軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

水晶騎士団~後悔先に立たず~

さて、水晶騎士団である。

エリートゴブリンのルナを団長に据えるこの騎士団、実は最近発足されている、新しい騎士団である。

成立が奇術騎士団の少し前、と言えばどれだけ新しいのか理解できるだろう。

軍からのたたき上げだけで構成される豪傑騎士団や、最古の騎士団である三ツ星騎士団とは、成立からして異なっている。

その関係上、構成されるメンバー全員が若い。

そして……従騎士に至るまで、全員女性である。

ガイカク・ヒクメ以外全員女性という奇術騎士団以上の、女性率100パーセントの騎士団である。

つまり、若い女性だけで構成されている騎士団なのだ。それ故に、他の騎士団以上に結束力が強く、公私ともに仲が良い。

戦友であり、親友でもある。そういう意味でも、奇術騎士団に近い組織と言えるだろう。

とはいえ、まっとうな騎士団。その戦力は、奇術騎士団と比べ物にならないのだが。

「それでは……第三回、水晶騎士団、秘密会議を始めます」

水晶騎士団本部の会議室に、百余人の全騎士がそろっていた。テーブルについているのは騎士団長と正騎士たちだけだが、他の騎士たちもその背後で神妙な顔をしている。

司会を務めるのは、騎士団全体にあって第二位の魔力量を誇る怪物。

世にも珍しい、エリートゴブリン。騎士団長のルナ。

他のゴブリンと同じく、小柄で少女のような見た目をしているが、これでも成人女性。

その統率力は高く、カリスマ性も十分。全盛期であることも含めれば、セフェウやオリオンさえ超える強者であろう。

「本題に進む前に、第一回、第二回の結果を……正騎士、アルテミス!」

「はっ!」

その彼女から説明を命じられたのは、エリートダークエルフのアルテミス。

奇術騎士団に在籍している夜間偵察兵と同じ種族であるが、その基本能力は段違いどころか桁違い。

彼女の眼は夜の闇を昼のように暴き、彼女の耳は針の落ちた音を拾い、優れた弓術は獲物を外さず……何日徹夜をしても体調や集中力を崩さない、真の狩人であった。

「第一回の会議は……最近発足された、異例の騎士団……奇術騎士団についての検討でした」

性格は、非常に聡明で慎重。

やや浮かれやすいところのある他のメンバーを諫める、この騎士団の智嚢にして副将であった。

「騎士団長が独断専行によって……失礼、騎士団長が危険を冒しつつも、奇術騎士団へ潜入し情報や物資を持ち帰ってくださいました。それについての入念な検討を行う、というのが議題でした」

彼女の声は、百余人が入っている会議室の中でも、よくとおっていた。

「特に議論となったのは、奇術騎士団から持ち帰ってきた物資……三種のシロップとヨーグルトのタネです」

ここで一同、全員が生唾を飲んだ。

「通常なら、おなじ騎士団がお土産として送ってくださった……失礼、騎士団長が持ち帰った物資を疑うなどありえません。しかし危険な植物を栽培しているとの噂があり、セフェウ卿やオリオン卿からも注意喚起されていた奇術騎士団からの物資です。……そのままみんなで分け合って食べるというわけにはいきませんでした」

うんうん、と一同が頷いた。

「実際に調査へ向かった騎士団長に対して確認をしたところ、『うん、栽培していたよ』と余計な……失礼、情報の裏付けをいただきました。その言葉が無ければ、我らはすんなり食べていたでしょう……それを妨げやがって……失礼。とにかく、私たちは食べたいのに食べられなくなってしまいました」

だんだん真面目な会議のメッキがはがれてきた、水晶騎士団。

しかし全員、とてもまじめな会議をしている顔だった。

「何が入っているのかわからない、危険なシロップに加えて……言い訳のしやすい発酵食品であるヨーグルトのタネ。私たちはそれを食するべきか、また食べるとしてどのような理由があるか、検討を重ねました」

内緒にしてねというルナに対して、ガイカクが『どうせバレますよ……団員の方に反発されると思いますから、これでも持ち帰って、お土産にしてください』と言って渡した瓶詰のシロップとヨーグルトのタネ。

水晶騎士団はそれについて、とても慎重に議論をしていた。

言い訳を探していた、ともいう。

「結論として、『これが本当に毒ならそれを明らかにしなければならない』と団長がおっしゃり……『死ぬときは一緒です、団長!』と全員が賛同。会議は満場一致で、全員で試食をする運びとなりました」

ここで一同、全員うっとりとした。

種族こそ違えども、全員がうら若き女子。

その甘味に、誰もが思い出し笑顔であった。

「美味しかったわよね~~……ヨーグルト単品だと味気ないけど、シロップがこう……ねえ?」

語彙喪失しているのは、どう見ても肉食であろう、エリートリザードマンのイラルキ。

「私は団長ほど甘いのが好きじゃないけど、酸味の効いているたっぷりのヨーグルトに、三種のシロップをちょこっとずつ乗せて食べるのが好きだったわ~~……」

彼女は長い舌をちろちろと出しながら、その舌で直接舐めながら食べたスイーツに想いを馳せていた。

「私はたっぷりのヨーグルトに、たっぷり一種類のシロップをかけて食べるのが最高だった……アレは、ヤバいよ~~……!」

同じく肉食にしか見えない、エリートオーガのポイペー。

豪傑騎士団の団長にも劣らぬ勇壮な体格の持ち主であり、オーガの中ではやや珍しい温厚な性格をしている。

それ故騎士団長には向かないが、水晶騎士団の全員から慕われる、協調性の高い女傑であった。

「私、めっちゃ食べたんだけどさ~~……本当はあの三倍は食べたかったんだよ~……でもそれだと他の子の分がなくなるからさ~~……だから、やっぱり、もっと送ってほしいなってぇ~~……」

なお、体格相応に食いしん坊である。

「それが、第二回秘密会議の議題だったわね……!」

悔しそうに体を震わせるのは、エリート獣人のセレネ。

長い体毛を編む美意識の持ち主であり、同種の男性からは特に好かれている。

贈られたラブレターの数は、ティストリアに勝るとも劣らないとか。

「お世話になっているスイーツショップのパティシエールにサンプルを渡してみたけど……同じようなのが無いか聞いても『これをどこで!?』って逆に聞かれる始末……」

普段は男性に対して取り繕う彼女が、仲間にだけ見せる悔しそうな顔。

それは素のままの彼女であり、むき出しの自分であった。

「そのスイーツショップを介してお願いする作戦も……私たちのスポンサーですから! スポンサーは大事ですから! ティストリア様にごり押して、そこまでは成功したのに……! 肝心の胡散臭い騎士団長が、ウチは農家じゃないって断られて……悔しい~~!」

ちなみに彼女は、ヨーグルトの量は少しだけ少なくして、シロップはそれに対して多めにしていた。

「分けてくれてもいいじゃないのよ~~!」

エリートゴブリンのルナ、エリートダークエルフのアルテミス、エリートリザードマンのイラルキ、エリートオーガのポイペー、エリート獣人のセレネ。

これが水晶騎士団の騎士団長、および正騎士たちである。

他の騎士団に比べると人数がやや少なく、若い女性ばかりなので頼りなく見られることもある。

だが彼女らは奇術騎士団と対照的に、とても親身で誠実、裏表なく任務にぶつかり解決してきた一団である。

民衆からの人気は高く、男女双方から支持を得ている。

黒い噂とどす黒い噂しかない奇術騎士団から比べれば、雲泥の差と言っていいだろう。

「確かに、おいしかった……全員にいきわたった……でもさすがに、全員で食べてたら、すぐなくなるよね……!」

ここでルナに、話が戻る。

ちなみに彼女は、三種のシロップ全がけ、ヨーグルトもどっさり。

それをお代わりしようとして、鉄拳制裁されていた。

「めちゃくちゃおいしいとか、思わず病みつきになるとかじゃないけど……あの味を知ったら、戻れないよねえ……パティシエールの人からも、もっとおいしいのを作れますって言われちゃったし……」

第三回、秘密会議。

その議題が、改めて発表された。

「奇術騎士団と、お近づきになりたい……でもセフェウ卿が目を光らせているから、こっちから接近できない……! なんとか、こう……口実を作るには、どうすればいいのか話し合おう!」

「ラジャー!」

全員の心はひとつであった。

もちろん全員が真面目である。

「では事前にアイディアを出してもらっていたので……あら?」

改めて、アルテミスが話し合いを進行させようとしたところで、彼女の耳にノックの音が届いていた。

当たり前だが、他に仕事や予定がないから、こんなアホみたいな会議をしているのだ。

なので今この水晶騎士団へ訪れる者がいるとすれば、予定外の何かが起きたに違いない。

「外から声がするわね……この声は、ウェズン卿かしら」

「あ、じゃあティストリア様から指令が来たのかも! みんな、会議は解散だよ!」

「ラジャー!」

水晶騎士団はまともな騎士団なので、優先順位はしっかりしている。

仕事が来たのなら、こんなアホな会議は即解散であった。

「どんな作戦かな~~出来れば奇術騎士団との合同ならいいんだけど~~」

と、ルナ。

「三ツ星騎士団も本部にいるから、それは難しいんじゃないかしら」

と、アルテミス。

「三ツ星騎士団と私達……の三騎士団が合同の任務かもしれないわよ?」

と、イラルキ。

「だったらいいね。奇術騎士団と、仲良くなれるチャンスかもしれないよ」

と、ポイペー。

「そう都合のいい話はないでしょ。三騎士団が力を合わせるって、どんな任務よ~~!」

と、セレネ。

口調こそやや軽いが、全員がもう仕事モードである。

奇術騎士団以上に任務をこなし、信頼と実績を積み上げた彼女らにとって……。

少々の任務など、一々緊張することが無いのだ。

「ま。パパっと片づけて、会議の続きをやろうね!」

騎士団総本部にて……。

「現在、大都市ライナガンマが、智将で知られるマルセロ指揮のもと、攻め込まれています。具体的な数は不明ですが、敵の総数は十万を超えるでしょう」

「ライナガンマには、私の戦友も……仲間の家族も大勢いる! 一刻も早く助けに行きてえ!」

ティストリアから状況が語られたうえで、豪傑騎士団団長たるヘーラから嘆願をされた。

「頼む、一緒に戦ってくれ!」

涙ながらに頭を下げるヘーラを見て、ルナは……。

(あんなアホ会議、やってる場合じゃなかった……)

自分たちの先ほどまでの言動を深く後悔するのであった。