軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百十二話 新たな技能/一抹の予感

一旦外に出ると、庭先の犬小屋に身体を半分入れて寝ていたシオンが目を開け、こちらを見てくる。

「悪い、起こしちゃったか」

「……クゥン」

「どうした、そんな声出して。珍しいな」

シオンが甘えるような声を出すので、近づいて頭を撫でてやる。シオンは自分から俺の手に頬を擦り付けるようにして、手の甲を舐めてきた。

「久しぶりにファルマさんに会えて良かったな……そうか、明日には帰るから、寂しいのか。そうだよな……」

「バウッ」

「ん……違うのか? 俺たちにこれからもついてきてくれるのか」

言っていることが伝わるわけもないのだが、語りかけるとシオンはじっと見つめてくるので、少しでも汲み取ってくれているように思えてくる。

思い返せば、シオンも信頼度ボーナスで魅了を防ぐことができていた。つまり、かなり俺に懐いてくれているということだ。

「じゃあ、そろそろおやすみ。新しい技能は、戦闘で見せてくれるかな」

聞いてもシオンは無心に手を舐めてくるばかりだった。しかし賢い犬――もといシルバーハウンドなので、使うべきときに新しい技能を使ってくれるだろう。

家の中に戻り、風呂に入ってから寝ることにする。着替えを準備し、浴室に向かい、なんとなくタオルで前を隠して戸を開けたところで、俺は今までテレジアが姿を見せなかったことにこれ以上なく納得して天を仰いだ。

「…………」

「テ、テレジア……俺はもう逃げたりしないから、そこまで完璧に気配を消して隠れてることはないんだぞ」

「やっぱりアトベ様とテレジアさんは、そのようなご関係でいらっしゃったんですね」

前門のテレジア、そして後門の――誰なのかは声でわかったが、振り向くのが妙に怖い。

「そんなに恥ずかしがらなくても大丈夫ですよ、私から見ればアトベ様は弟みたいなものですから」

「っ……お、弟……い、いや、俺は二十九なので、お子さんがまだ小さいファルマさんとはそんなに歳の違いは……」

むしろ俺の方がファルマさんより年上という可能性もあるし、こういう場面で鉢合わせしてはいけないことに変わりはない。

「ああっ……ファ、ファルマさん、何やってるんですか」

「はい、アトベ様に日頃のご愛顧の御礼をと思いまして……」

「アトベ様、ファルマさんはお酒が回っているんです。アトベ様のご意向を尊重するべきですが、ファルマさんはご結婚されていますので……っ」

今回は五十嵐さんとルイーザさんがストッパー役をしてくれて、ファルマさんを連れていってくれる。俺の意向ということなら、とりあえずファルマさんの旦那さんに会うことがあったら、無条件で謝罪をさせてもらいたい気分だ。背中を見られただけなので問題はないといえばないのだが。

「…………」

「た、大変だったな……コホン。テレジア、長湯しすぎないように気をつけよう」

テレジアはこくりと頷き、椅子を持ってくると、その後ろで膝を突く。どうやら座れということらしい。

「…………」

テレジアが今まさに何を思っているのかが聞きたい――水着なら一緒に入ってもいいというのは、改めて考えても大胆すぎると思う。それは五十嵐さんとエリーティアにも言えることなのだが。

◆◇◆

湯船の温度が一度変わるだけでもテレジアには死活問題なので、慎重に浸かってもらった。のぼせたときのことを考えると、我ながら過保護になっても仕方がない。

「テレジア、風呂上がりにすまないけど技能を選んでから休んでくれるか」

「…………」

テレジアはライセンスを持っていないので、俺が代わりに技能を取得する必要がある。グラスに水を注いで彼女に水分を取ってもらいつつ、ソファに座って技能の検討を始める――テレジアはソファの後ろに立ち、そこから見てくる。

「そこから見るのか? 遠慮せず座っていいからな」

「…………」

そう言ってもなかなか聞いてくれないとは分かっているので、しつこく言うことはしない。

ライセンスにテレジアの技能を表示する。そして気になるものを見つけ、テレジアに意見を聞こうとしたところで――すっと、肩越しに手が伸びてきて、ライセンスの画面を指さした。

「…………」

「っ……その技能が気になるってことか?」

後ろから身を乗り出しているので、テレジアの顔がすぐ近くにある。目元が隠れ、口元からも感情は見えないが、彼女は俺の質問に頷きを返した。

同じソファに座るのは遠慮しても、この状態は構わないというのは、ますますテレジアの判断基準が不思議に思えてならない――そんなことを考えつつ、俺は新規技能の吟味を始めた。俺自身の技能についても、後で選ばなくてはいけない。

◆◇◆

翌朝、泊めてもらった礼にとファルマさんが朝食の支度を手伝ってくれた。パンに焼いたベーコン、スープにサラダというメニューで、どれも朝の空腹に染みる味だった。

朝食の席でファルマさんにも専属契約の話をすると、彼女は二つ返事で快諾してくれた。今後は『黒い箱』を開けるときは、彼女に頼むことになる。

ファルマさんは工房にいるセレスさんたちの弁当まで用意してくれた。ギルドの転移扉を利用して帰る彼女を、俺たちは宿舎の外で見送る。

「皆様のご武運をお祈りしています。また、お話を聞かせてください」

「本当にありがとうございました、ファルマさん。エイクとプラムにもよろしく伝えてください」

「はい。アトベ様、それと……」

ファルマさんが何か伝えたそうにしている。皆の様子をうかがうが、なぜか皆俺と顔を合わせようとしない。

「……一階と二階に分かれていても、『いつでもアトベ様が見守ってくれている』と皆さんおっしゃっていました。本当に、慕われておいでですね」

「えっ……」

何とはなしに一階で寝た俺だが――二階にいるみんなとの位置関係的には、俺は『後ろ』にいるということになっていたのだろうか。

「昨夜は探索者だった頃に戻ったようで、とても楽しい夜でした。皆さん、これからもアトベ様と仲良くなさってくださいね」

「な、仲はその、少しずつよくなってるとは思いますけど、ファルマさん、それ以上は……っ」

「絶対に言わないとおっしゃったのに……お茶目な方ですね」

五十嵐さんが慌てており、ルイーザさんは戸惑いつつも笑っている。マドカ、ミサキ、スズナもなぜか顔が赤い――そんな彼女たちを見て、ファルマさんは満足そうに微笑んだ。

「では、またいつでも『アルトゥールの店』をご用命ください」

最後はしとやかに会釈をして、ファルマさんは歩いていく。俺たちも出かける準備はできているので、そのまま出ることにした。

「……あ、後部くん。昨日の夜はよく眠れた?」

「は、はい……かなりぐっすり寝られましたが。もしかして、寝言でも言ってましたか」

「い、いえ、とても静かで……」

「おおお兄ちゃん、スズちゃんを誘導しちゃ駄目ですよ! この子本当にピュアなんですから!」

「あ、あのっ……私は寝ぼけていて、あまり覚えてなくて、お兄さんに何か失礼なことがなかったかなって……」

五十嵐さんが探り探りという感じで聞いてくるが、俺としては安眠だったとしか言えない――しかしファルマさんの言っていたことが気になる。

「…………」

「そ、その感じは……テレジア、一体どういう……」

テレジアはぺた、と俺の腕に触れる。気にしてはいけないということか――それにしては、微妙に蜥蜴マスクが赤くなっているのだが。

「それはいいとして……アリヒト、『同盟』の様子を見に行くんでしょう?」

「ああ、新しい装備に変えてから行こうと思う。さっきマドカに連絡があって、セレスさんたちが作業完了したって伝えてくれたよ」

「『落陽の浜辺』……『同盟』の人たちの様子を見に行くにも、陸地にいる強い魔物に遭うかもしれないわね。気を引き締めていきましょう」

五十嵐さんの言う通り、『蜘蛛』と『蟷螂』、あるいはそのどちらかと遭遇する可能性が高い。偵察するだけなら戦闘を避けることもできるだろうが、新しい装備や技能を試す機会も欲しいところなので、徹底して戦闘を避ける必要はない。

セレスさんたちが待っている工房に向かうまでの間、俺は新たに取得した技能を見直す。

これらをどう活かせるのかと考えると、少なからず期待が胸を満たした。

◆キョウカの新規技能◆

スキルレベル2

☆ライトニングレイジ:攻撃時に雷属性を付加し、ランダムで周囲を巻き込む追加攻撃が発生する。必要技能:サンダーボルト

・槍兵の加護:発動時に敵の貫通攻撃を無効化する。

スキルレベル1

☆イベイドステップ:敵の攻撃を回避し続けるほど回避率が上昇する。必要技能:ブリンクステップ

・投擲1:槍を投げて攻撃する。通常の投擲よりも命中率が上昇する。

残りスキルポイント 3→0

◆テレジアの新規技能◆

スキルレベル2

・ハイドヴァイパー:亜人の固有技能。隠れた状態で攻撃すると相手を足止めできる。

・ピックポケット2:相手に気づかれずに所持品を複数個盗めることがある。必要技能:ピックポケット1

☆リリーストラップ:触れずに罠を発動させる。周囲を巻き込むことも可能。必要技能:罠感知1

スキルレベル1

☆罠感知1:罠が近くにあるときに気がつくことがある。

残りスキルポイント 3→0

◆エリーティアの新規技能◆

スキルレベル3

☆スカーレットダンス:『レッドアイ』発動時に魔力を消費して連続攻撃を繰り出す。攻撃するたびに威力が上昇し、防御力が低下する。

残りスキルポイント 4→1

◆スズナの新規技能◆

スキルレベル2

・お祓い2:不死系の魔物に対して有効な効果を発揮する。必要技能:お祓い1

・巫女舞:舞いによって相手の注意を引きつける。回避率が上昇する。

スキルレベル1

☆射法八節1:射法通りに弓を撃つことで、打撃が倍加する。

☆清音:楽器を武器として使用できるようになる。

・言霊:武器に文字を宿し、一時的に神聖属性を付加する。

残りスキルポイント 3→1

◆ミサキの新規技能◆

スキルレベル2

・サレンダー:魔物の敵意を下げて撤退しやすくする。一度迷宮から脱出するまで再戦はできなくなる。

・エクストラターン:指定したパーティメンバーの行動を一度だけ代行することができる。

スキルレベル1

☆フェイクハンド:次回の攻撃を相手に脅威だと錯覚させ、敵の攻撃をキャンセルできることがある。

・スモールベット:戦闘中に体力、魔力を他者に分け与える。勝利後に2倍回復する。

残りスキルポイント 3→2

◆マドカの新規技能◆

スキルレベル2

・物々交換:相手が持っている不要なもので、パーティに利益がある可能性のあるものを察知し、交換交渉を行うことができる。

・荷車攻撃:荷車を装備しているとき、荷物の量に比例して相手に打撃を与える。必要技能:荷車

スキルレベル1

☆荷車:荷車を装備可能になる。

☆掘り出し物:店舗の商品から除外された品について、購入交渉を行える。

残りスキルポイント 4→2

◆メリッサの新規技能◆

スキルレベル2

・骨砕き:武器を問わず、打撃属性を付加して攻撃する。通常攻撃より被害が大きい。

・ラウドボイス:相手を威嚇する声を出して牽制し、魔力に被害を与える。

スキルレベル1

・キャットウォーク:極度に狭い足場でも渡ることができる。

・爪研ぎ:爪による攻撃力を上昇させる。高揚系の状態異常が回復する。

残りスキルポイント 3

結論から言うと、有用だったり可能性を感じる技能が多く、現時点で即座に取得という判断はできなかった。○がついている技能は取得したが、それ以外は保留ということになっている。選びたい技能が多くて決められないというのも贅沢な悩みだ。

五十嵐さんはエリーティアに次ぐ攻撃役として特化し始めている。テレジアは罠関係の対策ができるようになり、『ローグ』ならではの役割も出てきた。

スズナ、ミサキ、マドカについては、特殊な職業ということもあり、他で代わりが効きそうにない効果のものが幾つもある。スキルポイントに限りがあるので、優先的に取りたいもの以外は必要な場面が来たときに思い切って取得することに決まった。

メリッサは『解体屋』としての仕事に関わる技能を優先したい意向だが、今回の新規技能には含まれていなかったので、『乱れひっかき』を取っておいてもらった。その圧倒的な手数は、彼女が戦闘メンバーに加わったとき瞬間的な打撃力を大きく向上させるだろう。

そして俺は、どんな技能を取ったのかというと――例にもれず、必要に応じて選択するという結論になった。『支援連携1』だけは、前々から気になっていたので無条件で取っておいたのだが。

◆アリヒトの新規技能◆

スキルレベル2

・支援統制1:前にいる仲間に自分の狙った標的を正確に攻撃させる。必要技能:支援連携1

・バックスリップ:前にいる相手の速度を短時間だけ上回って行動できる。

・バックオーダー:魔力が足りないときでも、仲間から分け与えてもらって技能を発動できる。

スキルレベル1

☆支援連携1:前にいる仲間に連携技を発動させる。

・バックパス:攻撃を後ろに受け流す。後ろに対象がいる場合にしか発動できない。

残りスキルポイント 3→2

さすがに『バックパス』は緊急回避としても採用しづらい――強力な技能だと推測はできるのだが。基本的には、俺がパーティの一番後ろにいて、その後ろに誰かがいるという状況は作るべきではない。敵ならばいいが、挟撃されること自体を避けないといけない。

そしてスキルレベル2の技能は、どれも甲乙つけがたい。役に立つ場面を三つとも想像できるので、一番先に必要になった技能を取ることにした。

「必要になったときにとっさに取るのってドキドキしますよねー。私の隠された力が……! みたいな感じでやっていいですか?」

「ミサキの『サレンダー』が役立つ場面にはあまり出くわしたくないが、物凄く有用な技能なんだろうな。それに『エクストラターン』も」

「もう1レベル上がったら両方取れるんですけどねー。そしたらまた良さそうな技能が出てきちゃったりして。はー、でもかっこいいよねスズちゃん、楽器で戦っちゃうとか」

『牧神の角笛』が手に入るということで、今後も楽器の類が手に入ったとき、装備できる人がいると良い。そう提案してみたところ、スズナも同意してくれた。

「神楽の奉納をするために、幾つか楽器を練習していたので、笛も使えると思います。どんなふうにお役に立てるかはわかりませんが……」

「音で攻撃するってことはありうるだろうな。『牧神の使い』がそんな攻撃をしてきてたから」

「楽器を武器にする人は何人か見たけど、音色で特殊な効果を与えたりしてたわね。演奏系の技能が無い場合は、楽器の性能通りの効果が出ると思うわ」

エリーティアの話によると『ギタリスト』『吟遊詩人』といった職業もあり、いずれも人数は少ないとのことだった。『巫女』も楽器が装備できる希少な職業というわけだ。

「新しい装備に新しい技能……これならきっと、七番区の敵を怖がらなくてもいいわよね」

「五十嵐さん、かなり攻撃に特化してきてますが……」

「『イベイドステップ』を上手く使えたら、ずっと前に居て戦い続けられそうよね。『ブリンクステップ』だと、連続で攻撃されるとかわせないから」

「は、はい……でも、敵に張り付く必要はないですよ。『サンダーボルト』もあるんですから」

「心配しなくても大丈夫、深追いはしないから」

そう言って笑い、先を歩いていく五十嵐さんだが、やはり心配ではある。『戦乙女』は前衛もこなせるが、前衛専門ということでもないように思うからだ。

「…………」

「バウッ」

「……そうだな、ちょっと心配性すぎるか」

テレジアとシオンも、前衛の役割をこなしてくれている。総勢4名なのだから、五十嵐さんだけが突出しすぎることはないだろう。

『やあ、おはようございます。なんとか約束通りに仕上げてみせたよ』

貸し工房の前で、シュタイナーさんが手を振っている。セレスさんは疲れて休んでいるのだろうか――何よりお疲れさまでしたと、心から言わせてもらいたい。