軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八十一話 ドワーフの職人

第八十一話 ドワーフの職人

「んでェ? 鬼族の村の分と、 堅焼(かたやき) 様の分と、出刃包丁が五。柳刃が五。牛刀が十。大鍋を五。焼き串が四十。焼き鍋やら小鍋やらが二十。他にも……わんさといろいろ、ときた。さっそく、お得意様になろうってわけかィ」

ドワーフ族のフリンダさんは、俺が注文する鉄製品を数え上げながら笑った。

「新しい村を作ったばかりで、村人が新しいことを始めるところなんですよ」

「新しいこと?」

「料理です」

俺が作ったパンや魚料理に感化されたという鬼族は、ぶつ切りにして鍋に入れる、以外の料理を作り始めた。

まだ一部だけだが、手先の器用な者は率先して包丁を握り始めた。

しかし、剣鉈のようにごつい道具だけで事足りていた鬼族には、調理道具が少ない。それは俺も同じだ。そんなにちゃんとした道具は揃えていない。

つい、どっさりと注文してしまった。

「料理を、ねェ。……食えりゃァなんでもいい、手間はかけない。ってェのが、飢え死にしない教えなんだがねェ」

「あー」

日本人に限らず、現代人はサバイバルな環境で、食い物を前にして死ぬことがある。

この場合の食い物というのは、動植物だけではない。そのへんにいるバッタやクモといった、比較的簡単に手に入る蟲(小さい生き物)を含んだ話だ。

気持ち悪い、あるいは不味い。という理由で口にできず、飢え死んでいく。

飢え死にしない教えというのはつまり、不味い物でも食べられる教訓だ。

「森には、たくさん食べ物がありますし」

「そりゃ魔獣だろ? 普通は食べ物じゃなく、『死神』って呼ぶのサ」

フリンダさんはそう言いながら、パイプをぷかりと吹かした。焼けた葉の甘い香りが漂う。

「マ、しかし見本まであるんだ。作るのはワケないサ」

こういうのを作ってほしい、という モックアップ(見本) を木で作ってきた。

現在、それを並べておいた荷揚げ場で話をしている。

出刃包丁の見本を手に取って、つつつ、と表面を撫でるフリンダさん。あらゆる方向から余すところなく木型を見つめて、ほお、と息を吐いている。

「……良い仕上げだ。こだわりがある」

「照れますね」

本職の経験を積んだ職人に言われると、どうにもむずがゆいものがある。

「森のあるじ様が、アタシなんかに褒められて、嬉しいもンかい?」

「もちろんですよ。職人の先輩だ」

フリンダさんはぽかんとした顔で俺を見た。

なんだろう。

「調子が狂うねェ……初対面だろうに」

「ドラロさんが大事に仕舞い込んでいる指輪についている石は、フリンダさんが磨いたものだと、見せびらかしてもらいました」

石が立派すぎて、着けられない。そう言っていた。

宝石の価値は、素材だけで決まるものではない。原石は、磨いてやらなければ光ってくれない。

その点、ドラロさんが持っている石は、素人目にも分かるほど光の粒が美しく際立つ逸品だった。

「あンなもの、石が良かっただけサ」

ドワーフの職人が、つまらなさそうな顔つきで言う。照れ隠しの顔だ。本当につまらないなら、こっちを向いたまま言うだろう。

「他にも、ドラロさんのベルトとかナイフとか荷馬車とかも、フリンダさん作だって」

「なんでもかんでも見せびらかすのは、やめてほしいねェ……」

困った顔で煙を吐くフリンダさんだった。でも、ちょっと口元が笑ってる。夫の面白行動に。

「分かったよ。この店の隅々まで、アタシが手を入れたものは全部見たワケだね?」

「そういうことです。まあ正直、決め手は斧ですね」

「斧?」

「それが一番、自分の手に馴染んでるものなので。良し悪しが分かりやすいです」

〈クラフトギア〉でどれほどの木を伐採したのか、もはや分からない。

その経験から言って、フリンダさんの作った斧は素晴らしい頑丈さと、ただの道具には不必要な美しさまでしっかりと施されていた。

「こう見えても、神が作った工具を毎日振ってますから。フリンダさんの斧は、ただの斧なのがもったいないくらい、良い斧でしたよ」

「……作った物を褒めるとは、職人を口説くのがうまいじゃないかィ」

「それドラロさんには、別の言い方で伝えてください」

こっそり言うと、フリンダさんは大きく口を開けて笑った。

「マ、分かったよ。それなら注文を引き受けようかねェ。もともと、神代樹を焼いた炭で鉄を打てるなんて、断るわけがないけどサ」

ドラロさんのために断ろうとしてましたよね、とは言わないでおこう。せっかくうまくいってるので。

フリンダさんはツカツカと歩いて、俺が持ってきた炭を袋から取り出した。

手にした炭を、じっと見つめて、匂いを嗅いで、炭同士を打ち合わせて音を聴いている。甲高い音が響いた。

「ふム……ぬん!」

一本の炭を思い切り指で挟んで砕く。それから、一欠片だけだが、口を開いて炭を含んだ。

ゴリゴリと音を立てて、噛み砕いている。

「な、なにを?」

「ンー……いや、ちっとね」

曖昧にそう言ってから、小さな水筒を手にして飲み下している。アルコールの匂いがする。中身は酒だなこれ。

「プッハぁ! いや、良い炭だね」

「味が?」

「そうサ。これが一番分かりやすい」

断言されると、こちらとしてはなんとも言えない。

「けど、ンー……これは惜しいね。土で焼いたかい? 炭焼き窯でやらないと、品質がまばらになる」

今度はこっちが困った顔をする番だ。

フリンダさんが言ったとおり、この炭は集めた木材に土を被せて焼く炭火の作り方をしている。

炭焼き窯を建設したりはしていない。

「ちょっとまだ、村を作ったばかりなので……」

「神樹の森で使うとなると、獲物は魔獣ばかりだ。並みの鉄じゃァ、大変だよ。この近海の魚でもね」

「……つまり、この炭だとできませんか?」

「いや、駄目とは言わないサ。でも、質の良いのを選んで使うと、この量の炭じゃァ、注文どおりの数が作れない」

なるほど。

「もっと持ってくるか、炭焼き窯を作るか……いずれにせよ、追加が必要ってことですか」

「いや、ちょうどいいサ。最初はもっと少なく、お試しの数にしときな。そいつが気に入って、実際にもっと必要だと思ってから、炭と注文を持ってきな」

驚きの提案だった。

まとまった数を注文したのは、ドラロさんに言われたことが関わってくる。

いわく『特別な炭で新しい物を作るなら、特別な窯や新しい治具を作ることになる。少ない注文では採算が合わない』らしい。

まあつまり、そういう都合に合わせたつもりだったのだが、

「余計な気を回すんじゃァ無いよ。作った物に満足して長く使ってもらうのが、長い目で見りゃお互いに良い関係になるのサ」

ぷわ、とパイプの煙を燻らせて、ドワーフの頭領はニッと笑った。

「……言われたとおりにします」

「商人の言いなりになっちゃァ、良い職人にはなれないよ。森のあるじ様」

おかしそうに笑うフリンダさんに、俺は返す言葉もなかった。

うぅむ、含蓄のあるお言葉だ。いろいろと。

夫婦だからといって、本当の意味でなんでも口を出させるつもりはない。

そんなプライドが垣間見えた。