軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

クーラタル

「魔物が三匹出てくるのは、三階層からか?」

「いいえ。四階層からと聞いています」

「では四階層で四匹出てくることはないな」

「四匹出てくるのは八階層からだそうです」

二階層と三階層でロクサーヌの戦いぶりを確認し、四階層に移動した。

最初に出てきたミノ二匹、コボルト一匹の団体を魔法三発で沈めた後、ロクサーヌに尋ねる。

ファイヤーストームが魔物にだけ作用することは確認済みだ。

「そうすると十六階層からは五匹か」

「よくお分かりになられるのですね。そのとおりです」

妙なところで感心されてしまった。

二匹出てくるのが二階層、三匹が四階層、四匹が八階層なら、五匹出てくるのは十六階層からだろう。

次にロクサーヌが案内したのも、ミノ一匹、コボルト一匹の団体だ。

まずファイヤーボールでコボルトLv4を焼き払う。

「ロクサーヌ、ミノの相手をしてみろ」

確認のため、ロクサーヌを送り出した。

ロクサーヌは二階層と三階層でニードルウッドLv2とニードルウッドLv3を問題なくあしらっている。

前後が詰まった牛のようなミノLv4とどこまで戦えるのか。

ロクサーヌがシミターをかざして駆けた。

正面から軽く一撃。振られたツノを難なくかわして一撃。

さらに一撃加えた後、ひらりと身を翻してミノの攻撃を避ける。

おまえ、どこの闘牛士だよ。

一匹相手なら四階層でも完璧のようだ。

ロクサーヌが魔物の相手をしている間に、俺はデュランダルを用意する。

離れた左側を進み、ミノの側面からぶち当てた。

ミノを倒し、MPを回復する。

「四階層でも問題ないようです」

「ただ、数がな。三匹でも大丈夫か?」

「そうですね。二匹ならまったく問題ありません。三匹に囲まれると、ひょっとしたら攻撃を受けることがあるかもしれません」

こんな感想が返ってきやがりましたですよ。

俺がミノ三匹に囲まれたらパニックになるね。

「ツノは怖くないか」

「よく見れば問題ありません」

「よ、よくかわせるよな」

「ツノが振られるときには、こうヒュッと来ますから、体をスッと引いてパッとかわせば大丈夫です」

「……分かった」

ロクサーヌは人に教えることができないタイプだ。

天才肌ってやつだろう。

「そもそもツノが頭にあっても力をこめようとすれば勢いよく突進するか大振りするかしかなく、それでは動き出しで何をするつもりなのかいっぺんに分かってしまいます。避けてくれといっているようなものです」

とはロクサーヌ談である。

言葉だけ聞いていると、そのようにも思えるが。

いやいや。だまされてはいけない。

そんなことができるのはロクサーヌだけだ。

まあ、先々の心配をしても仕方がない。

四階層は魔法三発でけりがつくので問題ない。

上に行けば、魔法を発動するまでの間、前衛が魔物三匹を相手にしなければならないとしても。

ロクサーヌも二匹までは問題ないと言っているのだから、一匹は俺ががんばるしかないだろう。

四階層で少し狩をして、冒険者ギルドの壁に帰った。

迷宮にこもりっぱなしはよくない。

迷宮ではどうしても緊張を強いられる。

適宜気分転換が必要だ。

狩を終えたとき、魔結晶の色は青くなっていた。

ロクサーヌの魔結晶は紫になっている。

魔物にとどめをささないと、魔力はたまらないらしい。

紫にしたのはロクサーヌが持っているときではなく俺が借りたときだ。

複数の魔結晶を持てば、複数の魔結晶に魔力がたまるのではないか?

ロクサーヌによれば、もちろんそんなうまい話はないらしい。

とはいえ、結晶化促進スキルをつけると、違うかもしれない。

ものは試しと、二個の魔結晶をリュックサックに入れてみた。

ロクサーヌから借りた黒魔結晶が紫魔結晶に変わったのは、魔物を九匹倒したときだ。

うち二匹は結晶化促進スキルをつけずにデュランダルで倒している。

得た魔力は、七匹×三十二倍+二匹分だ。

紫魔結晶にするには魔物百匹分の魔力が必要だから、魔結晶を二個持つとたまる魔力はきっちり半分になると考えていい。

やっぱりうまい話はないようだ。

紫魔結晶を返すとき、十匹も狩っていないのに百匹狩らないとならない紫魔結晶になっていたことで、ロクサーヌは驚いていたが。

コボルトはおいしくないとロクサーヌに伝えてあるので、あまりコボルトとは戦っていない。

本当にロクサーヌは役に立つ。

冒険者ギルドは、いつもより人が多いような気がした。

終了宣言のせいだろうか。

買取のカウンターにも人が並んでいる。

売りに来た人は皿の上にブランチを四、五本とリーフ一枚を載せていた。

まさに探索が終了した一階層でがんばったのだろう。

数は少ないとはいえ。

「リーフって買い取れないものかねえ」

小声でロクサーヌに話しかける。

リーフは確か八十ナールだったから、倍額で買って三割引が効かないとしても、毒消し丸十個を三割アップで売れば、一枚あたり百六十五ナールの利益が出る。

「リーフの取引はギルドの利となります。やめた方がいいと思います」

ロクサーヌがやはり小声で答えた。

なるほど。ギルドの権益を侵害すれば、目をつけられてどんなしっぺ返しがくるか分かったものではないか。

この方法で稼ぐのはやめておこう。

小声だったし、誰にも聞かれてはいないはずだ。

それにしても今日は人が多い。

ギルドの壁からも、すでに何組かのパーティーがやってきていた。

また誰か出てきた。

今度は二人組みだ。

「クーラタル、片道のかた、いませんか」

最初に出てきた方の男が告げる。

おっと。クーラタルから来た冒険者か。

これは都合がいい。

俺は、パーティー編成を念じ、ロクサーヌをパーティーからはずした。

「ちょっと行ってくる」

「はい」

ロクサーヌもすぐに意味するところを理解したようだ。

主人の命令に従っただけかもしれないが、理解したような目をしていた。

多分理解しただろう。

俺がいない間にどこかへ逃げ出すようなことは、しないといいな。

まあ、ちょっと目を離しただけでいなくなるなら、すでに逃げている。

四六時中一緒というわけにもいかない。

銀貨一枚を払って、クーラタルに連れて行ってもらう。

日の高さを確認して、すぐに帰った。

ロクサーヌは……いた。

ちゃんといてくれた。

「ただいま。クーラタルに行ってみるか?」

「はい。お供します」

パーティーを組み、ベイルの日の高さを確認した後、クーラタルの冒険者ギルドにワープする。

ベイルの時刻は午後三時よりも前、二時を少し回ったあたりか。

夕方まで三時間くらいの余裕はあるだろう。

クーラタルも昼間だが、方位も経度も分からないので時差は不明だ。

クーラタルの冒険者ギルドは、ベイルの町の冒険者ギルドを一回り大きくした程度だった。

帝都の冒険者ギルドとは比ぶべくもない。

買取カウンターも三つしかない。

一つしかないベイルの冒険者ギルドよりは大きいが、話を聞くにもっと大きい町かと思っていた。

「うーん。こんなものなのか」

「クーラタルは迷宮と探索者が中心の町なので、探索者ギルドの方が充実していて大きいのです」

ロクサーヌが説明してくる。

冒険者ギルドを出て思わず放ったつぶやきを聞かれてしまったらしい。

「そうなのか。ロクサーヌは来たことあるのか」

「はい。一度だけ迷宮の見学に来ました。迷宮に入ろうとするものは、多くが一度は訪れます」

「じゃあ、一度迷宮行ってみる?」

「かしこまりました。あちらです」

ロクサーヌはためらうことなく指差した。

「北がどっちか分かる?」

「すみません。分かりません」

「それでよく迷宮のある方向が分かったな」

あ。においか。

「クーラタルの町は迷宮を中心にしてできています。迷宮がいるのは町の中心で、道はその中心から放射状に延びています」

においでもないようだ。

見れば、道の片方向は建物がだんだんまばらになっていっている。

片方は建物が密集している。

なるほど。あっちが町の中心か。

町の中心部へ向かって歩き出した。

それでも、クーラタルの町並みはさすがに帝都より小さい。

ベイルの町よりは繁栄している、という程度だろう。

中心部近くでは何軒かの店が建物一階の壁を開放して営業していた。

魚屋とパン屋があって、その向こうにあるのは金物屋だ。

露店以外でやっている店は、この世界に来てから初めて見た。

特にどうということはない普通の店だ。

店舗の形態なんてそう複雑なものではないということか。

金物屋の向こうは道が交差するロータリーになっており、中央にこんもりとした小山がある。

迷宮の入り口だ。

町の中心からは道が何本か延びており、どの道にも両側に何軒かの店が並んでいた。

「あれが迷宮か」

「そうです。入り口から道をはさんで正面に建っているのが騎士団の詰め所、入り口の反対側にある大きな建物が探索者ギルドです」

迷宮入り口の黒い壁が右側に少し見える。

その反対側には、中央から延びる二本の道にはさまれるようにして五、六階建てくらいの大きなビルが建っていた。

赤茶けたレンガ造りの建物はかなりの威容を誇っている。

なるほど、探索者ギルドが充実しているというわけだ。

一階の扉は開かれ、何人もの人が出入りしていた。

騎士団の詰め所にも多くの人が並んでいる。

「あれはなんで並んでるんだ」

「クーラタルの迷宮は入り口から入るときにお金を払わなければいけないのです。一人一回百ナールです」

入場料を取るのか。

観光名所みたいだ。

「料金がいるのならもっと時間のあるときに入った方がいいな。家を借りるにはどうすればいいか、知ってるか」

「世話役の人がいます。どこかの商店で聞けば教えてくれるでしょう」

「ふむ」

この金物屋にでも入ってみるか。

金物屋に入ろうとすると、ロクサーヌが腕を引っ張った。

「ですが、ご主人様」

「ん?」

「ご主人様の魔法を使って入ればよいのではないですか」

小声で伝えてくる。

なるほど。

ワープを使えば直接迷宮の中に行けるのだから、一度入ってしまえば次からはいちいち金を取られることはないのか。

越後屋、おぬしも悪よのう。

帯をくるくるとほどきたい。

金物屋に入った。

鍋、はさみ、鍬、シャベル、その他よく分からない金属製品が置いてある。

南京錠もあった。

武器は武器屋で。鍬やシャベルは農具扱いということなのだろう。

「いらっしゃいませ」

出てきたのは中年ちょい手前くらいのおばちゃんだ。

37歳、商人Lv44。

微妙にレベル高い気がする。

「この辺りで住むところを探しているのだが。世話役の人がどこ」

「それはようございました。六区の世話役はうちになります」

全部言う前に返ってきた。

ここが世話役なのか。ラッキー。

「六区?」

「この町は中央から延びる六本の道によって区画されています。探索者ギルドのある区画が一区、以下左回りで二区、三区、ここが六区になります」

「なるほど」

迷宮に面した一番目立つ位置は各区に一つずつだ。

六区ではこの店がその一番目立つ場所にあるのだから、世話役になるのも実力相応ではあるのかもしれない。

「探索者のかたですか」

「そうだ」

「どのような物件をお探しでしょう」

そう言われると困ってしまう。

「逆にどういう物件があるのか教えてほしい。年に四万ナールちょっとで借りられるところで、他には特に条件はない」

「お二人で住まわれるのですか」

「当面はそうだが、今後は」

「なるほど。探索者ですからね」

みなまで言わせずにおばちゃんが引き継いだ。

しゃべり好きな人らしい。

迷宮に入る探索者なら六人までパーティーを組める。

パーティーメンバーと一緒に住む探索者も多いのだろう。

おばちゃんはロクサーヌの方に少しだけ目をやると、次に俺の顔を見ていやらしくにやけた。

ロクサーヌが奴隷だということが分かったようだ。

そしてまた、値踏みするかのようにロクサーヌをぐっとにらむ。

何故ロクサーヌが奴隷だと分かったのか分からないが、あの顔は分かったという顔だろう。

さすがは世話役ということなのか。

あるいは、奴隷商人が俺に告げたように、迷宮に入るのに奴隷をパーティーメンバーとする人は多いのかもしれない。

「……あの」

「いい娘を持ったようですね。迷宮に近い方がいいでしょうか」

にらまれて何か言おうとしたロクサーヌを置き去りにして、おばちゃんが俺に話しかけた。

「特にこだわりはない」

迷宮に近い方が家賃は高いだろう。

迷宮に近いということは町の中心に近いということでもある。

しかし俺の場合、迷宮に行くにはワープを使えばいい。

町の中心にある繁華街に用があるとしても、冒険者ギルドの壁に出てくれば十分だ。

迷宮の近くに住む理由はない。

むしろ、迷宮から遠ければ家賃が安くなるだろうから、遠い方が有利だ。

「冒険者でないなら、一軒お値打ちな家がありますが、どうでしょうか」

「冒険者では駄目なのか?」

「前の住人が遮蔽セメントで全部おおってしまったので、使いにくいのです」

意味が分からん。

「遮蔽セメントを使った壁にはフィールドウォークで移動できませんから、冒険者には使いにくいでしょうね」

助けを求めるようにちらりとロクサーヌを見ると、フォローしてくれた。

ロクサーヌ、まじ役立つ。

しかも、俺が遮蔽セメントを知らないことがばれないよう、さりげないフォローになっている。

なるほど。

冒険者は迷宮から離れたところに住むのだろう。

移動するにはフィールドウォークを使えばいい。わざわざ家賃の高いところに住む理由はない。

しかし遮蔽セメントでおおってあるので、その家は使えないと。

「一度見せてもらえるか」

ワープが使えるかどうかは、試してみるよりないだろう。

「分かりました。準備してきます」

おばちゃんは一度店の奥に引っ込んだ。

しばらくして現れると、外に出て道を冒険者ギルドの方へ戻る。

家を借りるのは早計かもしれない。

この世界についてもっと知ってから、あるいは今後のことについて真剣に考えてからの方がいいかもしれない。

地震や火山や熱帯低気圧やその他天災の有無について、調べなければいけないかもしれない。

「この辺りの気候はどうですか」

「いいところですよ。夏は涼しくて、冬もあまり雪は降りません」

「雨はどのくらい降りますか」

ロクサーヌがおばちゃんから聞き出そうとしているが、その程度では足りないだろう。

しかし、どのみち俺にはあまり選択肢はない。

現状クーラタルか帝都かの二択だ。

他にも問題なく住める場所があるかもしれないが、調べたり考えたりするのに何ヶ月も費やすなら、借りてしまった方が安上がりだろう。

ここがよほど酷い場所だったならともかく、他にもっといい町があったのにという程度なら、後悔するほどでもない。

世話役のおばちゃんが俺とロクサーヌを先導しながら道を進む。

クーラタルの町は、高いビルが建っているのは中心部だけで、少し外れると住宅街になっていた。

二階建て程度の家が多少の間隔をあけて並んでいる。

どこかの田舎の郊外という感じだ。

さらに進んで家よりも空き地や畑が多くなったころ、一人の男性がいて、おばちゃんとなにやら挨拶した。

40歳、村人Lv53、だと?

かつてない高レベルの村人だ。

精悍でたくましく感じるのは、実際に強いのか、俺がレベルに惑わされているのか。

「今のがうちの亭主です」

男性と二言、三言会話して別れたおばちゃんが告げる。

「非常に、強そうな人だな」

「この町には城壁がないでしょう。迷宮を取り囲んで造られていますから、城壁には意味がありません。魔物は町のどこにでも現れます。弱いですけどね。魔物を怖がるような人はこの町には住めません。私も亭主も三日と空けずに迷宮に入るようにしています」

ロクサーヌによれば、魔物は迷宮の中だけでなく、近くにも湧く。

最初の村の裏手の森にいたスローラビットや、馬車で移動中に出会ったグミスライムがそうだ。

そうした魔物に襲われないように、都市は城壁で囲む。

クーラタルでは迷宮が町の中心にあるのだから、町を城壁で囲んでも意味がないのだろう。

考えてみれば恐ろしい町である。

そんな町に住んでいる以上、この夫婦も鍛えている。

その結果が、村人Lv53というわけだ。

デュランダルを出せばいい俺はともかく、ロクサーヌは大丈夫だろうか。

「魔物が湧く町でも問題ないか」

「何の問題もありません」

愚問だった。

「亭主はあそこの小屋で鍛冶職人をやっています。うちで扱っているのは亭主が作った品物です」

「鍛冶職人?」

「ええ」

「鍛冶師なのか?」

鍛冶師なら、ジョブを獲得する方法が聞けるかもしれない。

「鍛冶師はドワーフのみが就けるジョブですよ」

「違うのか」

「小屋の中に小さな溶鉱炉を持って、商品を鋳造しています。これは種族に関係なく、技術があれば誰にでもできる仕事です。鍛冶師は武器や防具をスキル魔法によって作り出すジョブで、ドワーフにしかなれません」

「そうか」

なにやらよく分からないが、鍛冶師と鍛冶職人は別物らしい。

考えてみればジョブは村人Lv53だったしな。

ワンメイクの装備品はスキルで作るということか。

残念ながら、鍛冶を行って鍛冶師のジョブを得ることは無理だろう。

「さあ、あそこです」

もう少し進み、細い路地に入ったところで、世話役のおばさんが白い家を指差した。