作品タイトル不明
二人目の……
アシットたちとの問題が片付いた次の日の早朝、俺は馬車に備え付けられた調理台で朝食を作っていた。
朝食なら宿で頼めばいいのだろうが、昨日は色々あったので少し気分転換がしたかったのである。
先程ブラッシングを行い、機嫌が良さそうに尻尾を振るホクトに見守られながら調理を続けていると、エミリアとリースが馬車へやってきたので俺たちは朝の挨拶を交わしていた。
「こちらにいらしたのですね」
「何を作っているの? あ、その材料はもしかして……」
「ああ、カレンの為にちょっとな」
俺は朝食であるサンドイッチだけでなくケーキも作っていた。
先日作ったフレンチトーストと多少似ている部分はあるだろうが、違う点は多いので飽きる事はあるまい。
「食べ物で釣るようで少し卑怯かもしれないが、早く俺にも慣れてもらいたいからな」
「ふふ……ケーキをカレンちゃんが食べた時の反応が想像出来ますね」
「ある意味私は、シリウスさんのケーキが切っ掛けで餌付けされちゃったみたいなものかも」
「人聞きの悪い事を言うなよ」
リースは美味しそうに食べるから、料理を作る喜びを味わわせてくれる不思議な魅力があるんだよな。
だから学校で初めて出会った時、ダイア荘で見せてくれたあの蕩けるような笑みは今でもよく覚えている。
「生地をオーブンに入れて……と。その間にサンドイッチを仕上げるか」
「私は野菜を切りますね」
「じゃあ私はパンの方を」
朝一番の活力の為、俺たちは手分けして大量のサンドイッチを用意するのだった。
そして朝食が完成し、俺たちは四人部屋である女性陣の部屋に集まって朝食にしていた。
大量に用意していたサンドイッチが次々と消えているが、レウスが頻繁に欠伸をして手を止めているので少し消耗が遅い。
「ふぁ……眠い」
「……くぅ」
「ほらカレン。ちゃんと起きて食べなさい」
「……うん」
昨夜のレウスは冒険者たちと戦って結構激しく動き回っていた。
そのせいで興奮が中々冷めずに寝つきが悪かったようだ。更にいつもより寝る時間が遅かったので、単純な寝不足である。
ところで……カレンまで眠そうにしているのは何故だろうか?
あの子は俺たちの誰よりも早く眠り、今朝は一番最後に起きたので軽く半日近くは寝ている筈なんだがな。
「眠いなら移動中に寝たらどうだ?」
「それもそうだな。馬車の振動って結構気持ち良いし」
馬車の振動はサスペンションがある程度吸収してくれるので、道が極端に荒れてなければ十分寝られるだろう。さすがに俺は気持ちが良いと思える域には達していないが。
そんなレウスに釣られて俺も欠伸をしていると、リースとフィアが苦笑しながらこちらを見ているのに気づいた。
「やっぱりシリウスさんも眠たいんだよね? だったら朝食は私たちに任せておけば良かったのに」
「私たちは少し遅く寝た程度だから大丈夫だけど、シリウスはかなり遅かったんでしょ?」
アシットたちの最後を確認した後、俺はリーダー格との話し合いや後片付け等があってすぐに宿へ戻れそうになかったので、皆には『コール』で俺は遅くなるから先に寝て構わないと報告していた。
それから諸々の作業が終了して宿へ戻ったのだが、すでに日付は変わるどころか外がぼんやりと明るくなり始めていたのである。
一応少しだけ仮眠を取ったが、俺もまた睡眠時間が足りないのは事実だ。
「そうだな、だから俺も馬車で眠らせてもらうさ。いや、眠らないと駄目そうだし」
「はい! 約束ですから」
俺が観念するようにそう言えば、エミリアが尻尾を振りながら答えていた。
昨夜……先に眠っていろと皆に伝えた時、エミリアだけは従者として主が戻るまで眠るわけにはいかないと言い出したのである。
そこである約束をすれば真っ先に眠ったそうだが、その約束というのが……。
「起きてすぐに体を拭いて身を清めておきました。いつでもお申し付けください」
「……膝枕はそんなに張り切るような行為だったか?」
「シリウス様に奉仕するのが私の喜びですし、特に膝枕は滅多にさせてもらえませんから」
「そうだったか? 膝枕なら何回か覚えがあるんだが……」
「シリウスさんに一番詳しいエミリアが言うんだから間違いないと思うよ」
「そうね。貴方の場合は膝枕をしてもらうというより、私たちにしてあげている方よ。だって私はシリウスに膝枕をしてあげた記憶がないもの」
……言われてみればそうかもしれない。
別にしてもらうのが嫌とかそういうわけじゃない。幼い頃、あの花畑で母さんにしてもらった膝枕の心地良さは一生の思い出だしな。
それに俺の場合、何かあればすぐにホクトが近づいてきてクッションや枕になってくれるからである。
「そうだ、後で太股をマッサージをしておきましょう。そうすれば少しは柔らかくなりますよね?」
「だからそんなに張り切る必要はないって」
頭を撫でてエミリアの暴走を止めた頃にはサンドイッチが片付いたので、続いて今回のメインであるケーキを取り出した。
ケーキの登場に皆が喜んでいる中、初見のカレンだけは首を傾げながらケーキを見つめていた。
「……これはなに? パン?」
「それはケーキと言って、昨日食べたフレンチトーストみたいに甘いお菓子ね。カレンの為にシリウスが作ってくれたのよ」
「……蜂蜜より甘いの?」
「甘いだけじゃなく、ふわっとしていて凄く美味しいんだよ。とにかく少しでもいいから食べてみて。きっとカレンちゃんも気に入ると思うから」
リースとフィアの言葉によって興味が湧いたらしく、カレンの視線はケーキに釘付けである。
そしてエミリアの手によって切り分けられたケーキが全員に配られ、各々が美味しそうに食べる姿を見たカレンは意を決したようにケーキを口に放り込めば……。
「……美味しい」
翼をパタパタと動かしながら口元をほころばしていた。
「口に合ったようでなによりだ」
「シリウス様のケーキならば当然ですね」
「うん、もう何十回も食べているけど全然飽きないもの」
確かな手応えを感じる中、隣に座っていたフィアがカレンの口元についたクリームを拭き取りながら聞いていた。
「どう、カレン。ケーキは美味しいかしら?」
「うん! でも……カレンは蜂蜜の方が好き」
「「「…………」」」
どうやらカレンは、ケーキの甘味より蜂蜜の甘味の方が好みらしい。
趣向は人によって違うので仕方がないとはわかっているが、こうもはっきり言われてしまうと地味にへこむな。やはり天然物は強い……という事か。
「大変だ姉ちゃん! 兄貴が落ち込んでいるぞ!」
「くっ……カレンちゃんには使いたくはなかったのですが、私はシリウス様の従者。主の為に今こそー……」
「待て待て、別に落ち込んでいるわけじゃない。それとエミリアよ、何をするのか大体予想はつくが絶対にやるんじゃないぞ」
「……わかりました」
おそらく洗脳の類だと思うが、何でそんなに残念そうな顔をするのやら。
まあ誰かが悪い話でもないし、カレンの言葉はどうあれケーキを美味しそうに食べているので問題はあるまい。
今度は蜂蜜を使用したお菓子を作るべきだろうか?
とにかく、カレンと仲を深めるには地道にやっていくしかなさそうである。
「シリウスさん、ちょっといいかな?」
「ん、どうした?」
それから朝食の片付けをしている途中、リースに話しかけられたので振り返れば、リースの背中に隠れるように立っているカレンの姿があった。
昨日まではフィアの傍を離れようとしなかったのだが、女性相手なら慣れてきたようだな。
「実はカレンちゃんから話があるの。ほら、勇気を出してカレンちゃん」
「……うん」
リースと仲良く会話している光景は実に微笑ましいが、何か用があるらしいので、俺は膝を突いて目線を合わせてからカレンの言葉を待った。
「あのね…………カレンに魔法を教えてほしいの」
「魔法を?」
「カレンちゃんの故郷では、五歳を過ぎた頃から魔法の練習を始めているみたいなの」
「有翼人は体が軽い種族だから、戦士に向かない分だけ魔法に力を入れているのかもしれないわね」
「でも五歳からってのも凄いよね。その頃の私は母様に甘えてばかりだったなぁ」
俺に怯えているせいでカレンの説明は非常に拙いが、事前に話を聞いていたリースとフィアが所々説明を挟んでくれたので事情は概ね理解出来た。
大雑把に纏めるとこうだ。
有翼人は生まれて五歳になると魔法の練習を始めるそうなので、一ヶ月程前に五歳となったカレンは親から魔法を教わっていた。
しかしカレンは何度試しても、初級魔法どころか魔法の片鱗すら見せなかったそうだ。
「おかーさんは、いつか出来るから大丈夫だって笑っていたけど、ちょっとだけ困ってたの。だからおねえちゃんたちみたいに魔法が使えるようになって……おかーさんを驚かせたい」
「それで魔法を教えて……か」
今朝、リースが顔を洗う水を生み出したのを見たのが切っ掛けらしい。
そして有翼人は全体的に魔法への適性が高いようで、カレンの話を聞いた感じだと子供でも数日練習すれば初級魔法が使えるようになるそうだ。
だというのに、カレン一人だけ魔法が使えないという。
更にカレンの翼は他の有翼人と比べて明らかに形が違うので、有翼人の間では完全に浮いてしまっている可能性が高そうだな。
それでも……母親の為もあるだろうが、そんな状態でも挫けずに魔法を習おうとする姿勢は実に素晴らしい。
なので魔法を教えるのは構わないのだが、まだ信頼されていない俺よりもリースとフィアが教えるべきだとも思う。
そう目線で伝えてみたのだが、リースとフィアは片目を閉じるだけであった。
「だって私たちはシリウスさんに魔法のコツを教わったから、一言伝えておくべきかなって……」
「それに貴方はこのパーティーのリーダーだもの。誰が教えるにしても、きちんと報告する必要はあるでしょ?」
「教える事に関してはシリウス様が一番ですから。そうすればきっと、カレンちゃんも私たちみたいになりますよ」
なるほど……そういう事か。
報告もあるだろうが、俺が教える事によってカレンに慣れてもらおうというわけだ。
本当は自分が教えてあげたいのだろうが、それでも貴重な機会を譲ってくれたのだ。ここは素直に甘えるとしよう。
考えている間もカレンは不安気に待ち続けているので、俺は笑みを向けながら手をゆっくりと差し出した。
「いいよ、俺で良ければ教えてあげよう。けどその前に調べたい事があるから、カレンの手に触ってもいいかい?」
「……うん」
そうなるとカレンの適性属性が気になるが、それは専用の魔道具で調べないと判定が難しい。
というわけで、まずは魔力の動きを調べてみようと思い、俺はカレンの小さな手に触れて『スキャン』を発動させてみた。
「ところで、カレンは魔力について理解はしているのかい?」
「えと……この体の中にあるもやもやってしたものが魔力……だよね?」
曖昧な表現だが、魔力は理解している……と。
続いて魔法を使うように集中してほしいと指示を出し、『スキャン』で魔力の動きを調べてみたところ……。
「魔力は間違いなく体中に循環しているようだが……」
「でしたら、何故魔法が使えないのでしょうか?」
「この感覚は……いや、これは確実に調べるべきだな」
一つだけある可能性が浮かんだが、前例がないので確証が得られないのである。
魔法は移動中に教えるつもりだったので、宿を出たらすぐに町を出る予定だったが……一つだけ寄る場所が出来たようだ。
不穏な空気を感じて泣きそうな表情になっているカレンだが、問題はないと笑いかけてから皆へ伝えた。
「出発前に冒険者ギルドだな」
「これはシリウス様。昨日は希少な素材をありがとうございました。それで本日は何か依頼を受けにきたのですか?」
「いえ、今日は依頼ではなく使わせていただきたい物がありまして……」
宿を出て冒険者ギルドへとやってきた俺たちは、受付の女性に魔法の適性属性を判別する魔道具を使わせてもらえるように頼んでいた。
しかしその魔道具はギルドへの登録時以外には滅多に使う代物ではないので、受付は何故使うのかと言わんばかりに首を傾げていた。
「調べたいのは俺たちではなく、こちらの女の子です。いずれ魔法を教えるつもりなので、適性属性を早めに調べておきたくて」
「……その女の子はシリウス様のお子様でしょうか?」
「実は……この子は兄の忘れ形見でして、今は俺が引き取って一緒に旅をしているのです。まあ俺たちの妹みたいなものですよ」
「そ、それは申し訳ありませんでした。ですが、ギルドとしては一応聞いておかないといけないので……」
俺の誤魔化しに怪しまれはしたが、冒険者が集まるギルドの雰囲気に怯えたカレンがフィアの背中へ縋るようにくっ付いている姿を見て信じてくれたようだ。
最初は俺の子供で通す事も考えたが、まだ若い見た目の俺に子供がいるのは少し無理がありそうだからな。
「それでは用意をしますので、こちらで少々お待ち下さい」
「……ここで何をするの?」
「魔法には火とか水とか色んな属性があるのは知っているわよね。その中でカレンはどの属性が上手なのか調べるのよ」
「人によって上手な属性が違うの。だからそれがわかれば、いずれカレンちゃんも魔法が使えると思うんだ」
「本当?」
魔道具が用意されている間の説明で、カレンの目が輝き始めた。
喜んでくれるのは良いのだが、翼を隠しているローブが小刻みに動いているのでなるべく謹んでもらいたいものである。
そんなカレンに苦笑している間に準備が終わり、透明な石が付いた魔道具が俺たちの前に置かれた。
「それでは、こちらの石に手を置いてください」
「……うん」
今は恐怖より好奇心が勝っているのだろう。カレンは大して戸惑う様子も見せず石へ手を伸ばしていた。
俺たちが登録した時に使った魔道具と少し形が違うようだが、触った者の適性属性によって輝く仕組みは同じ物だ。火属性なら赤色、水属性なら青色といった感じである。
気になるカレンの適性属性だが、俺の想像通りなら周囲に見られないようにしておくべきだろう。俺は事前に打ち合わせをしていた姉弟と共に、石の光が周囲から見られないように移動していた。
そして石が輝き始め……。
「あ……光った!」
「これは……」
「……やはりか」
光の色は……無色。
つまりカレンの適性属性は……俺と同じく無属性であった。
「見て見て。綺麗だよおねえちゃん」
「はい。とても綺麗です」
「うん。そう……だね」
「……カレンみたいに純粋な色ね」
その現実に皆が複雑な感情を抱く中、カレンだけは魔道具の輝きに見惚れていた。
受付もまた何を言うべきか迷っており、完全に固まっているようである。
俺はこの結果を予想していなかったわけはない。
だが今まで俺以外の無属性に一度も会った事がないし、もしかすると極端に適性が低くてわかり辛いだけの可能性もあったからだが、この光の色からしてカレンが無属性なのは間違いないようだ。
今の俺でも四属性になると初級魔法でさえ辛いのだから、カレンが魔法を上手く使えないのも当然かもしれない。
そっと横から割り込んで魔道具の機能を消した俺に首を傾げていたが、色の意味を理解していないカレンは無邪気に質問をしてくる。
「ねえおねえちゃん、カレンの上手な魔法はなに? おかーさんと同じ風の魔法?」
「えーと、カレンの魔法は……」
「変わろうフィア。ここは俺が伝えるべきだと思う」
「……どういう事?」
「いいかいカレン。君の上手な魔法はね……」
それから町を出発した俺たちは、有翼人の住処である竜の巣へ向かって馬車を走らせていた。
カレンと出会った時は怖がらせないように速度を抑えめにしていたが、今は通常の速さで走らせているので二日もあれば竜の巣へ着くだろう。
だが……現在馬車内の空気は少し重い。
自分が無属性だと知ったカレンが馬車の後部に座って項垂れているからだ。どことなく翼も垂れ下がっているような気がする。
「やはり有翼人でも、無属性は良く思われていないようですね」
「カレンちゃん、期待していたものね」
魔道具の仕組みはわからなくとも、無属性については万国共通らしい。
俺たちから魔法を教わり、母親を驚かせようと楽しみにしていた分だけショックは大きいようだ。
本来なら馬車で仮眠を取るつもりだったが、今のカレンを放置して寝るわけにもいかないので、俺たちは静かにカレンを見守り続けていた。
しばらくして馬車が町から大分離れ、周囲に人の気配がなくなったところでレウスが動いた。
「……おかーさん」
「あのさ、元気出せよカレン。無属性だって悪い事じゃないんだぜ?」
慎重に距離を取りながら接近した御蔭か、レウスが声をかけてもカレンは逃げる素振りを見せなかった。あるいはそれだけ落ち込んでいる証拠かもしれない。
そんなレウスの言葉が切っ掛けだったのか、カレンはポロポロと涙を零しながらレウスに視線を向けていた。
「でも、無属性の子は魔法が上手く使えないって……おかーさんが言ってたの。何で……カレンが……」
「そっか。でもさ、俺からすれば無属性なのって羨ましいくらいなんだぜ?」
「……なんで?」
「そりゃあ、俺の尊敬する兄貴が無属性だからさ」
「えっ!?」
レウスの屈託ない笑みに一瞬毒気を抜かれていたが、言葉の意味に気付いたカレンは翼を広げながら俺へ顔を向けてきた。
ギルドでは周囲の目もあって説明しなかったが、ここならば関係ない。
「ああ、俺もカレンと同じ無属性なんだ。ホクト」
「オン!」
説明せずとも意図を察したホクトは、街道から少し外れた草原に移動して馬車を停めていた。
そのまま馬車を降り始める俺たちに首を傾げるカレンだが、フィアに促されたので俺たちの後に続いた。
「何をするの?」
「約束通り、カレンに魔法を教えようと思ってな。この広さなら十分だろう」
「でも、私は無属性だから……」
「教えるのは無属性の魔法だから大丈夫だ。俺と同じカレンなら、練習すればきっと使えるようになる」
「無属性の魔法は……覚える必要がないって皆言っていたよ?」
「それは違う。何事も使い方と考え方次第で大きく変わるんだ。そうだな、比較対象があればわかりやすいか」
論より証拠という事で、実際に見せた方が早いだろう。
俺の視線による合図を受けた姉弟は頷き、掌に魔力を集中させて魔法を発動させていた。
「私は風の魔法です。『ウインド』」
「さっきも言ったけど、俺は火だ。見てろよカレン。『フレイム』」
「……あれ?」
エミリアが生み出した魔法の風は周囲の木々を大きく揺らし、続いてレウスの放った火球は近くにあった岩を砕いていた。
そんな姉弟の魔法を見たカレンは興味深げに眺めていたが、ある点に気付いて質問をしてきたのである。
「おかーさんは魔法の前に、えーと……詠唱ってのを言わないと魔法が使えないのに、おねえちゃんとおにいちゃんは言わなくても魔法が使えるの?」
「その通りです。私たちはシリウス様に教えてもらった事により、詠唱しなくても魔法が出来るのですよ」
「もちろん私も出来るよ。寝惚けて覚えていないのかもしれないけど、顔を洗う水を出した時は言わなかったでしょ?」
「あ……そうだった。じゃあ……」
「ええ、私も詠唱がなくても使えるわよ。私の場合、ちょっと特殊だけど……」
「魔法について何も知らなかった俺たちでも出来るんだ。カレンもきっと出来るようになるぜ」
無詠唱にすぐ気付いた点は素晴らしいと思うが、今は魔法の比較が先だな。
自分も出来ると言われて興奮し始めるが、無属性の事を思い出して再び落ち込んでいるカレンに俺は真剣な表情で声をかけた。
「いいかいカレン。よく見ておきなさい。これが無属性魔法の可能性……いや、一つの姿だな。『インパクト』」
目標にしたのはレウスが砕いたものより何倍も大きい岩だ。
俺の手から放たれた衝撃弾は岩を容易く粉砕し、中心に大きな空洞を作っていた。本当なら岩全体を破壊出来るが、まずは基本からという事で少し抑え目にしておいた。
その結果を見たカレンはかなりの衝撃を受けたのか、翼を広げたまま完全に固まっていた。
手を叩けば正気を取り戻したが、この時見せてくれたカレンの表情は……初めて俺への恐怖が消えたものだった。
「どうだ? これでも覚える必要はないかな?」
「……私でも出来る?」
「もちろんだ。魔法は自分なら出来るって思う事と、諦めずに何度も練習を繰り返す事が大切なんだ」
「……うん!」
同じ無属性という事で、いずれ『ランチャー』や『ブースト』も教えてやりたいところだが、竜の巣までの二日では厳しいだろう。
数日くらいなら有翼人の住処に滞在して教えるのも構わないのだが、有翼人は余所者を嫌っていてカレンを送り届けたらすぐに別れる可能性もあるからな。
狙われやすい種族なので『マグナム』を教える事も考えたが、やはり幼い子に銃という存在を教えるのは抵抗があった。
何より……銃をイメージした魔法は、この世界では異質かつ強力過ぎる。
それに護身用なら『インパクト』で十分だろうし、カレンにはまず相手を殺す魔法では無く、相手を凌ぐ魔法から覚えさせるべきだろう。
カレンが心身共に成長し、善悪の判断がしっかり出来るようになった時に再会出来たら……改めて考えてみようと思う。
早く教えてほしいと言わんばかりに翼を羽ばたかせるカレンを眺めながら、俺はこれからの訓練プランを練るのだった。