作品タイトル不明
07話 晩餐会の顛末
「お父様ぁ、お母様ぁ、お帰りなさいませぇー」
その夜、王宮ではフリアデル王国の特使をもてなす晩餐会が行われました。
私の両親は公爵夫妻ですので招待されていました。
「晩餐会はいかがでしたかぁ? ご聡明な王妃様とルシアン殿下のご様子はいかがでしたかぁ?」
帰宅した両親に私がそう尋ねると。
「……」
「……」
両親は暗い顔で、黙りこくってしまいました。
「お父様とお母様が、ご聡明だと称えていた王妃様はいかがでしたぁ? ぜひぜひ王妃様の今夜のご様子をお聞かせくださいませぇ。王妃様がどんなご聡明な口上を述べられたのか気になりますわぁー」
「……」
「……」
外国の要人をもてなすのは政治ですので。
晩餐会の主催者側として出席はするけれど、政治の素人である王妃や王太子には、通常、外務の仕事を専門としている外務卿からご進講があります。
ご進講とは、講義、すなわちお勉強です。
フリアデル王国の特使をもてなす晩餐会ですから、王妃様と王太子ルシアン殿下は外務卿からフリアデル王国についてのご進講を受けたはずです。
外務卿から教えられた要点を押さえて応対すればいいだけですので、無難にこなすことはさほど難しくありません。
しかしあの王妃様と、学院の成績は下から数えたほうが早いルシアン殿下です。
私が書いた台本がなければろくにしゃべれもせず、行事を無難にこなすことしか出来なかったのだろう、と、そう思ったのですが。
やらかしたようです。
王妃様とルシアン殿下は、私の予想の斜め下を行きました。
まず王妃様が、うちの母、モンフォール公爵夫人と同じ色の似たような形のドレスを着て出席したようです。
ドレスかぶりは無礼にあたります。
かぶせてきたのが、どちらかということはどうでもよく、問答無用で地位の低い者が無礼を働いたことになります。
つまり、私の母モンフォール公爵夫人が王妃様に無礼を働いたことになりました。
フリアデル王国の特使を歓迎する、晩餐会の席で……。
そういえば王妃教育の課題にありました。
どんな装いで出るべきかって。
私の提出する回答がなくなってしまったから、王妃様は私の母のドレスを調べて真似したのでしょうか。
それとも、私が王妃教育を投げ出したから、我が家に対する報復として私の母に恥をかかせたのでしょうか。
(いいえ、王妃様にそこまでの頭はないわ。何を着れば良いか解らなくて、真似しただけの天然よね)
「ねぇねぇ、お母様ぁ、王妃様はご聡明なんですよねぇ? ドレスの色をかぶせてくる王妃様が、お母様のご聡明な王妃様なのよねぇ? お母様、良かったですねぇ、大好きな王妃様とおそろいのドレスを着れてぇ」
「……」
ドレスかぶりは大恥です。
知っていて私は、お母様に言いました。
「お父様も良かったですねぇ。ご聡明だとお父様が称賛していた王妃様と、おそろいのドレスのお母様をつれていらして、さぞや鼻が高かったことでしょう。良かったですねぇ、お父様ぁ」
「……」
もう一度言いますが、ドレスかぶりは大恥です。
周囲に奇異の目をむけられる事態です。
王妃とドレスがかぶっている妻を連れていたら、お父様も大恥です。
それだけでも派手なやらかしですが。
王妃様とルシアン殿下は失言もあったようです。
通常、もてなしの席は親善の場ですから、生臭い政治経済の話は出さないことが作法です。
しかし二人はそれに触れてしまったようです。
地方の産業に詳しいと評判の王妃様は、有能ぶりを見せようとしてか、我が国の農産物の自慢をしたあげくに「貴国にもぜひお買い上げいただきたく」と、押し売りと受け取られかねない発言をしてしまったそうです。
フリアデル王国に買ってもらうって、それ貿易問題ですからね。
「ねぇねぇ、お母様ぁ、さすがは王妃様ですねぇ。晩餐会で貿易のお話をするなんて凄いわぁ」
もちろん皮肉です。
政治経済の話題は、自国の不利益であれば拒否しなければなりません。
拒否したら、場合によっては決別することもあるでしょう。
そういった話は会談の場を設けて行うものです。
一方、晩餐会などのもてなしの行事は歓迎が目的で、和やかに行うものです。
それゆえ決別することもある政治経済の話題を出さないことが作法なのです。
「晩餐会の席ではお断りしにくいですものねぇ。その状況を利用して輸入をお願いなさるなんて、王妃様は凄いお方ですねぇ。お母様がおっしゃるとおり王妃様はとてもご聡明なお方ですわぁ」
「……」
政治の才能があると評判のルシアン殿下も、有能ぶりを見せようとして話題選びに失敗したようです。
有能ぶらずに無難にこなせば良かったものを、政治の才があると称えられているルシアン殿下は政治の話題を選んでしまったのです。
そして口を滑らせて「我が国と貴国が組めば、帝国など恐るるに足らず」と、一緒に帝国を攻めようと誘っているように受け取られかねない発言をしてしまいました。
外務卿が真っ青になったそうです。
私が王妃教育を受け始めたのは十三歳のときで、私と同い年のルシアン殿下が晩餐会デビューをしたのは十五歳のときです。
ルシアン殿下にとって今回の晩餐会は、私が課題で提出した回答無しでの、初めての晩餐会となります。
ルシアン殿下はようやく私の手を離れて一人立ちできたのです。
一人前になられたことをお祝いいたします!
「私はぁ、ルシアン殿下が即位なさるのは問題だと思うのですけれどぉ。お父様はルシアン殿下の政治に期待していらっしゃるんですよねぇー」
「……」
「お父様はルシアン殿下と一緒に帝国と戦争なさるおつもりでしたのねぇー。怖いわぁー。我が国とフリアデル王国が同盟してもぉ、帝国にも同盟国はありますからぁ、帝国のほうが圧倒的有利に見えるのですけれどぉ。どういう算数で勝算がおありなのぉ? ぜひお聞かせいただきたいわぁー。愚昧な私にぜひぜひご教授くださいませぇー」
「……」
私が王妃教育をさぼるまで。
お父様とお母様は、ご聡明な王妃様や、成長なさったルシアン殿下を褒めて、私を叱りつけていました。
私はそれに反論しましたが、聞いてもらえませんでした。
でもこれからは違います!
私も今後は、王妃様とルシアン殿下を大いに褒め称えることにしました。
お父様とお母様が、自分の娘よりも信頼して推していらっしゃる、王妃様とルシアン殿下を、私も大いに褒め称えますとも。
お父様とお母様が大好きな、王妃様とルシアン殿下を、私も一緒に褒め称えてあげるのですから。
これからは家族みんなで和やかに楽しくお話ができますね。
私って親孝行だわぁ。