軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

旅立ちの空にて

総騎士団長指揮のもと、三ツ星騎士団、豪傑騎士団、水晶騎士団、そして奇術騎士団の共同作戦が始まろうとしていた。

しめて五つの騎士団が力を合わせて戦うという、とんでもない大戦争。

しかし大都市ライナガンマが陥落寸前となれば、当然の対応と言えるだろう。

その成否を握るのは、言うまでもなく奇術騎士団であった。

彼らが役割を仕損じれば、それこそ現場に到着することもままならない。

奇術騎士団本部に戻ったガイカクは、極めて真剣な表情で構成員を全員集めていた。

「ということで……各騎士団の正騎士、騎士団長を乗せて、ライナガンマに向かうこととなった。出発は明朝、それまでに準備するぞ!」

ガイカクは、いわゆる現場監督でもある。

彼は仕事を割り振ろうとしたのだが……。

「団長! それでは私たちもその作戦に参加するんですね! こ、これは……たまらない!」

「親分! 今度こそ、パレードですよ、祝勝ですよ! やってやりましょう!」

盛り上がっている、 歩兵隊(にんげん) と 重歩兵隊(オーガ) 。

割と好戦的な彼女らは、この一大事に士気を燃やしているのだが……。

「お前らは居残り組だぞ」

「え? だ、団長……私達、主力ですよね?」

「親分、私たちが最強の兵力じゃないですか!」

「今回は気球で移動だからな、人数の限界がある」

そう言って、改めて、完成したばかりの四台の気球を見る。

「お前たちも知っての通り、今回製造した気球は四台。その内、人を輸送できるのは一台だけだ。他のはもう、装備を乗せてあるからな……」

今回の気球は、かなりの大型である。

正騎士、騎士団長だけではなく、奇術騎士団を全員輸送できそうではあるが……。

人を運ぶ用の気球が一台しかない、という問題があった。

「朝までに外す、というのは現実味がない。アレはあのまま乗せていく。それに……」

「籠城戦の手助けなら、アレがいる。だろ、棟梁」

「そういうことだ」

ガイカクはここで、論理の趣旨を変えた。

「各気球に、五人ずつ動力騎兵と夜間偵察兵を配置する。もちろん、気球を操縦するためだ」

「おう!」

「はい!」

「動力騎兵は、各機構を点検した後、明日に備えて寝ろ! 気分が高ぶっているだろうから、睡眠導入用の薬草湯を飲んでおけ! 夜間偵察兵は最終チェック係だ、他の奴らは集中力が落ちる時間帯になるから、お前達に最終確認を任せる!」

まずどこに誰を配置するのかを話したうえで、出発までに何をするのかを話し始めたのである。

「二号機には、 砲兵隊(エルフ) 二十人を全員配置!」

「はい」

「出発までに、各機の 心臓(エンジン) の点検をしておけ! 予備用の心臓も二号機に乗せる、全部動かせるようにしておけよ!」

「三号機には、 高機動擲弾兵(じゅうじん) 二十人を全員配置!」

「はい、族長!」

「前回から補充しなおした備蓄を、全部乗せておけ! 爆発しないように、細心の注意を払えよ!」

「四号機には、 工兵隊(ゴブリン) 二十人を!」

「はい、旦那様! 頑張ります!」

「よし、いい子だ。それじゃあ保存用の食糧を運んでおいてくれ。その後はゆっくり寝ていいぞ」

連れていく面々に指示をした後で、ガイカクは 歩兵隊(にんげん) たちに向き直った。

「お前たちは、居残り組だ」

「はい……団長」

「俺達がいない間に何かあれば……他の騎士団の従騎士と連携してくれ」

留守を任せる、仕事を任せる。

ガイカクは、歩兵隊に信を置いていた。

「前の戦場でもそうだったが、お前たちは俺の魔導兵器がなくとも、他の騎士団の従騎士と肩を並べて戦えるだけの力がある。今回も、できるはずだ」

「……はい! 後のことは、お任せください!」

そして、最後の部隊、オーガたちへ話しかける。

「重歩兵隊……」

「親分!」

「明日の朝までに、燃料や栄養液の移動よろしく!」

「……頑張ります」

かくて、奇術騎士団は無茶な発進スケジュールに合わせて、夜を通しての突貫作業が始まった。

もしもここでほころびが起きれば作戦は破綻し、最悪正騎士や騎士団長全員が無為に死ぬ。

彼女らはそれを理解したうえで、大急ぎでの作業に没頭するのであった。

「なあ棟梁。この大仕事、上手くいくと思うか?」

「……今回ほどの大戦争だと、俺達以外の要素が大きい。だがだからこそ、俺達は最善を尽くし、俺達が原因で破綻しないようにする」

「……だな」

朝日登りゆくなか、奇術騎士団本部の前に、整然とならぶ騎士団の姿があった。

豪傑騎士団、三ツ星騎士団、水晶騎士団、奇術騎士団。そして、総騎士団長直下の騎士団であった。

さらに加えて、軍部の首脳も集まっている。

本来なら、従騎士たちも同行するべきであろう。

少なくとも、この場に並ぶ従騎士たちは、誰もが悔しがっている。

国家存亡に関わる戦争に、馳せ参じることもできないことを悔やんでいる。

彼ら彼女らは、あくまでも見送りなのだ。

「……総騎士団長、ティストリア。君の率いる 騎士団(・・・) に、すべてを賭ける」

「お任せください」

軍のトップから、騎士団のトップへの、短い激励。

これは状況がそれだけ切迫している証拠であると同時に、これから起きる異様な状況に興奮を禁じ得ないからであろう。

「それでは、ヒクメ卿。お願いします」

「ゲヒヒ……ティストリア様、お任せを。それでは皆様……どうぞ、この一号機へ」

国家が誇る精鋭無比の強者たちが、動力付き気球へと乗り込んでいく。

彼らが入った入り口は、内側から堅く施錠された。

そして、だんだんと『機体』の上部が膨らんでいく。

樹脂製の風船が、熱されて膨らんでいくのだ。

「全機、全ストーブ点火! 全 心臓(エンジン) 、定格手順で回転開始!」

あくまでもゆったりと、しかし確実に……。

動力付き気球は、浮上を開始する。

わかっていたことではあったが、見上げていると驚嘆する。

いや、気球が浮かぶ、それはわかるのだ。

異様なのは……前進しているということ。

「全機、一号機に続け! 目標、大都市ライナガンマ! 友軍の救援に向かう!」

兵力の、空輸。

まさに画期的な、否、物理的な限界を超越したかのような光景を、従騎士や軍のトップたちは見上げる。

「改めて……すさまじい手品だな」

「手品も、手品……大手品です」

この大仕掛けに、すべてを賭ける。

彼らは四機の気球が見えなくなるまで、見送ったのだった。

ガイカクの製作した大型気球は、縦長の三層構造になっている。

前部には機関部、および操縦するための『本体』が詰まっており、後方には搭載されている兵器が乗せられている。

そのうえで、真ん中には兵員が待機するスペースがあるのだが……。

(わかり切ってはいたが……狭い)

総騎士団長直下の、人間だけのメンバーはまだいい方だ。

だが豪傑騎士団はオーガ三人、オーク二人、リザードマン二人という大柄ぞろいであるため、おおいにスペースを圧迫していた。

その上、全員が興奮状態にあるため、圧迫感がすごかった。

仮に、この場に子供がいれば、彼らを見るだけで泣いてしまうだろう。

だが無理もない、友軍へ救援に向かう最中なのである。

焦っていても、当然と言えるだろう。

「……ティストリア様、狭く苦しくありませんか? ヒクメ卿に依頼して、もう少し広いスペースに移動させてもらいましょうか」

この場では唯一のベテラン団長であるオリオンが、ティストリアに気を使った。

それに対して彼女は、相変わらず平然と答える。

「軍用の船に、何度か乗ったことがあります。その時の狭さに比べれば、大したことではありません。それよりも、今はヒクメ卿の邪魔をするべきではないでしょう」

「その通りだぜ、オリオン卿よう……」

中部分にも、外を見るための窓がいくつかついている。

豪傑騎士団団長たるヘーラは、そこからずっと外を見ていた。

「結構揺れてるし、外を見ているとそんなに早く進んでいるように見えねえが……気付けば、いいペースで進んでやがる。あのヤロウ、いい仕事しやがるぜ」

「……そうだな。昨日のタイミングで無理に出ても、今頃この気球を見上げて、臍を噛むことになっただろう」

空を飛んでいるため、速度を感じるには地面を見るしかない。

しかしそこそこの高度で飛んでいるため、地面が遠く、あまり速く進んでいるように思えない。

だが、見上げている雲が、止まっているように見えて猛スピードで動いているように……。

この動力付き気球も、陸路とは比較にならない速さを発揮していた。

これは、気球が根本的に軽い、という理由が挙げられる。

追い風を得ることができれば、それこそ風のような速さで進めるのだ。

(こう言ったらなんだけど……この揺れがワクワクを誘うよね)

(聞こえるように言ったらダメよ、それ……)

(マジでぶっ殺されるわよ……落とされて……)

初体験の、空の旅。

水晶騎士団の面々は、浮かれてはいけないとわかったうえで、ついつい盛り上がってしまっていた。

さて、そんな状況の中で、前部からドワーフが現れた。

「すんません。騎士団長だけ、こっちに来てくれませんか? 棟梁が……騎士団長が呼んでるんで」

「わかりました、すぐに向かいます」

まさにティストリアが言ったような、ガイカクからの呼び出し。

それに応じて、ティストリア、オリオン、ヘーラ、ルナは前部へと向かう。

もちろん、他の騎士をかき分けるように、であった。

「失礼しま~~す……きゃあああ?!」

機関部でもある前方に来たルナは、思わず絶叫していた。

無理もあるまい、透明な容器に突っ込まれている心臓が、どっこんどっこんと動いていたのだから。

機関部の、文字通りの心臓を見て、彼女が悲鳴を上げても不思議ではない。

「る、ルナ!? 今なんか、悲鳴が……!?」

「大丈夫なの?!」

「な、なんか、なんかどっこんどっこん言ってる!」

「なにそれ?!」

「ちょ、ちょっと、私たちもそっちに行く?!」

自分たちの団長が悲鳴を上げたので、おもわず自分たちも突入しようとする水晶騎士団。

しかしそれを止めたのは……。

「うるせえ! ちょっと奇抜なもんを見ただけだ、来なくていい!」

豪傑騎士団の、ヘーラであった。

豪胆を地で行く彼女は、まったくうろたえていなかった。

「お前もお前だ、ルナ! 黙ってろ!」

「ヘーラの言う通りです。あまり騒がないように」

「……はい」

(イヤ、これは驚くと思うが……)

ルナが驚いたことに、オリオンだけは同情的である。

彼も正直驚いていたので、声を出した彼女を咎められなかった。

「驚かせてしまって申し訳ありません、ルナ卿。しかし他に、会議のできる場所もないので、ここで会議をさせていただきたく」

四人が落ち着いたところで、ガイカクが改めて声をかけた。

フードを被っておらず、ふざけた様子は見せていない。

彼にとっても、緊張している状況と言うことだろう。

「それで……」

「細かいことはいい。それで、何時着くんだ」

「……」

誰よりも気が急いているヘーラ。

説明を中断させられて、ガイカクは苛立ちそうになるが……。

「ヒクメ卿。彼女の言い分も、間違ってはいません。この気球は、いつ戦場に着きますか」

ティストリアからの言葉に、理解を示していた。

「まあそうですね……風次第ではありますが、明日の昼頃には……」

「走っていくよりは断然早いが……それでも、今日中は無理か」

悔しそうにするヘーラ。

今この瞬間も、ライナガンマが孤軍奮闘していることを思うと、胸が張り裂けそうである。

これならいっそ、走っていた方が気がまぎれたかもしれない。

「ヘーラ卿の言う通り、陸路より圧倒的に速い。それはとても助かっている。私が言うことではないかもしれないが、無理をせず、確実に到着するようにしてくれ」

「そう言ってもらえると、こっちも気が楽ですよ」

ややストレスを貯めていそうなガイカクへ、労いの言葉を贈るオリオン。

その気遣いに、ガイカクは少し気を緩めていた。

「じゃあしょうがねえな……で、飯は?」

「あそうだ! ご飯は?!」

だが、いきなりストレスが跳ね上がっていた。

若手騎士団長二人からの、率直な要求であった。

「軍議は?!」

「明日到着するんなら、後でいいだろ。それより飯だろ」

「ごはんごはん! いや~~、昨日は緊張してご飯が喉を通らなかったんだよね~~!」

ガイカクは改めて、自分の部下を評価していた。

同じ種族であっても、彼女らはここまで自由ではなかったはずだった。

「二人とも、控えなさい」

そこで釘をさすのは、ティストリアであった。

「さっきから、さすがに失礼です。この気球は、彼の船だと思いなさい。船の上では、船長こそが最高の権限を持っています。それを忘れないように」

「……うっす」

「わかりました……」

(こういう時、ありがたいっすね)

(当然だ、総騎士団長なのだからな)

改めて、ティストリアが参加してくれたことに感謝する、ガイカクとオリオン。

ある意味当たり前だが、一番偉い人が諫めてくれると話が早い。

「それで、軍議なのですが……」

ここでガイカクは、軍の本部から託されたライナガンマ周辺の地図を広げた。

もちろん、敵がどこにいるのか、味方の状況はどうなのか、まるでわかっていない。

だからこそ、ここで話し合えるのは推論だけである。

しかし砦攻めの状況なのだから、そこまで複雑とは思えなかった。

「ここまで大規模な作戦を練る敵です。間違いなく、大掛かりな攻城兵器なども用意しているでしょう。しかしライナガンマには大砲もあると聞きます。これを黙らせるまでは、敵もそれを持ちだすことはないはず」

「であれば、敵はあせらずに、じっくりと城攻めをするつもりですね」

「おっしゃる通りです、ティストリア様」

今回の敵将マルセロは、定石を打ってきている。

籠城戦では敵の十倍の戦力が必要だからこそ、実際にその数を用意した。

逆に言って、奇策を練っているわけではない。

だからこそ、このままいけば敵は成功する。

しかしそれは、猶予がある証明でもあった。

「このまま航海……いえ、航空がうまく進めば、到着すること自体は可能でしょう。問題は、具体的にどうするかです。一応ですが、二号機と三号機には、それなりの兵器を積んであります。皆さんを煩わせることなく、攻城兵器の破壊などは可能でしょう。しかし……それも、時間稼ぎにしかならない」

「我らという打撃力を、如何に活かすか、ですな」

「まどろっこしいなあ! 全員でライナガンマに入って、そこで敵を相手に暴れてやればいいんだよ!」

真剣に議論をしているつもりのヘーラ。

別に間違ったことは言っていないが、会議中にまどろっこしいと言ってはいけないだろう。

「ヘーラ卿の提案も、正しいでしょう。こちらも奇抜なことをしようとせず、本格的な援軍が到着するまでの時間を稼ぐことに専念する。それはそれで、間違っていません」

ティストリアは、あくまでも冷静だった。

言葉が荒かったヘーラの提案を、補足しつつ肯定した。

「しかし、周辺の状況次第では、攻勢にでることも視野に入れましょう」

そのうえで、ヘーラよりも無茶なことを言い出した。

「ライナガンマ周辺にいる友軍が、もしも機を探って待機しているのなら……我らこそその機となって、一番槍の誉となりましょう」

十万からなるであろう敵軍に、この人数で突っ込む。

それが成功したとしても、生還する可能性は低い。

そうとしか、思えない。

だがそれでも、彼女はまったく感情を動かしていなかった。

「私達全員が死ぬとしても、それだけの価値がある作戦です」

「流石だぜ、ティストリア様! それでいこう!」

「友軍の状況次第です、ヘーラ卿」

「なに! 絶対に、機をうかがっている軍がある! 私たちが突っ込めば、それに呼応して動くはずさ! そうなれば、一気に殲滅できちまうぜ!」

(ティストリア様も大概だが、ヘーラも乗りやがったか。しかし……)

ガイカクは、ティストリアやオリオンのことを知っている。

勝算があるうえでなら、死地に飛び込むことを恐れはすまい。

だがさて、ゴブリンであるルナはどうするか。

「ふっ、いいですね、やりましょう!」

ゴブリンとは思えない、果断さと豪胆さであった。

「水晶騎士団が、きゃぴきゃぴ言っているだけの集団ではないことを、実戦で証明してやりますよ!」

(これは……騎士団長だな)

ガイカクは、自分の不明を恥じていた。

そのうえで、凶暴に笑う。

(それなら、アレが使えるな……くくく、面白くなってきた!)

奇しくも、であるが。

ガイカクもまた、獰猛な表情をしていた。

彼の場合、勇敢さとはまた違うのだが……。

それでも、彼もまた騎士団長の顔をしていた。

(なんでも作っておくもんだ……敵も味方も、びっくりするに違いない!)

ただし、奇術騎士団団長の顔であったが。