作品タイトル不明
05話 ユベール
「フェリシア嬢、昨日は申し訳ありませんでした」
翌日、学院で、ユベール様がわざわざ私に謝罪にいらっしゃいました。
「ご丁寧に、ありがとうございます」
私は学院ではいつも皆に遠巻きにされていて、一人でしたので。
学院で、このように誰かとお話することには慣れていなくて戸惑いました。
しかもユベール様が何か悪いことをしたわけでもないのです。
ユベール様のご婚約者のセリーヌ様が、私につっかかって来て、少々口論のようになってしまっただけです。
(とても責任感がおありで、面倒見が良くていらっしゃるのね。……私に見向きもしないルシアン殿下とは大違いだわ)
ユベール様がご婚約者に対して、私の婚約者のルシアン殿下とは、随分と違う行動を取っておられるので。
私はますます自分の婚約が不幸なものに思えました。
(早くルシアン殿下と婚約破棄したいわ……)
「ユベール様、私は気にしておりませんので、どうかお気遣いなく」
「いや、噂のこともあります。誤解のないよう、きちんとしておきたいのです」
噂?
何でしょう?
「フェリシア嬢の良くない噂を流しているのは、セリーヌ嬢なのです。私は何度も止めたのですが、いくら言っても聞かなくて……。申し訳ありません」
「私にどんな噂があるんですの?」
「ご存知ないのですか?」
「はい。まったく」
噂は知りませんが。
私が皆に学院では遠巻きにされていたのは……。
悪い噂があったせいなのでしょうか?
おしゃべりで時間をつぶしていられるような暇人ではありませんでしたので。
静かな環境に、これ幸いと、空き時間は全て自習に当てておりました。
「……私の口から言えるようなことではありません……」
「あら、残念」
後で知ったことですが。
私の噂とは、ルシアン殿下が私以外のご令嬢にご執心だという噂にちなんだものでした。
私のあまりの能力不足にルシアン殿下が呆れ果てているといった類のものです。
「それで……。昨日の件もあり、彼女とは婚約を解消することになりました」
「まあ……それは……。何と申し上げてよいやら……」
本当に。
婚約を解消しました、なんて、そんな報告をされても……。
何と言えば良いのか解りません。
さすがに「おめでとうございます」なんて言えませんもの。
私はルシアン殿下と婚約破棄がしたいので、婚約解消なさったユベール様とセリーヌ様がとても羨ましいのですが。
嫉妬してしまうほど羨ましいのですが。
でも、ここで「羨ましいです」なんて本心を言葉に出してしまっては、さすがにいけませんよね。
「セリーヌ嬢は精神不安定なので、また何かフェリシア嬢にご迷惑をおかけするかもしれませんが……」
ユベール様は少し難しい顔をして言いました。
「私はもう彼女とは婚約を解消いたしましたので、今後は無関係です。我がヴェルニエ公爵家は、モンフォール公爵家に対して他意はありません。どうぞ誤解なきようお願いいたします」
「そういうことですか」
なるほど。
家同士のいざこざに発展しないよう先手を打ったのですね。
セリーヌ様は私に対して、敵意を剥き出しにしていらっしゃいましたから。
セリーヌ様の行いについて、我がモンフォール公爵家から抗議することも可能ですものね。
私の両親は、私のために抗議なんてしないでしょうけれど……。
娘である私の言葉より、王妃様の言葉を信じている両親ですから。
あの両親なら、むしろセリーヌ様に同調して「王妃様はご聡明」と一緒に仲良く合唱を始めそうです。
「ええ、解りました」
色々と残念な気持ちになりながら、私はユベール様に返事をしました。
「ご事情を教えてくださりありがとうございます」
ルシアン殿下に、ユベール様の聡明さの半分、いえ十分の一でもあれば。
私も、いくら王妃教育が辛くても、こんなに婚約破棄を望んだりしなかったかもしれません。
人生とは儘ならないものです。