軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

41.動き出す思惑

幸福の裏では、どこかで不幸が起こっている。

誰かが幸せになるということは、他の誰かが不幸になるということだから。

新天地へ赴き、皆に必要とされて喜ぶアメリア。

そんな彼女を失った宮廷では、未だに不穏な空気が漂っていた。

「カイウス様、一体いつまで彼女を休ませているつもりでしょう?」

「体調が回復するまでだ」

「そう言ってもう二週間です。彼女の分の仕事を他の方々が代行している状態なのですよ? お陰で通常の業務にも影響が出てしまっています。極めて優秀だというお話だったから信用したのですが……これでは中々、納得いかない者も大勢いるでしょう」

「っ……とにかく休養は変わらない。そもそもたかが一人欠員が出た程度で回らなくなるのか? そちらに問題があるだろう?」

室長とカイウスはギロっとにらみ合う。

片や王家直轄の組織のトップ。

宮廷で、かつ錬金術師の中で彼女以上に発言権を持つ者はいない。

カイウスも多額の資金を投資している貴族の生まれ。

彼は遠くないうちに当主となることが確定している。

互いに立場があり、無理無茶を通せるだけの後ろ盾がある。

故に引くことはできず、折れることもない。

嫌がらせでアメリアに通常以上の業務を押し付けていたのは室長の命令だった。

彼女一人の喪失は、宮廷錬金術師複数人の同時解雇と変わらない。

ただし、彼女を宮廷から追い出し、未熟な新米をそのポストに無理やり入れたのはカイウスの意思。

それもほぼ独断で、結果はこのザマである。

どちらが悪い?

この問いの答えはシンプル。

どちらも悪い。

「もう良い。これ以上話しても無駄だ。私は失礼するよ」

「わかりました。こちらも仕事がありますので。ですが、あまりに時間をかけるようでしたら、私から陛下に報告をさせて頂きます」

「ご自由にどうぞ。私からも宮廷の現状を説明するかもしれないがな」

互いに捨て台詞まがいの言葉を残し、背を向けて去っていく。

今回の件、二人のどちらかが責任を問われるとすれば、カイウスになるだろう。

独断という部分が尾を引いている。

本来は意見することは出来ても、決定権は彼にない。

そこを強引に立場を使い、室長を説得して今の状況に陥っている。

室長は、彼に脅されたとか、彼の発言を信用してという言い訳もできるだろう。

どちらにせよ、カイウスの誤算は、アメリアの実力を見誤ったこと。

「くそっ、すべて彼女の所為じゃないか」

この期に及んで責任転嫁。

悪いのは自分ではなく、追い出された彼女だと。

哀れにも彼は、心からそう思っていた。

その後、カイウスは休養中のリベラの元へ向かう。

屋敷に自室、ベッドで休む彼女の隣に。

「体調はどうだい?」

「はい。少しずつ良くなっている気がします」

「そうか。ならもうそろそろ復帰もできそうかな?」

「――う、仕事は、まだ……」

仕事の話をすると、彼女は身体を震わせ泣き出しそうになる。

彼女は仕事を連想するだけで、拒否反応を示してしまうようになっていた。

「すまないリベラ! そうだな、まだ休養が必要だろう」

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

「謝る必要はないのだ。今はしっかり身体を休めると良い。その間のことは私がなんとかしておこう」

「はい……」

弱々しい返事にニコリと返すカイウス。

表面上は優しく振舞う彼だが、その内心は苛立っていた。

少しでも気を抜けば、表に溢れ出てしまいそうなほどに。

「では私は行くよ」

「はい……あの、カイウス様」

「なんだい?」

「また……お顔を見せに来ていただけますか?」

「当然だろう? 君は私の大切な婚約者なのだから」

そう言ってニコリと微笑み、部屋を出ていく。

甘い言葉を口にしながら、彼は必死に耐えていた。

屋敷を出て一人になり、誰もいない場所にくると我慢も必要なくなる。

彼は大きなため息をこぼす。

「リベラもリベラだ。自分のほうがやれると、才能があると言ったのは彼女だぞ? それなのに……」

そして今度は、信じるべき婚約者への不満を漏らす。

アメリアを切り捨て選んだ最愛の人、のはずが、むき出しの感情は疑念と怒り。

こんなはずではなかった。

彼女を軸に、自身の有能さをアピールしたかった彼にとって、この失敗は予想以上に大きい。

カイウスの推薦で宮廷付きとなったリベラが今のままでは困るのだ。

せめて一定以上の仕事はしてほしい。

だが、現状の彼女ではそれが叶いそうもない。

仕事と聞くだけで震え上がってしまうのだから。

「まったくなんなのだ! 私の周りにいる女どもは……」

思い通りにならない。

期待外れ。

自分の予想通りに動かない彼女たちに怒りを燃やす。

相手が女性だからと、優しい言葉を選んだり、甘やかす様に振舞っていた。

そんな自分を振り返り、彼はこう考えるようになる。

「やはり信用できるのは私自身……他人は上手く利用するためにある。そうだ。そうすればよかったのだ」

彼の脳裏には邪悪な考えが浮かぶ。

地位を、威厳を守るためには手段を選ばない。

ここで彼は大きく間違えることになる。

選択を。