軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

選んだ道

魔物の襲撃から数日後、俺はホクトとエミリアを連れてロマニオのとある屋敷にやってきていた。

ちなみにレウスは朝から冒険者ギルドに一人で依頼を受けに行き、リースとフィアはロマニオの町で買い物をしているので今はここにいない。

「……来たようだな。存分に調べていくがよい」

「それでは失礼します」

ここはアルベルトにグルジオフの条件を出した貴族の屋敷で、その当主が疲れた表情で俺たちを迎えてくれた。

そして敷地内にある倉庫へ案内してもらい、俺たちは内部を調べていた。

「どうでしょうか?」

「見た目には何もないようだが……」

「容姿も声も、何をやっていたのかさえ覚えておらん。思い出せるのはこの倉庫を使わせていた事と、そいつが女だったくらいだ」

「ふむ……もう少し調べさせてもらいますね」

ここにやってきたのは、目の前にいる貴族を騙し、記憶を失わせた女の痕跡を探す為だ。

俺の予想では、その女が魔物の大群を呼び寄せたキメラ(合成魔獣)を作った犯人だと思っているのだが、周囲には貴族たちを洗脳して多くの人々を混乱させた罪人程度で済んでいる。

大群の原因はその女だと教えても良かったのだが、それはあくまで俺の予想だし、証拠になりそうなキメラ(合成魔獣)の死体は完全に焼却してしまったから、作られた存在だと確認する手段もない。

なのでキメラ(合成魔獣)は、突然変異によって発生した魔物の変種として片付けられていた。

一応、その女は貴族を嵌めた罪人としてロマニオとパラードで指名手配にされているし、ああいう手合いは同じ場所へは滅多に近づかないだろう。

念の為にアルベルトにだけは俺の考えを説明し、気を付けるようにと忠告しておいた。

「魔法陣らしき痕は……やはり無いか」

「見た目も普通の倉庫ですね」

そしてアルベルトを通じてロマニオの当主に頼み、女の痕跡を調べる許可を貰ったわけだ。

調べ始めたものの人がいた形跡は確かにあるのだが、怪しいものは何一つ見当たらなかった。前々からあった荷物が端に寄せられているだけの寂しい内装である。

とてもキメラ(合成魔獣)が作られた場所とは思えないが……。

「…………オン!」

「シリウス様が事前に言った通りだそうです。様々な匂いが混ざってわかりにくいですが、微かに血の匂いが残っているとホクトさんは言っています」

百狼を犬種として捉えてよいのかわからないが、やはり犬の嗅覚は誤魔化しきれないようだな。

勿論エミリアとレウスも鋭いが、やはり本物には負けるようである。

そのまま匂いを嗅ぎながら歩き回ったホクトは、倉庫内の一角に立って軽く吠えた。

「オン!」

「えーと……そこが最も血の匂いが強い場所だそうです。私もほんの僅かですが感じますね」

「どれ……」

床に手を触れて『スキャン』を発動させてみたが、この下に空間は存在しないようだ。

土や石の反応しかないのだが、土がほじくり返された感じがする。元から地下が存在していたのだが、最近になって埋められたみたいだ。

「しかし、今更掘ってもなぁ……」

魔石を使って地下を掘り返す事もできるが、土を混ぜ返す以上、証拠があっても消えてしまいそうだ。

前世みたいに科学による証明も無理な話だし、そもそも証拠隠滅をするような奴が魔法陣のような目立つものを残しているとは思えない。これ以上は諦めるしかなさそうだな。

「どうだ、何か見つかったか?」

「いえ、特には。ただ得体が知れないので、この倉庫は一度潰した方が良いかもしれません」

「ふん、元からそうするつもりだ。ここまで覚えてないと気味が悪いからな。綺麗さっぱり潰して、何か建造物でも建ててくれるわ!」

そして苦虫を噛んだような表情をする貴族と別れ、俺たちはアルベルトが住んでいる当主の館へと戻るのだった。

「そうですか。とにかく怪しい存在がいれば気を付けるように心掛けておきます」

「もう来ないと思うが、今はそれで十分だろう。ところで……大丈夫か?」

アルベルトに結果を報告したのだが、彼は当主の館にある執務室で帝王学やら、次期当主として必要な知識を勉強中だった。

無数の資料に目を通し続けて知恵熱でも出ているのか、本と書類で埋もれた机に突っ伏しながら大きく息を吐いていた。

「いえ、これから必要なことですから、少しでも勉強しないと……」

「旦那さま。お茶の用意ができましたわ」

当主の屋敷となれば給仕をするメイドや執事はいそうだが、アルベルトには妻であるパメラがお茶を用意しているらしい。

俺たちの分も用意してくれたのでお茶を受け取っていると、最後に部屋の隅でアルベルトと同じように本と書類に埋もれているマリーナにお茶を渡していた。

「ありがとうございます、姉上」

「あまり根を詰めちゃ駄目よマリーナ。ほら、愛しのレウス君も呼んで一緒に休憩しましょう」

「姉上!? レウスと私はそんなのじゃなくて……そ、それにレウスはギルドの依頼に行っていますから!」

マリーナも勉強しているのは、アルベルトと同じ知識を身に付けて交渉術を覚え、将来レウス専属の秘書になりたいからだそうだ。

レウスの力を利用しようとしたり、騙そうとする連中を見極めたりと、レウスの足りない部分を支える立派な女になろうと勉強中である。

アルベルトとパメラの結婚式の時、貴族に勧誘されて対応に困っているレウスを見て決めたらしい。

そして将来と口にした時は満更でもなさそうだったので、秘書だけで済むとは思えない。ノエルの娘であるノワールと同じようなものだろう。

気付けばレウスを名前で呼ぶようになっているし、二人の仲はかなり前進したようだ。

それから俺たちは、アルベルトたちと一緒に紅茶を飲みながら休憩に付き合っていた。

ホクトは俺の足元で寝転がり、エミリアはパメラに紅茶の淹れ方をアドバイスしているし、アルベルトとマリーナは精神的に疲れたのか目を閉じて深く息を吐きながら休んでいる。

なので手持無沙汰になっていた俺は、近くにあった資料を手に取ってみた。

「過去の収支報告書に人心掌握術……色々あるな」

そのまましばらく読み流してみたが、途中で幾つか気付いた事がある。

過去の報告書を読んだり、当主に必要な能力について学ぶには良いのだろうが、読んでいると気になる部分が多いのだ。

前世の相棒は組織の司令塔でもあったので、帝王学やこの手に関して非常に精通していた。そんな相棒と一緒に仕事をしている内に俺も幾つか学んだので、違和感や足りない部分に気付いたのである。

読み進める内に難しい顔になっていく俺に、紅茶を飲もうとしたアルベルトとマリーナが気付いた。

「師匠? どうかしたのですか?」

「……ちょっと幾つか気になる点があってな。この辺りについて少し言わせてもらっていいか?」

兄妹揃って持っている資料を覗きこんできたので、俺はそのまま補足説明を行ってみた。

もっと効率の良い計算法に、相手の心を掴み誘導する人心掌握術の別アプローチ法。そしてマリーナが一番知りたそうな、交渉術に使える話し方を幾つか教えてみた。

「……という感じで、あえて相手の思惑に乗り、裏で操る人物を引きずり出して一網打尽にする方法もある。相手の情報や戦力を知った想定の話だがな」

最終的には指揮官としての立ち位置、戦術についてまで語ってしまったが、兄妹は興味深そうに頷きながら聞き入っていた。

ここまで説明して何だが、これじゃあ休憩になっていない気がするな。

「まあ……ぱっと思いついたのはこんなところか。それより始めた俺が言うのも何だが、そろそろしっかりと休憩をとったらどうだ?」

「聞くだけならそこまで負担ではありませんので大丈夫ですよ」

「私もです。シリウスさんの話はとても勉強になります」

「それに……師匠はそろそろ旅立つ予定なのでしょう? 今の内に少しでも教わっておきたいんです」

少し寂しそうに笑うアルベルトを見て、マリーナとパメラも思い出したようだ。特にマリーナは目に見えて落ち込んでいる。俺たちがいなくなると言うことは、レウスもいなくなるわけだからな。

恋人になって離れるなんて嫌だろう。

沈黙が部屋を包む中、パメラが空気を変えるように軽く手を叩きながら口を開いた。

「あの、シリウス様。出発なさる予定は決まっておられるのでしょうか?」

「そうだな……二、三日後くらいには発つ予定だな」

「よろしければ、明日も私たちに色々と教えていただけませんか?」

「止めなさいパメラ。師匠も旅の準備で忙しいのに、そんな事を頼むなんて……」

次の目的地は少し遠くて補給が難しい場所なので、明後日まで必要な物資の買い込みと、保存の利くような物を作り溜めをするつもりだった。

しかし他の人でも十分可能な作業だし、合間に教えるくらいなら問題はない。それに実は元からそのつもりだったしな。

「いや、構わないよ。今日は作業があるから戻るけど、明日は朝から顔を出そう」

「師匠……ありがとうございます」

「私からもお礼を。報酬はどうされますか?」

「報酬か……」

多くの犠牲を出したと思われる 合成魔獣(キメラ) を討伐した俺とレウスに、そして俺たちは戦闘に貢献した実績もあるので、報酬金はパラードとロマニオ両方の町から十分に貰っているのだ。

だから無料でも構わないのだが、それだと向こうが納得しないだろう。

何か別のものがないか考えていると、部屋の扉がノックされる音が響いて屋敷で雇っているメイドの声が聞こえてきた。

「お嬢様。レウス様がいらっしゃいました」

「わかったわ、通してちょうだい」

「っ!?」

レウスが来たと知るなり、マリーナの狐耳と三本ある尻尾がピンと立ち、手櫛で髪の乱れを整え始めていた。

非常にわかりやすい姿に思わず笑みが零れていると、扉が開いてレウスが部屋に入ってきた。

「失礼しますー……って、兄貴? 何でここにいるんだ?」

「ああ、今朝言ってた調査が終わったから報告にな。お前こそどうしたんだ?」

「俺はマリーナに用があってさ。アル、ちょっとマリーナを借りるぜ?」

「それは構わないが……」

アルベルトが首を傾げる中、レウスはマリーナの前に歩み寄って笑みを向けてきた。

「調子はどうだマリーナ?」

「え、ええと……まだ始まったばかりだから何とも言えないかも。そ、それより私に何の用かしら?」

「実は渡したい物があるんだけど、ちょっと手を出してくれないか?」

「……こう?」

視線を少し逸らしながら頬を染めていたマリーナは、レウスの言葉を聞いて右手を出した。

それを確認したレウスは、ポケットから綺麗な装飾が付いたペンダントを取り出してマリーナの手に乗せていた。

「え? これ、もしかして……」

「昨日さ、町でマリーナに贈る物を探していたら、好きな人に贈る石があるって店の人に聞いたんだよ」

それはディーネ湖のとある箇所のみに生息する魔物が生み出す結晶の塊で、鉱石のルビーに似た赤色に輝く石である。

その魔物は小さくて素早い上に個体数が少ないので、捕まえるのも倒すのも非常に難しいそうだ。

朝早くから一人で冒険者ギルドに向かったかと思えばそういう理由だったのか。

「水の中だから大変だったけど何とか依頼を達成してさ、報酬の代わりにその石を貰ったんだ。来る途中でペンダントにしてもらったんだけど、それマリーナにやるよ」

「で、でもこれって……」

「好きな相手に物を贈るくらい当たり前だろ? 受け取ってくれよ」

レウスはいつものやんちゃそうな笑みを浮かべているが、マリーナは顔を真っ赤に染めて俯いていた。

恋人からの贈り物とはいえ、ここまで赤くなるものだろうか? そう思って首を傾げていると、アルベルトが耳打ちをして教えてくれた。

どうやらこの石は恋人へのプレゼントだけでなく、ロマニオやパラードでは時折プロポーズとして贈る時もあるそうだ。

そしてレウスはそれをー……知らないんだろうな。

まあ今のレウスなら教えても普通に受け入れるだろうし、今は口を挟まず見守るとしよう。

俯いたまましばらく石を撫でていたマリーナだが、顔を上げた時には満面の笑みを浮かべながら両手でペンダントを握り締めていた。

「うん……ありがとう」

「紐の長さは大雑把に言っちゃったからさ、ちょっと着けてみてくれよ」

「そうね。うん……大丈夫みたい。似合うかな?」

「ああ、マリーナは赤いのが似合うぜ!」

マリーナは三本の尻尾を同時に振りながら、はにかみつつ笑っていた。

ふむ……女性に疎かったレウスがここまではっきりと行動するとは……。

「……報酬は決まったな」

「あ、申し訳ありません。まだ話の途中でしたね。何か希望があるのでしょうか?」

「なら今度この町へ来た時、レウスの妻としてマリーナをもらえないだろうか? 勿論、お互いの同意を得てからだけど」

「あらあら、それは良さそうですね。旦那様もそれでよろしいかしら?」

「ああ……構わない」

こんな話をしていればマリーナからの突っ込みがありそうだが、レウスのプレゼントに夢中で聞いていないようだ。

重くならないように簡単な口約束で済ませているが、今はただ笑い合う二人を俺たちは優しく見守るのだった。

それから休憩を終えて再び勉強を再開した兄妹の邪魔にならないよう、俺たちは屋敷を後にした。

宿に戻る道中、機嫌良さそうに前を歩くレウスの背中を眺めていた俺とエミリアは、途中で向き合って自然と笑みを零していた。

「精神的に、そして男として大きくなったものだな」

「はい。姉として、あの子の心配事が一つ減って嬉しいです」

「ん? 何か言ったか兄貴、姉ちゃん」

「なに、レウスも成長したなって思っただけだ」

「本当か! へへ、やったぜ」

「ところでレウス。マリーナにあれを渡したのは良いけど、ノワールはどうするつもりかしら?」

すでに遠く離れた土地なのでそう言われても困るだろうが、レウスは笑みを崩さずに懐からマリーナへ渡した同じペンダントを取りだした。

「ほら、ちゃんとノワールの分もあるぜ。まだ子供だけどさ、大事にしたいから渡しておきたいんだ」

「うう……シリウス様。あの子が……あの子がこんなにも……成長して……」

「よしよし、気持ちはよくわかるぞエミリア。それでレウスよ。メリフェストにいるノワールにそのペンダントはどうやって渡すんだ?」

「…………どうしよう?」

俺はまだメリフェスト大陸に戻る予定はない。

少なくとも一年以上は戻るつもりもないし、荷物として送るにしてもノエルたちの町まで遠く、信頼できる相手でなければ途中で盗まれたり紛失なんて事もありえる。

普通に考えて、ノワールと再会するまでずっとそのペンダントを持ち歩くわけだが……。

「だからお前の男気に応えて俺も知恵を貸そうじゃないか。明日までにノワールへの手紙を書いておけ。確実とは言えないが、ノワールに届けられるかもしれない」

「おお、わかったぜ兄貴! ならノエル姉やディー兄にも書かないとな!」

「私も書きます。贈り物をするレウスを知ったら、お姉ちゃんも驚くでしょうね」

この世界で俺が荷物の輸送手段で最も信頼しているのはガルガン商会である。

そのガルガン商会だが、少し前の 女神(ミラ) 教事件でこの大陸にまで足を伸ばそうとしていたのが判明している。

実際ガッドがクリスを連れて、 女神(ミラ) 教の町であるフォニアから近い港町に商売をしにきたからこそ、クリスが 女神(ミラ) 教の聖女アシェリーと出会えたわけだしな。

つまり、ガルガン商会がフォニアまで来ている可能性が高いのだ。

なのでフォニアに一旦荷物を送り、クリスに頼んでガルガン商会へ渡してもらおうというわけだ。

そしてフォニアからロマニオまでは、街道をゆっくりと進んで数日は掛かったが……。

「オン!」

ホクトが全力で走れば、半日もあれば往復出来るだろう。

川や山を飛び越え、一直線に向かえば難しくない筈だ。

「というわけだが、行ってくれるか?」

「オン!」

「ありがとうな。今日はたっぷりブラッシングしてやるぞ」

「クゥーン……」

一番大変であろう、ホクトにそれを説明すれば任せろと言わんばかりに吠えてくれた。

もしガルガン商会がいなければ、非常に格好悪いだろうが持って帰ってきてもらえばいい。ホクトなら理解できる知能を持っているし。

送る手紙の内容で盛り上がる姉弟と、擦り寄るホクトの頭を撫でながら、俺たちは宿へと戻るのだった。

それから旅の準備を整えつつ、アルベルトとマリーナの教師をしながら数日後……旅立つ時が来た。

目的地はロマニオとは反対側なので、俺たちはパラードの町の入口に集まっていた。

忙しい筈のアルベルトたちも見送りに来てくれていて、今はレウスと握手をしながら別れを惜しんでいた。

「レウス……お前に出会えて本当に良かった」

「俺もだ。町の当主とか大変だろうけどさ、頑張れよ!」

すでにこの日まで何度も語り合っているので、別れの言葉も短めだ。

お互いの友情を確かめ合うように、力強く握手を交わしていた。

「色々とありがとうございました。皆様から教わった技術、決して無駄にしませんわ」

「はい、アルベルトと幸せになってください」

「紅茶の淹れ方に一番必要なのは愛情です。パメラさんは十分でしょうが、努力を怠らないでくださいね」

「子供が出来たら皆が幸せになるから、あっちの方も頑張るのよ」

女性陣で仲良く語り合っているので、男が間に入るのは非常に難しいだろう。

苦笑しながら見守っていると、レウスとの別れを終えたアルベルトが俺に握手を求めてきたので応じた。

教えられる事はほとんど教えたし、すでに語る事はほとんどない。

「自分の信念を忘れないようにな」

「……はい! 師匠もどうかご無事で。またロマニオを訪れるのをマリーナと共にお待ちしています!」

そして肝心のマリーナだが、レウスの目の前に立ったまま固まっていた。何を言うべきか迷っているようである。

こういう時こそレウスから話すべきだろうが、彼もまた経験不足なせいで迷っているようで、頭を掻いて考え込んでいた。

「あー……その……さ。マリーナも……元気でな」

「うん。レウスこそ……元気でね」

気付けば周囲の視線が集まっているが、それに気付かない程に二人は集中している。

ノエルとディー程ではないが、この二人もまたお互いだけの世界を作る性質らしい。

「ふぅ……駄目だわ。やっぱり貴方には口より行動ね」

そして一度大きく息を吐いたマリーナは、レウスの胸元に飛びこんで肩に噛みついていた。

もちろん甘噛みで、軽く歯型が付いたところで口を離したマリーナは、照れ臭さを隠すように抱きついたままレウスの耳元で囁いていた。

「これなら伝わった……よね?」

「うん、わかるぜ。何て言ったらいいかわからねえけど、とにかく嬉しいぜ」

「良かった。私は貴方を支えられるように強くなるから、必ず迎えにきてよね」

「ああ、いつか必ず迎えに来るよ」

「ぜ、絶対よ! あまり待たせちゃうとー……いたたたっ!? ちょ、ちょっと! 強く噛み過ぎだってば!」

強く噛むほど愛情が強いのはわかるが……最後の最後で締まらないレウスであった。

パラードを旅立ち、俺たちは馬車に乗って街道を進んでいた。

今日はさすがに思うところがあるのか、レウスは走らず馬車の後方に座ってぼんやりとパラードの方角を眺めていた。

「……レウス。大丈夫?」

「おう、心配かけてごめんな」

「やっぱり恋人と友との別れは寂しいわよねぇ」

「そっか。これが恋人や友達と別れる寂しさなのか。ノエル姉やディー兄とは違うんだな……」

そして空を見上げ、レウスは目を閉じていた。

色々と寂しい気持ちはあるだろうが、お前は俺たちと共に来る事を選んだのだ。どれほど寂しくても、選択したのならその道を歩いて行かないとな。

「でも、マリーナとアルとはずっと別れるわけじゃないからな。会おうと思えば会いに行けるし、何より俺には兄貴に追いつく目標があるんだ。落ち込んでる場合じゃねえよな」

うむ、それでこそレウスだ。

自力で答えを見つけて立ち直ったレウスは、馬車から飛び出していつもの訓練を始めていた。

「兄貴! ちょっと先を偵察してくるぜ!」

そして有り余る力を遺憾なく発揮し、馬車を置いて走っていくレウスの背中を眺めながらエミリアは溜息を吐いた。

「全く……心配させたかと思えば。もう少し落ち着きを持ってもらいたいものです」

「あれもまたレウスの長所だろう。しばらく一本道だし、今日は好きにやらせておこうじゃないか」

レウスとホクトによってお互いの位置は匂いでわかるし、急いで追う必要もない。

それからのんびりと馬車を走らせて、少し高台となった場所で俺たちが向かう方角に視線を向けてみれば、緑一色で覆われた広大な森が広がっていた。

下手すれば、地平線の彼方まで伸びているのではないかと錯覚するほどに広い森である。

「はぁ……凄いなぁ。こんなにも広大な森なんて初めて見るよ」

「この森の奥にフィアさんの故郷があるんですよね?」

「そうよ。逃げるように飛びだしてきちゃったけど、やっぱり森が見えると安心するわね」

次の目的地はこの森を越えた先にある、エルフの住まう里……フィアの故郷である。

「ねえシリウス。本当にいいの? 私は逃げ出しちゃったから、エルフの里に入れないと思うわよ?」

「いいんだよ。フィアだって家族の様子が気になるだろう?」

里に近づいて精霊に頼めば、家族が無事なくらいは確認できるだろうし。

それに、もしかすればフィアの両親と会えるかもしれないしな。

人族で嫌われる可能性もあるだろうし、そもそも会えるかどうかさえわからないが、恋人として挨拶しておかねばなるまい。

「兄貴ーっ! 止まってどうしたんだ?」

「さて……レウスも待ちくたびれているし、早く行くとしようか。ホクト」

「オン!」

俺たちの旅は続く……。