作品タイトル不明
25 聖女の告白
「結界か。そうだよね。前みたいに聖女を召喚されて、変な奴らにあれこれやられると、嫌だもんね」サラがうなずくと「そうなんです。今回は幸運な事にサラがやって来て、私たちの味方になってくれました。しかし、次もまたそうとは限らないですから」
「サラは、時代が変わったって言っていたが、また時代が変わったら、どんな考え方になっているか分からないからな」
「うん。三百年の間に色んな考え方が生まれて、便利な物もたくさん出来て、それまでと反対の事が正しいってなる事もあったよ。
例えばアンジェラ王国みたいに王様が一番偉かった時代から、平民がみんなで何でも決められる時代になったり、そうかと思えばまた平民の中から偉い人を作って、その人が全て支配する様になったりね。
国によって考えも成り立ちも違うし、法があっても全員が素直に従う訳でもないし、一人一人の欲望が多種多様だから、どんな人が来るのかは全く分からないね」
サラの語る世界について魔王はしばし考えたが、在り方が違い過ぎて想像しても無駄だと思い、結論を述べた。
「やはりサラに結界を張って貰って、今後は人の国との関係を断ち切りたいと考えています。私たちは、特に人と交流する必要はありませんから」
イーサンも「俺たち魔族は他の奴らが死んでも生き続けるから、儚い富を得ても仕方が無いと思ってる。獣人はそこまで長生きじゃないが、互いを裏切らず身体能力が高くて、我々が協力すれば大抵の事は出来る。俺たちだけで暮らしていた国は、満ち足りていて平和だった」
自分がこの世界に来て感じ、思っていたのと同じ事を口にする二人に、サラは約束した。
「分かった。誰も近寄れない、幻の国みたいになる様に、この国にしっかり結界を張るね。だけど、私はみんなみたいに長生きじゃないから、弱まった頃に張り直すのは出来ないな…。普通の人間は長生きしても、百歳がせいぜいだもん」
すると魔王が「サラは普通の人間じゃありませんよ」と言い出した。
何を言うのかと驚いていると「サラはこちらの世界に来た時、私に匹敵する魔力を得ています。ですから、おそらく私と同じ位には生きるでしょう。もしかしたら、私同様に魂は同じで何度も生まれ直すかもしれませんね」
「ええっ」初めて聞く話に混乱していると、イーサンがニヤリと笑った。
「じゃあ俺もこの命の続く限り、魔王様とサラに仕えるよ」
サラは自分が、いつの間にかそんな存在になっていたという事を信じ切れず、そんな…とか死なないの…?などブツブツ言っていたが、魔王が「そうと決まれば、早い方が良いですね。サラが我らの聖女様になってくれるというお披露目もしたいですし、日程を決めなければ」と言い出した。
部屋の隅に控えていたアンナとミルコも嬉しそうに「ずっと一緒にいてくださる」などとはしゃいでいる。
「いや、結界を張るのは全然良いんだけど、私、向こうに帰れば魔力を失くして、普通の寿命になれるよね?」サラが慌ててお披露目計画をやめさせ、戻った時の寿命について確認しようとした。すると、イーサンが「サラは、本当に元の世界に帰りたいと思ってるのか」といぶかし気に尋ねた。
「思ってるよ。何でそんな事聞くの」
「何故ってサラは今までの聖女と違って、残して来た家族がどうとか、友達がどうとか言わないじゃないか。今までの聖女は、王子に心を奪われて好きになったからこそ、向こうの世界の人間への未練を断ち切っていたんだ。サラからは、そういう話を一切聞いた事がない」
「それは…」サラが怯むとイーサンが畳みかける様に「アンジェラ王国に召喚された時も、落ちてくる時受け身を取ったと言っていたな。黙って力でやられないように、武術に励んだと…。サラのいた世界は、平等で思いやりがあるそうだが、ずいぶん物騒じゃないか。
そう言えば、自分の為なら人はどうなっても良いと考える、あいつらみたいな奴にひどい目に遭わされた記憶もあると言っていた。そんな所に戻りたいと、本気で思っているとは信じられん」
イーサンが尾をクルクル回しながら言うので、サラは目を回しそうになりながら「いや、それは日本の話じゃなくて…」とぼそぼそ答えていると、魔王がそれを聞いて怒り出した。
「サラ。今の話は本当ですか。サラがそんなにひどい目にあっていたなんて、全く知りませんでした。もしかしたら家族や友達も酷い目に遭わされ、いなくなったのですか」
サラはまた面倒な話になったと顔をしかめた。
しかし魔王は答えを待っているし、イーサンにも興味津々な目で見つめられて、仕方なく口を開いた。
「あのね。これを言うと変な目で見られるから、人には言った事無いんだけど。私、小さい頃から前世の記憶があるの。て言うか、神様と話して日本という国に生まれ変わったの。家族や友達っていう、深いつながりのある人がいないのは、自分が神様にそう願ったからなんだよ」
サラは自分の話す事が、妄想癖のある人の戯言のようで恥ずかしく、赤面しながら話し出した。
「前の世界は魔法は無いんだけど、ここと同じく王様や貴族のいる世界だった。私は村に住む平民の若い娘で、村長の家の洗濯場で働いてたの。村の人は良い人達だったけど、その村に元貴族の若い男が追放されてきたのが、運の尽きだったわ。
前世の私は夢見がちな娘だったから、あっという間にその男に恋をした」
「その男が、王子達に似ていた嫌な奴なのか」
「そう。だから、私も今までの聖女を笑えないんだ。
…それでそいつに散々利用されて、挙句の果てに私は、強盗に襲われて死んじゃった。
あいつ、やたら顔が良くて口がうまくて、ルーカスにそっくりだったな。
このちょろかった前世の記憶と、心の読める力を授かっていなければ、最初の聖女と同じく騙されていたと思うよ。
前世で強盗に襲われて死んだから、簡単にやられない様に武術を習って、顔が良くて口のうまい男に騙されたから、そういう男が嫌いで信用できなくなった。
日本に生まれてからは、無知で世間知らずだと、騙されて搾取されるとも気づいた。
だから今、学校ではちゃんと勉強してるし、法律の道に進もうと決めて頑張ってるの。
そういう訳で、今は特に酷い目に遭わされていないから、帰る方法を探すのを協力してくれない?」