軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十話 媚びるJK

なんとか女子高生をなだめて話が聞けるようになった。

まだ警戒されてるらしく、シェルターの中でうずくまりながら、こっちを怯えた目で見てくる。

「あっ、わ、わたし…… 一百野(いおの) 千種(ちぐさ) ……です」

「どうも、桧室総次郎です。この度は、うちのムスビが大変失礼なことを……。いや、俺も気の毒なことをしてしまって、すみません一百野さん……」

頭を下げると、千種は暗い顔で半笑いした。

「いえいえ、わたしこそ自分の分を弁えずに無駄に抵抗したせいでお見苦しいものをお見せすることになってもう恥ずかしいやら死にたいやら首吊りたいやら腹切りたいやら電車に飛び込みたいやら」

「死因増やしていくのやめようか」

ちょっとネガティブな言葉を止めさせてもらう。怖い怖い。

それからふと気付く。

「一百野さん、いま”電車に”って言ったよね。もしかして……」

「そうです、わたし、日本人です。も、そんな丁寧に扱われなくていいのでどうぞ呼び捨ててください怖い怖い怖い……」

「卑屈すぎて呼びにくい」

「おっ、およよお呼びあそばせ!!」

「ブフッ」

思わず吹き出すと、女子高生は無言で闇の中に消えた。

「……千種、なにもしないからもうちょっと落ち着いてくれると助かるんだ」

真面目な顔を取り戻して再び呼びかけた。

ともあれ、本当に女子高生だった。

こんな森の奥で、異世界人に会うとは驚きだ。

「なにもしない……? ほんとうに……?」

「俺も日本人だよ。この世界的には、異世界人?」

見た目は本当に普通に女子高生だ。

黒髪黒目で、日本人。セーラー服と黒いマントで、なんだか文化祭でこういう子がいそう。

ただしちょっとビクついていて、くせのある黒髪でうつむいた顔を隠していて、ハロウィンにはいなさそうではある。

「ふ、ふへえ、異世界人……同じ……」

「同じだよー。意外と多いのかな、異世界人」

俺が何気なくそう言うと、女子高生は不敵な笑みを浮かべた。

「フッ、お、お兄さん異世界初心者ですね?」

「確かに、まだ一ヶ月も経ってないかな……」

「はー、そうなんですか……ここう見えても私はもうね、三年もいるわけで? お兄さんがまだ異世界初めてじゃ知らないかもですけど、異世界人なんて珍しいの極みなんですよ?」

「へえー」

もぞもぞと簡易シェルターから出てきた千種。

いきなり口数が多くなって語ってくれる。

……ん? 三年経ってる?

「じゃあそのJKの制服、ただのコスプレなんじゃ……」

「フッ……わたし、卒業したおぼえないですから」

それはそうだろうな。

「ついでに言うと、この世界じゃ魔力や聖気を取り込みまくった体が、老化が遅くなったり肉体が変質したりも、当たり前なんですよねー」

「たしかに初耳だ。もの知りだね」

ちょっと心配しかけたけど、わりとよく喋るなこの子。良かった。

「つまり私は、身も心もまだJKっていうか? あっ、それに一応だけど? 私もチート級魔法使いやってて? 冒険者としては名高いAランクで、みたいな? ふへへ」

ばっさぁ! とマントを翻して言う千種。

そうか、なんかすごい魔法使いなのか……。

「そんな子が、なんで俺の作ったシェルターに?」

「う゜あ゜っ……これお兄さんのだったんだ……。この異様にクソ頑丈すぎる最強テント……」

いきなりうろたえて後ずさりする千種。

「だ、だって伝説の”神樹の森”だからって、あんなバケモノだらけだとか思わなかったし……なんかここのフィールドと私って相性悪いし……闇魔法って奇襲安定なのに予知とか探知系の魔獣多すぎっていうか……これセーブポイントかなって……」

「闇魔法……? さっきは『千種のナントカ』って言ってたような……」

「あっ、ち、千種影操咒法です。そういう技です。この世界で流行ってるんです。 略式召喚(にゃる・しゅたん) 」

蛸足をちょろっと生やしてみせる千種。

「流行ってる……? そうなんだ」

にゃる?

まあ、若い子の流行りって変わってるもんな。

「結局、千種はどうしてこんな森に来てシェルターに引きこもってたんだ?」

「あっ、それは……三年で、いろいろあって……」

「いろいろ」

おうむ返しに言うと、いきなり女子高生の目から涙が流れた。

滝のような汗と涙を流しながら、ガタガタ震えだす。

「……わたしみたいな陰キャでも異世界で魔法チートあればイケるじゃんとか思ってイキリ散らしてたら宮廷政治に巻き込まれてて知らない人に求婚とか夜這いとかこっちは陰キャだし襲われた自慢とか言われるし女怖いしそれ学校と同じだし冒険者もコミュ力無いしソロプレイしかできないし一発逆転で神樹の森に来たら敵強すぎレベチすぎだし」

「ごめん、よく分からないけどごめん」

なんか怖いので止まってくれ。

千種は頭を抱えてうずくまった。

「いきなり襲われてちょうど洗ってた下着を影分身に被せて臭いつけて囮にしたせいでああいう登場になっちゃったし……」

「あー……」

千種が顔を上げてこっちを見てくる。

「お兄さんの武器強すぎないですか? あの蛸足も、めっちゃ頑丈なはずなのに一発アウトされたからもうわたし終わったと思いましたぁ……」

「武器じゃなくてこれは工具だけど。あのシェルターを作れる神器でして……」

「あああのテントのおかげで生き延びました、わたし。わたしのチート能力は『闇魔法極大適性』だけど、テントは建てられないんですぅ……。もうわたしテントから離れない。第二の故郷にします。おそとこわい」

変なことを言い出した女子高生に、俺は言いづらいけど言わないといけないことがある。

「あの、実はシェルター解体しに来たところなんだ……」

「や、ヤダー! わ、私がようやく見つけた屋根のあるモンスターに負けないお家なのに……!」

「テントとかは?」

「二日で魔獣に食べられました……」

「帰れば良かったのでは」

「迷いました……」

「……食べ物は?」

「食べてたら襲われるし、現地調達したらお腹壊して……もうそろそろ死にそう……」

よく見ると、女子高生はけっこうやつれていた。

……なんてこった。この子、サバイバル力がほぼ皆無だ。

腹を壊すところまで来てるなら、水だけあっても近いうちに脱水症状で普通に死ねる。

たとえシェルターを壊さなくても、このままここに置いていったら、見殺しにしたも同然だ。

同郷の女子高生を見殺しにするのは、さすがに良心が痛む。

「その……良かったらうちのキャンプ地に来るか?」

「い゜っ――――――――行きましゅ!!!!」

そういうことになった。