軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

89話 アーサーへの報告

「それで、一体何があったんだい?」

アーサーに尋ねられて、レナリアはリッグル牧場での出来事を説明した。話を聞いているうちにアーサーの顔はどんどん険しくなっていく。

だが最後のチャムとフィルの活躍を聞くと、「よくやってくれたね」と輝くような笑みを浮かべた。

「後で君たちの好きな砂糖菓子を用意させよう」

「あ、その事なら、昨日焼いたクッキーを持ってきたの。まだ完璧じゃないのだけど……アンナには合格をもらったのよ」

ね、と確認するようにレナリアが振り向けば、アンナはにっこりと微笑んだ。

「レナリアが作ったものなら、何にも勝る至高の味だよ」

アーサーはアンナが持つ籠に目を留める。その中には綺麗な色の油紙に包まれたクッキーが入っている。

「レナリアの魔力入りだしね~」

フィルがアンナの持つ籠の周りを楽し気に飛び回る。

アーサーは目を細めてそれを見つめた。

レナリアの兄であるアーサーにはフィルの姿も声も見える。だが残念ながらチャムの姿は見えない。

もちろん自分の守護精霊であるフラムと名づけたサラマンダーが一番だが、チャムは可愛い真っ赤なトカゲの姿をしているということなので、いつか見てみたいと思っている。

「僕のフラムも食べるだろうか」

するとアーサーのサラマンダーが姿を現わし、もちろん、というようにアーサーの周りを飛び回る。

「ホントは精霊にはレナリアのクッキーを譲りたくないけど……アーサーはレナリアの兄さんだからね。仕方ない。我慢する」

「えー。チャムのクッキーが減るのやだー」

ガーンとショックを受けたように大きな目を見開くチャムに、フィルは呆れたように言う。

「アーサーが自分の分をあげると思うから、チャムの分は減らないよ」

「それならいいよー」

安心したようにレナリアの肩に乗ったチャムは、そのままぺったりとレナリアにくっついた。

「チャムは食いしん坊だなぁ」

「レナリアがねー。チャムはソダチザカリって言ってたのー。だからたくさん食べて大きくなるのー」

すりすりと顔を寄せるチャムに、レナリアは可愛いわと頭をなでる。

そしてもちろん、当然のように金色のふわふわの髪の毛を差し出すフィルの頭も、なでてあげる。

チャムもフィルもどちらも大切な精霊だから、レナリアは平等に接したいと思っているのだ。

「えぇ……精霊にそんなのあったかなぁ。まあレナリアの魔力をもらうと成長するけどさぁ」

「精霊も成長するのか?」

驚いたようなアーサーに、フィルは知らなかったのかと逆に驚いた。新緑色の目を瞬いている。

「あぁ、そっか。精霊を成長させるくらい魔力のある人間は、レナリアの他にはもういなくなっちゃったから知らないのかも」

「精霊を成長させるとどうなるんだい?」

「魔力が増えるよ」

「それだけ?」

「それ以外にないよね?」

首を傾げるフィルに困惑したアーサーは、口元に手をあてて小さく笑うレナリアを見る。

「お兄さま、私たちだって杖に増幅の魔法紋を刻んで魔力の底上げをするんだから、精霊も同じなんじゃないかしら」

「確かにそうかもしれないね」

納得したアーサーに、フィルは腕を組んでうんうんと頷く。

「アーサーもレナリアのクッキーを食べれば魔力が増えるよ」

「そうしたら僕にもチャムの姿が見えるかな」

アーサーの言葉にヤキモチを焼いたのはフラムだ。

色を赤くして、アーサーの胸に何度もぶつかっている。

「ああ、もちろんフラムが一番だよ。……分かった、ごめんよ」

基本的に守護精霊の言葉は契約者にしか伝わらない。

だから具体的にどんな会話を交わしているのかは想像でしかないが、アーサーの態度を見れば丸わかりだ。

お兄さまもご自分の守護精霊には弱いのね。

レナリアはそう思いながらフィルを見つめる。

もちろん私もフィルとチャムが一番大事だわ。

「ボクもレナリアが大好きだよ」

「チャムも大好きー」

心の中で言葉にしたつもりはなかったが、強く思ったからか二人に伝わってしまう。

「ところでお兄さま。セシルさまとのお話はどうしましょう」

「そうだね。……もう一度確認しておくけれど、レナリアは聖女にはなりたくないんだよね?」

アーサーの問いに、レナリアはしっかりと頷く。

「一応こちらでも現在の聖女がどのような存在で、どのように扱われているかを調べてみたんだけれど、基本的には教会の精神的な支えになっているという印象かな」

「精神的な支え、ですか」

「もちろん歴代の聖女の中には強い回復魔法を持っていて、怪我や病気を治すことができるものもいたけれど、ここ数代はそれほど強い魔力のものはいなかったみたいだね。その代わり、慈善事業には熱心だったらしい。それから誰かを治すために自分の命を削らなければいけないといったこともないようだよ。短命の聖女は滅多にいない」

レナリアの前世での聖女で、十六歳になるまで生き残れるものはほぼいなかった。

だからアーサーの言う通りならば、この世界の聖女は、他人を救うために自分の命を削らなくても良いのだろう。

それはきっとフィルがレナリアのための魔素を集めてくれるように、シャインが光の魔素を集めてくれるからだ。

でも、理屈ではないのだ。

前世で死を迎えた時の、あの昏く重い感覚。

それが聖女という言葉を聞くとよみがえってきてしまう。

「それでも……私は……。やっぱり聖女にはなりたくない……」

そう言ってレナリアは視線を落とした。