軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

62話 エリックとゼファー

魔法の発動どころか、見事にロウソクの炎を消したエルマに教室中が沸いた。

「凄ぇな。どうやってやったんだ?」

そう言って、同じ平民同士ということでエルマと仲良くしているエリック・ハメットが、背中を叩く。

その勢いに一歩前に踏み出したエルマは、きっと後ろを振り返った。

「ちょっと、痛いじゃないの! あたしは女の子なんだから、乱暴にしないでよね」

「わりぃ、わりぃ。んで、どーやってロウソクの炎を消したんだ?」

エリックは日に焼けた顔で、人好きのするような笑顔を浮かべた。

父が乗る船には風魔法使いがいるが、エアリアルの姿は見えないし、魔法の発動と言われても何をどうすれば良いのか見当もつかない。

ポール先生につきっきりで教えてもらっていても魔法が発動する気配すらなくて、どうしようかと思っていたのだ。

「えっとね、レナリアさんとマリーさんに教えてもらったんだけど、魔力を小麦粉だって考えて、それをこねてパンにして手に集めるの。その時に、エアリアルにお願いするといいんだよ」

「パン?」

驚いたように海のような青い目を見開いたエリックは「なんだそりゃ」と首を傾げる。

「俺たちが習ってるのは魔法だろ? 料理じゃねえぞ」

「だから、たとえばなんだってば。エリックはパンをこねたことがある?」

「ねぇけど、お袋が作ってんのは見たことあるぜ」

「だったら、それを思い出してみて」

エルマに言われて、エリックは目をつぶる。

陽気で美人なエリックの母は、いつも粉まみれになって笑いながらパンをこねていた。

まだ学園での生活は始まったばかりだというのに、固くて素朴な、あのパンの味が恋しくなってくる。

「あー、うん。思い出した」

「じゃあ、やってみて」

「いきなりかよ、おい」

エリックは半信半疑で、パンをこねるように魔力を集めてみる。

何となく、集まったような気がしないでもない。

ナイフに魔力を流すのも、一応できるようにはなったのだ。ここまでは良い。ナイフの場合は魔力を流しさえすれば、魔石を刻む時に勝手に魔力が流れるからだ。

問題はここからで、その流した魔力を発動するというのが、どうにも分からない。

そういえば最初にナイフに魔力を流す時もエアリアルに頼んでいた。

つまり何でも頼んじまえばいいってことだな、とエリックは理解した。

「ゼファーよろしくな!」

エリックは右手にはっきりと熱を感じた。

それを杖に移して、ゆらゆらと燃えているロウソクの炎をめがけて――。

「風よ吹け!」

そして、風は吹いた。

ロウソクの炎は消えなかったけれど、魔法は発動したのだ。

「おおっ、やったぜ! ありがとな、エルマ」

「お礼ならレナリアさんとマリーさんに言ってちょうだい」

「おう。二人とも、ありがとな」

気安いエリックに、レナリアもマリーも苦笑して顔を見合わせる。貴族の男性でこんなに気安い態度のものはおらず、少し面食らってしまう。

「この勢いをもう少し小さくすりゃあ、いいんだな。うーん。めんどくせぇ。……よし相棒、細かい調整は頼んだぜ。風よ吹け!」

エリックは自分でどうにかするのを諦めたらしい。

これでロウソクの炎が消えるのだろうかと教室中が注目した。

エリックのケヤキの魔法杖から魔法が放たれる。

そして今度は綺麗にロウソクの炎を消した。

「さすがゼファー! 俺の相棒!」

エリックは喜んで、杖を持っていない方の手で握った拳を振り上げた。

マリーのロウソクの炎もいつの間にか消えている。

残っているのは、ランスただ一人だ。

皆の視線が集まる中、唇をかみしめるランスがうつむく。

それを見たポール先生がランスに声をかけようとしたその時、騒々しい音を立てて教室のドアが開いた。

「すみません、杖を取りに行っていて遅れました!」

現れたのはクラスメートのローズ・マイヤーだ。

走ってきたのだろうか、カチューシャをした紅茶色の髪の毛がふわふわと跳ねている。

「いいえ。いいんですよ。ローズさんの杖は……柳ですか?」

ポール先生はローズが誇らしげに持つ杖に目を留めた。

「あっ、分かりますか? そうなんです」

そう言ってローズは手にした杖をしならせる。

柳の枝で作った魔法杖は、しなやかで応用が効くと言われているが、扱いが難しいので持っているものは少ない。

「今日の授業は杖を使うものだから、間に合って良かったですね」

「はい。ポール先生。今日の授業は何をやっていたんですか?」

「杖を使ってロウソクの炎を消してもらっています」

「えぇ。それって、いきなり難しくないですか?」

子爵家の出身であるローズは、魔法の発動こそできているものの、うまくロウソクの炎を消す自信はない。

魔法杖によって制御できるのかもしれないが、柳の杖をうまく使いこなすのには練習が必要だろう。

顔をしかめるローズに、ついさっき成功したエルマが勢いよく話しかける。

「大丈夫だよ。パンをこねるみたいにやれば成功するよ」

「パン……?」

よく分からないながらも、さっそく魔法杖を使ってロウソクの炎を消してみる。

やはり消えない。

「ロゼ、お願い!」

ローズは自分のエアリアルに頼んでみたものの、やはり消えない。

「こんなの、絶対に無理よ。パンをこねるのは分かるけど、それをどうやって炎と同じ大きさにするの?」

泣き言をいうローズに、ポール先生は「練習あるのみだね」と苦笑する。

「もっと、こう、近道みたいなのは……」

「残念ながら、ないかなぁ」

困ったようにポール先生が眉を下げると、ローズは「ですよねぇ」と言って肩を落とした。

教室の片隅でそれを見たランスが、そっと安堵の息をはいた。