軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百二話 卓上の火

「村では今、いろいろな器を作り始めております。あるじ様に木の椀をいただいたことが、鬼族を刺激したようです」

「食器作りをしてる、ってことか?」

「はい。木を加工するのはこの地では難しいので、土を捏ねて」

鬼族が陶芸を始めていた。

イルェリーを乗せて飛び始めたヒリィを見るために、ラスリューが拠点に通い詰めている。

そんな天龍とお茶をしつつ、世間話をしていた。

「鬼族はもともと、大地の魔力に馴染みやすいですから。炭も、良質なものが作れるようになりましたので」

イルェリーの助力で、神代樹から作る炭は炭窯や焼き上げを改良したらしい。

炭焼きの副産物から作れるものがあるそうで、イルェリーは炭の作り方を相談していた。

俺としても、ドワーフ族に調理道具を作ってもらうために良質な炭は欲しかった。

と、ラスリューに言ってみたら、すぐに炭焼き小屋が建てられた。

どうやらそこで作る炭を、陶芸窯に使っているようだ。

「屋根の上に敷く土板を作っていたのですが、そのうちに他にもあれこれと増えまして」

「屋根瓦から派生していったわけだ。なら、ベアリングもっと作ろう。ろくろ回すのに使えると思うし」

つい、手元でろくろを回すポーズをしてしまう。

「総次郎殿が気を回すことでは」

「まあまあ。作り方を忘れないようにしたいから」

使う予定のあるものを作るのは、こちらとしても気が楽だ。予備まで作っても無駄にならないし。

「釣り竿がいくつかできたから、そろそろそっちの湖で釣りに行きたいと思ってるし」

「歓迎いたします。こちらで部屋も用意しましょう」

嬉しげにラスリューが言ってくれる。あのお屋敷に、泊まる部屋を用意してくれるということだろう。

湖で釣りをして、お屋敷で一泊。ふむ。

「うーん……」

「お嫌ですか?」

「嫌とかではないんだ。でも、なんかそういうのではなく……キャンプに行きたいんだ」

「キャンプに」

ふむふむ、とうなずいてくれるラスリュー。でもたぶん、伝わってない。

俺自身が、曖昧な感覚で話してるせいである。言語化が難しい。

「田舎育ちだったから、山や森の中でも、家に泊まると楽してると思いがちで」

グランピングみたいなのは、確かに楽なんだ。

楽なんだけど、なんていうか楽をしたいわけではなく。

「どうせなら湖の近くで寝泊まりしたいから、部屋は無くていいよ」

その辺の木にハンモックとシートだけ張って、そこで寝てるのもありだ。

「お気持ちは分かります。では、護衛をつけましょう」

「そうなっちゃうよな。そこだけどうにかしないと」

ただし、この神樹の森には魔獣がたくさんいる。

そのへんで寝泊まりするなら、それへの対策が必要だ。鬼族に不寝番をさせてしまう。

俺のわがままでそうさせるのは、可哀想だ。

どこかへ行く途中で、必要があってやるのではない。ただの遊びで寝泊りしに行くだけだ。

迷惑はかけたくない。

というよりも、一人で攻略したい。そんな気持ちがある。

サバイバルな環境に、あえて挑む。その時に、難易度を上げすぎても下げすぎても、行った意味がなくなってしまう。

ただの感覚でしかないが、俺はそう思っている。

「しかし、さすがに護衛もつけないというわけには」

「それも分かる」

たとえ猟銃を持っていても、獣に寝込みを襲われる危険は犯すものではない。

気づけるものだとしても、この森に魔獣はいくらでもいる。小刻みに寝るような夜になるだろう。

困ったものだ。翌朝に不愉快な気分でいるのはよろしくない。

「どうにかしたいと思ってる」

シェルターを作って『固定』してしまおうか。もっともシンプルな解決としてはそうなる。

「湖の中なら、天龍の権能で魔獣をまったく寄せ付けないことも可能ですが、そういうわけにも」

ふむ。湖の中。

「なら、湖の上だとどうなる?」

目を丸くしたラスリューが、首を縦に振った。その時に、俺のプランは固まった。

湖上に泊まってしまおう。

海外では、湖の上で暮らす部族がいる。

木の土台を浮かべてその上に家を作り、家同士の土台をつなげて漂流しながら生活する。

そしてこれも動画サイトで見たものだが、海外では湖上キャンプというものがある。

湖に筏のような土台を浮かべて、その上でテントを張るのだ。

あれをやってみたかった。

方針が決まれば、あとは用意するものも決まる。

筏と、その上に張るテント。

とはいえ、ただ浮かびながら寝泊りするだけではもったいない。

魚釣りもしよう。ボートフィッシングに近い。しかし、調理するための道具も持ち込まなければ、食べられない。

ということは、携帯コンロも必要になる。それにもちろん熱源も。

イルェリーに頼んで、アルコールをもらう。

それに木酢液と、卵の殻を使うことにする。

木酢液は、木を炭にするために焼いたときに出る煙を冷却して作る液体だ。

樹木の濃縮エキスみたいなもので、酸性だが有用なものである。

水で薄めて散布すると、農薬として使えるからだ。

これに卵の殻を入れると、酢酸と卵の殻が反応して、酢酸カルシウムが作れる。

アルコールと酢酸カルシウムをよく混ぜれば、石けんのように白い固まりができあがる。

「なつい。学校の理科でやったやつだ」

「えっ、こんなの知らない……」

俺が学生気分に戻ってはしゃいでいたら、千種は眉をしかめていた。

いまはやらないか……。

あとは揮発しないようにラップ──は無いので、 CNF(セルロースナノファイバー) あたりで包んで固めておけば、完成だ。

これでコンロの熱源ができた。

小さい五徳に小鍋を置いて、点火する。

「あっ、旅館のお鍋とかのやつ」

「そうそう。固形燃料」

試しに鍋を置いて使ってみると、なんだかそれ系のを食べたくなったきた。

作っちゃうか。