軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

30話  平穏な日々

心配した兄によって翌日も登校禁止となったレナリアがようやく学園に向かったのは、倒れてから三日後の事だった。

もう既に講義が始まっており、授業についていけなかったらどうしようかという不安が過ぎる。

一応入学前に家庭教師を雇って一年の時に習う科目を予習したが、自分がどの程度できているのか分からない。

でもいつまでも扉の前に立っていても仕方ないだろう。

アンナとクラウスと扉の前で別れたレナリアは、よし、と気合いを入れて教室の中へ入った。

席に着いていた生徒たちの視線が一斉にレナリアへと向かう。

それは、あまり感じの良いものとは言えなかった。

おそらくレナリアが光の精霊に嫌われているという噂が広がっているのだろう。

覚悟していた事だが、やはり気分の良いものではない。

けれどもしっかりと前を向いて着席する。

「おはよう、レナリア」

声をかけてきたのは、レナリアの少し後に教室へやってきたセシルだ。

「おはようございます、セシル殿下」

「もう具合はいいようだね」

「はい。ご心配をおかけしました」

兄のアーサーに、倒れたレナリアを誰が医務室へと運んでくれたのか聞いてみたが、予想していたセシルではなくあの場にいたマーカス先生だった。

レナリアが意識を失う直前、マリウス王子の声が聞こえたような気がした。

もしかしたらセシル王子はマリウス王子の生まれ変わりで。

それで「私の聖女」と呼びかけられたのかとレナリアは思ったが……。

考えてみれば、確かに顔は瓜二つだが、性格はあまり似ていないように思う。

レナリアの記憶の中のマリウス王子は、春の日だまりのように穏やかで優しい人だった。

セシル王子のように美しい微笑みの裏にトゲを隠し持ってなどいない。

それに、大人びてみえるがセシルもまだレナリアと同じ十歳だ。

同じ年の子供を抱えるのは無理だろう。

きっと、泉の女神像が前世のレナリアに似ていたから、幻聴が聞こえてしまったのだ。

そう結論づけたレナリアは、セシルとマリウス王子を重ねて見ないようにしなければと誓った。

顔が同じだから、別人だと思ってはいても、つい心が動かされてしまうのだ。でも、これからは気をつけなければいけない。

「風の盾を張って魔力を使い果たしたのだろう? ポール先生が、なんて無茶をするのかと心配していたよ」

レナリアは、どうして自分が風の盾を張った事をセシルが知っているのだろうと首を傾げる。

するとセシルは声を潜めて、レナリアだけに聞こえるようにささやいた。

「君がエアリアルにお願いする声を聞いたよ」

その言葉にレナリアはサーッと顔を青ざめさせる。

そういえば、あの時は慌てていて直接フィルに話しかけていた気がする。

つまり、フィルとの会話を全部聞かれていたという事になる。

聞こえたのはセシルだけなのだろうか。それとも……。

……ええっと、どんな会話をしていたかしら。

レナリアは思い出そうとするが、とにかくあの時は必死で皆を救おうとしていたから、細かいところなど覚えてはいない。

でも確か、アンジェを救うと決めた時に、前世では聖女だった事を言ってしまっている。

どこまで会話を聞かれていたのかとセシルの様子を窺うが、何を考えているか分からない微笑みを返されるだけだ。

「後で先生のところへ顔を出したほうがいい」

「ええ。そうします」

レナリアがそう答えて頷くと、教室がざわめいた。

「風の盾だって……!?」

「高位の風魔法じゃないか」

「それで魔力の使い過ぎで倒れたって? 本当かなぁ」

「シャインに嫌われたからじゃないの」

「でも殿下がああ言ってるからね」

「なんだ。聖女様がそう言っていたから、てっきり……」

特別クラスの生徒たちの会話の中には、セシルの言葉によって少しだけ好意的なものが混じる。

それに少しだけ安堵しながら、レナリアは前を向いた。

すぐに教室の扉が開いて、担任のマーカス先生が入ってくる。

最前列に座るレナリアに目を留めたマーカス先生は、少しだけ眉を上げた。

「レナリア嬢、もう大丈夫なのか?」

「はい。皆さまにはご心配をおかけいたしまして申し訳ありません」

「いや。精霊の暴発に巻きこまれるなど、災難だったな。誰も死ななかったのは奇跡に近い」

マーカスの言葉の鋭さに、生徒たちが驚く。

結果的に誰も死ななかったのだから、大した事故ではないと思っていたのだ。

「精霊の暴発など、滅多にある事ではないんだが……。そうならない為に、精霊とよくコミュニケーションを取らなければいけない。基本的に精霊は契約者に嫌われるような事はしないから、これはダメだ、これは良いと、根気よく教えていかなくてはいけないんだ。言うなれば……。ふむ。ペットのしつけと同じだな」

え、ペット!?

生徒たちは目を丸くしてマーカス先生を見た。