作品タイトル不明
69話 ルシアンの世界
大聖堂で特別礼拝が始まりました。
礼拝が行われている大聖堂の聖所には大勢の人々が集っていました。
集まっている信者はほとんどが女性で、数少ない男性はユベール様と同じく壁際に寄っています。
「光の子らよ……」
大勢の人々が皆、神妙な顔で口をつぐみ、しんと静まり返っている中。
祭壇の前の説教壇の上に立った司教が神の教えを説きました。
「心の灯火がある限り、悪魔の軍勢はこの聖域を侵すことは叶わないでしょう。光は我等とともにあります。光の子らよ、心の灯火を絶やすことなかれ」
司教は声を張り上げました。
「さあ、讃えましょう。神の国を!」
――フォオオオーン。
パイプオルガンが 劇的(ドラマチック) な旋律を奏でました。
その刹那……。
聖所に響き渡るオルガンの音をかき分けるようにして。
修道士ルシアン様が颯爽と現れました。
「キャーッ!」
突然、神の奇跡を見たかのように。
女性信者たちは目を見張り、黄色い声を上げました。
「ルー様っ!」
「ルー様あぁー!」
一瞬にして陶酔状態となったかのような彼女たちが、必死に叫ぶ声が、巨大な歓声となり、聖所の静寂を木っ端微塵に破壊しました。
彼女たちの沸騰するような熱狂に聖所の温度が急上昇しました。
(ルシアン様が……なんだか綺麗になっている?)
ルシアン様は元々お顔立ちは整っていらっしゃいましたが、小者感があるお方でした。
それが、学院時代の少年らしさや挙動不審やイキリが抜け落ちて、小者感がなくなり、さっぱりと綺麗になっていました。
修道士として神に奉仕して成長されたのでしょうか。
堂々とした美青年ぶりです。
(ご両親の支配から解放され自由になったことで、本来のご自分を取り戻されたのかしら?)
「ルー様ぁぁー!」
信者たちがルシアン様の名を叫び続けています。
ルシアン様は皆の声援に、優しい笑顔で手を振って応じ、踊るような足さばきで時折くるりと回転しながら歩を進めました。
ルシアン様は、ステンドグラスから差し込む光を受け、祭壇の前に進むと。
祭壇に掲げられた神の印を求めるように、その両手を差し出し……。
「神よ! 愛を!」
と、叫び、おもむろに、オルガンが奏でる楽の音に合わせて蝶のようにひらひらと踊り始めました。
「ハァッ!」
踊り子のように華麗に踊りながら、ルシアン様はときどきポーズをビシッと決めて掛け声を上げました。
ルシアン様がポーズを決めるたびに、信者たちは興奮し、歓声がわっと大きくなります。
「フゥッ!」
ルシアン様は切れのあるターンを披露すると信者たちのほうを向き、今にも飛び立とうとしている鳥のごとく、両手を翼のように広げて叫びました。
「今こそ歌おう! 神の国の愛を!」
ルシアン様がそう叫ぶと、オルガンの曲調が変わりました。
――ファファファファーン!
オルガンが奏でている曲は聖歌ですが、テンポが少し早めでした。
ルシアン様は身振り手振りをしながらオルガンに合わせて熱唱を始めました。
――聖なる~聖なる~。
――神の国~。
――燃やせ~燃やせ~。
――心の灯火~。
歌いながらルシアン様は、パイプオルガンの奏でる音楽のリズムに合わせて、軽快なステップを踏み、くるくると踊っています。
熱唱するルシアン様を信者たちは見つめ、ルシアン様を求めるように両手をルシアン様に向けて差し出しています。
そして信者たちは差し出しているその両手を、オルガンのリズムに合わせて、統一された動きで揺らしていました。
聖所を埋め尽くしている信者たちが皆、両手を差し出しているので、聖所の一面に信者たちの手が生えています。
その一面に生えている手が一定の調子で同じように揺れている様子は、まるで風に吹かれる草原のよう。
(信者たちのこの軍隊のように統制がとれた動きは何なの?!)
ルシアン様は再び、翼のように両手を広げ、そして少し身を乗り出して信者たちに語り掛けました。
「光の子らよ、共に歌おう! 神への、この愛を!」
ルシアン様の呼びかけに、一瞬、大歓声が上がりました。
「キャーッ!」
「ルー様あぁ!」
そして次の瞬間、オルガンの楽の音に合わせて、信者たちは一斉に、従順に、生真面目に、ルシアン様と一緒に歌い始めました。
――我ら~我ら~。
――光の子~。
ルシアン様の指揮で、信者たちの大合唱が始まりました。
ルシアン様はくるくると踊りながら、信者たちはルシアン様を見つめて差し出した両手を統制がとれた動きで揺らしながら、歌っています。
今や聖所には、神の国を讃える大合唱の声、声、声が、殷々と響いていました。
(これは何なの?!)
ルシアン様と信者たちの歌声と熱気に満たされた空間は、まるで異世界でした。
(これがルシアン様の世界なの?!)
私は聖所の熱気にうかされて茫然としながら、この眩暈がするような不思議な光景を眺めていました。
(……!)
合唱している信者たちの中に、私は天使を見つけてしまいました。
(セリーヌ様とブランシュ様?!)
それは私を救ってくれた天使たち、セリーヌ様とブランシュ様でした。
(天使降臨!)
天使のお二人は、踊りながら歌うルシアン様を食い入るように見つめながら、両手を差し出して揺らし、神の国の愛を歌っています。
「ユベール様……!」
私は小声で、隣りにいるユベール様にそれを知らせました。
「あそこにセリーヌ様とブランシュ様がいらっしゃるわ……!」
「……!」