軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第021話 死神

ラシェルが何歳かはわからないが、出会ってもう10年になる。

なので、そこそこの年齢になるのだが、まったく衰えを見せない走りをする。

昔も戦場だったアルディア王国とヴォルガン帝国の国境付近のノクス地域からミルオンの町まで俺とメアリーを運んでくれたし、今でも牧場とかに行くと、他の軍馬を寄せ付けない走りをしていた。

それでいて、気性も荒くないし、人懐っこくて可愛い馬だ。

さすがは帝国の大貴族の馬だと思う。

売らなくて良かったわ。

「ラシェル、森に入るぞ。警戒はこちらがするからお前はとにかく、進め」

前方には森が見えている。

かなり深い森であり、この森を抜けた先が王都になる。

ラシェルは指示通りにスピードを落とさずに進んでいき、森に入った。

まだ夕方だが、森に入ると一気に辺りが暗くなる。

「嫌な予感がするな……」

森に入ると、何かを感じた。

それが何なのかはわからないが、不穏な気配だ。

それをラシェルも感じたのか、さらにスピードを上げる。

すると、前方に動く灯りが見えた。

「ファイヤーボール……メアリーの魔法か! ラシェル、止まれ」

指示を出すと、ラシェルが止まる。

しかし、ラシェルは落ち着かなそうに足を動かしており、突っ込みたい様子が窺える。

「落ち着け。メアリーは弱くないし、できることなら任せたい」

そう言いながら首筋を撫で、落ち着かせる。

すると、賢いラシェルが足を止めた。

「良い子だ。さて……」

まだ向こうとの距離は100メートル近くある。

薄暗いし、この距離からではよくわからないので遠見の魔法と遠聴の魔法を使う。

どちらもメジャーな魔法ではないが、暗部だった俺やアーヴィンが得意とする魔法だ。

その二つの魔法を同時に使い、奥の様子を窺う。

「ふむ……メアリー、カトリーナ、シャーリー、それにキースか。そして……」

奥にはメアリー達と馬車に乗っているキースの姿が見える。

だが、その周囲には剣を持った5人の男達がおり、メアリー達と対峙していた。

「盗賊か。珍しい……」

王国と帝国のノクス戦争が終わった直後は盗賊が異様に多かった。

兵士崩れや戦争で職を失った連中が増えたせいだ。

実際、俺達はミルオンの町に向かう道中でも襲われた。

とはいえ、この10年で軍や冒険者達による大規模な討伐が行われ、その数はめっきり減った。

ここ2、3年は盗賊が出たということを聞いていない。

「チッ! 魔法使いか」

「気にするな。ただのガキだ」

「大人しくしろ。大人しくしていれば命だけは助けてやる」

盗賊達はにやにやと笑いながらメアリー達に剣を向ける。

しかし、キースは頭を抱えて震えているが、メアリー達は構えを解く気はなく、やる気満々だ。

「盗賊め! 軍に突き出してやる!」

メアリーが勇ましく啖呵を切る。

でも、俺から見ても可愛いだけだ。

「ひゅー、怖い、怖い」

「威勢が良いねー」

「なーに、2、3回ぶち込んだらすぐに大人しくなるさ」

まあ、盗賊だな。

「落ち着け、ラシェル」

聞こえているのかはわからないが、またもや足を動かし始める。

「魔法に注意しろ」

「わかってる」

「来いっ!」

戦闘が始まりそうだ。

盗賊達の構えを見るに正直、雑魚だ。

実力面ではメアリー達の相手ではないだろう。

しかし、相手は5人でメアリー達は3人。

さらにはキースという護衛対象がいるうえにあのルーキー3人は人間と対峙したことがない。

「ダメだな……誰かがピンチになり、瓦解する。あれは勝てん」

この戦闘の結末が目に見える。

1人がやられ、動揺した他の2人もやられる。

そして、最初にやられるのはメアリーだ。

最初に狙われるのは魔法使いのあいつだし、スピードを重視し、攻撃を避けるタイプのあいつはキースを庇いながら戦えない。

でも、優しいからキースを見捨てることもできない。

「ラシェル、行け」

足で合図をすると、ラシェルが走り出す。

そのスピードはこれまでとは比べ物にならないくらい速く、あっという間にメアリー達のもとにやってくる。

「ん?」

「何だ?」

「あれ? ラシェルじゃん」

「え? 何、あれ?」

全員が戦闘中なことを忘れ、こちらを注視してくる。

「そこまでだ! 全員、武器を下ろせ!」

ラシェルが足を止めたので全員を見下ろしながら命令する。

とはいえ、誰も従わないし、シャーリーに至っては何故か俺に剣を向けた。

「誰だ、てめー!」

「変な格好しやがって!」

盗賊達もこちらに剣を向ける。

「私は正義の使者、フルフェイス・マスクマンだ!」

「は?」

「フルフェイス、マスクマン?」

盗賊達が呆ける。

いや、カトリーナも呆けていた。

「おー、かっこいい!」

さすがはメアリー。

こいつはセンスというのがわかっている。

「見る限り、盗賊か? 見逃してやるからさっさとこの国から去るが良い」

まあ、アーヴィンに報告するけどね。

「ふざけるな!」

「おい、こいつもまとめてやるぞ!」

どうやら説得は失敗のようだ。

もっとも、聞くとは思っていない。

「勧告はしたぞ」

そう言って、ラシェルから降りる。

すると、ラシェルが対峙している両者の間に入り、メアリーに近づいていく。

「何だ、この馬? 死ね…………え?」

1人の盗賊がラシェルに斬りかかったが、ラシェルが立ち上がった。

その大きさは人間よりもはるかに大きい。

ラシェルはそのまま盗賊を前足で踏みつぶした。

「がぁっ!」

さすがはラシェルだ。

絶対に軍馬だと思う。

「こらこら、その馬は借り物なんだから傷付けないでくれ」

「てめー!」

「殺せ!」

残っている盗賊4人が斬りかかってくる。

しかし、その動きは本当に遅い。

「素人が振りかぶるんじゃない」

1人の盗賊の剣の柄を抑え、捻った。

「ぎゃっ!」

曲がってはいけない方向に曲がった腕を抑えたまま倒れ込んだので蹴り飛ばす。

仰向けに倒れた盗賊はピクリとも動かない。

「クソッ!」

「舐めるな!」

2人がひるまずに突っ込んできたので棒を取り出し、魔力を込めた。

すると、ブーンッという音と共に青い光剣が出る。

「魔法か……あん?」

「あっ……」

盗賊が何かに気が付いた時にはすでに斬り終えており、2人の上半身がずれ落ちて血の塊になった。

「ひっ……!」

残っている盗賊が逃げ出したのでナイフを取り出すと、軽くスナップを利かして投げる。

すると、凄まじいスピードでナイフが盗賊の頭に直撃し、そのまま前のめりに倒れた。

「漆黒の使者からは誰も逃げられない」

ふっ、決まった。

「かっこいい!」

うんうん。

メアリーはわかっている。

でも、カトリーナとシャーリーは俺に槍と剣を向けていた。