軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十話 エルフの面目

「飛竜って、立ったまま寝るのよ。まだ寝てるところ見たことないけど」

「へえー。鳥みたいだ」

まだ羽が治ってない飛竜は、だいたい飛ばずに歩いたり走ったりしてる。

過去に滅んだはずの生き物なので、伝承でしか生態が分からないらしい。

「じゃあ止まり木とか置いておくか」

「それが良いかも」

ということで、太い丸太で組んだ止まり木を置いておいた。

飛竜はさっそくガリガリと爪で引っかいていたが、しばらくしたらそれに乗るようになっていた。

ふーむ、猛禽類みたいだ。

ところで、俺は少し悩んでいた。

妖精が持ってきた米と酒。あれはどこかから借りてきたものらしいので、妖精に何かしら持たせて代わりのものを置いてきてもらわなければいけない。

「共犯ですよね、マスター? 金品ではなく何か面白いものをお願いします」

そんな注文までされている。

妖精の様式美に付き合わされるのはちょっと面倒だが、かといってお米をもらって恩を返せないでは不義理だ。

妖精ではなく、妖精から米を借りられた人に。

面白いもの。面白そうなもの。ついでに、ドラロさんに売れたり自分で使えそうなものがいい。

となると?

「ソファを作るか」

思い浮かんだのはそれだった。

下手に即席でアウトドアチェアなんて作ってしまったので、レストハウスに柔らかいものを置きたくなっている。

「だいさんせいです」

千種がぬっと出てきて一言つぶやくと、そのまま立ち去ろうとした。

「待て待て。ソファ好きなのか?」

「あっ、その、世の中の椅子って硬すぎるので、尻が痛くなるので……」

「尻とか言わない。中退でも女子高生名乗ってるのに」

「……ケツが痛くなるので?」

「悪化させるんじゃない」

ともあれ、需要があるのは分かった。

やっぱり木の座面だけだと、痛くなってくるよな。普段は良いんだけど、長居するならたまに柔らかい椅子とか座面が欲しくなる。

「……そういえば、千種だけよく座ってるからな」

「あっ、すみません。これからは立ってやりますぅ……」

「怒ってるわけじゃないって」

魔法で物を浮かせたり指定した場所に出したり、動く必要があんまり無い作業の時がある。

そういう時に、千種もよく椅子を置いている。

「とびきり良いやつを、頑張って作ろう。ちょっと協力してくれる?」

「あっ、はい。お願いします」

お願いされたので、俺は張り切った。

面白いソファといえば、あれしかないだろう。

まずは詰めるもの。袋状のものだ。

これはムスビにお願いした。破れなくてちょっと伸び縮みするような、とびきり肌触りの良い生地がほしかった。

俺が触ったことのある最上級のシルクよりもっとさらさらのムスビの布は、それにぴったりだった。

これを袋にして、どうせなら〈クラフトギア〉で接合してしまおうと考えた。

縫い目の感触が消えるように、糸を使わずにつなぎ合わせる。

「むああ……ちょっと大変だこれ……」

板や部品のように、面で固定しても点で固定しても硬い感触になってしまう。

ムスビシルクが柔らかくて滑らかすぎるので、面というか『固定』した部分の硬さが気になるのだ。

「糸……いや、繊維の一本ずつを繋げば、感触も消えるか……?」

布を綴じ合わせる指先に全神経を集中し、なんとか柔らかいまま口を閉じられるようになるまで、ちょっとかかった。

そして中身。

いろいろと悩んだのだが、とあるものを思い出してそれを詰め込んだ。

目指したのは、俺が知りうる限りいちばん柔らかいクッションだった。

千種に約束したとおり”とびきり良いやつ”と、自信を持って言えるように。

「というわけで、できたのがこれ」

サンドバッグみたいに、大きな筒状のクッションだ。

ウッドデッキの上にそれを置いてミスティアと千種に見せると、二人はさっそくこね回していた。

「すごーい! やっわらかくて形がいくらでも変わるから座ると沈んで……でも座れる!? こんなの初めて! あっははは!」

ミスティアはべた褒めだった。

そう、エルフの言うとおり、どこまでもぐにゃぐにゃしているけど、上に乗ると体を支えてくれる。

まあつまり、

「ヨギボーだー!! 人をダメにするやつー!」

千種は顔を突っ込んで叫んだ。

「……人をダメにするやつですよ!」

寝っ転がったまま、顔だけ俺に振り返って叫んだ。

もしかしていまダメになってる?

「気に入ってくれたみたいだな」

千種が生意気な顔で笑う。

「商品名は『エルフもダメになるソファ』にしますか? アイデアそのへんからパクリだし」

「……千種もパクリじゃないか。千種影操咒法って、集英社の許可取ってるか?」

「わわわわかんんあないっっぴぃぃ……! すみません……!」

女子高生が大騒ぎしながら大喜びだったので、ひとまず満足だ。

「どうやってこんなの作ったの? 中身なに?」

「イビルスライムの細胞を削って、マイクロビーズにしたんだ」

「スライムを?」

意外そうに言うミスティア。

ミスティアが言っていた『どんなに切っても球状になって固まる』という性質を利用して、細かく削った細胞をマイクロビーズ代わりに詰め込んだビーズクッションだ。

イビルスライム釣りには、千種が協力してくれた。

「あっ、わたしがまたぬるぬるになったのは、無駄じゃなかった……」

「無駄に余裕ぶるからだろ……」

千種が油断してスライムに捕まってたのは、完全に無駄だったと思う。おびき寄せるだけでいいのに。

「このクッション、ベッドのところに置いておくから、背もたれにでも使ってくれ」

そう、ベッドが大きすぎてクッションが置けないなら、その上で使えるクッションを作ればいい。

逆転の発想だった。

「これの上で寝たい……」

「まあ、それも好きにしてくれ」

千種はすでに、クッションの上で寝そべっていた。どうも千種とビーズクッションは、相性が良すぎたようだ。

気をつけよう。

「これ、どうかな?」

「優秀な妖精は、面白いのでオッケーです。アレは千年生きてるせいで世の中を分かっているつもりになりがちなので、新しいモノを見せればのたうち回りますよ、フフフ」

サイネリアの反応は、すごく良かった。

というかその相手って大丈夫なんだろうか。千年生きてるって絶対に人間ではない相手なんだが。

「いずれ会えますよ、フフフと優秀な妖精は笑います」

「もしかしてイタズラの対象って俺も含んでる?」

「フフフ」

ダメだなこれ。絶対教えてくれない。

「モス・シルクのソファかー……売るなら、買い手を探すところからかなぁ……」

もふんもふんと不定形に形を変えるソファを揉みながら、ミスティアがそんなことをつぶやいていた。

さて、ソファの評価が良かったので追加で作る。

あの試作はうちで使えばいいとして、妖精に渡すぶんとドラロさんに持って行くぶんだ。

ムスビを頭に乗せたまま、布の合わせ目を指でゆっくりなぞって繊維同士を『固定』していく。

四角く立体縫製する設計は、ムスビがパーツの形を整えて織ってくれたので、俺はそれをきちんと仕上げる係だ。

気を抜くわけにはいかない。

「んっきゅあぁぁ……」

「ん?」

奇妙な鳴き声が聞こえて、レストハウスを振り返る。

ウッドデッキで、どしんと飛竜がうずくまっていた。

怪我が痛むのかと思って慌てて駆け寄ると、

「また新入りに襲われたぁ……」

ビーズクッションの横で、クッションから投げ出されたらしい千種が、うちひしがれていた。

まあ、こっちはいつものことか。

それより、

「竜が、寝てる……」

クッションに頭を置いて、気持ちよさそうに横たわっている。

「……お前、もしかして普通に寝そべるのでは?」

語りかけると、うっすら目を開けた竜がグルルと軽く鳴いて、また目を閉じた。

そうだよ、と言われた気がした。

その日は、竜小屋の中にオガクズを、なみなみとプールのように入れてみた。

翌朝に見に行くと、竜はオガクズの上で横たわって寝ていた。熟睡だった。

「……鳥じゃなくて、馬だなこれ」

立って寝られるけど、横たわっても寝る。そういうタイプだ。

「面目ないです」

ミスティアが恥ずかしそうに顔を手で覆っていた。

そういうこともあるよ。