軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七一話 お部屋訪問

「そろそろ、三人でも四人でもお住まいできる家を建てられてはどうですか? 村の作業のお礼に、新天村の総力を挙げてお手伝いいたしますよ」

無事にご近所さんになったラスリューが、ヒリィを膝において顎をなで回しながらそんなことを言った。

「ヒナに十分助けられてるけど……」

「ヒナだけに村の全ての恩を背負わせるのは、酷な話ではないですか。ここで断れては、私の面目が立ちません」

あー、これは最初から選択肢が無いやつ。まあ、その状況にしたのは俺なので、仕方がない。

断るにしても、絶対になにかを引き換えにしないといけない。

しかし、いま特にやってもらいたいことというのは、あまりない。

「うーん……そうだ。村で飼ってる鳥なんですが、二、三羽譲ってもらえませんか?」

「もちろんです。お望みいただけるだけ持ってこさせます」

「二、三羽でいいので……」

新天村には、卵が普及していた。鶏卵より一回り大きいが、食べてみると鶏卵より少し濃厚な味わいをした、旨味の強い卵である。

それを産んでるのが、話に出た鳥だ。

バジリスクというらしい。

全身真っ白な体毛をしていて、嘴が黒い。そして尾は爬虫類のものが生えている。歩く姿は真っ白で丸いハトのようだが、群れる習性があるのか三羽ぐらいまとまって、家の壁際にぴったりとうずくまっている時がある。その時の姿はまんじゅう。完璧に球体をした、もこもこの白い饅頭。あるいは団子三兄弟。

めちゃくちゃ名前負けしていた。

しかし、逃げ出したりはしないし、群れでまとまって動いている、扱いやすそうなやつだ。

気になって鬼族に聞いてみたら、あれは村の中を歩き回って虫やトカゲを食べているそうだ。頑丈な小屋を作っておけば、暗くなる前にそこに戻っていくらしい。

かつて農家の庭で放し飼いにされていた、ニワトリみたいな扱いだ。肉も食べられるし美味しいという。

卵は今でも、鬼族にお願いして分けてもらっている。

しかし、そういう飼いやすい鳥なのであれば、こちらの拠点で放し飼いにしてやるのも悪くはないだろう。

そういうことで、お礼としてはありたがいのでラスリューにお願いしてみたんだが、

「それではオスメス二羽ずつ持ってきます。ですが、それとはまた話が別です」

別だったか。

しかし、それならもう特に思いつかない。

……悪いことではないし、腹を決めよう。

「分かりました。じゃあミスティア達と相談してみます」

俺と千種とミスティア、それにヒナ。

全員住むとなると、4LDKくらい必要になるんじゃないだろうか。そうなると完全に一軒家かそれ以上だな。

うーむ。森の中にそんなものがあったら、豪邸の別荘みたいだ。

とりあえず一番近くにいたヒナに聞いてみる。

今の部屋に不満はないか?

「ないです、滅相も」

倒置法? ヒナがぶるぶると震えて答えた。

ちなみにヒナが住んでいるのは、マツカゼたち用に作った厩舎である。人間をそんなところに、と慌てたものだが、俺以外はみんな平然としていた。割とよくあることらしい。

仕方ないので俺も割り切って、とりあえず、むき出しだった地面に板を張ってフローリングにしておいた。ムスビに動物の毛皮でラグを作ってもらって手渡し、折りたたみ式だけど椅子も作り、収納棚を上の方に作ってと改良した。

間仕切りだけだったので扉もつけた。

隣の部屋がマツカゼとハマカゼで、壁も間仕切りしかないが、いちおうネットカフェの個室と同じくらいにはなった。

ヒナはそんなものでも恐縮していたものだ。

「屋根裏とかで、普通です」

らしい。テーブルとかほしいなら言ってくれ。狭いから折りたたみ式がおすすめ。

「えと、紙とえんぴつ、あると。料理に使えていいです」

「レシピか。たしかに」

えんぴつはラスリューが持ってたはず。あとはメモ帳とノートかな。テーブルも作ろう。

「感謝、します」

満足満足。ヒナも嬉しそうだし、聞いて良かった。

「って、そうじゃないんだよな。家を作る話だった」

「家、を?」

ヒナは首をかしげた。

「ミスティアはどうだろ?」

「エルフは、袋一つ、どこでも行けます」

身軽な種族らしい。まあ、森の中なら自分の庭、みたいなところあるよな。

確かに、ミスティアは最初に出会った時、荷物の大部分を魔獣に持っていかれていたが、あまりこだわらなかった。

大した話にならないかもしれない。『あ、そうなの。別にいいわよ』くらいで。

ミスティアに、部屋を見せてもらおう。

「えっ、だ、ダメよ!!」

ちょうど部屋にいたミスティアを訪ねると、激しく抵抗された。

「どうしてそんなに急に?」

「確かに急で悪いけど……散らかってるのか?」

あからさまに焦っているミスティア。

しかし、俺の疑念にはむむっ、と唇を尖らせて不満を露わにした。

「エルフが部屋を散らかすなんて、ありえないわよ」

「じゃあいいだろう?」

「そういう問題でもないですしー……」

「あー、骨とか、いろいろ多いです。あるじ様」

長身のヒナが、窓から部屋を覗いてそんな感想を言う。

「きゃーっ」

ミスティアの悲鳴が響いた。

中に入ると、なにかのでかい骨とか、毛皮をかぶせた人形だとか、大小さまざまなブラシとか、枝とか、それに

やけに可愛らしい装飾の箱があるのは、たぶんリボンか。あれは見て見ぬふりしてあげよう。

それに壁にはいくつもの薬草・香草・なんか肉まで吊るしてある。陰干し?

確かに、散らかってはいなかった。でも、

「思ったより物が多いな」

「面目もありません……」

ミスティアはしゅんと肩を落としていた。

別に、意外だっただけなんだが。

「骨とか枝とか、この辺のはマツカゼとかヒリィと遊んでるやつだよな。たまに放牧場で振り回してる」

「うん」

「あれって、ずっと取ってあったんだ」

その都度どっかから拾ってきてるものかと。

「気に入ってる形とか匂いとかがあるから、つい……」

「これは魔獣の革を骨の形にして、乾燥させたやつだな。ヒリィがたまに囓ってる」

「そうなのー。これ好きなのよね、あの子。意外と」

「今度俺も何か作ろう、犬グッズ。フライングディスクとか、ボールとか。回し車とか?」

「私もなんとなくそうしてたら、もうどんどん増えちゃったのよねー。身軽な旅のエルフだった私としたことが、情けないこと」

自嘲するミスティアだった。

「千種、部屋見せてもらえるか?」

「な、なんなんですか? みんなしてぞろぞろ……」

ものすごく不安がられたが、見せてはくれた。

部屋は意外と整頓されてた。しかし、その一画に魔物の毛皮で作ったラグと、定期的に要求されるのでいくつも作ったモスファーが、もっふんもっふん敷き詰めてある。

……完全にモスファーを満喫しておられるなこれ。Yogiboの展示場か?

まあ、千種は影にあれこれ仕舞い込むから、まずいものは部屋になにか置かないだろう。

「あら、面白そうなのがあるわ」

「あー、それはダメなやつなのに」

普通に置いてた。

そういえば、影がごちゃつきすぎると、なにが入ってるかわからなくなる、って言ってたからな……。

ミスティアが見つけたのは、開けっぱなしの 長持ち(収納) の中にあったものだ。

「んー、たぶん遊戯盤?」

「ボードゲームか。あ、チェス盤だなこれ」

俺も見てみると、白と黒の市松模様が並ぶチェスボードと、その上に作りかけらしい駒が置いてあった。

意外にも、駒を手作りしているらしい。

「骨、ですね」

すん、とチェス駒の匂いを嗅いで、ヒナがつぶやいた。

「あっ、あっ、その、魔獣の牙を削って作ってるので……作りかけなので……」

わたわたしている千種。長持ちには、ロックハンマーとヤスリも一緒に入っていた。

それどころか、

「……リバーシと将棋盤と、こっちはひょっとしてトランプカード?」

テーブルゲームがいくつも納まっていた。

拙いものも、うまいものもあるが、手作りしてある。

「意外な趣味が。こういうの作るの、得意なのか?」

「あっ、ぜんぜんです。人と遊んだこと、ほとんど無いんで」

「それは逆にちょっと怖いな……」

……遊ぶ予定の無いボードゲームを延々と作り続ける。どういうことだ?

「あっ、これ、宮廷にいるときに職人にいくつか作ってもらって。それをお手本に複製してたんです。ちまちま手を動かしたい時に、ちょうど良くて。えへへ」

「そういうことか……」

つまり暇つぶしである。ウカタマの影響なのか、部屋の前には野草を育てるプランターを置いてあったりする。

漫画が無いので、それに代わる暇つぶしを指先に求めたんだろう。

「よくわかんないけど、遊べる物なら持ってくれば良かったのに」

「あっ……昔、これを持っていって仲良くなろうとしたら、誰一人遊んでくれなくてトラウマで……作ってもらった職人さんに申し訳なくて……全部自分で作ったら、もう一回挑戦する気持ちが作れるかなって……」

暇つぶしじゃなくて、 御供養(トラウマ治療) だった。

「分かった。今日はこれで遊ぼう」

「あっ、はい……えへへ、よ、良かった……」

千種の目尻に涙が浮かんでいる。意外と地雷だったなこれ?

部屋の中に分かりにくい地雷を堂々と置かないでほしい。気になって触ったら慎重に扱わないと爆発するとか。

結局その日は、テーブルゲームに少し興じて終わった。

ミスティアが強い。地頭の良さがある。

そして千種が弱い。一発逆転ばかり狙うのやめよう。

ゲームをしながら相談した結果。全員でひとまとめに一緒に住むのは、ちょっと保留にした。

折衷案として、俺の家を大きく作る。いざとなれば全員が寝泊まりできるくらいの大きさで。その家の近くに、それぞれの小屋を設置する。

部屋に不満がないと言ってくれたヒナには悪いが、さすがに厩舎まで移動させられないので、ヒナは引っ越しだ。

グランピング施設の、センターハウスとバンガローみたいなものだろうか。

「そういう結論になりました」

「もちろん構いません。でしたら、いろいろとできることがありますよ」

俺の話を聞いて、ラスリューは配置やデザインなどの別案をいくつも出してきたのだった。

ありがたい話だった。先手先手で用意してくれているとは。

……ミスティアと、どっちがチェス強いだろうか。

ちょっと、興味をそそられる対戦だった。今度それとなくすすめてみよう。