軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13.薄青のドレス

グローリア殿下への献上品のことをあれこれ考えていると、ノックの音が聞こえた。入室を許可すると、専属侍女が満面の笑みを浮かべ、中に入ってくる。

「ナンシー? なんだかご機嫌ね」

「はい! ニコラお嬢様、贈り物が届いております」

「贈り物?」

「こちらになります」

ナンシーは、背後にいたメイドから大きな箱を受け取り、私に見せた。

こういう箱に入っているもの、私宛てに限らず、女性に宛てたものなら答えは一つ。

「ドレス……ね」

「はい!」

ナンシーは元気よく答え、箱の中身を慎重に取り出す。

私はそのドレスを見た瞬間、思わず叫んでしまった。

「これはっ……!」

見ただけでわかる。

これは、オマリー 絹(シルク) で仕立てられたドレスだ。そして、驚くべきはその色味。

「なんて……なんて美しい薄青……!」

間違いない。この糸を染色したのは、隣国の工房だ。それ以外に、これほど綺麗にルアンスパイダーの糸を染められる工房などない。

私はしばしドレスに見惚れ、おずおずと手を伸ばした。

「間違いないわ。これは……オマリー 絹(シルク) ね」

「はい。それにしても、本当に綺麗な色ですね……。オマリー 絹(シルク) 以外でも、これほど美しい薄青は見たことがありません」

「そうね。見事だわ」

工房の染色技術もあるだろう。でもこの素晴らしい色は、オマリー商会が取り扱うルアンスパイダーの糸だからこそ出せたような気がする。他のどの糸も、これほど優美な薄青はきっと出ない。

柔らかで上品なパステルブルー。この柔らかさは、きっと元の乳白色がベースになっているからだろう。そして、光を受けると、うっすらと虹色が浮かび上がる。

実は、これがオマリー 絹(シルク) の最大の特徴でもある。

織る工程の一つ手前に、特別なあることを加える。それによって、この虹色が出るのだ。

他の糸だとこうはいかない。ルアンスパイダーから取られる糸ならではだ。

これを発見したのは、偶々だったのよね……。

知っていたわけではなく、偶然発見したのである。この時は、全員が狂喜乱舞したものだ。

それにしても、まだ製品が送られてきてもいないのに、先に仕立てられたドレスがここにあるということは──

「贈り主は、エヴァンかしら?」

「はい、そのとおりです」

「あ、ご丁寧にカードがあるわ。えっと……」

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ニコラ=オマリー嬢

貴女の美しい瞳の色を糸に閉じ込め、織り込まれたオマリー絹で仕立てたドレスです。

ドラン公爵家主催の夜会にて、こちらをお披露目いたしましょう。

当日、このドレスを纏った貴女をエスコートする栄誉を、ぜひ賜りたく存じます。

エヴァン=オマリー

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「ふふ、エヴァンったら」

ドラン公爵家から、夜会の招待状が届いていた。

公爵家からのお誘いとなると、よほどでない限り欠席はできない。それに、ドラン公爵夫人は、社交界でもっとも影響力のある人物だ。

いつもはお父様とお母様が出席され、私はまだ数回ほどしか出たことはない。

確か、最初に出席させていただいた時は、フランシスと一緒だった。

デビュタントの後、次期当主兼次期商会会長として、また婚約者を紹介するということでご挨拶させていただいたのだった。

といえど、フランシスとはこの一回限り。それ以後は、フランシスから約束を反故にされることが多くなり、出席する際にはエヴァンに付き添ってもらっていた。

そういえば、王家主催の夜会にも、フランシスと一緒に行ったのは数えるほどだったわね……。

嫌なことまで思い出してしまい、私はゆるゆると頭を振る。

「お嬢様?」

「ううん、なんでもないわ。それより……まさかエヴァンがオマリー 絹(シルク) でドレスを仕立てていたとは思わなかったわ」

「ニコラお嬢様には内緒でって、私たちに箝口令を敷いていたのですよ」

「え? ナンシーたちは知っていたの?」

「はい」

ナンシーは、クスクスと小さく笑う。

エヴァンにしてやられたわね、と私も微笑む。

エヴァンから贈られたのは、ドレスだけではない。ドレスに合うアクセサリー一式に、靴も。

「ネックレスとイヤリングも素敵ね」

「極上のタンザナイトですわ。淡い青のドレスに映えますね」

「本当ね」

輝きも色も申し分ない。かなり高価だと思われる。

……義姉に贈る品として、どうなのかしら?

若干首を傾げつつも、せっかくの厚意を受け取らないという選択はない。

それに、エヴァンは懸命にこれらを揃えてくれたはずだ。ドラン公爵家の夜会に合わせて用意するのは、とても一筋縄ではいかなかっただろう。よく間に合わせたものだと感心してしまう。

「当日、このドレスと宝石を纏われたニコラお嬢様と、エスコートされるエヴァン様……想像するだけで気持ちが昂りますわ!」

ナンシーが鼻息荒く意気込んでいる。

何をそんなに気負っているのかと思えど、侍女は主を飾ることに大きな喜びを感じるのです、と言っていたのを思い出し、なるほどと納得する。

ナンシーは今頭の中で、どういった化粧をしようか、どういった髪にしようか、あれこれと考えを巡らせているに違いない。

「ニコラお嬢様! 楽しみですね!」

「そ、そうね」

ナンシーの勢いに圧され、私は苦笑いを浮かべたのだった。