軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第087話 ノクスの亡霊

「ローレンス、剣をしまえ。足と腕が痛いし、ちょっと吐きそうだ」

そう言うと、ローレンスが剣を鞘に納めた。

それを見て、腕輪のスイッチを押し、元の姿に戻ると、その場でへたり込む。

「ハァ、ハァ……おぇ……」

息が……

「お前、何してんだ?」

「俺は魔道具屋の店長だぞ。ロクに動いてないし、息だって上がるわ……」

きっつ……

この前のオークの時よりもきつい。

それもそのはずでローレンスはめちゃくちゃ強いし、何よりもこいつは現役だ。

「それにしては動けてたが……いや、それよりもフルフェイス・マスクマンって何だよ?」

「それはこっちのセリフだ。ノクスの亡霊とかだっさい二つ名をもらいやがって。昔からお前はセンスがないんだ」

「センス? いや、それよりもなんで俺がノクスの亡霊だとわかった?」

ハァ……

「お前以外にいないだろ。この町は平和なんだぞ。それがお前が来たら領主の息子が襲われた。しかも、銀のスプーンを見つけた直後だ」

アホか。

「そうか……」

ローレンスがようやく布をずらし、顔を見せた。

間違いなく、ローレンスである。

「ローレンス、お前が思っている通り、多分、あの火事の原因は領主の息子だろう」

「ああ。銀の食器を使うのは貴族だけだ」

銀は毒物に反応する性質があり、貴族がよく使っている。

逆に言うと、暗殺を気にするのは権力者だけなので一般庶民はそんなものは使わない。

「領主の息子は隠れて冒険者をしているらしい。それでとちったんだが、軍や領主がそれを隠したんだろうよ」

調べないのはそれが本当の理由だ。

「それ以外にない」

「だから殺すのか?」

「ああ。俺は旅をしながら世直しをしていた」

アホ。

「戦争の成果が欲しかったからか?」

「そうだ……俺達は勝てなかった。しかし、せめて、国が良くなってほしいと思ったからだ」

愛国心? いや、ただの自己満足だ。

「ローレンス、貴族の悪さなんてどんな時でもある。ほっとけよ」

「俺達の苦労の末がこれかと思うと、身体が動くんだ」

なんとなく、こいつがBランク止まりの理由がわかる。

その正義感で問題を起こしたんだろう。

「お前はビルとローラン、それにアーヴィンに許しを請う前に自分を許せよ」

「許し、か……」

「アーヴィンはずっとお前を心配していたぞ。今回も俺に頼んできた」

アーヴィンも犯人はローレンスだということに気付いていた。

まあ、それもそのはずであり、あんな警備が万全のところに忍び込めるのはただ強いだけではできない。

俺達のような暗部だけだ。

「俺はお前らのように切り替えができないんだよ。次の人生を歩むことができない」

「でも、王都に行くんだろ。隊長に会うんだろ?」

次の人生に進みたいからだ。

きっかけが欲しいんだ。

「ああ……そうだな。家族と幸せそうに生きているお前達を見て、よりそう思ったよ」

「じゃあ、そうしろよ」

「無理だ」

そうかい……

「ローレンス、メアリーは帝国の貴族の子だ」

「は?」

「それも大貴族ホワイトウェイ家の娘だ」

「何言ってんだ?」

その反応もわかる。

「お前が立ち去った後、俺も戦場を離れた。その際に帝国から逃げてきて、盗賊に襲われている一行を救った。いや、救えたのはメアリーだけで従者は死んでいたし、メアリーの母親も死ぬ寸前だった。俺はその母親からメアリーを託された。最初は奴隷商にでも売ろうかと思ったが、最終的には引き取った。そして、今がある。俺はどんな形であれ、戦争が終わって良かったと思っている。もし、終わっていなかったらメアリーを殺さないといけなかったからだ」

殺さないでも捕らえて、王都に送らないといけない。

その後、どうなるかは考えたくない。

「帝国の貴族って……しかも、ホワイトウェイ」

「ローレンス、メアリーはバカだけど、可愛いんだぞ」

目に入れても痛くない大事な娘だ。

「可愛いのはわかる。いつも笑っていて元気だし、明るいしな」

「ああ。俺の大事な娘だ。あの終わり方で良かったんだよ。そう思え。俺だって納得はしていない。でも、あの終わり方だったからメアリーを救えたし、アーヴィンの義足も作れた。もし、ああじゃなかったら俺もお前と同じだ。この町に来ることはなかったと思う」

突然、娘ができて、どうしようもなくなってアーヴィンを頼ったのだから。

「そうか……」

「それとな、頼むから自分のために生きてくれ。亡霊とはよく言ったものだ。今のお前は本当にそう見えるぞ」

10年前、隊長に暴言を吐いたローレンスのままだ。

「無駄に年だけ取ったんだよ」

「もういいだろ。ケリーさんに会った勇気を見せろ」

あれはちょっと意外だった。

ああいう場面で逃げ続けてきたのがローレンスだから。

「俺はアーヴィンに会うより、アーヴィンの家族に会うのが怖かったんだよ」

そりゃそうだ。

罵られてもおかしくない。

俺も最初は殴られるのを覚悟して、あいつの家に行った。

「大丈夫だったろ?」

「ああ……」

「いっそ、この町に住んだらどうだ? 良い町だぞ」

おかげで10年も住んでいる。

「それも悪くないな……」

「そうしろ。アーヴィンも喜ぶぞ」

「そうだな……でも、悪いが、やはり王都に行く。そこが俺の旅の終着点なんだ」

それから考えるんだったな。

「もうこんなことはやめろ。ロクなことにならんし、本当に亡霊が出てくるぞ。ビルとローランの……俺達の名誉と功績を汚すな」

「ああ……エリック、明日、飲みに行こうぜ。アーヴィンを誘ってよ」

「構わんぞ」

「悪いが、明日は宿屋まで送ってくれ。多分、潰れる」

だろうな。

「そうしろ。今日はもう帰れ。軍には俺が話しておく」

そう言って、腕輪のスイッチを押し、再び、フルフェイス・マスクマンになる。