軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七二話 第二次拠点開発の始まり

「総次郎殿、まずはですね」

「はい」

「きちんとした作業所を作りましょう」

「はい……」

ラスリューにそんなことを言われてしまった。一応やりやすい場所で地面を均して使っていたんだが、まあ言われるのも無理はない。

拡張に次ぐ拡張で、どんどん作業場を移していたから、俺はいまだに青空作業してた。

でもそろそろ、きちんとした作業所を作れと言われたらそのとおりだろう。

その作業所で、また伐採の時に外で使える道具を作ればいいのだ。

青空作業だったのは、ひとえに俺の怠慢でもある。要するに、神器さえあれば、どこでも工房と同じことができるので、まだ作らなくてもいいだろうで先延ばししていた。

しかし、千種やミスティアを見て思ったのだが、試作品や作りかけを置いておく場所はあってもいい。

お気に入りの材木も、こっそり特別な場所に置いてあるが、あれも木工所に置いておけばいいだろう。

話が決まってからは早かった。

ラスリューはすぐに設計図を書いて、鬼族を呼びつけた。

建設作業はすぐに始まり、いつものようにスピーディに部材が作られ、運ばれていく。

頃合いを見て中休みを提案したのは、俺よりも鬼族の為だ。だいぶ汗をかいていたから。

ヒナがお茶を持ってきてくれたので、ありがたく喉を潤す。

鬼族ともだいぶ話しやすくなってきた。

「道中、大丈夫でした?」

「問題ありません。どうにか気配ぐらいは、探れるようになりました。手強い相手は、避けるようにしておりまする」

戦士のゼンは、作業では運搬と指導者役だ。

どうやら鬼族も森に慣れつつあるらしい。

「マコはまだ未熟な若者ですが、耳が良く、脚も速い。森の勘所を、エルフのミスティア様にご教示いただきましたゆえ、ようやくお役目を果たせるようになってきました」

「恐縮であります」

マコ、と呼ばれた鬼族の女性が頭を下げる。

馬頭鬼(めずき) のマコ。 牛頭鬼(ごずき) であるヒナと同じく、他の鬼とは一つ頭抜けた存在らしい。

こちらもヒナと同じく長身で、しかし一〇センチ程度ヒナより小さい。角も細めで鋭い一本角で、頭の上に獣の耳があった。全体的に、すらっとしたスタイルをしている。

「やっぱり、ここの魔獣は強いですか」

「押忍、問題ありません。我らの目的は移動。戦闘は避けております。あるじ様」

腕を後ろで組んで背筋を伸ばして、凜とした佇まいで、俺じゃなく前を見たまま答えている。

まるで兵士のようだ。

でも休憩中なので座っていてほしい。手振りで腰を下ろしてもらう。

「頑張ってください」

「押忍、お言葉光栄であります。感謝致します、あるじ様」

ゼンがゆっくりうなずいた。

「使えそうな素材を持つ魔獣もいます。いずれ魔獣を狩り出して、村の役に立てられるかと。ラスリュー様や総次郎様に、献上品を作れるようにと励む次第でございますれば」

「いや、そんなに急がなくて大丈夫ですから。今のところ、俺にも勝てない相手は出てませんし」

「そうでしょうな……」

若干、目を逸らされる。なぜ。

自分よりも村全体の発展を願って働く鬼達はとても勤勉だ。新天村の為、ラスリューの為、あとなぜか俺の為にも働くと、常々口に出してくれる。

そのひたむきさが強く目立つのはマコだが、ヒナも他の鬼族もだいぶその傾向は強い。

「そっちの村で、今作ってるものとかってありますか?」

「窯など、作っております。炭を焼くにも、土を焼くにも、窯が無ければ、と」

調理用の竈ではなく、炭焼きや土器を作る窯か。いずれ鉄器とかも作るのかもしれない。

文明を作るには、窯は必須の存在だ。

木を焼けば炭に、土を焼けば土器に、石を焼いて鉄器に、となにを作るにも原材料は窯や炉からできると言って過言ではない。文明には必須の存在だ。

そういえばうちには無い。

つまりうちは文明ではない。それはそうだ。神器とか魔法とかで回してる。

「窯はいいですね。こちらでも耐火レンガができたら、石窯とか作りたいくらいだ」

「石窯をそれほど熱望されておられるとは、意外です。神器を使えば、大抵のものは事足りると思っておりましたが……」

「石窯があると、パンが作れるんです。いや、今も作れるけど、もっと美味く焼ける」

「ほ、ほおお……もっと、美味く……さらに? あれが?」

ゼンが目を見開いている。そこまで驚かなくても。

「まあ無いものねだり、なんですけどね。粘土も赤土もあるけど、それだけで耐火レンガ作れるのか、わかんないですし」

「耐火……火属性ということですな……」

そんな四方山話をしながら、建設作業は進んでいった。

翌日。

「遅参の失態を、お、お許しください……」

建設の応援に来た鬼達は、全員血だらけだった。

「いやそんなことよりそれどうしたんだ!?」

「あれに襲われまして、死闘になりましたゆえ……」

と、ゼンが指差したのは、鬼族がそんな姿でも運んできた魔獣だった。死闘を繰り広げ、どうやら勝利して戦利品にしたようだ。

岩火熊という、腕と背中にも甲殻を持った、大きなヒグマだ。以前からちょくちょく出くわすが、鬼族が何人もかかってようやく倒せるか、くらい強いらしい。千種も最初はこれに襲われてた。

「肉と胆を献上いたしますゆえ、どうかご寛恕いただければ」

「いや、全部持ってっていいから」

「慈悲に感謝致します」

と、恭しく頭を垂れるゼンの背後で、マコが拳を握っていた。いわゆるガッツポーズっぽい『やったぜ!』感があるその勢いだが、俺は首をひねりつつもスルーしておいた。

材木所は、すぐにできあがった。

続けて家づくりに取りかかる。どんどんやろう。

数日後。

「ソウジロウ様、先日の失態を埋め合わせするべく、こちらをお納めいただければと……」

持ってきたのは、耐火属性のあるレンガだった。

岩火熊の甲殻を砂になるまで砕いて混ぜて作ったらしい。なるほど。

「……村の窯は、いいのか?」

「お詫びをするほうが急務かと」

どう考えても岩火熊の甲殻全部使っただろこの量は。

「パン焼いてほしいのは誰だ!?」

「押忍!」

まだ包帯が取れていないマコが勢いよく返事した。

……まだ若くて未熟、って本当にまだ無垢なのではこの子?

思わず眉間を押さえる。

「偵察してるのに仕留めるまで戦ってるの、おかしいと思ったよ……」

「しかし村の総意でもあります!」

マコが元気よく言った。

俺はゼンを見た。鬼は目を逸らした。

おかしい。鬼族が自分の村の発展より、食欲を優先している。俺のせいだろうか?

……俺のせいかもしれない。

心当たり、わりとあった。

「……ラスリューに、設計を頼んでくるよ」

パンを焼いてあげないとなるまい。石窯パンか。

まあ、大量生産できるメニューで良かった。そういうことにしておこう。

コマもたびたび同族に会わせて情報交換してもらって、村で料理を自家生産してもらうようにしないとな……。

あ、レシピが役に立つな。作ったものを記録してもらって、それを新天村への定期便にしよう。

鬼族の積極的な協力の甲斐もあって、俺の家はたちまち造りあげられていった。

石窯の設計図ができた時は、見学者まで出てきた。〈クラフトギア〉で石積みする左官仕事に興味があったらしい。鬼族も窯を作ってるから。

……自分達でも、パンを焼いたりするんだろうか。

まさに切磋琢磨という感じがしてきた日々だった。

ちょっと楽しい。