軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五八話 おさかなじゃない……

助けた漁船の人によって、危うく俺まで天龍族だと思われるところだった。天龍はアイレスだけである。

立ち寄った漁村では騒ぎになりかけたものの、セデクさんの名前を出したら、村の人たちはなんとか収まってくれた。

最近、村に漁船をプレゼントしたり漁を盛り上げてくれたりしていたらしい。そういえばそういうこと言ってた気がする。

さすが領主だ。

魚を買いたいと言ったら、村長さんがいくらでも持っていってとか言うので、逆にそれが困った。

本当にいくらでも持っていけるからだ。

必要なのはとりあえず味見の分だ。このへんの魚で美味いのがどれか分からない。

仕方ないので、ご厚意に甘えるという形で魚をもらっていくことにする。また今度セデクさんに、漁師さんたちから良くしてもらったと伝えてお礼をしておこう。

玉突きでセデクさんから還元してもらえば、漁師さんたちも断らないだろう。

「大丈夫です。領主さんと仲良くしてるので、海魔を倒したのはその一環ですよ。ほんとほんと」

……なんだかさっそく、セデクさん頼りになってる気がするなー。

まあそれはともかく、魚も貝もたくさんもらえてけっこうなことだ。鮮度が落ちないように〈クラフトギア〉で時間を『固定』しておく。

これで冷凍よりずっと長持ちだ。

「昆布や海藻ってありますか? あれ、食べない? ほんとに? いやいや、私が食べたいだけだからいいんです。帰りに自分で採っていきますから。いや海に飛び込まないでいいですって。わあー」

うかつに口にしたせいで、若者が海に飛び込んで昆布つかみ取りしてきた。そこまでしなくても。

まあいいか。

などとやっていたら、少し遅くなってしまった。

どうにか漁村から飛び立って、ミスティアの方へとアイレスが飛ぶ。ミスティアが向かったと思われる山裾あたりで、アイレスが雷を打った。落雷の轟音がこだまする中で、山裾の森から火の魔法が打ち上がってドンと炎を広げた。

魔法をクラクションみたいに使っている。うらやましい。

「遅かったわねー?」

「いやごめん。ちょっと予定外のことがいろいろあって」

ミスティアが不思議そうに言った。やっぱり待たせてしまったらしい。

謝る俺の横から、ひょっこりとアイレスが顔を出す。

「へえ、エルフ族でも『遅い』なんて言うものなんだね? それともぉ、ちょっと離れてただけでそう言いたくなるくらい、寂しかったのかな?」

「は、はあ!? えっと……そ、そうだったのかも……? ええー、なんかごめんなさい。恥ずかしい……!」

ミスティアが目を泳がせてアワアワしている。っていうか、恥ずかしくても認めてしまうのか。頭が良くて素直だから……。

難儀な性格の種族してるな。

「今日はもう遅いし、この辺りでキャンプしてから戻ろうと思う」

「そっか。それなら、ちょうど良さそうな場所に案内するわね」

ということで、森で臨時キャンプである。

「ソウジロウくん、ボクが本気出したらちゃんと日が沈むまでに戻れたよぉ?」

「いや、いいんだよ。そもそも、どうしても日帰りしたいわけじゃなかったし」

薪を拾う俺の背中に、アイレスがぺったりとくっついてくる。

なんか浮いてるのか、そんなに体重を感じない。なのでくっつけたままで歩いてる。

「ソウジロウくん……?」

「なんか態度変わったわね……」

千種とミスティアが二人で相談している。俺も思ってた。仲間はずれにしないで俺も相談させてほしい。

親戚の子供に唐突になつかれたような感じする。

「あっ、ミスティアさんが言うなら、わたし一回シメますけど……」

「エルフはそんなことしません。……野営になったのがイヤだったの?」

人間とエルフが種族性について争っていた。

「そ、そんなことないですよぅ! わたしだって、森の中で暮らしてるんですから! ここ最近で鍛えられましたからね!」

「……そうかな?」

俺は思わず素直な感想を口に出してしまった。

千種は手ぶらでミスティアにくっついて回って、言われたものを出したり「ここでロープ持ってて」などのお手伝いをしている。

それ自体は立派だが、森で暮らせるかというと……。

「う、う、ウカさんに食べられる草もいっぱい習いましたから! じゃあそういうの探してきますから!」

そう言って、千種は森の中に突撃していった。

「あらー」

「ごめん、ミスティア。頼む」

「まっかせて。野営の準備、よろしくね」

ミスティアが姿を消した。バレないようについていくらしい。

いや、俺としては普通についていってあげてくれればよかったんだが。

一時間後。

「こ、これだけ見つけましたぁ……」

「上出来上出来。あとは迷わなかったら合格だったから」

絶対こけたと思しき汚れがついている千種と、慰めながら歩くミスティアが帰ってきた。

「じゃあ、それ茹でたら魚食べようか」

千種が両手に握って持ち帰ってきた野草は、アラ汁に投入。

あとは塩焼きと、刺身。

千種が持ってきたクロス台に布を敷いて、おにぎりと一緒に並べる。

「焼けてないのあるわよ?」

「それはそのまま食べるんだ」

「生で!?」

「あっ、大丈夫ですか? この世界の寄生虫はお腹すごく痛いですよ」

経験談みたいな口調で言うな。経験談なんだろうなって思っちゃうから。

「寄生虫ならアイレスがなんか龍の波動で殺してくれたから」

「あっ、天龍族の異能でインスタントクッキングしてる……」

千種がうへえ、みたいな顔する。

「じゃあ刺身食べないのか?」

「わたしも一匹捕まえておけばよかったなって思ってます」

「あのね二人とも。天龍族はそういうのじゃないからね?」

「早く食べたいんだけどー」

すりすりと俺の後頭部に頬ずりしながらアイレスが主張していた。

意外なことに、難色を示しているのはミスティアだけだ。アイレスも魚を生で食べると言っていた。ちなみに頭から丸呑み。まあもとの姿が龍だしなこいつ。

「ミスティアは刺身は食べなくてもいいから」

「むう。そこまで言われたら逆に食べる」

「いや、醤油とか作れたら食べてみるのはどうかな」

いまだと味付けが塩とオイルと香辛料しかない。それが初刺身は日本人でもハードル高そう。

わいわいと打ち合わせしてから、ようやく食卓が始まる。

いただきます。

「あっ、これ塩レモンのカルパッチョ風?」

「か、かる……? 上にあるのはタマネギ?」

食べてから判明させる千種。どんなのだろうかと観察しているミスティア。

「そうそう。なにも掛けてないのはこっち」

「上級者コースいきまーす。……あー……アアー、醤油ホシイ……!」

わかる。

「頑張るか……」

「作れるんですか!?」

「味噌作ってるおばあちゃんに、醤油の作り方もちょっと聞いたことあるような……」

田舎では味噌も普通に自宅で作る人いたのだ。

「魚って、生でも食べられるのね……あ、美味しいー。でも感触はまだ慣れなーい」

「無理せず焼き魚とかにしておいても」

「ちゃんとどっちも食べるから。無理してません。私だって生肉は食べるんだから」

「ああー、馬刺しとかかな」

「冬場の鹿とかだけど……まあ、似てるものね」

カルパッチョはともかく、刺身には手を出していなかった。ほんとに無理してないらしい。良かった。

「手でいくなアイレス」

「あれ、ダメだった?」

この中で一番ワイルドなのは、見た目に反してアイレスだったという。

和服着てるけど、中身やっぱり龍だなー。