軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十三話 趣味に走る

Aフレームの小屋は、難しい構造をしていない。

要するに、人が入れるサイズのくさび形の箱を作ればいいのだ。

とりあえず、大きい石を並べて基礎にする。

その上にまずは四角のフレームを置いて、薄い板で底面を作る。その上に、CNFフィルムで二重窓のようなものを作り、空気の層を置く。これで防水と断熱になる。

それから無垢材の板を並べれば、四角い床が完成する。

今回はけっこう広めにした。人間が二人寝転んでもまだ余裕があるし、四人くらい集まっても、ボードゲームができそうなほど。

次に、四角い床の垂直方向に二本の辺を加えて、三角形にしていく。

垂木のように二本の木をあらかじめ斜めにくっつけておいたものを、床の上に並べていく。

これだけでもう、基本となる骨組みは、だいたい見える。

「あっ、三角テントが見えます」

「基本はあれと同じだからね」

一緒に作業してる千種は、そんなことを言った。

かなり大きく作ったので、二階というかロフトを作っておく。スペースは無駄にしない。

壁をつける前に、ロフトの床を張る。

「狭くて暗くて、良いところになりそうですね……」

「上にもちゃんと窓つけよう」

「光が!」

あらかじめ窓にする場所は決めておき、窓は別で作っておく。

そして扉だ。

意外と部品が多く、組み立てもけっこう手間だった。

かなりまともな扉にしたせいかもしれない。扉には窓があって、これもCNFフィルムで透けている。

組み立てた扉を、正面につける。

外壁を張る。

壁を作りつつ、決めておいた場所に窓を置いておくのを忘れない。

外壁の上にCNFフィルムを貼って、防水を施す。

「あ、あの、こういうの使わなくても、神器で全部を『固定』すれば熱も水も通さないと思いますけど」

「水一滴も通さない桶が作れる神器だろ?」

「はい」

「空気も通さなくなって窒息するのが怖い」

「ひえっ」

釘やタッカーを打つ代わりに、釘のように点で『固定』して接着していくので大した手間も疲れも無い。

まともに作ればいいだけの状況で、手を抜こうとして死んだら馬鹿馬鹿しい。

外壁にフィルムを貼ったら、その上から板を張り、黒い塗料で塗装する。

森の中に、キリッとした印象の黒いクラシックなAフレームキャビンがそびえ立つ。

さらに、この小屋にはもう一つギミックがある。

壁の片側に、床から人の頭の上まである高さの大窓があるのだ。壁の片方が、大部分透明の窓と思ってくれればいい。

その大窓からは外の自然の風景がよく見えるので、小屋にありがちな閉塞感が、まるで無い。

夜に灯りを灯すと、キャビンがまるでライトアップされたように輝いて見える。

その横と正面にはウッドデッキが広がっていて、デッキに置かれた椅子に、腰を下ろしてくつろぐこともできる。

まさにロマンを詰め込んだオフグリッドキャビンが、そこにあった。

「できたぁ~!」

「おめでとう~!」

数日間かかりっきりで作っていた建物がついに完成し、拍手してお祝いしてくれるミスティア。

やっぱり嬉しいな、こういう反応。

「どうでしたか、作ってみて感想は?」

「大変だったけど、できあがりを見たら思ったより良かった。やってみるもんだ」

ちょっと大変そう、くらいをもっと攻めた方が、いろいろと経験になりそうな手応えがある。

「職人みたいな感想ね! 私もよくできてると思う! 素材が持ついろんな種族の魔力に、神器が手を入れることで調和した一体感になるから、うるさくないのね。景観も地味だけど雰囲気があるので、良い感じです」

予想外すぎる角度の感想……!

魔力? そういうのよく分からない。

「エルフみたいな感想です、と優秀な妖精はため息です」

「エルフですけど?」

サイネリアがふわりと宙をスライドしてきて、ミスティアに告げる。

「エルフは外も中も見ており、それは結構ですが人に伝わるかどうかまでは考慮しない。それが、傲慢と言われたりするのです」

「ひと目見た時に肌で感じたことを伝えるのに、言葉を選んでいては遅いでしょ!? 解釈は後でいくらでも伝えられるんだから、まずは初見の衝動を伝えないと!」

「人をおちょくるのは、妖精族の特権です。エルフは天然でやるのでムカつきます」

利権争いが起きている。わりと妖精の方が悪党だ。

「美観も魔力も結構ですが、飾り気が少ない割りに板材一つ一つに仕上げを施してあり、また節目が見えないような素材の選定がされていますね。木目に価値を見出すタイプの種族的美観を感じます。

景観の中に埋もれて目立たず隠れてしまうと思われがちな黒無地の塗装ですが、森の中で幾何学的直線の構造物を黒く塗ると、むしろ目立ちます。魔法の光を無垢材の内壁が反射した照明は、どことなく暖かな光に満たされるはず。良い心配りです、マスター」

「そうかな。思いどおりにいってると嬉しいけど」

めちゃめちゃ褒められてる。嬉しい。

「私もそういうところ思ってたから! ちゃんと! すごく良い!」

「センスがあろうとも、語彙力と早さがものを言うのです」

ミスティアの主張に、勝ち誇る妖精。

どちらの味方をしても後が怖いので、ちょっと話をずらす。

「千種も頑張ってくれたから――」

「あっ、その戦場に投入しないでください」

俺が水を向けようとすると、千種はうずくまって闇の塊になって隠れた。

作業してる時は、一緒に頑張って作ってくれたのに……。

みんなで中に入ると、妖精に言われて作ったダブルサイズのエアマットを置いたベッドが、中央に鎮座している。

「ほほう、なるほど」

ひゅん、と素早く飛んでベッドの上にダイブした妖精が、色っぽく寝そべりながら言う。

「セックスができそうな部屋ですね。優秀な妖精としては評価は70点です。やりたいという意志が伝わって――」

「せいや」

ベッドの端を思い切り叩くと、上で寝そべっていた虫が吹っ飛ばされた。

制作者の心をあれだけ読み取ろうとしてたのはこの前フリだったのかよ。

「ミスティア、やっぱり妖精の方が邪悪すぎるから、気にしないでいいと思う」

「あ、はい」

千種みたいな反応された。

「このベッド、マットもシーツもムスビが作ってくれたやつだから。使いたい時は空気を入れて膨らませてくれ。で、使わない時は空気を抜いて、しまっておいてくれ。下の台は分割して足を畳むと半分のサイズになるから、長椅子として使える」

「へえー、便利」

「あと、この透明の大窓だけど、上に黒いフィルムがあるからこれを下ろすと中を隠せる」

「ふむふむ、チグサはずっと下ろしてそう」

「あっ、はい」

「実際、千種に言われて作ったからこれ」

「陽射しが入らない方が良い時もあるものね」

にこにことミスティアが千種を振り返るが、言われた方は愛想笑いしながら目を逸らしている。

「それと、これが一番大仕掛けなんだけど……なんと、この大窓が開いて、直接ウッドデッキに出られる」

窓を押すとぱかりと下から持ち上がった。そのまま頭の上まで押して、横にある足を立てれば、透明な外壁はウッドデッキの天井へと変貌した。

「うわっ、すご! えー、なにこれー! すごーい!」

天井を見上げて、ミスティアが目を輝かせている。

「そういう顔が見たかった……」

感無量だ。

「……ひみつきちかな?」

「 エルフ(百歳超え) と マスター(おじさん) が一番喜んでるので、そんな風に言っては立場が悪くなりますよ」

「ひえっ」

千種と妖精がひそひそ話していた。若者め。

「まあとにかく、これでゆとりができたな。大満足だ」

「ゆとり?」

千種が首を傾げる。

「突発的に物が増えたり、動きにくくなったりしてもしばらくは平気になっただろ。水や寝床に、余剰があるから。もし千種と一緒に人里に行ってたくさん物を買ったり、予期しない大物が獲れたりしても大丈夫ってことだ」

「ああー、なるほど」

「あの町には良い商人さんがいるんだよ。なにか売れそうな物を作れたら、持って行ってみよう。きっと喜んでくれる」

「セデク、まだ売り先は見つからんか。それでも子爵か?」

「そんなにせっつくな。年長者の商人らしく、ゆったり構えておけ、ドラロ」

「あんな大物が私の手元にあって、落ち着けるか!」

「あー、まあ、あてはあるぞ? とある王の嫡子が戦傷を負ったらしくてな、傷が毒を持つのはよくあるし、それとなく話を……」

「……御用商人に?」

「王に」

「お前が引き取って城館で預からんか! 私の手元にアレがあるうちに何かあったら、私の責任になるわ!」

「うちの倉庫は絵でいっぱいでなぁ」

「捨てろそんなゴミ!」

「ゴミとはなんだ! お前の店の倉庫がいちばん清潔で整頓されてるし、そのまま置いておけと息子に言われたんだ! 責任だけうちが引き取れば文句あるまい?」

「ぐぬう……正論だが……!」

「まったく、そんなことで大丈夫か、ドラロ? ソウジロウ殿が、また来た時が思いやられる」

「ふん! エルフと二人でなら、あれほどの物資は一年以上は平気なはずだ。同量以上のスパイスや薬も、とっくに手配しておる! いつでも取り立てに来てもらってけっこう!」

「……人が増えてたり、魔獣に食べられたりしたら、またすぐにでも来るだろう? それにあるいは取り立てではなく――もしも、もっと売りに来たらどうする?」

「…………あれだけの貸し付けをしたら、十年は寝ててもいいが? 寝ててくれないか?」

「私に言われてもな。……もし、私が描いた絵が高値で売れたら、次は金額に関係無くもっと描くぞ。――息子に、手紙をもっと出せ、ドラロ」

「くううう……!!」

「へー、そんなに良い商人さんなんですかー」

「そうだよ。だからまあ、そんなに間を空けずにまた町に行こうかなと」

こんな森の中で作る何が売れるかは分からないが、きっと何かがあると思う。

ハンドメイド品を作ってたまに売って、それでちょっとした贅沢をする。

辛い労働者経験をしたせいか、そんなのんびりした生活には、密かに憧れがあるのだった。

「あっ、おお手伝いしますね」

それに、いろいろと作り上げるたびに、千種は嬉しげに完成品を見つめている。

もしも人に買ってもらえることがあれば、一度は死んだ目で異世界を語っていたJKも、もしかしたらもっとたくさんの作る喜びを見つけられるかもしれない。

俺の憧れの生活と、千種の社会復帰と、ドラロさんの商いに貢献する。

一石三鳥だ。

「ほどほどにだけど、頑張ってみよう」

「あっ、ゆ、ゆるファイですね」

千種は小さな手を緩く、しかしちゃんと握り締めてうなずいてくれた。