軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12話 試験結果(2)

「不出来で不勉強なフェリシア様が三位だなんて有り得ませんわ!」

ラルベル公爵令嬢セリーヌ様はルシアン殿下に寄り添い、私を糾弾しました。

お二人は相変わらず仲がよろしくて微笑ましいです。

でも仲の良さでは私とユベール様も負けていませんよ。

「フェリシア様が遊び惚けていたことは知っていますのよ!」

天使のセリーヌ様は悪魔のような形相で、私の私的な行動を暴き始めました。

「フェリシア様はユベール様と劇場やあちこちの音楽会にお出掛けになっていらっしゃったでしょう。カフェにも頻繁に行っていらっしゃいますよね。皆が目撃していますのよ」

たしかにセリーヌ様の言うとおり、私はユベール様とのデートで劇場や音楽会やカフェに行っています。

「見られていたなんて、恥ずかしいわ」

照れ臭くなって私がもじもじしていると、セリーヌ様はさらに言いました。

「遊び歩いてばかりのフェリシア様が急に成績が上がるのはおかしいわ。不正よ!」

セリーヌ様が私を真っ直ぐに見つめてそう言ったので、私が回答を求められているのだろうと察して答えました。

「セリーヌ様、先程から私の成績が上がったとおっしゃっていますけれど、成績はそれほど良くありませんわ。だって三位ですのよ?」

「フェリシア様は今までは百位より下だったでしょう。急に三位に上がるなんておかしいわ!」

「順位については以前に説明しました通りです。ルシアン殿下の婚約者だったときには、王妃教育を受けていましたので、ルシアン殿下の成績に合わせて下げていたのです」

「そんな王妃教育は無いわよ!」

「あら? 王妃様にまだ言われていませんの? ルシアン殿下より良い成績を取って、ルシアン殿下に恥をかかせるなって」

――ざわざわ、ざわ。

私たちのやり取りを見物していた他の生徒たちが、ルシアン殿下を見ながらヒソヒソと囁き合いはじめました。

周囲の囁き合う声が聞こえているのか、いないのか。

ルシアン殿下は顔を歪めて叫びました。

「う、嘘を吐くな……っ!」

「嘘ではありません」

私は事実を述べました。

「順位が上がったのはルシアン殿下に忖度をすることをやめたからです。そしてセリーヌ様がおっしゃるとおり私は遊び惚けていたので、今回は三位でした」

「遊んでいて三位のわけないだろう!」

「授業を聞いていれば、そのくらいの点数は取れます」

私がそう言うと、ユベール様も頷きました。

「フェリシア嬢の言う通りです。授業を聞いていれば八十点くらいは取れます。それ以上は自主勉強をするか、もしくは運良く知っている範囲が出題されるかしないと取れませんが」

「授業を聞いているだけで、どうして八十点も取れるのよ!」

セリーヌ様が憤慨してそう言うと、ルシアン殿下もそれに同調しました。

「セリーヌが言う通りだ。勉強もせずにそんなに点数が取れるわけがない!」

ルシアン殿下がそう言い放ったとき。

別の声が上がりました。

「恐れ入ります、殿下……」

恭しく、しかし堂々とそう言ったのは、下位貴族の令息でした。

(マルク様……)

すべての下位貴族を知っているわけではありませんが。

セルネ男爵令息マルク・セルネ様のことは知っています。

何故ならマルク様は秀才の誉れ高く、今回の試験で首席だった生徒ですから。

「発言をお許しいただきたく存じます」

「……! 許す」

ルシアン殿下も、秀才マルク様を認識していたのか、一瞬はっとした顔をして彼の発言を許可しました。

発言を許可されたマルク様は語りました。

当たり前のことを。

「授業を聞いていれば八十点は取れるというのは本当です。我々は残りの二十点を取るために自主学習をしているのです」

第三者であるマルク様も、私やユベール様と同じことを言いました。

「……っ!」

同じ授業を聞いていても八十点が取れないルシアン殿下は、マルク様の参戦に不利を覚ったのか、後退りました。

「……」

ルシアン殿下は私を睨みつけました。

「フェリシア、貴様の不正を必ず暴いてやるからな!」

ルシアン殿下はそう捨て台詞を吐くと、踵を返しました。

「いくぞ、セリーヌ」

「はい、ルシアン殿下」

ルシアン殿下はセリーヌ様を連れて立ち去りました。

仲睦まじいですわね。

「マルク殿、助かりました。ありがとう」

ユベール様が、加勢してくださったマルク様にお礼を言いました。

「大したことではありません。事実を言っただけです。しかし……」

マルク様は少し怖いお顔をしてユベール様を睨みつけました。

「ユベール殿、今回の試験の体たらくは何なのです。こんな形で首席の座を譲られるのは不愉快です」

ユベール様は今まで試験ではずっと首席で、マルク様はずっと次席でした。

それが今回ユベール様が四位に順位が落ちたことで、マルク様が首席となったのです。

「婚約者との時間を作るのに忙しく、勉強時間がとれなかったのです」

ユベール様が苦笑しながらそう答えると、マルク様はますます不愉快そうにお顔を歪めました。

「勉強時間は、作ろうと思えば作れるでしょう」

「それが、実は今、私は刺繍をしているので時間がないのです」

「は?」

ユベール様の答えに、マルク様は不味いものを食べたように顔を顰めました。

「刺繍?」

「フェリシア嬢が私のためにハンカチに刺繍をしてくれるというので、私もフェリシア嬢にプレゼントするために、ハンカチに刺繍をしているのです」

ユベール様が悪びれずにそう言うと、マルク様は疑問符を飛ばしました。

「ユベール殿が? 刺繍?」

「そうそう。刺繍というものはなかなかに難しい。だがこの試練を、私は乗り越えてみせる!」

「……一体、何をしているんです?」

「恋をしている」

ユベール様はあけすけにおっしゃいました。

聞いているこちらが恥ずかしくなります。

でもユベール様のそんな生真面目で真っ直ぐなところが素敵なのですけれどね。

「……そんなことのために……」

マルク様は怨嗟を吐くように言いました。

「そんなことのために、首席の座を空け渡したのですか?!」

「首席を維持することより、恋人との時間のほうが大切なのです」

「……」

無言で固まってしまったマルク様に、ユベール様は晴れやかな笑顔で惚気話をなさいました。

「君も恋を知れば、私のこの気持ちが解るようになる」

大勢の人がいる中で、ユベール様が堂々と惚気話をするので。

私は顔から火が出るほど恥ずかしくなりました。

「もう、ユベール様ったら。皆の前でそういうことをおっしゃるのはやめてくださいませ」

「すみません、フェリシア嬢。つい本音が出てしまいました」

「ルシアン殿下は私に、暴くとおっしゃっていたけれど、一体何を暴くというのでしょうか。何もありませんのに」

私がそう言うと、ユベール様はにこにこと微笑みました。

「ルシアン殿下が何を出してくるか楽しみに待ちましょう。フェリシア嬢に何かあれば私がお守りします」

「まあ、ユベール様ったら」

「愛する婚約者を守るのは当然のことです」

ユベール様はとても頼りになる優しい婚約者です。

ユベール様と婚約できて本当に良かったです。