軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

毒針

八階層を走破して、九階層に移動した。

ベイルの迷宮八階層のボスは、すでに戦ったことのある相手だし、たいした問題ではない。

メッキで防御を固めつつデュランダルで叩き斬り、楽勝だ。

ベイルの迷宮九階層の魔物はスローラビットらしい。

セリーがクーラタルの探索者ギルドで調べてきた。

スローラビットなら、クーラタル八階層でも戦っているし、動きも遅い。

何の問題もない。

こっちも楽勝だ。

「そんなふうに考えていた時期が、俺にもありました」

ファイヤーボール六発でスローラビットLv9を沈めた後、つぶやく。

六発か。

Lv9からは、魔物を倒すのに魔法六発が必要になるようだ。

階層が上がるごとに、やはり敵も確実に強くなっていく。

「魔法を使う回数は一つ増えましたが、そう大きな違いはないでしょう。数回で倒せるなんてさすがご主人様です」

「その分、魔物と打ち合う時間が長くなるが」

「回避すれば何の問題もありません」

倒すのに必要な魔法の回数が増えれば、戦闘時間が延びる。

戦闘が延び、魔物と近接している時間が長くなる。

当然、攻撃を浴びることも増えるだろう。

約一名を除いて。

俺が前に出るのはデュランダルを持っているときだから問題はない。

攻撃を喰らってもHP吸収ですぐに回復できる。

問題は、セリーの方だ。

「九階層は大変じゃないか?」

しばらく戦闘をこなしてから、セリーに確認した。

セリーは何度か魔物の攻撃を喰らっている。

被弾の増加はやはり避けられない。

「いえ、大丈夫です。八階層より特にきつくなった感じはありません」

「魔物の攻撃を受けることが増えてないか」

「すぐに手当てをしてもらっていますし、問題ありません。えっと。やはりご迷惑でしたでしょうか。がんばってロクサーヌさんのように回避できるようになりたいと思います」

「いやいや。手当てをするのは別に面倒じゃない。セリーがきつくなければ、大丈夫だ」

あわてて否定した。

セリーは気丈にもがんばってくれるようだ。

まあセリーがいいというのなら大丈夫だろう。

九階層もなんとかなりそうか。

翌朝、クーラタルの迷宮でも九階層に移動する。

ボス戦は例によってデュランダルでぼこった。

「クーラタルの迷宮九階層の魔物はニートアントです。毒を使った攻撃をしてくるのが大きな特徴です。水魔法がニートアントの弱点になります」

八階層のボス部屋から九階層に飛ぶと、セリーが説明してくる。

毒か。

クーラタルの迷宮九階層は一筋縄ではいかないようだ。

「ありがとう。水魔法を使えばいいんだな」

「はい」

「分かった。しかし毒を使ってくる魔物は初めてだな」

「えっと。スパイスパイダーも、低確率ですが攻撃されると毒を受けることがあります。それと、グリーンキャタピラーのボスのホワイトキャタピラーは毒を浴びせるスキル攻撃を仕掛けてきます。糸で動きにくくした後に毒攻撃をしてくるのが定番です。強力な連携技で、これにやられる人も多いと聞きます」

あれ。そうだったのか。

確かに毒消し丸は必需品だと聞いた。

それだけ毒攻撃をしてくる魔物が多いということだろう。

毒を使ってくる魔物がいないと思っていたが、運がよかっただけか。

スパイスパイダーは、大体のところロクサーヌが相手をしている。

つまり攻撃はほとんど当たっていない。

ホワイトキャタピラーのスキル攻撃は全部キャンセルした。

「気づかなかったな」

「低階層で毒を使ってくる魔物の代表格はなんといってもニートアントです。ニートアントの恐ろしいところは、通常攻撃でも毒を受けることがあるし、こちらに確実に毒を与えるスキル攻撃もしてくるところです」

二段構えということか。

そして、スキル攻撃は上の階層であればあるほど使ってくる。

「毒を喰らうとどうなるんだ」

「どんどんと衰弱していき、放っておけば最後には死にます」

「毒消し丸で治せるよな」

「はい」

「後遺症とかはないか」

「毒そのものは薬で消せます。ただし、ダメージは受けたままです。必要なら傷薬を使うか手当てをするのがいいでしょう」

予後は良好のようだ。

「分かった。毒消し丸はアイテムボックスにあるから、二人とも毒を受けたらすぐ取りに来い」

「はい、ご主人様」

「かしこまりました」

リュックサックに入れるよりアイテムボックスから取った方が早いだろう。

アイテムボックスはセリーにもあるが、詠唱が必要だ。

俺なら詠唱なしですぐに取り出せる。

俺が動けなくなった場合のことも想定はしておくべきか。

ボス戦でもなければ今のところそこまでの心配はいらないだろうが。

「セリーにも毒消し丸をいくつか渡しておく。万が一の時にはそれを使え」

セリーにアイテムボックスを開けさせ、毒消し丸を渡した。

探索者Lv10でなれる鍛冶師のアイテムボックス容量は、やはり十種類×十個のようだ。

毒消し丸十個を入れさせる。

ロクサーヌの案内で進み、ニートアントに対面した。

でかいアリだ。

形そのものは、普通のアリである。

ただしでかい。

異様なほどでかい。

遠くで見てもでかい。

見方によってはちょっと気持ち悪い。

いや、気味が悪いというよりかは、おどろおどろしい。

うん。

でかいカブトムシだと思えば、そう気持ち悪いわけではない。

あれはカブトムシの仲間だ、カブトムシ。

黒光りするからといって、決してGを思い浮かべてはいけない。

うわっ。

思い浮かべてしまった。

脚のギザギザの辺りが、似ていなくもない。

違う。

アリだ。

ただのアリだ。

Gではない。

ウォーターボールと念じた。

水の球が頭上にでき、洞窟内を進んでいく。

ニートアントは、Gのようにそそくさと移動したり、飛んだりすることはなかった。

ウォーターボールが命中して弾ける。

よかった。

やはりGではない。

ゴキブリなら絶対に今の水球を回避していただろう。

二発めのウォーターボールを撃ち込む。

動き自体は他の魔物と変わらないようだ。

やはりアリだ。

働きアリじゃなくてニートアントだけどな。

働いたら負けかなと思ってそうだ。

近くで見ると全長一メートルくらいはあるだろうか。

これだけでかいとやはりちょっと気持ち悪い。

続いて三発め。

働けよ。

まあ魔物が働くとろくなことにはならないだろうが。

ウォーターボールを正面から喰らい、ニートアントが倒れた。

三発か。

水魔法は弱点なので、威力が倍になるようだ。

Lv9だから、通常なら六発かかるところなのだろう。

三発なので、こちらと接触する前に倒せた。

毒針

緑の煙が消えると、なにやら恐ろしい名称のものが残る。

まがまがしい。

セリーが無造作に拾い上げて持ってきた。

大丈夫なのか?

「はい」

「えーっと。手で持っても問題ないのか」

「人間や動物相手には食べさせないと毒にならないそうです」

手で触れても大丈夫のようだ。

思い切って、受け取った。

黒くて円錐形をした五センチくらいのアイテムだ。

先っぽのところが毒針になっているかとも思ったが、そうでもないらしい。

「経口摂取しないと駄目なのか。蛇の逆だな」

「そうなのですか?」

「そうだ」

蛇の毒はタンパク質でできているから、食べると消化されると聞いた。

蛇が毒を使うのは獲物を狩るためだ。

獲物を毒で倒した後、今度は毒に汚染された獲物を自分が食べることになる。

自分の出した毒で自分がやられてしまったのでは目も当てられない。

「そうなのですか。そんなことを知っているなんて、すごいです」

「さすがご主人様です」

無駄な現代知識で尊敬を買ってしまった。

毒針も知らないことで評価を下げたからな。

それを相殺する。

セリーは口にも目にも出さなかったが、毒針も知らない田舎者だと少しは思ったことだろう。

この世界の蛇は地球とは違う可能性もあるが。

この世界の蛇が獲物を狩るために毒を使うのなら、地球と同じ理由で食べても大丈夫だろう。

捕食者である蛇が身を守るために毒を持つなんてことはそうはあるまい。

「毒針は魔物相手には有効です。投げつけたりすることで、うまく当たれば毒状態にできます。実力の拮抗したボスとの戦闘では、最初に毒針を使うことが基本戦略になります」

「ボスも毒を受けるのか」

「六人パーティー全員で二、三個も投げれば、毒を与えることができます」

「確率低っ」

六人で二、三個なら、全部で十二個から十八個だ。

確実に毒を与えるには結構な数が必要になるらしい。

一個や二個ではあまり毒にならないということだろう。

「その他に特殊な使い方もします。迷宮の外に出ている魔物には、こちらから攻撃しない限り積極的には人を襲ってこないものも多くいます。この毒針は毒にする以外は何の効果もないアイテムなので、その魔物に投げつけても攻撃とは認識されません。毒状態になると攻撃したと判断されますが、毒にしてから倒すことで、短時間で倒すことができます」

そんな裏技があるのか。

いろいろたくましいというべきか。

「あ。私も子どものころ、それで遊んだことがあります」

ロクサーヌが声を上げた。

ロクサーヌはやったことがあるらしい。

「ロクサーヌがか」

「えっと。結構元手がかかるのでは。私は貴族やなんかの子弟がするものだと聞きましたが」

なるほど。

毒針もただではない。

コボルトソルトだって買い取ってくれるのだから、毒針もそれなりの値段はするだろう。

それを何個も魔物に投げるのはもったいない。

「近くにニートアントの湧く場所があったので、毒針はそこで集めました。どうせ毒針を持って帰っても危ないことをするなと怒られるだけなので、今度は森の奥に行き、強い魔物相手に毒針を使います」

やり方としては、理にかなっているような。

確かにやり方としては。

「ニートアントは、普通に狩るんだよな」

「そうです」

「でもばれたら危険だと怒られると」

「非力な子どもなので、倒すのに数時間はかかりますから」

何か非常識な言葉が聞こえたような気がしたが、空耳に違いない。

それとも、この世界の数時間は地球時間では数秒だったか。

「えっと。ニートアントは毒にするスキル攻撃もしてくるので、非常に危険だと思いますが」

「攻撃をかわしてしまえば問題はありません」

「数時間も戦うのにですか」

「はい」

セリーよ。そこは突っ込んではいけないところだ。

「それで、倒して得た毒針を他の魔物に使うと」

「はい」

「その魔物は普通に狩るだけじゃ駄目なのか?」

「もちろん、私ではとても手が出せないような強い魔物を狙います。こちらの攻撃ではびくともしません。住んでいたところの近くでは、ノンレムゴーレムが比較的安全に近づけて強い魔物でした」

普通に狩れるニートアントを倒して得た毒針を使って、普通では狩れないノンレムゴーレムを狙うということか。

確かに理にはかなっている。

「ノ、ノンレムゴーレムは迷宮の外でも人を襲う魔物のはずですが」

「はい、そうですね」

「気づかれたら危ないんじゃないですか」

「どうせ毒状態にすれば、魔物も攻撃されたと認識します。だから一緒のことです」

違うよ、全然違うよ。

ノンアクティブの魔物に毒を盛るのと、とても手が出せないようなアクティブの魔物に毒を盛るのとでは、難易度が段違いだ。

「ノンレムゴーレムがいるような場所だと、他の魔物に見つかりませんか」

「他の魔物の位置はにおいで分かるので、そこは巧く潜り込んで」

「近づくのはいいとして、そんな簡単に毒にはならないのではないですか」

「毒針を二十個も投げつければ、ほぼ確実に毒状態にできます」

セリーが問い詰めるが、ロクサーヌは淡々と答えていく。

「二十個も投げると、その間に見つかって襲われるのではないですか」

「どうせ最初の一投で見つかりますよ。後は攻撃を回避しながら投げます」

「ど、毒にするのはいいとして、その後はどうするのですか」

「倒れるまで攻撃をかわし続けます」

「か、かわすだけですか」

「私の攻撃などはまったく効きません。それだけの相手です。一撃でも攻撃をもらったら確実に殺されます。多分かすったくらいで死にます。下手をしたら攻撃時の風圧で死にます。だから必死にかわします。毒状態にしているおかげでニートアントと戦うよりは短い時間で終わるから、安心ですね」

全然安心じゃねえ。

ロクサーヌ、あんたなんちゅう遊びを。

これがロクサーヌの秘訣か。

子どものころから、こんな遊びをして鍛えまくっていたのか。

いや。元々回避力があったからこそこんな遊びができたのか。

こんな遊びをしたから回避力が上がったのか、回避力があったからこんな遊びができたのか。

鶏が先か、卵が先か。それが問題だ。

とはいえ、ロクサーヌのレベルはそれほど高くはなかった。

地表にいる魔物はLv1だろうから、得られる経験値が少ないのか。

あるいは、毒を使って倒しても経験値は得られないのか。

他にも聞いておかねばならないことがある。

「その遊びは、他の子どももやっているのか」

「他の子を誘う前に、すごく怒られて禁止されてしまいました」

やるわけないじゃないですか、やだー。

よかった。

さすがにロクサーヌレベルの子どもがごろごろいるわけではないようだ。

セリーの肩が震えている。

涙目になっていた。

うん。

気持ちは分かる。

俺は小刻みに動いていたセリーの肩に手をかけ、一声かける。

はっきりと言ってやらねばなるまい。

「諦めろ」

それが優しさというものだろう。