軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

31話 比類なき相棒

すると抗議するかのようにマーカス先生のウンディーネが現れて、プルプルと波打った。

「ペットというとこちらが一方的に愛玩するだけの意味になるから不適切だったな。私としては常に愛でておきたい大切な存在だが……。そうだな。どちらかが死ぬまで一緒にいる比類なき 相棒(バディー) と言い換えておこう」

マーカス先生は長い指先でウンディーネを撫でる。

すると徐々にウンディーネの震えは収まり、マーカス先生の手の平の上で大人しくなった。

「精霊との心の繋がりが深くなればなるほど、我々は強い魔法を使う事ができる。だから君たちも自分の精霊とは仲良くするように。決して愚かなハディーのようになってはいけないよ?」

そう言って銀縁眼鏡の奥の切れ長の目を和らげる。

ウンディーネに向けた慈しむようなまなざしには、大人の色気が漂っていた。

それに中てられた女生徒たちの、息を飲む音が響く。

「ハディーではなく、バディーになれとおっしゃるのね。お上手ですわ」

だがレナリアは父のクリスフォードや兄のアーサーといった美形に囲まれているから、色気たっぷりのマーカスを見ても何とも思わなかった。

マーカス先生の言葉遊びの妙に、ふふふと笑う。

「おや、本当だ。狙ったわけではないのだが」

おどけて肩をすくめたマーカス先生は、「そういえば」とレナリアを見た。

「レナリア嬢の精霊はエアリアルだが、名前をつけていると聞いた。姿が見えなくても守護を与えられているのだから、感謝の気持ちを忘れず話しかけるというのはとても良い事だと思う」

「ありがとうございます」

レナリアはそう言って頭を下げたが、後ろからくすくすと笑う声が聞こえる。

「いくら名前をつけても、エアリアルじゃ、ねぇ」

はかなげな姿の見かけに似合わず、ささやく声に悪意を混ぜているのはロウィーナ・メルヴィスだ。

メルヴィス伯爵家は大きな港を持ち貿易で莫大な財を成している家だ。

その末娘であるロウィーナは家族から溺愛され甘やかされていて、入学式の後でレナリアだけがセシルたちと昼食を共にした事を不満に思っていた。

いくら従妹とはいえ、レナリアは王妃に疎まれているシェリダン侯爵家の娘だ。しかも両親とは似ても似つかぬほどの凡庸な容姿で、王子たちが気にかける相手ではない。

それよりもむしろ、二人の王子の妃候補とされている自分を尊重すべきではないだろうか。

ロウィーナは真剣にそう思っている。

「あら。馬鹿にしてはいけないわ。きっとそのうち素敵な魔法紋を作れるようになるわよ。ほら、このペンについた魔石の魔法紋のようにね」

ペンの先端についた魔石に刻まれた魔法紋は、内蔵されたインクが適切な量でペン先に届くように調整している。

それほど難しい魔法紋ではない為、エアリアルの加護を持つ学園の生徒がアルバイトで作る事も多い。

キャサリン・カルダーウッドの実家であるカルダーウッド伯爵家は、大きな商会を持っていて、ペンも扱っている事から、そういった事情に詳しかった。

そしてキャサリンもまた、王子たちの妃候補になっている。

キャサリンが王太子妃を望むのに対してロウィーナはセシルの妃を望んでいたから、この二人は割と仲良くしているのだ。

二人の当てこすりを聞いたレナリアはうんざりした。

前世でもマリウス王子に好意を寄せる女性たちの悪意に晒されたが、今世でも苦労するなんて嫌すぎる。

大体、ただの従妹に対して牽制のしすぎである。

もっと他に目を向けて頂きたい。

「ええ。魔法紋にはとても興味がありますの。私、その道を究めてもよろしいですわね」

さり気なく、王子を狙ってなどいないアピールをしてみる。

学園の卒業生は、いわゆるエリートとして女性でも王宮での仕事に就くことができる。

多くの貴族子女はそのまま結婚するが、例外がいないわけではない。

レナリアとしては、誰かと恋愛する自分を想像できなかったので、ずっと仕事をするのもいいかもしれないと思っている。

それが貴族子女としてはあり得ない事であっても。

「そうね、とても素晴らしい考えですわね」

「本当に」

くすくすと笑う彼女たちの悪意など可愛い。

前世のレナリアは、もっとひどい悪意に晒された結果、死んだのだから。

「あなたたち、そのような事を言うものではなくてよ。品性が疑われますわ」

ロウィーナとキャサリンを止めたのは、クラスの中でも大人びているマグダレーナ・オルティスだ。

「私たちは、そんな……」

抗議しようとするロウィーナを止めたのは、様子を見ていたマーカス先生だ。

「この学園には王族から平民まで、様々な階級のものが通っている。学ぶ者同士として身分の上下はないとされているが、それでも相手に対する敬意を失ってはならない。ただ、ここでしか育まれない友情というものがある。君たちには、それを大切にして欲しい」

マーカス先生は、一人一人の目を見つめて語った。

友だち……できるかしら。

あまり好意的とはいえない女生徒たちの雰囲気に、レナリアはこっそりため息をついた。