作品タイトル不明
第118話 そういう役割の男
翌日、この日は東区ではなく、南区の方を回ってみる。
とはいえ、やることはほぼウィンドウショッピングである。
そして、午前中に適当に周ると、午後からは宿屋に戻り、ゆっくりと過ごしていく。
「王都に着いて5日目か。思ったより早く過ぎていくわね」
「それだけ楽しいってことだろ」
「まあねー。ただやっぱり思うのは王都って住むところじゃないわ。若干、ミルオンの町が恋しくなってきた」
多分だけど、帰る時に帰るのが寂しくなるって言うな……
「まあ、空気が全然違うからな」
「明日はメアリー達と出かけようかしら?」
「あー、例のやつな。良いんじゃないか?」
コーデとジャラジャラアクセ。
「エリックはどうする?」
「俺はやめておく。メアリーはともかく、カトリーナとシャーリーが嫌がるだろうし、女子だけで行ってこいよ」
ジャラジャラはともかく、コーデがね……
「それもそうね。夜にでも誘ってみるわ」
「ああ。さて、そろそろ準備して、行くか」
俺達は出かける準備をし、部屋を出る。
そして、1階のエントランスで待っていると、ローレンスがやってきた。
「よう。お前ら、本当に良いところに泊まってんだな」
ローレンスがエントランスを見渡す。
「スピアリング商会の厚意だよ。付き合いがあるんだ」
「羨ましいね。じゃあ、行くか」
「ああ」
俺達は宿屋を出ると、隊長の家に向かう。
「手土産とかいるかな?」
ローレンスが聞いてくる。
「午前中にジュースとワインを買ったから俺達からってことでいいだろ」
「おー……さすがは気が利くな」
「だろ? アンジェラは出来た人間なんだ」
「あ、やっぱりそっちか」
俺はすっかり忘れていた。
「元上官でしょ? それにあの感じだとまた何か言われるわよ」
「言われるな」
「俺がな」
うん。
ローレンスが。
俺達は中央の広場を抜け、南の通りを通ると、左に曲がり、隊長の家の前までやってきた。
「……なんか隊長に会うより緊張してきたな」
ローレンスがつぶやく。
「そんなことないだろ。気持ちはわかるが……」
さすがに10年の方が重いだろ。
「いいから行くぞ」
仕方がないので前に出ると、扉をノックする。
『はい?』
隊長ではなく、男性の声がした。
「夕食に招待されたエリックと申します」
そう答えると、扉が開き、30代くらいの黒髪の男性が顔を出した。
男性はただでさえ、背が高いのに姿勢が良い。
というか、かっこいい。
「お待ちしておりましたよ。どうぞ中へ」
男性がニコッと笑い、招いてくれたので中に入る。
リビングのテーブルにはすでに様々な料理が並んでいるが、キッチンで料理を作っている隊長の姿が見えた。
「失礼します」
「お招きいただきありがとうございます」
「お邪魔します」
挨拶をすると、隊長がこちらを向く。
「おー、来たか。ちょっと待ってなー。あ、旦那だ」
隊長が簡潔に紹介してくれた。
「マーティー・ヘミンズリーです。黒影団の英雄にお会いできて光栄です」
旦那さんが綺麗な礼をし、自己紹介してきた。
「ローレンスです。奥様には本当にお世話になりました」
「エリックです。同じくお世話になりました」
「エリックの妻のアンジェラです」
俺達は順番にマーティーさんと握手していく。
「今日はよく来てくださいました。メイベル、そろそろかい?」
「もうちょっと。座って待っててくれ」
そう言われたので皆で席につく。
「マーティーさん、騎士か?」
この姿勢の良さは騎士だ。
「ええ。今は近衛隊の隊長です」
近衛隊……
「あ、ウチの隊長とはそこで?」
「そうなりますね」
「へー……」
そういうことか。
「隊長、かっこいいのを捕まえましたね」
ローレンスが茶化す。
「バカ。旦那に綺麗な人を捕まえましたねって言え」
美男美女だから何とも……
「あ、これ、どうぞ」
アンジェラがマーティーさんに紙袋に入ったお土産を渡す。
「ありがとうございます。メイベル、ワインとぶどうジュースをもらったよ」
「ありがとうよ。絶対にローレンスは便乗だがな」
わかるらしい。
まあ、わかるか。
「すみませんねー」
「いい。お前はそういう奴だ……あなた、もうできますからシャーロットを連れてきてください」
隊長が急に声色を変えて頼むと、マーティーさんが苦笑いを浮かべながら立ち上がり、奥の部屋に入っていった。
「隊長、それやめません?」
一応、提案してみる。
「やめない。教育のためだ」
「じゃあ、ずっとお母さんしゃべりで良いのでは?」
「ストレスだ。よし、できたぞ」
隊長が最後の料理を持ってきて、テーブルに置いた。
それと同時にマーティーさんがシャーロットを連れてくる。
「こんにちは」
シャーロットが挨拶をしてきた。
「はい、こんにちは」
「お邪魔してるね」
「昨日ぶり」
俺達が挨拶を返すと、シャーロットがマーティーさんと共に席につく。
「あなた達は飲む?」
隊長がにっこりと微笑み、聞いてくる。
「あ、いただきます」
「私はお茶で」
「もらいます」
隊長がワインとお茶を用意し、俺達の前に置いてくれた。
「では、いただきましょうか」
「いっぱいある……」
シャーロットがテーブルを見て、お父さんを見上げる。
「今日はお母さんのお友達が来てるからご馳走だよ。いっぱい食べなさい」
「うん」
可愛い子だ。
ウチの可愛い子ならテーブルについた時点でもう食べてるだろう。
やはり教育か?
俺達は乾杯をし、料理を食べ始めた。
どれも美味しいし、ちゃんと手の込んだ料理なことがわかる。
「隊長、料理ができたんですね」
まーた、ローレンスが失礼なことを言う。
とはいえ、こいつはこれが普通だ。
「実は子供の頃から得意なんですよ。意外に思うかもしれませんが」
うん、思った。
「へー……美味いっす。アーヴィンのところで食べた時も思いましたが、こういう手料理って良いですね。旅をしていると外食オンリーなもんで」
「そういえば、アーヴィンの奥様は元気ですか? 私が行った際は会ってくれませんでしたが」
あの時はそうだろうな……
「隊長、ケリーさんは元気ですし、今は昔の明るい人に戻ってますよ。アーヴィンも普通に生活していますし、大丈夫です」
「そうですか……」
隊長もほっとした様子だ。
「こいつが義足を作ったんですよ。マジで言われなきゃわからないレベルで普通に歩いていますよ」
どうでもいいが、フォークで人を指すな。
シャーロットが見てるんだぞ。
「メイベルさん、私はケリーさんと仲が良いですが、もう本当に気にしてないようですよ。アーヴィンさんは明るいですし、普通に仕事をしています。足のことよりも酒癖のことを愚痴愚痴言ってる感じです」
アンジェラも状況を伝える。
「なら良かったです。アーヴィンともまた会えると良いですね。まあ、軍属ですから難しいでしょうが」
まあね。
隊長も小さい子供がいる。
ミルオンの町と王都は近いようで遠いのだ。
「まあ、湿っぽい話はやめて、隊長と旦那さんの出会いの話を聞かせてくださいよー」
旦那さんとシャーロットもいるし、確かに湿っぽい話はなしにした方が良いな。
「そうですね。あなたの将来の話をしましょうか。良い人はいないんですか?」
カウンター。
「「あ、狙っている人が……」」
便乗。
「ちげーし。というか、またその話?」
「ローレンス、黙ってなさい。どこの子ですか?」
隊長が食いつき、俺とアンジェラに聞いてくる。
「えー……」
この日も話題はローレンスとなり、飲み食いを続けていった。