軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3 聖女の力っていったらこれでしょ

ルーカスに手を取られ、神官たちが頭を垂れる中を進んで行くと、一人だけ暗がりに立っていた背の高い人の所に来た。

近くに来るとその人が男で、扉を守る番人の様に立っているのが分かった。

(誰も中に入れない為? それとも私が逃げないように?)

サラとルーカスに続き後ろの三人が到着すると、彼は素早く動いて扉を開けてくれたので、廊下から差し込んだ明るい光で、サラにもその姿がはっきりと見えた。

彼はサラと同じ黒髪でルーカスより頭一つ分以上背が高く、黒いお仕着せを着ていても細身だがしっかりと筋肉が付いているのがよく分かった。

顔は彫りが深く、唇が薄くて、瞳は金。

その瞳の瞳孔は細長く見え、サラはヘビを連想した。どこか人間とは違う容姿に目を奪われていると、男の腰のあたりから細長い尾のようなものが見えて目を見張った。

(尾の先が矢印みたいになってる。それって、悪魔じゃないの?)

男を見つめて足が止まっていたサラに、ルーカスがにこやかに声をかけて来た。

「聖女様。どうかされましたか」

サラはにっこりして「いいえ。明るくなると、ずいぶん立派なところだったんだなと思って驚いていました」と答えた。

そのまま廊下を進んで行くサラたちの後ろ姿を、推定悪魔はじっと見送っていた。

召喚された大理石の広間は城の中にあったらしく、サラはそのままルーカスに王宮の華やかなエリアまで連れて来られた。

ルーカスと並んで歩くサラの服装は紺色ブレザー、グレーのプリーツスカート、赤いリボンというオーソドックな高校の制服だったので、人に会えば奇異の目で見られると思ったが、誰にもすれ違う事は無く目的地までたどり着いた。

ちなみにスカート丈は膝上なので、召喚時は倒れてスカートがめくれていたが、見せてもいいスパッツを履いているサラは特に気にしていない。

ただ、周りにいた神官たちが目をそらして恥ずかしがったり、ルーカス以下四人がサラを『破廉恥』と非難する心の声は聞こえて、(誰のせいだと思ってるのよ)とますます心証は悪くなっている。

サラにしてみれば紺髪とピンク髪二人の貴族のドレスこそ、全然動けなさそうで御免こうむりたい代物だった。

ところがルーカスがたどり着いた場所で、待っていた侍女二人にサラを「聖女様だ。極力丁重に扱うように」と紹介してから「用意していたドレスへ着替えを頼む」と指示を出すではないか。

サラは反射的に「いや、それは結構」と断ろうとしたが、侍女と話すのも情報収集の一つになるかと思い直し、黙って従った。

ルーカス以下の四人はそこで「それでは聖女様。我々は謁見の間でお待ちしております」と去って行った。

四人がいなくなると、緑髪の侍女が「初めまして聖女様。私はエイヴァと申します」、茶髪の侍女も「私はアンナと申します」と自己紹介し、エイヴァが先に立って「こちらへどうぞ」と歩き出し、アンナはサラの後に続いた。

アンナからは声が何も聞こえなかったが、エイヴァから『こんな小娘に伯爵家の私が仕えさせられるなんて、忌々しい。あと数か月の辛抱だから我慢するけど。それに、なんで男爵家の女と組まされるの』という文句が早速聞こえて来た。

それを聞いたサラは、数か月の間に何があるのか聞き出せないかな、と思いながら歩いていたが、(それにしても、この世界の奴ら足が遅すぎないか)と段々げんなりしてきた。

サラはスニーカーを履いているし、スカートも短いのでかなり有利とはいえ、男のルーカスでも歩くのが遅すぎて、エスコートされているのかしているのか分からなくなりそうだった。

今前を歩いているエイヴァはルーカスよりもさらに遅く、行先が分からないのに追い抜かしそうになっていた時突然立ち止まられ、サラは彼女の背中に衝突しかかった。

どうしたんだと前を見ると、小さな女の子が一生懸命廊下を磨いていた。

女の子はあの男の様に尾を持っていたが、この子のは尾と言うより尻尾という感じで、くるんと丸まって白い毛に覆われていた。

(か、か、かわいいいいい)サラが内心で悶絶していると、あろうことかエイヴァが女の子の可愛い尻尾付のお尻を思い切り蹴飛ばした。サラの背後で、アンナが息を飲むのが聞こえると同時に『ミルコ!』という心の声が頭に響いた。

「何をやっているの! 下働きの獣人が、私たちの前に姿を現して良いと思ってるの!」ヒステリックに叫び、尚も蹴ろうとするエイヴァの腕をつかみ、サラは止めた。

「やめなさいよ」

得体のしれない小娘を聖女と敬う事にもいら立っていたエイヴァは、カッとしてサラの腕を振り払おうとした。

しかし、軽く掴まれているはずの腕は、万力で挟まれている様にびくともしない。

「この私、聖女様がやめなさいって言ってるのよ」

サラに低い声で言われ、ハッとしたエイヴァは己の職務を思い出したが諦めきれずに「けれど、聖女様。これは獣人です。わがアンジェラ王国では、獣人が貴族の前に姿を現す事は禁じられているのです」と言い募った。

「そう。でもね、私の国では、人は皆平等なの。だからこんな事は許されないのよ」(本当は日本国も色々あるんだけどね)という言葉は隠し、サラはエイヴァに命令した。「さあ、早く私を案内してちょうだい」

エイヴァの心の中には、サラと獣人への罵詈雑言が渦巻いていたが、仕方なく女の子をひと睨みして再び歩き出した。アンナは黙って後ろで立っていたが、ホッとしているように見えた。

サラは、先に行くエイヴァを無視して立ち止まり(聖女の能力っていったらこれでしょ)と、そっと女の子の傷だらけの身体に手をかざしてみた。

手のひらから想像通りの白金の光がほとばしり女の子を包んで消えた時、傷は一つ残らず消えていた。

(うんうん、これこれ)一人うなずいて、目を見張るアンナに微笑みかけた後、二、三歩で前を行くエイヴァに追いついて、他に何が出来るか早く見つけなきゃと一人ほくそ笑んだ。