作品タイトル不明
第125話 鐘
陛下の寝室で待っていると、辺りが暗くなっていき、部屋が真っ暗になった。
月明りを浴びながらもじっと待つ。
今頃、アンジェラ達はどうしているんだろうか?
買い物は終えているだろうし、外食に行っているか、ホテルで食べているか……
暇だな……
いつぞやの領主の息子の部屋で待機していたことを思い出しながらひたすら待ち続けた。
すると、扉が開き、部屋に明かりが灯った。
「お前、灯りも付けずに何をしておるんだ?」
ガウンを着た呆れ顔の陛下がマーティーと共に部屋に入ってきた。
「漆黒の使者なもので……」
暗闇が似合う……
「そうか……まあ、そんな格好をする男だものな」
陛下はそう言って、ベッドの横にあるテーブルにつく。
マーティーが高そうなブランデーを用意していた。
「飲まれるので?」
「嗜む程度だ。フルフェイス、こっちに来い。座れ」
呼ばれたので椅子を持って陛下のもとに向かう。
「失礼します」
席につくと、酒の用意を終えたマーティーさんが部屋から出ていった。
「飲むか?」
「さすがに遠慮しておきます。護衛ですので」
というか、勧めんな。
「そうか……」
陛下はブランデーを一口飲む。
「飲んだらお休みに?」
「まだ21時だぞ」
だから聞いた。
寝るのが浅くて5時起きって言っていたが、こんな時間に寝ればそんなもんだろと思ってしまう。
「ほどほどにしてくださいね」
「わかっておる。少し話に付き合え」
「もちろんです」
暇だしね。
「エリック、私を恨むか?」
フルフェイス・マスクマン……いや、そんな空気じゃないけど。
「とんでもございません」
「いいから素直に答えよ」
えー……そう言われてもな……
「恨んでおりませんよ」
「そうか?」
「10年前、停戦の報を聞いた時は色々と思ったのは事実です。これは前線にいた兵士のほとんどがそう思ったでしょう」
戦争が終わるのは良いことだ。
誰だって死にたくないし、好んで人を殺したいとは思っていない。
ただ、あそこで終わるのならもっと早く終われたんじゃないか?
このままいけば勝てたんじゃないか?
どうしてもそう思ってしまうのは否定できない。
「戦争には莫大な費用がかかる。国中から金と人力を集めた。だが、民も国もこれ以上の戦争は厳しかったのだ」
それはわかる。
ならば何故、戦争を起こした?
何故、ここまで引っ張った?
「戦争のきっかけは帝国からの領土侵犯でしたね」
「ああ。何の通告もなく、我が国の領地に兵を侵攻させた」
それでこちらも軍を出し、争いとなったのだ。
ただ、真偽はわからない。
「陛下、戦争の是非についてはわかりませんが、私達は戦いましたし、戦友を失いました。それは辛い経験です。しかし、私はあれからミルオンの町に行き、家族と共に魔道具屋を営んでいます。ミルオンの町は平和ですし、皆が笑顔です。私は10年前のことより、今の生活を守りたいと思います」
帰ったらアンジェラと一緒になるわけだし。
「そうか……エリックよ、私は今一度、暗部を作るべきと思っている」
「暗部はすでにいるでしょう」
当たり前だが、暗部は黒影団だけじゃない。
黒影団は前線で戦い、功があったから有名になったが、そもそも暗部は有名になったらダメだと思う。
「必要なのは精鋭だ。それこそ黒影団のようなプロフェッショナル集団だな」
今回のようなことが起きた時に対応するためか。
「良いと思います」
「どうだ? 復帰せんか?」
まあ、会話の流れ的にはそうだな。
「陛下からそのような誘いを頂けるのは大変ありがたいことだと思います。しかし、私はすでに別の人生を歩んでおります。今は娘の付き合いやスピアリング商会との契約のために王都に来ておりますが、普段はミルオンの町に1つしかない魔道具屋を営んでおり、町の外にすら滅多に出ないほどです。また、帰ったら結婚する相手もいます。私はこのままこの道を進みます」
というか、嫌だよ。
「そうか……例の水筒も作り、家族もいる。それはそちらの道を進むべきだな。いくら大金を積まれようが、その道が良かろう」
それはそう。
「陛下、軍にはまだ隊長もミスティもいます。2人に任せ、新たな兵を指導していけば俺達以上の暗部ができますよ」
俺達、30歳オーバーだし、若い方が良いだろ。
「わかった。2人に任せよう。エリック、今回の事件をどう見る?」
「侵入事件でしょうか?」
「それもだが、各地で起きているテロ行為についてだ。噂では黒影団らしい」
噂、か。
「まず、これだけは言わせてください。隊長はもちろんですが、俺、アーヴィン、ローレンスではないです」
「わかっている。そう信じてなかったらお前達に護衛は頼まん。また、アーヴィンはあり得ない」
まあ、今なら陛下を殺せる位置にいるしな。
「残っているのはハドン、ウォルトン、マーストンですが……」
「ここだけの話をしよう。マーストンはすでに死んでいる」
え……
「どういうことでしょうか?」
「マーストンは北部の出身であり、戦後、地元に帰った。真面目に働いていたようだが、酒の飲みすぎで身体を壊したらしい。それで亡くなったようだ」
マーストンが死んだ……
「それは……隊長には?」
隊長は行方知れずと言っていた。
「まだ伝えていない。それがわかった当時、メイベルは長男を妊娠していた。そのことがあったので伝えるのを後回しにした。近いうちに私から話すつもりだ」
あれだけ気にされていたからな……
確かに妊娠中は避けた方が良いだろう。
もし、倒れでもしたら母子ともに危ない。
「そうですか……では、バドンとウォルトンについては?」
「それは本当にわかっていない。そもそもあの2人はお前と同じ孤児であり、家族もいない。探しようがないのだ」
それはそうか……
俺とローレンスも本来なら見つからなかったんだろうな。
まあ、俺はアーヴィン経由で見つけられるが……
「陛下、今回の事件やテロにバドンとウォルトンが関係しているかはわかりません。ただ、今回の事件にしてもですが、やり口が暗部、密偵、暗殺者……そういった裏の仕事を行う者のやり方です。そうでなくては城に忍び込むなんて無理です」
他の事件にしても表立ってやっている感じではない。
「やはりそう思うか。メイベルもそう言っていた。そして、噂の流し方が戦時中の扇動や流言に近いともな」
それは俺もそう思っている。
戦時中に敵の将軍なんかの評判を下げるやり方だ。
前線に出ている将軍が強かった場合、敵国の王都なんかで悪い噂を流す。
すると、それを信じた国の上層部が反乱を疑って、前線から王都に呼び戻させる。
こうやって成功すると、労せず、強い将軍が目の前からいなくなるのだ。
「帝国でしょうか?」
「わからん。そういった調査のためにやはり暗部が欲しいのだ」
確かに……
「出張に行っているらしいですが、ミスティを早急に呼び戻した方が良いのでは?」
「そうするか……ん!?」
急にカンカンカンと鐘を鳴らす音が聞こえてきた。
「陛下、これは?」
「緊急時に鳴らす鐘だ。前回と同じだな」
陛下がそう言うと、扉が開き、マーティーさんが部屋に入ってきた。
「陛下! 侵入者のようです!」
「来たか……」
「すぐに探ってきます! フルフェイス殿、この場をお任せします!
「任された」
頷くと、マーティーさんが部屋から出ていった。