軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

見張られていないので見張れていない見張り

アーストリナ平原に建つ野城。

荒れ地に建つその城は、ありていに言って屋敷程度のもの。

壁は木製であり、高さもそれほどではない。

仮に攻め込まれれば、あっという間に陥落する粗末な仕上がりである。

だが一つ優位点があるとすれば、周辺が荒れ地で見晴らしがいいことだろう。

仮に敵が接近すれば、即座に気付くことができる。

そしてこの城には見張りが四方に配置されており、侵入も脱出も困難になっている。

とはいえ……。

城の中にいるのは、身動きもろくにできない怪我人ばかり。

加えてその怪我人たちがここに居ることを知るのも、ごく一部。

救助も脱出も、到底あり得ない状況だった。

「はぁ……なあ、この任務、いつまでだ?」

「さあな……上官殿たちも先代様も、ずっと続けるつもりらしいぞ。というか、今更やめられないだろ」

「それじゃあ俺たち、ずっとこの任務かよ……」

そして見張りを担当しているのは、当然ながら先日の戦いにも参加した兵士達である。

若手である彼らは、上の命令に逆らえないが、文句はたらたらだった。

救いがあるとすれば、上のヘイトが奇術騎士団に向いていることだろう。

だからこそ、見張りに立っている者達については監督が行き届いていなかった。

彼らは一応外を向いていたが、まったく集中していなかった。

「……なあ、そもそも、さあ、この状況最悪すぎないか?」

「……言うなよ」

「なんで俺たち、こんなところでこんなことしないといけないんだよ」

彼らの士気は、とても低い。

上の者達は詳しいことを教えていなかったが、それでも大体察していた。

先代やその支持者の気持ちもわかるが、ぶっちゃけ私利私欲である。

「だいたいさあ……あの奇術騎士団はボロボロになるまで戦ったってのに、上の奴らは戦いが終わってからようやく現れてデカい顔をしていたんだぜ? これでどう尊敬しろってんだよ」

「……実はな、そういう奴ら結構いるんだよ。もうこの際さ、俺たちで騎士団に通報しないかってさ」

「マジか」

「だってお前、奇術騎士団団員の世話をして、上の奴らの世話もして、その上出世も見込めないんだぞ?」

この状況に嫌気がさして、状況の打開を外部に求める者が出ても不思議ではない。

であればやはり、最初から無理のある計画だったのだろう。

「それにさあ……もしも騎士団にバレて見ろよ。俺たちも殺されるぞ?」

「は、はあ?」

「だって俺たち、アイツらが逃げないように監視してるんだぞ? 思いっきり共犯じゃん」

「……ヤバ」

見張りをしている若い兵士達。

彼らが犯罪者かといえば違うだろうし、悪人といえば違うだろう。

だからこそ、この悪事に義憤さえ抱いていたのだが……。

それでも騎士団からすれば、敵であった。

物見台の上に建つ、二人の兵士。

彼らが互いの顔を見合った、その瞬間であった。

超遠距離からひたすら匍匐前進で接近していた、箒騎士団団長のイオン。

エリートラミアたる彼女は、騎士団随一の巨体を生かして一瞬全身を直立させ、その物見台に襲い掛かっていた。

「え……あ……」

ジャア~~!

という音と共に、イオンは野城へ突入した。

すさまじい音と共に、その物見台は崩壊。そこにいた兵士達もやはり粉砕される。

「な、なんだ!? 敵か……騎士団が来たのか?!」

「クソ、見張りは何を……ひぃ!?」

その物音と共に、野城内部の兵達や猛者たちも襲撃に気付いた。

なにせやましいことを隠している砦である、騎士団が現れたのだとすぐに理解していた。

だがイオンの姿を見た瞬間、一瞬で戦意が吹き飛んだ。

ジャア~~!

陸上生物の中でも最大級を誇る、大蛇種のトップエリート。

その彼女が匍匐前進を辞め、上体を起こし、とぐろを巻いて威嚇をすれば……。

それはまさに、怪獣と対峙したようなものである。

「あ……ひ……」

前にいた者も、遠くからその姿を見た者も、その威容に心臓が止まりそうになる。

だがさすがは歴戦の猛者たち、声を上げて部下を叱咤する。

「う、うろたえるな! ただのラミアだ、ただの騎士の一人だ! いくらトップエリートのラミアと言えど、一人で何ができる!」

「大蛇のラミアだ! 大きいが大きいだけ、防御力はリザードマンに劣り、力もオーガほどじゃない!」

「魔術と矢で攻め立てろ! デカいだけの蛇だ、必ず殺せる!」

その指示が、間違っているわけではない。

だが一般的な兵達に、ラミアのトップエリートと戦う気構えなどあるわけがない。

全身をうねらせながら襲い掛かる彼女に、兵士たちはなすすべもない。

「ぐ、この若造どもが……今手本を見せてやる!」

百戦錬磨を自負し、実際に多くの戦いを越えてきた猛者たち。

彼らは騎士であると理解したうえで、ラミアであるイオンの前で魔術の詠唱を始める。

正面で暴れ始めた彼女に向けて、魔法陣を構築しはじめたのだ。

「くら……ごふぉ!」

「がっ……!」

だがその彼らは、側面から吹き飛ばされていた。

巨体を誇る彼女が、尻尾を伸ばして横から吹き飛ばしたのである。

その一撃は、猛者たちを一瞬で戦闘不能に陥らせていた。

「が……あ……」

身動きが取れなくなっている猛者たちの前で、イオンは大暴れをしている。

兵士を抱えたまま上体を大きく上げ、そのまま放り捨てていく。

大きくうねりながら複数の兵士をまとめて締め上げ、手足をへし折っていく。

尻尾で吹き飛ばしていく、巨体で潰していく。

それを彼女は、文字通り流れるようにこなしていく。

一瞬で敗北した猛者たちは、そこに『技術』と『経験』を見ていた。

「コレが……本物の騎士……」

各種族の中で最高値を誇るうえで、専門的な教育を受けてからの百戦錬磨。

その種族が得意とする状況に持ち込めば、並の人間兵士では太刀打ちもできない。

そして大蛇種のラミアが得意とするのは、強襲作戦であった。

一旦城の中に入ってしまえば、その長い体を活かしてどこにでも入り込み、制圧する。

まさに独壇場と言っていい活躍ぶりであった。

「ひ、人質だ……人質を抑えろ!」

「あの怪我人どもを見せてやれ!」

「は、はい……!!」

もう手に負えない。

そう思ったからこそ、城の兵士たちは奇術騎士団を隔離している建物に向かう。

もう人質を盾にすることぐらいしか、勝ち目がないように思えたのだ。

若い兵士たちも猛者も、這う這うの体で隔離されている建物に入った。

その中には、拘束されている奇術騎士団の団員と、すぐそばで監視している兵たちがいるはずだった。

「本来なら、イオン卿だけでも制圧は容易でしょう。しかし彼女たちを保護するのであれば、私たちが必要です」

「そうはおっしゃるが……私とルナ卿だけでも十分です。総騎士団長自らいらっしゃるなど……」

「そ、そうですよ~~、信じてくださいよ~~」

だがその建物の中には、既に三人の騎士が入っていた。

貝紫騎士団団長、セフェウ。

水晶騎士団団長、ルナ。

そして総騎士団長、ティストリアである。

彼らは背中に荒れ地用の迷彩を施していた。

それの意味するところは、匍匐前進で近づいていたイオンの、その背中に乗って接近したということであろう。

「貴方たち二人でも十分に保護は可能でしょう。ですが、送り込める 戦力(じゅうりょう) に余裕がありました。なので私も入りました。それだけです」

その三人が並び、建物の中にいる奇術騎士団団員を守っていた。

団員たちは希望の到来に安堵し、嗚咽を漏らしながら泣いている。

助けが来ると信じていた、その信頼に応えている騎士団長たち。

その威厳は、あまりにも重い。

人質をとろうとしていた者たちは、その重さに後ずさった。

そしてその背後には、既に城内部のほとんどを制圧していたイオンが迫り……。

メラス軍が守っていた時は、奇術騎士団をして接近することもできなかった野城。

カーリーストス伯爵軍が占拠する形になったところ、騎士団長四人であっさりと制圧されてしまった。

これは 本物の(・・・) 騎士たちが強いというべきか、あるいはカーリーストス伯爵軍の気が抜けていたのか。

いずれにせよ、電撃的に人質たちは救助され、騎士団の元に確保されていたのである。

「あ~~……私でもこれぐらいやれたってのによ~~! 終わった後に入ってくるだけかよ!」

「まあそういうな、不意を突くなど面白くあるまい。私もヘーラ卿も、出番が後に控えているのだから、それまで英気を溜めておけ」

「そうだけどよ……ああ、つまんねえ!」

制圧後に、騎士団の全戦力が野城に入城した。

すべての騎士団旗が掲げられるその城は、もはや魔境のように威圧感を放っている。

そしてそのころには、カーリーストス伯爵軍の生き残りは片手で数えられるほどになっていた。

「私の部下が大変お世話になっていたようですね。総騎士団長として、感謝の念を表させていただきます」

その生き残りを、600人からなる騎士たちが包囲していた。

針の筵に飛び込んだ方がマシ、という軽蔑の圧力が彼らを包んで離さない。

唯一軽蔑を向けていない、無感情なティストリアだが、その心に慈悲もまたなかった。

「もちろん貴方たちに対してだけではなく、貴方たちの主であるカーリーストス伯爵にも、です。今回名誉の戦死を遂げられた兵士たちの『遺髪』ですが、このまま始末することは心苦しい。ぜひ彼の元へ届けていただきたい」

遺髪と言えば、死者の毛髪である。

それを遺族へ届けるというのは、一種の礼儀であろう。

ただこの場合少し違うのは、ティストリアは髪を刈り取らせず、その『土台』ごと遺髪として袋に詰めたということだろう。

砲丸が入りそうな袋が、荷車に丁寧に載せられている。

「今回の戦いの、名誉のありかを示すための伝達です。もちろん引き受けてくださいますね?」

それを伯爵の城まで運んでほしいと伝える彼女に、カーリーストス伯爵の兵士たちは涙目で頷いていた。

「ああ、それと。城の中にいるヒクメ卿にも伝言を。貴方の部下は全員生きており、私たちが保護しています。貴方は慌てることなく、私たちの救援を待ってください……覚えてくださいましたか?」

「はい……」

「それでは、無事に帰還できることを祈っております」

遺髪を届けるように言われた兵士たちは、震えながら認識をしていた。

戦争が始まってしまったのだと、騎士団と戦うことになったのだと……人生に絶望していたのだった。