軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十一話 JKが揉まれたもの

簡易シェルターの解体を終えて、俺は拠点へと戻った。

女子高生を連れて。

衰弱してる千種はとても足が遅かったので、ムスビが糸で吊して運んでくれた。

「ただいまー、マツカゼ。うおっ! はいはい抱っこな抱っこしておいおいおいおいおいおいおいおい、元気すぎる」

久しぶりに会えたマツカゼの熱烈なタックルを抱っこして受け止めると、うなぎより激しく腕の中で暴れ回りながら顔を舐め尽くされた。

「う、ウカタマも、留守番ありがとう」

暴れるマツカゼを抱きかかえつつウカタマに言うと、静かにこっくりうなずいて俺の足に抱き着いてきた。

お前もだったのか。

身動きが取れない。

「もっ、モフモフ! モフモフだぁ……わあぁ……」

ふらふらと千種が近寄ってくる。と、

「グァゥッ!」

「あふんっ」

マツカゼが激しく頭突きして、寄ってきた女子高生を迎撃した。

「こ、こらマツカゼ。ごめん興奮してるからだと思う」

「うぅぅ……しくしく……」

千種はさめざめと泣いた。

暴れ疲れたマツカゼがようやく興奮を収めたところで、改めて顔を合わせて挨拶させた。

今度は攻撃されなかったが、千種はしょっぱい顔で距離を保っていた。

ごめんな。

「た・て・も・のある!!!! 神樹の森に!! 死の未踏領域に!?」

気を取り直して大荷物を置きに拠点の小屋へと行くと、千種は叫んだ。

「そこまで驚かなくても」

「この森の魔獣と樹木を押しのけて開拓するのは、神々以外には無理って言われてるのに?」

「そうなんだ。異世界通っぽいね」

「ふ、ふへへ、それほどでもぉ」

この子、思ったより賑やかな性格なのかもしれない。

まあ、それならミスティアと気が合うかも。ちょうどいいか。

「まあとりあえず座って」

「テーブルと椅子! テーブルと椅子じゃないですか! 文明! 完璧に住んでる! なんなら快適にしようとしてる!!」

「いまお茶淹れるから」

「お茶が!!?」

「あるある。自家製というか、その辺で摘んだ草とか、木に生えてるキノコだけど」

ミスティアが作ってくれてるので、毒性は無い。ちょっと苦いけど。

「お茶ってそう作るんだー」

笹の葉とかむしってお茶にしたことなさそう。都会育ちだな。

お腹を壊してるらしいので、温かいもので水分補給させた方がいいだろう。

手早く火を起こしてお湯を沸かす。

「あ、ちなみにトイレは向こうにある小屋がそうだから」

「トイレある!? んですか!?!!」

「洋式だから」

「よ・う・し・き! もしかして個室で便座が……!?」

「ついてる」

「大勝利だぁー!!!!」

いちいち驚いてくれるの、ちょっと面白いな……。

「文明的すぎるぅ……あ、でも紙! 紙ならわたし持ってますけど!?」

「え、ほんと? でもどこに?」

手ぶらの千種は、荷物ゼロにしか見えない。

「……にゃる・ふたぐん」

なにかを呟いた。

と思ったら、千種が食卓の上にかざした手の影から、粗末な紙がにゅるっと出てきた。

「おおっ、魔法だ」

「わたし、物を影の中に仕舞っておけるので……」

「すごいじゃないか」

感心した。でも千種は暗い顔で笑う。

「なんの役にも立たんすよ……いくらでも影に仕舞えるけど、高価な宝石とか入れてたら、とある街でいきなり鑑定魔法で密輸容疑ふっかけられて、無一文になったうえにそこの領主と戦って……」

「あー」

「個人で半年分のパンとか買うには、冒険者ギルドに申請出してそれが妥当かチェックとかあって……」

「社会の荒波に揉まれちゃったか……」

社会人でも強敵になる社会制度のアレコレが、高校生に襲いかかったようだ。

学校で教えてくれないのにいきなり襲いかかってくるからな、社会制度。

「っていうか、逆に制度がしっかりしすぎててすごいな」

「そういう制度を作っておくと、それを避けるための納税とか賄賂が活躍するみたいで……あと、有名な冒険者に、こうやっていちゃもんつけるのに役に立つみたいで……」

「ああ、そういう……」

別に全体を見張る必要も無くて、行使するつもりすら無くて、普段の小銭稼ぎといざという時に大義名分を作るための立法。

権力者がやりそう。

「この世界って、民主主義じゃないわりに、ギルドとかにコネが無いとそういう悪いところだれにも教えてももらえなくてですね……」

「フリーランスのつらみ……」

すごい能力だけあっても、社会人経験無いからそういう制度でトラブルが……。

話題変えよう。

「えーっと、実はここにいるのは俺だけじゃなくて、エルフもいるんだよ。三日くらい待ってくれれば、戻って来る。同じ女性だから安心してくれ。彼女なら、千種を人里に案内してくれると思う」

ミスティアなら頼りになるはずだ。

と、思ったんだが、

「……う」

千種は涙を浮かべた。

「う゛ーっ、イヤだぁ。戻るのもヤダー!」

「ど、どうしたんだ?」

「手ぶらで戻ったら宮廷の奴らの追跡から逃げつつダンジョン行ってギルドの人にも冒険者にも厄介者扱いされながらお金稼がないといけないのヤダー!」

「あー……」

思ったより気の毒な境遇のようだった。

俺も似たようなものだし、気持ちは分かる。

先の見えない労働に嫌気が差していた前世の自分。

若い自分に「みんな払ってる」とか言いたい放題の相手に四苦八苦しながら働き続け、手探りでおかしいんじゃないかと考えて。

一念発起して転職したのに、今度は違う形で八方塞がりになって、上司や同僚も信用していいのか分からなくなって。

そんな社会が嫌になるのは、なんだかよく分かる。

この子は、女子高生の時分で、そんな目に遭っているんだ。

……いや、女子高生じゃなかった。三年くらい経ってるらしいし。

「もう最近はご飯の味しなくなってきて……食べるのも辛いし……うぅ……」

それはもう、さすがに見過ごせない。

「……だったら、ここにいていい」

思わず、そう言っていた。

千種がきょとんとする。

「うぇ?」

「ここにいていいよ。君の小屋も、建ててあげよう」

前のめりになる千種

「ほ、ほんとに? いいの?」

「いやまあ……千種にできることをやってもらいつつ、っていう形になる。それでも良いなら」

女子高生の顔が、青ざめる。

「それはつまり……お兄さんの足置きとか、椅子とか……?」

「いやもっと別のことがやれるよ、きみには」

「わ、わたしの価値なんて骨と皮しかない……。チビだからハンガーラックも無理……」

「いったん家具になろうとするのから離れようか」

この子ちょっと怖い。江戸川乱歩かな?

「きみの闇魔法はすごいよ。ヒグマを止めたのも、隠れるのもすごかった。物を影の中に仕舞っておけるなんて、信じられないよ。すごいよ」

「……そんなことありませんてぇ。ひ、ふひひ」

ニヤついてる。この子けっこうチョロいな……。

「俺は魔法が使えないんだ。いろいろ、頼みたいことはあると思う。やってくれるなら、ここで寝泊まりしていってくれ」

千種が、涙を流しながらうなずいた。

「う゛ぅっ、や、やらせていただきましゅ……!」

この子は俺と同じ故郷から来て、なお辛い目に遭った子だ。

助けてあげたい。そう思った。

「あと、実はちょっと味見役が欲しかったんだよ。いろいろ試したいレシピあって」

「ご飯までくれるんですか!? 神……!?」

調味料が増えたので、アレとかアレとか、作りたいものが増えてる。

おじさんは、若者に食べさせるのが好きなものなのだ。

「こここれで私、陽キャに日照り殺されないで闇に篭もっていられるんですねっ……!」

「日照り……? まあ、同性のエルフもいるから、安心してくれ。彼女にいろいろ教わると良い」

「し、下っ端に組み込まれた……! だ、ダークエルフとかそういう種族ですか?」

「ハイエルフって言われたけど」

「光がッ……!!?」

千種が、申し訳なさそうに言う。

「ところで、あっ、あの……えっとぉ……こんなこと言うと怒られるかもですけどぉ……」

「言ってみてくれ」

「な、名前なんでしたっけ? いえ違うんですちゃんと聞いたのは覚えてるんですけどなんか微妙に覚え間違えてたら失礼かもってなっててそれすみませんすみませんすみませ」

「ソウジロウでいいよ」

「あ、はひぃ! ソウジロウ様、よろししくおねがっ、まっ!!!!」

「呼び捨てでいいから……落ち着いて……」

「あっ、これは……あの、喋るの久しぶりでっ、――んぐっ、の、喉がもう逝っただけです……」

無言でお茶をすすめると、千種はぜーはー息を荒げながら必死の顔で飲んだ。

……アクの強い子だなー。