軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第053話 はーい

「あのー、それで俺に何の用で?」

スピアリング商会の商会長がわざわざ来るって相当だぞ。

「この店で大変、保温性に優れた水筒を売っていると聞いたんですよ」

あ、それか。

「アンジェラ」

「うん」

アンジェラが立ち上がり、店の方に行く。

そして、すぐに水筒を持って戻ってきた。

「これか?」

アンジェラが水筒をテーブルに置いたので聞いてみる。

すると、ランドルさんは問いに答えず、水筒を手に取って、色んな角度からじーっと見続けた。

「普通の水筒に見えますね」

「まあ、水筒だからな。ただ、内部に特殊な加工がしてあって、保温性が抜群なわけだ」

魔法瓶だし。

「なるほど……ちなみに、これはいくらで?」

「5000ミルドになる」

「5000ミルド……」

あれ?

「マズいか?」

「私なら3万ミルドで売ります」

高っ。

「それは王都でだろ? ここは地方の町だぞ。それにウチは町で唯一の魔道具店だ。そんな商売はできない」

利益は大事だが、それ以上のことがある。

というか、娘が虐められちゃうだろ。

「なるほど。確かにそれはそうですね。失礼。おっしゃる通り、私は王都や他の大きな町で売るならそれくらいの値段をつけるという意味です」

それでも高いと思うけどな。

「売れるか?」

「売れます。間違いなく」

へー……

「まあ、俺には関係ないな」

「何故?」

「ウチは小さな町なんだ。このアンジェラとたまに手伝ってくれる冒険者の娘がいるだけの店だ。他所の町まで売り込みに行かない」

ラシェルがいるからできないこともないが、そこまでするかって感じだ。

「なるほど。確かに綺麗な奥さんと可愛らしい娘さんがおりますし、この町で唯一の魔道具店でしたら行商人のようなことは難しいでしょう」

んー?

「知ってるのか?」

やけにウチのことに詳しい。

「実はこの店に来る前に冒険者ギルドに寄って、場所を聞いたんですよ。その際に娘さんが教えてくれました」

あ、メアリーに会ったのか。

「そういうことだったか」

「丁寧に教えてくれましたよ。優しくて良い娘さんですね」

まあな。

「うるさくなかったか?」

「まったく。それよりもエリックさん、この店で水筒を売っているということですが、売れ行きはどうですか?」

「好調だな……好調すぎる……」

「うん……そだね……」

疲れた……

「どんな感じですか?」

うーん……

「昨日は50個近く水筒を作った。それが今日の午前中で完売した。今日も50個近く作ったが明日には同じように完売じゃないかな? 最近はそんな感じだ」

「それはそうでしょうね。この町の人間ではない者も買いに来ていませんか?」

ん?

「ああ。最近は見たことない冒険者が多く来る」

「そうでしょうね……実は王都の冒険者の中でちょっとした話題になっているんですよ」

王都の?

だからその噂を聞きつけて来たのかな?

「なんで?」

「私も聞き込みで知ったことですが、とある冒険者が自慢したらしいのですよ。それが口コミで広がったわけです」

へー……アンジェラの予想が正解か。

「……エリック、例の新聞記者」

アンジェラが肘でつついて教えてくれる。

「あー、スージーか」

あいつか。

「心当たりが?」

「前にこの町の近くで山火事があったんだ。その取材に来た新聞記者がウチに来たんだが、その際に冒険者をしている兄におみやげってことで水筒を買っていった」

「なるほど……それでしたか」

ランドルさんが考え込む。

「どうした?」

「いえ、おそらくですが、客はこれからまだまだ増えますよ」

「そ、そうなのか?」

まだ来るの?

「王都は冒険者の数が多いです。今はまだその新聞記者のお兄さんの周りだけでしょうが、徐々にその噂は広がります。そうしたら下手をすると、他の町にも噂が広がり、かなりの数の冒険者がこの店に来るでしょう」

無理。

「マジかー……」

「力仕事で身体を動かす者は冷たい水を飲みたいですからね」

それはそう。

「うーん……厳しいな」

「そうでしょうね。エリックさん、私が今日、この店に来たのはそれについて、ご相談できないかと思ってです」

相談ねぇ……

「何だ?」

「その水筒を作り、売る権利を私に売ってください」

まあ、そうだろうなと思った。

「作って売る権利か?」

「ええ。具体的には作るための材料や作り方、それと販売権を譲渡していただきたい」

うーん……

「こう言ってはなんだが、勝手にやればいいだろ。ウチの傘はすぐにパクられたぞ」

俺も色々とパクッて売ってるけどな。

この世界に著作権なんてないし。

「傘……折りたたみ傘ですかな?」

「そうそう。結構儲かったけど、すぐにパクられて売れなくなった」

「ほう……! あれはエリックさんの発明でしたか。私もその手があったかと思いましたし、出遅れたため、悔しかった覚えがあります」

大手の商会長さんにそう言われるとちょっと嬉しい。

「同じように似たような商品を売ればいいんじゃないか?」

「では、その辺りを説明しましょう。主にこちらの思惑と儲けの話です」

参考になるかもしれんな。

聞いておこう。

「何だ?」

「この水筒はかなりの発明です。売れば、どこの町でも確実に売れます。そして、売れればこの水筒を真似しようと考える商会は多いでしょう。ただ、それにも半年は時間がかかります」

「そんなにか?」

「構造を調べ、量産体制を築き、さらには宣伝などを考えればそのくらいの時間がかかります。ぱっと見て、構造がわかる折りたたみ傘とはわけが違います」

これは魔道具だしな。

「それで?」

「だからこそ、迅速に手を打ちたいわけです。あなたからいち早く作り方を聞き、他の商会を出し抜きたいわけですよ」

なるほどねー。

「半年のうちに儲けまくるってことか?」

「はい。この商品には1つだけ欠点があります。それが何かわかりますか?」

え?

「何だろ?」

「さあ?」

アンジェラと顔を見合わせ、首を傾げる。

「それは消耗品じゃないことです」

あー、なるほど。

「1つ買えば10年以上は買わないな」

壊れるようなものでもないし。

「そういうことです。大ヒット商品になろうと、いずれは収束する商品なのです。だからこそ、最初にどれだけ売るかが勝負になってくるのです。あなたが言うようにこれをこの場で買い、店に持ち帰って調べればいずれは似たような商品が作れます。しかし、それでは遅いのです。いずれはこの店に私と同じようなことを考えた商会が来るでしょう。私にとってはそれが困る。だからこそ、販売権を買いたいのです」

なるほどねー……

「あのー、おいくらで?」

「3000万ミルドと考えています」

アンちゃん、集合ー。