだと難しいですよ。身体が大きい人を押しのけないと通れないですし、そうするとギルドセイバーの私たちでもペナルティがつきかねません」
「押しのけるとは言っていない。通してもらうように説得する、それ自体に問題はあるまい」
「あっ、先輩……もう、猪突猛進なんですから」
セラフィナさんはアデリーヌさんを置いて、『同盟』の人々に一人で近づいていく。すると向こうからも近づいてきたのは、身重の身体で作戦に参加しているダニエラさんだった。
「始めまして、『自由を目指す同盟』の副リーダーをしています、ダニエラ=ヴォルンです。ギルドセイバーの皆さんが、なぜこちらに?」
「貴方がたが、こちらで狩場の占拠を行っているという通報が複数届いています。そういった行為を罰する規則はありませんが、可能な限り狩場を多くの探索者に解放するようにお願いするために来ました」
セラフィナさんの口調は冷静そのものだが、押されるだけの迫力がある。ダニエラさんはそれでも一歩も引かず、微笑んでいた。
「七番区は『足切り』の地区と言われていて、六番区に上がれる探索者は多くない。それでも向上心を捨てたわけではないからこそ、私達はこの方法を選んだ。そのことについては、理解してもらいたいわ」
「そういった意図については、我々も理解しています。しかし、六番区にこの方法で上がったとして、六番区に定着して活動することができるのですか。また安全な狩りの仕方を探さなければ、動けなくなるメンバーもいるのではないですか」
六番区に行く資格を得た上で、必要なときは前の区に戻るというやり方もあるだろう。しかし定型的な狩りを続けた結果、六番区の迷宮に対応できないということも考えられる。
しかし同盟もまた、その可能性を考えてはいるようだった。ダニエラさんも、後ろにいる同盟のメンバーも、セラフィナさんの言葉は耳に痛いようだ。
「私たちには私たちなりの、探索者として目指す場所がある。安全に六番区に上がることが間違っているとは、誰にも意見はできないはず。死んでしまったり、亜人になったりしてしまったら、取り返しがつかないのよ。賭けをしてメンバーの誰かが命を落としても、誰も保証なんてしてはくれない。そうでしょう?」
「……分かりました。しかし貴方がたの行為については、他の探索者の自由意志を侵害する行為でもあります。『同盟』が集中的に狩猟している魔物について、貢献度……ギルドの評価が見直される可能性があります。それはご了承ください」
「ええ。最短で処分が下るまで一ヶ月かかるということも承知しているわ」
その返答で多少言い返せたということか、同盟のメンバーが笑う。セラフィナさんは怒ることはなく、ただ踵を返した。
「……ギルドは簡単に、魔物討伐時の貢献度見直しを行うことはありません、一ヶ月と決まったわけではありませんが、彼らがここにいる期間中には改定は行われないでしょう」
「彼らと同じ方法で貢献度を上げることは、他のパーティはできなくなりますけどね。それはそれで、ちょっと複雑ではありますが……先輩、どうします?」
「我々は任務を果たすのみだ。『同盟を監視』することで、彼らが『他のパーティを監視』する行為については牽制をする」
セラフィナさんはつまり、俺たちの行動について同盟が干渉することを防いでくれるという。俺たちに明確に肩入れするのではなく、この場に残ってくれるというだけで、『同盟』も俺たちに探りを入れられなくなるだろう。
「ありがとうございます、セラフィナさん」
「こちらに魔物が来る可能性もありますので、そのときは応戦します。二人でも対応可能かと思いますので、アトベ殿たちは自由に行動なさってください……それでは」
パーティの皆もセラフィナさんに会釈し、草原の方に歩を進める。なだらかな起伏を越えると、まばらに木の生えた見晴らしのいい地形が広がっている。
「はれ? お兄ちゃん、何か点々と白いお花が生えてますよ」
「……お花、なんでしょうか?」
ミサキとスズナが言う通り、草原に白い花らしきものがいくつも咲いている。エリーティアはシオンを待たせて、こちらを振り返る――どう対応するか相談したいということだろう。
「距離を置いて、何か当ててみるか。ただの花だったら申し訳ないが……」
「私の『囮人形』を近づけてみるのはどう?」
「ああ、それはいいアイデアですね。五十嵐さん、お願いします」
五十嵐さんはポーチから人形を取り出し、地面に置く。そして呪文の詠唱を始めた。
「地より生まれし泥の 人形(ひとがた) よ。ひとたび我が魔力を宿し、立ち上がり、魔の目を引きつける尖兵となれ」
泥の人形は五十嵐さんの魔力を吸って、人間と同じくらいに大きくなる。そしてゆっくりと、白い花に接近していく――何も起こらない。
改めて白い花に近づく。白く見えるものは綿のようなもので、綿花か何かのようだ。
「これも素材に使えるのかしら……」
「沢山あるから、少し摘んでおきましょうか。素材集めより、魔物と戦って小手調べをしてみたいところだけど」
俺たちは手分けして幾つか綿花を回収する。何かに使えるのかは分からないが、ひとまず警戒する必要はなくなった。
――そう安心しかけたときだった。テレジアが一つの花に近付こうとしたところで足を止める。
「テレジア、どうした?」
「…………」
彼女の視線でなんとなく察して、俺はライセンスを取り出す。すると、そこには『純白の綿花』の入手表示以外のものが出ていた。
◆現在の状況◆
・『テレジア』の『罠感知1』が発動 → 罠を発見 リリーストラップ発動可能
「っ……みんな、気をつけてくれ。テレジアが罠を見つけた」
「罠って、この草原の中で……?」
「この白い花に紛れ込ませて、仕掛けられていたっていうこと……?」
エリーティアと五十嵐さんが、テレジアの視線の先に生えている白い花を見やる。
(どうする……攻撃するか。いや、離れた位置からなら『リリーストラップ』で空打ちさせられるか)
「よし……テレジアの新しい技能で、罠を発動させてみよう。十分に離れていれば巻き込まれないはずだ」
「わー、なんかドキドキしますね……罠って誰が仕掛けたんでしょう?」
「俺は魔物が仕掛けたんじゃないかと思ってる。『同盟』がわざわざこっちに来る理由もなさそうだからな」
「魔物だとしたら、罠を仕掛けて待ち伏せをしているのかもしれませんね……」
隊列を整えたあと、テレジアが前方の罠――白い花に見えるものに手をかざす。そして、次の瞬間だった。
◆現在の状況◆
・『テレジア』が『リリーストラップ』を発動
・『アラクネフィリア』の設置した『土蜘蛛の巣』が起動
「――うぉぉっ……!!」
地鳴りと共に足元が揺らぐ――白い花を中心に、地面に一気に広がったものは、巨大な蜘蛛の巣のような模様だった。
「ひぇぇぇっ……な、何なんですかこれっ……!」
落とし穴が掘られたあとに蜘蛛の巣で蓋をされ、その上から草や土を被せて偽装されていた――何か特殊な技能によるものか、カムフラージュは完璧だった。もし引っかかっていれば、ひとたまりもなく地面の崩落に巻き込まれていたところだ。
そして、それで終わりではない。巣の中心に位置する部分に、幾つもの尖った爪のようなものが飛び出し、猛烈な勢いで巣の中心に向かって食らいつく。
「あれが、『アラクネフィリア』……『蜘蛛』と呼ばれていた魔物……!」
ようやく空振りをしたことに気づいたのか、落とし穴の底に潜んでいた魔物が姿を現す。エリーティアの言う通り、その姿は、人間一人くらいなら簡単に飲み込んでしまいそうなほどの巨大な蜘蛛そのものだった。