軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八二話 森を拓く女神

「無理やり行けって送り出して、手紙一つで帰ってこいとくらァ。コイツの上からの態度が気に食わないんだよ。そうだろ、領主サン?」

「豪快のようで頑固で神経質なところもある。環境を変えたくないというだけで、その腕を腐らしていいわけもあるか。それは損失だ。そうだろう、セデク?」

領主を挟んでそっぽを向きながら言い争う老夫婦。

「はっはっは! はっはっは! 助けてくれソウジロウ殿!」

そして夫婦に挟まれて苦笑いさえ豪快にする領主。

三者共に不毛なその時間をどうしたものかと考えて、まあこういうときは話題を逸らすのがいいよなとなった。

というわけで、

「この町への贈り物として作ってる女神像がそこにあるやつなんですが、ひとまず形になったので見てみますか?」

「見よう!」「ぜひ頼む」「ほーォ?」

セデクさん、ドラロさん、フリンダさんの順番で、全員一致で賛成になった。

高さ二メートルほどの女神像には、布をかぶせて置いてある。

だいぶ彫り込んでしまったが、ふと気づいたのだ。そういえば、これをいきなり送りつけるわけにもいかないのでは、と。

ミスティアは大丈夫と言ってくれたけど、その時の顔がなんだか含むところありそうだったし、一度お渡しする前に見せてこういうので大丈夫か聞いておくべきと思ったのだ。

まさか、夫婦げんかを中座させるために見せるとは思わなかったけど。

「これです」

覆っていた布を掴んで、ふと、三人が注目しているのが気になった。

「……あの、これはただ俺が好きなものを彫っただけなので、特にメッセージ性とかは無くてつまり」

「緊張しなくていいサ。ここにバカは多くても、ヤボはいやしない。いたらアタシがぶん殴ってやる」

ぬあ、俺は緊張してるのか。

そうか、身内でもない他人に見せるのは初めてだからか。

「……よ、よろしくお願いします」

「任せな」

「おお、怖い怖い」

バシッと拳を叩くドワーフ親方と、それを見て笑うセデクさん。

気を取り直して、梱包してた布をぶわりと取り払った。

神樹の森でも、ひときわ綺麗に育った巨木の幹から彫りだした女神像だ。ムスビとマツカゼが、微笑む女神と戯れているような姿。

一瞬、沈黙が降りる。

三人の目がじっと女神像を見ていた。

やがて、最初に口を開いたのはセデクさんだった。

「お訊ねしたいのだが……この女神はよもや、ソウジロウ殿に神器を授けた神だろうか?」

珍しく神妙な顔をしてそう聞いてくる。なんだろ。

「そうです。アナっていう名前で、優しい感じの神様でしたよ」

「好きなもの、と言うから、どのようなものが出てくるのかと思えば……神器の出所であったか。なるほどなぁ。ははは、これは確かに、ソウジロウ殿を語るものだ」

額を叩いて笑っている。

俺を語るもの。そういえば、そういうこと言い出したのは、この人だった。

「女神アナ。ふぅむ……名前を聞かぬ神だが、我らに所縁の無き神が、神樹の森を拓くことで長閑に暮らせると神託する由もあるまい。さて、やることが増える。これは困った」

困った、と口では言いながら、その顔はなぜか楽しげだった。謎のセデクさんである。

「この女神像でもいいってことですか?」

「いいとも。芸術としての価値ももちろん──いや、それはそこの二人に聞いた方が良いかもしれんが」

後半は苦々しそうに言う。普段からさんざんに審美眼が無い、と罵られてるせいかもしれない。

ドラロさんとフリンダさんを振り向くと、二人は矯めつ眇めつ遠ざかったり近づいたりして慎重に見つめていた。

「どうですか?」

と、訊ねてみる。ちょっとドキドキする。

なにしろ、俺がハイになって作ってしまったようなものなので。

ドラロさんが顎に手を当てて唸る。

「……フリンダ、どう思う?」

問われたフリンダさんは、

「そうサねェ……アタシは勘違いしてた」

気難しげに、そんなことを言った。

そして、続ける。

「素人じゃァなかったね。こんなにも見事な木像は初めて見た。……素晴らしい、としか言いようがないサねぇ」

「儂も同感だ。こうして見上げると、まるで後光の差しているようだ。細かく細かく仕上げた服が本当にたなびいているかのようで、今にも動き出すやもという思いに駆られる。優しげな女神の微笑みを、息づいているように感じるのだ」

「なァにが『同感』かい。ぽんぽん語るじゃァないかね」

「むうう……」

思った以上に高評価されてる?

されてるなこれ。

まあでもそれより。

「継ぎ目が一筋も無いねェ……この狼も一木造りだね? 変態の仕事じゃァないかい」

「これが話に聞くシルキー・モス……伝説の精霊獣か……翅を再現するのに神代樹をこうも彫り込む……偏執的な意志を感じるな……」

「お二人の仲直りに役立って、なによりですよ」

人を変態だのなんだの、好き放題に言われていた。意趣返し混じりに、本音をつぶやくのだった。