軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十四話 二度目の毒殺未遂事件

ギルバートと出会ってしまった翌日、王太子宮の食品庫で私は頭を悩ませていた。

ノアの解毒を促すためには何をするべきか。

最も大切なのは、習慣化だと私は思う。体内の毒素をすべて一気に排出できれば良いが、そんな便利な方法はないので地道に続けるのがいちばんの近道だ。そして習慣化するのが、実は何より難しいとも思っている。

私も試してはみたが習慣化できずやめてしまったデトックス法やダイエット、美容法が数えきれないほどある。結局習慣化できるのはシンプルで手軽なものか、効果が絶大なものだけだ。

「ヨガはいまのところ誘っても全敗してるな。白湯とデトックスティーはマーシャが淹れてくれてるから習慣化できそう。あとはサプリメントとかあるといいんだけど、作り方がわからないし。そうなるとやっぱりおやつとかで——」

『オリヴィア~。今日のおやつは何? 何?』

ぶつぶつ独り言を呟いていると、シロがひょっこり現れつぶらな瞳で見上げてきた。

神獣は食事を取らなくても死なないらしいが、食いしん坊なシロは三食きっちりとるし、おやつもちゃっかり食べる。神獣も太ったりするのだろうか。

「今日のおやつね。炭アイスにしようかな。それともケーキ、いやプリンも……」

『また炭かぁ』

「何よ、文句あるの? 炭は体内で毒素を吸着してくれる、究極のデトックス材料なんだからね」

『でもアレ、すごい黒いんだもん』

「そりゃあ炭だもの、黒くなるでしょ」

調理場の窯で毎日のように出る炭を、シロの水魔法で洗浄し、風魔法で乾燥させ料理に使えないかと考えたのだ。

先日それでクッキーを作ってみた。炭とゴマ、それから大豆で作ったクッキーは見事に真っ黒に。味は美味しかったが、見た目のインパクトが強くシロも食べるのにかなり勇気がいったようだ。

ノアにも同じデトックスクッキーを出したら、笑顔で固まったあと「これは何の毒を入れたんだ?」と言っていた。逆に解毒するものだと言っても、まったく信用しない様子だったのを思い出す。まあ結局、固まった笑顔のままで完食していたが。

(そういえばギルバートに渡したのも炭クッキーだけど、食べたかな)

真っ黒なクッキーを見て驚嘆するギルバートの顔を想像しほくそ笑んだとき、マーシャが食品庫に駆けこんできた。

「オリヴィアさま……!」

「ど、どうしたのマーシャ」

普段は落ち着いたマーシャのただならぬ様子に、緊張が走る。

マーシャは私の腕にすがりつくようにして見上げてきた。

「お、王太子殿下が……殿下が……!」

「ノアさま……!」

シロを引っぱりノアが運びこまれた寝室へ駆けつけると、王宮医や助手が数人集まっていた。寝台に寝かされたノアは血の気の失せた顔で、荒い呼吸を繰り返している。着ている服は所々赤黒く染まっていた。

「マーシャ、ノアさまに何があったの」

追いかけてきたマーシャに尋ねると、どうやら執務中に出されたお茶に毒が盛られていたようだという話だった。

(王妃は毒殺を諦めてなかったんだ)

「ノアさまのご容体は……?」

マーシャが王宮医に尋ねると「深刻です」と、見ればわかる答えが返ってきた。

「回復魔法はかけましたが、毒の影響が大きいようです。いま毒を特定するために医術局で調べておりますので、判明し次第解毒薬を調合しますので」

「先に毒の候補をいくつかに絞って、解毒薬を複数投与することはできないのですか?」

「飲み合わせると害になるものもございます。侍女殿のお気持ちはわかりますが、焦ってはいけません」

私はふたりのやりとりを聞きながら、ノアの汗を拭うふりをして肌に直接触れた。

電子音と同時に目の前にステータス画面が現れる。

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【ノア・アーサー・イグバーン】

性別:男 年齢:13

状態:急性中毒(ランカデスの角:毒Lv.2) 職業:イグバーン王国王太子・オリヴィアの婚約者・オリヴィア強火担

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(ランカデスの角!)

私がノアの代わりに飲んだ紅茶に入っていた毒と同じだ。やはり王妃が再びノアの命を狙ったのだろう。

「胃の中の毒はどうしたんですか?」

私が尋ねると、王宮医は不審げな顔をしながらも「すでに毒は吐き出されている」と答えた。ノアが血と一緒に吐いたと言っているのだろうか。私は自分が毒を飲んだときのことを必死に思い出す。

たしかに私もかなりの量の血を吐いた。一緒に毒も流れたかもしれない。だがすべてではないだろう。胃の中にも残留している毒はあるはずだ。その場合、回復魔法で毒は消すことができないので、魔法で体が癒えてもまたすぐに毒の影響を受けてしまう。

「マーシャ、ノアさまの体を左側を下にするように横にして」

「は、はい! でも一体なぜ……」

「胃洗浄する。シロ、お願い。ノアさまを傷つけないように、口から胃に水を流しこんで。中を洗ったら、水を口から出してほしいの。できる?」

振り返って尋ねると、シロは緊迫した状況などお構いなしといった様子で、床に寝そべり尻尾をふりふりしていた。

『え~。でも僕って、オリヴィアが死なないよう手助けするようには言われたけど、他の人間については知らないよぅ』

「デトックス料理のフルコース作ってあげるから!」

『何をすればいいって? 王太子の胃を洗う? このシロ様に任せなさーい!』

王宮医たちは「何をする!」と騒いでいたが無視をした。

シロが水を細い蛇のように操り、ノアの口から流しこむ。しばらくしてノアの口から出てきた水が宙で球体になる。赤黒く変色した水に王宮医たちが慄いた。

「水魔法にこんな使い方が……」

「胃の中の毒は洗い流しました。もう一度回復魔法を」

「え……あ、ああ。そうだな、すぐに」

いちばん年嵩の王宮医が回復魔法をかけ始める。

手のひらから放たれる光は微弱だ。前世の乙女ゲーム【救国の聖女】で見た主人公の回復魔法は、もっと強い光を放っていた覚えがある。やはり聖女の力はけた違いなのだろう。

「ノアさまに盛られた毒は、ランカデスの角です。解毒薬を急いでください」

「なぜそんなことが……いや、だが症状は一致している……?」

「いいから早く! ノアさまが死んでもいいんですか!」

私が怒鳴ると、他の王宮医たちは我に返ったように部屋を飛び出していった。

やがてノアの呼吸が落ち着いてくると、回復魔法をかけ続けていた王宮医もふらつきながら医術局へと戻っていった。泣いていたマーシャが涙を拭い、水を取り替えてくると桶を持って出ていき、部屋にノアとふたりきりになったとき。

「オリヴィア……?」

ノアがうっすら目を開けて、私の名前を呼んだ。

「ノアさま! 私はここです」

顔をのぞきこむと、青い瞳が私を見つけて笑った。

血の残った唇が微かに動き、形を作る。

『ボ ク ノ セ イ ジョ』

「ノアさま……」

そのまま再び、青い瞳は閉じられた。

容体が悪化したのかと思ったが、呼吸は安定しており眠りについただけだとわかる。

「ごめんなさい、ノアさま。私は聖女じゃないんです……」

私を聖女だと信じて疑わないノア。

そんなノアに大切に思われていると感じるほど、罪悪感で胸が苦しくなる。本物の聖女が現れたとき、きっと彼はがっかりするだろう。裏切られたようにも感じるかもしれない。

(せめて本物の聖女が現れるまで、私が守らなきゃ)

このままでは安心して領地に引っ込むこともできない。何か方法を考えなければ。

『オリヴィア~。約束のデトックス料理はいつ食べられる?』

空気を読まず、ひと仕事終えたようなすっきりした様子ですり寄ってきたシロにあきれる。

「ほんとマイペースなんだから。デトックス料理は落ち着いてからね」

『え~。今日食べたいよう。真っ黒な炭料理でもいいからさぁ』

「いまはそんな状況じゃ……」

(待って。炭、デトックス……そうだ!)

ひらめいた私はシロに抱き着いて思う存分モフモフした。

「えらいシロ! お手柄!」

『え? 何? 僕えらい?』

「えらい! 最高! どうして思いつかなかったんだろう。最強のデトックス方法があるじゃない」

それも健康法ではなく、前世でも本物の解毒方法として使われていたもの。

「活性炭を作ってみせる……!」