軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

90話 チャムのお姉ちゃん

「ああ、誤解させてしまったかな。僕も父上も母上も、もちろんレナリアの意思を尊重するよ。ただ念のために確認をしただけだから。……ごめんね、辛い記憶を思い出させてしまって」

立ち止まったアーサーは少しかがんで心配そうにレナリアの顔を覗きこむ。さらりとこぼれる黒髪が、 白皙(はくせき) の頬にかかった。

「大丈夫よ、お兄さま。私ね、聖女になりたくないからといって、アンジェさんにその役目を押しつけようとしたでしょう? だからね、ラシェが……私が選んだリッグルが炎に包まれてしまった時、これは私への罰かもしれないと思ったの。だから、聖女の力を持っているって皆に知られてしまってもいいから、ラシェを助けようと思って……」

そこでレナリアは感謝の気持ちをこめてフィルとチャムを見る。

「マーカス先生とセシルさまがラシェの火を消すために水魔法を使ってくれて……。そこにフィルがさらに水を足してチャムの火で水蒸気を出してくれたの」

「その霧を人の姿のようにして、レナリアから目を逸らしてくれたのか。ありがとう、フィルとチャム」

頭を下げるアーサーに、フィルとチャムは目を見合わせてから照れ笑いをする。

精霊は自分たちを道具のように扱う人間には厳しいが、友のように思ってくれる相手にはそれ以上の好意を返す。

だからフィルもチャムも、アーサーをレナリアの兄としてだけではなく、アーサー個人として気に入った。

「ボクはレナリアの精霊だけど、アーサーのことも手助けしてあげていいよ。何かあったら言ってね」

「チャムも、チャムもー。チャム、アーサーのこと好きー」

けれどそれに怒ったのがアーサーのサラマンダーのフラムだ。

ぶんぶんと赤くなりながらフィルとチャムの周りを飛び回る。

「う、うわっ。怒るなよ。お前一人じゃどうしようもない時だってあるかもしれないだろ」

逃げ回るフィルは、レナリアとアーサーの周りをぐるぐる回る。

「いやだからさ、別に取らないって。ボクはレナリアが一番なんだから。チャムだってそうだよね」

「チャムもレナリアが一番好きー。でもアーサーも好きー」

「えええええ、チャム、火に油を注ぐなよっ」

フィルを追いかけ回していたフラムはピタッと止まって、標的をチャムに定めた。

だがチャムはそれに気づかず、のんきに言葉を続ける。

「それでー。アーサーはレナリアのお兄さんだからー。フラムはチャムのお姉ちゃんー?」

お姉ちゃん、と言われて、チャムに襲い掛かろうとしていたフラムがピタッと止まる。

「えへへー。お姉ちゃんって呼んでもいーい?」

もじもじしながら聞くチャムは、意識したわけではないのだが、あざと可愛い。

迷うように揺れたフラムは、チャムの隣に立つとオレンジ色の温かな色になった。

「わーい。チャムにもお姉ちゃんができたー」

無邪気に喜ぶチャムに、オレンジ色の光がそっと寄り添う。

「お兄様、フラムとチャムは姉妹になったみたいです」

「へえ。僕たちのように仲良しかな」

「ええ。ぴったり寄り添っています」

それはまるでレナリアとアーサーのようで、兄妹は思わず顔を見合わせて微笑み合った。