軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

61話 より良い明日

黒百合の会の悲願が達成された喜びを祝う、戦勝の祝賀会。

皆様は上機嫌でおしゃべりの時間を存分に楽しんでおられます。

「それにしても、国王陛下まで捕らえられてしまうなんて。よほどヴァレリウス猊下の逆鱗に触れたのでしょう。元王妃の見事な振舞いが」

ヴェルニエ公爵夫人は面白そうに笑うと、魔女狩りの日の、元王妃ジャクリーヌ様の様子について教えてくださいました。

「あの女はヴァレリウス猊下を一目で気に入って突進したそうよ。猊下はそれを素早い身のこなしで躱されたのですって。見たかったわ」

「ヴァレリウス猊下に突進したのですか?!」

私は驚いて、ヴェルニエ公爵夫人に確認してしまいました。

だって無作法のレベルを超えていて、ほとんど破滅願望ですもの。

「そうなのよ」

「なんて恐れ知らずな……」

枢機卿という地位だけでも軽んじることはできないのに、ヴァレリウス猊下はしかも後ろ盾が帝国で、次の教皇の最有力候補でいらっしゃいます。

睨まれたら破滅です。

あのお方は政治的に大変な危険物なのです。

そして元王妃様が危険物に突っ込んだ結果、元国王陛下まで地位を失い、王朝が終焉しました。

ヴァレリウス猊下は、ポチッと一押しするだけで破滅を呼ぶ危険な装置としての本領を発揮されたのです。

「無知とは恐ろしいものですね……」

「あの女はお酒を飲んで酔っていたんじゃないかしら。ヴァレリウス猊下は華麗なご容姿だから、あの女の好みのタイプなのよね。魔女裁判の前にヴァレリウス猊下と顔合わせをしていたら、あの女は魔女裁判を欠席しなかったかもしれないわ」

ヴェルニエ公爵夫人が出したその話題に、皆様は面白そうにして乗りました。

「ヴァレリウス猊下はお若くて、しかもお美しくていらっしゃいましたものね」

「美しすぎる枢機卿でしたわね」

「ヴァレリウス猊下のご尊顔を拝謁したときに、あの女が気に入って秋波を送りそうだなと思いました」

魔女裁判に証人として呼ばれてヴァレリウス猊下にお会いしたという、元王妹殿下、ロチルド子爵夫人、サンド男爵夫人が口々に言いました。

「あのお方はたしかに美男には目がないです。美男の芸人はすぐにお囲いになって召し上げていました。王妃の権力で……」

元王妃様に解雇された元侍女が、元王妃様の悪癖について蔑むように語りました。

「王妃の権威の上にあぐらをかいて、お忍びで城下の劇場へ通い、侍らせる芸人を物色していたこともあります。王妃にあるまじきはしたない遊びに何度同行したことか」

(元王妃様は、王宮にご自分のための私的な 後宮(ハーレム) を作っていたの?!)

元侍女の話が突拍子もなくて信じられなくて、私は質問しました。

「元国王陛下はそのことをご存知だったのですか?!」

「ええ、ご存知でした」

「王妃の身で、そんなことがどうして許されたのですか?!」

「あのお方が美男の芸人を集めていた目的は、自分を褒め称えさせるためでした。芸人たちは、芸を見せることももちろん仕事でしたが、彼らの一番の仕事は、あのお方が気分良くなれるようにお世辞を大合唱することでした。元国王陛下も、彼らがあのお方にお世辞を言う係だということは理解していて、暗黙の了解でした」

元侍女はしかつめらしい顔で私にそう教えてくれましたが、ふっと笑みを漏らしました。

「あのお方は、美男に褒められることがとてもお好きでした。王妃の権威を乱用して、美男たちが自分だけを褒め称える楽園を作っていたのです。あの下品な悪癖が破滅を招いたかと思うと感慨深いです」

元侍女は顔を上げると、ヴェルニエ公爵夫人を振り向きました。

「ヴェルニエ公爵夫人、もしや、あの女の失態を誘う目的で、若く美しいヴァレリウス猊下を教皇庁から招いたのですか? だとしたら大変な策略家ですわ」

元侍女のその推測を、ヴェルニエ公爵夫人は笑って否定なさいました。

「まさか。ヴァレリウス猊下にお越しいただいたのは、帝国出身の枢機卿が政治的に有益だったからです。いかにあの女とて、帝国出身の枢機卿には逆らえず降参すると思っておりました。まさか枢機卿に色目を使って突進するなんて、さすがにそれは読めませんでしたわ」

ヴェルニエ公爵夫人のその答えに、元王妹殿下もしみじみとした表情で頷いて言いました。

「そうですわね。たしかに読めませんでした。魔女裁判を欠席して宴会をしているなんて。そこまで予想できる者は誰もいなかったでしょう。聖騎士団は素晴らしいタイミングで乗り込んだものね」

元王妹殿下のその言葉に、元侍女が生温かい笑顔を浮かべて推測を語りました。

「私が勤めておりましたころにも、あのお方は仮病でお仕事をおさぼりになっては、芸人を侍らせて乱痴気騒ぎをなさっておいででした。おのお方は、気に入らないことがあると、芸人を呼んでお酒を飲んで憂さ晴らしをするのです。……教会に呼ばれたことが気に入らなかったのでしょう」

「お勉強もせず、お仕事もおさぼりで、毎日とても暇そうだったけれど。あの女には志というものがないから、快楽を食いつぶすような時間の使い方しかできないのよね」

かつて慈善活動の成果を元王妃様に横取りされたロチルド子爵夫人が蔑むような微笑を浮かべてそう言うと、かつて元王妃様にドレスのデザインを盗まれたサンド男爵夫人も冷笑して頷きました。

「下賤の者はいくら権力や財産を手に入れても、やることは下賤のままで変わりないのですわ。創造力というものがないのです。下賤の者は毎日快楽を求め、食べて寝るだけ。人間の形をしていますが、あれは動物と同じです」

「サンド男爵夫人、それは動物に失礼よ。動物にも可愛らしい子や役に立つ子がいますもの。あの女と違って」

「そうでした。ロチルド子爵夫人のおっしゃる通りです。私としたことが、軽率な考えで動物さんに失礼なことを言ってしまいましたわ」

ロチルド子爵夫人とサンド男爵夫人が盛り上がっています。

「ようやく本当の、人間の王妃を迎えることができるわ」

白髪の老夫人が祈るような声で言いました。

彼女は元国王の伯母君です。

「ヴェルニエ公爵夫人が王妃になってくれたらと、ずっと神に祈っていたの。ようやく神が願いを聞き届けてくれたわ。教会にまた寄付をしなければね」

聖なのか俗なのか判断いたしかねる発言ですが、お喜びになっているお気持ちは伝わって来ます。

「ヴェルニエ公爵夫人、頼みましたよ。あの悪趣味を排除して、王宮に伝統と格式を取り戻してちょうだい」

元国王の伯母君がそう言うと、ヴェルニエ公爵夫人は爽やかな笑顔で答えました。

「はい、お任せください。あの女が改悪した王宮や庭園を復元いたします」

(庭園?)

王宮を復元するのは解ります。

元王妃様は伝統やら序列やらには疎いお方でしたし、侍女たちも理不尽な目にあったようですし、コネ人事も多かったようですから、あのお方が女主人となった王宮が荒れているのは解るのです。

しかし庭園とは?

「元王妃様は庭園を改悪なさったのですか?」

「そうなのよ」

ヴェルニエ公爵夫人は不味いものを食べたような顔をして答えました。

「あの女は伝統を知らないしセンスも悪いでしょう? あの女のデタラメな命令で庭園の一部がめちゃくちゃになっているの。王宮の 室内装飾(インテリア) もよ」

(インテリア……)

王宮の復旧とは、インテリアのことでしたか。

「フェリシアさんが王太子妃になったら、王宮の復旧作業のお手伝いをお願いするわ」

「はい。喜んでお手伝いいたします」

「フェリシアさんは王太子妃になったら何かやりたいことはあるかしら?」

ヴェルニエ公爵夫人は私を何か試そうとしているのか、観察するような視線で質問を投げてきました。

ですが私は、ヴェルニエ公爵夫人に合格点をもらえるかどうかは気にせず、本当に自分がやりたいことを言いました。

「私は、正式な王妃教育の内容を公開したいです」

元王妃様は王妃という立場を利用して、王妃教育と偽って私に様々な台本を書かせていました。

私が騙されて、それらを王妃教育だと信じて行っていたのは、王妃教育がどんなものか具体的に知らなかったことが原因です。

「今後、私のような、王妃教育詐欺による犠牲者を出さないためには、王妃教育の具体的な内容を公開することが有効だと思うのです。王妃教育の内容は非公開にする理由はありませんから可能なはずです。できれば王立貴族学院の教本に、王妃教育とは具体的にどんなことをするのかを記載させたいです」

「さすがはフェリシアさんだわ。王妃教育詐欺を防ぐために真実を明らかにしておくことは有効な対策ね」

ヴェルニエ公爵夫人は面白い冗談を楽しむかのように笑いました。

「改善を積み上げて、より良い明日を創って行きましょう」

「はい」

笑顔で答えた私は、そのとき勝利に酔っていました。

目の上の瘤だった邪魔者を排除した私たちは、これからは円滑に順調に前へ進んで行けるのだろうと安心していました。

ですがその勝利はこれから始まる混乱のほんの序章に過ぎなかったのです。

私はまだ知りませんでした。

時代がルシアン様を選んでいたことを。